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『起きたのかい』
顔を動かせば、そこにはトミーが笑顔で朱音を見下ろしている。
だが英語なので混乱している朱音には言葉では無く音にしか感じない。
さっきまでカフェにいて、トイレから戻ってしばらくすると異様にフラフラしてきて、洋館に戻ろうとトミーとタクシーに乗った気がするがその後の記憶は無かった。
『もう少しで冬真が来る。それまでに用意しないといけないんだ』
そういうとまた古びた椅子に座り、テーブルの上にあるものを持ち上げ瓶に入れれば、赤い液体がゆっくりと満ちていく。
朱音はそれを見て先ほどの音は猫に何かしているものだと知り、部屋に充満する臭いに吐きそうになる。
そんな時冷たい風が一気に入ってきて朱音がそちらに顔を動かせば、誰かの足が見えた。
『冬真!待っていたよ!』
トミーは立ち上がり、明るい声を上げる。
朱音が顔を必死に上げれば、そこには冬真がスーツ姿で立っていた。
『君が忙しいと聞いていたから、彼女は運んでおいた。
なるほど、道具は用意してあったし君が来ればすぐに降霊術を出来るようになっているんだね。
あぁやっと夢が叶う!』
トミーは自分の手が赤く染まっていることなど気にせず、興奮して冬真の側に歩み寄った。
そんなトミーを無視するかのように冬真は部屋をゆっくりと見渡す。
もちろん床にも目線はいったのに、朱音は冬真の目と表情に凍り付く。
冬真は見渡していてもまるでディナーの材料をただ見ているようで、そこに人間が、朱音がいるなどと微塵も感じなせないほど冬真の表情は動かなかった。