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車の音がすぐそばで止まったことに朱音は気がつき、自室のドアのそばに行って玄関のドアが開く音をじっと待つ。
ガチャリと鍵の開く音と足音が聞こえ、朱音はたまらず自室のドアを開けた。
「朱音さん」
驚いたように冬真が部屋から出てきた朱音を見る。
アレクは少しだけ二人に視線を向けた後、会釈をして二階に行ってしまった。
「お帰りなさい」
視線を少しそらしながら朱音は小さな声で冬真に言うと、冬真は苦笑いを浮かべる。
「今日はお疲れ様でした。
疲れて眠れないならアレクにお酒を用意させましょうか?」
優しくそう声をかけられ、朱音は目を見開く。
言いたいことが沢山ある。聞いてほしいことが沢山ある。
でも冬真はそれだけで何も聞いてこないし、踏み込んでこない。
それが朱音の心を酷く苦しくさせ、次に出す言葉が出なくなってしまった。
「・・・・・・お休みなさい」
朱音は俯いて何とかそう言うと、自室のドアを開ける。
「朱音さん」
再度呼びかけられても朱音は振り向かない。
そんな朱音を見て冬真は少し目をつむり、再度目を開けると優しげな視線を背中に向ける。
「もうこんな時間です。
明日、ゆっくり話しましょう」
その言葉に朱音の背中が少し揺れる。
朱音は振り向かずに、はい、とだけ言うと、そのまま部屋に戻った。