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言い終わったのか、笑みを浮かべた男につられるように朱音も笑みを浮かべる。
『多分冬真さんの名前言ったはず、それにここにいるのか聞いた気がする、多分』
もっと長く話していたのだから他に話していたことはあるのだが、朱音はなんとか聞き取った言葉すら怪しく、そもそも質問してもどう英語で返答したら良いのか、朱音の頭の中は高校時代の英語教師のよくわからない授業と、今鞄の中にあるスマートフォンの翻訳アプリという文明の利器に頼るべきか、シャッフルされている。
「アナタ、トーマズガールフレンド?」
にこにこと人の良い笑顔で言われ、朱音は急な日本語に混乱していた。
『アナタってYOUだよね?ガールフレンドって女友達って意味だっけ、あれ?彼女って意味もあったし、あれ?』
英語と日本語が混ざっていることに朱音の頭は混乱中だが、とりあえず笑顔でノーと答えると、男はおおげざに、Sorryと言い、
「ココニスンデイマスカ?」
と言われて、やっと目の前の男が日本語を話してくれていることに朱音は顔の緊張が解ける。
「はい、私はここに住んでいます」
「トーマハ?」
「彼は、仕事に行っています」
いかにも英語での返答文のような返事を朱音がすると、男は肩を落とした。
今日は朝から健人も冬真達も仕事で不在で帰ってくるのは遅くなると言われていたが、男の寂しそうな態度に朱音は戸惑う。もしかして冬真と約束でもあったのだろうか。
「ワタシ、トーマのシンセキ。ヨル、ヤクソクシテマシタ。
デモハヤクツイタ。アイタカッタ、ザンネン。カンコウ、シマス」
Bye、と言って立ち去ろうとした男に、朱音は、Please wait!と声をかけ、
「あー、あの、付き合います、観光」
朱音から笑顔で言われた男はさっきの寂しそうな態度から一変し、嬉しそうな笑顔で朱音の手を取るとぶんぶんと振りながら、Thank you!と言い、
「ワタシノナマエハ、トーマス、トミートヨンデクダサイ」