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「冬真に、朱音さんを頼みますと言われたんだ。
これ以上お前が勝手に動けばあいつが心配するぞ?」
優しく健人が言えば朱音の目が見開いた後俯いて、はい、と自分に言い聞かせるように小さく答えた。
それを聞いて健人は安堵したと共に、おそらく朱音の中での冬真が相当大きな存在となったことを悟る。
冬真の今の目的が『彼女』に関わることなのか、それともただ朱音という存在が魔術師として便利だからなのか。
出来ればあの冬真であっても、朱音を苦しめないで欲しい。
きっとそれは冬真に返ってくる、『彼女』の時と同じように。
健人はそんなことを思い、俯いたままの朱音に声をかけて明るいリビングへ誘った。
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足音の響く狭い階段を上がり、薄暗い廊下にある突き当たりのドアを開ければ、またその中も薄暗い。
異様な香りが充満する部屋の床には白い顔に短い黒髪の人形が転がっているのを冬真は気にもせず踏みつけ、奥のドアを開ける。
奥に行くことを阻むように上から床にかかりそうなほど長いシフォン生地を無造作に掴み勢いよく手を振り下ろせば、上に仮止めしてあったピンが上からバラバラと落ちながら目の前が開け、奥にあるテーブルの向こうに座るそばかすの女が冬真を見ると微笑んだ。
『確認させてもらったよ』
聞こえてきた英語はさっき朱音が聞いた男の声だが、冬真は特に表情を変えることも無くただ座ったままの女を見下ろしている。
『君を疑うわけでは無いが、つい自分で確認をしたくなるタチでね。
なので気を悪くしないで欲しい。
あぁ、そろそろ搭乗の時間だ。では、また』