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「腹が減っただろ」
そんなことを健人は言うがいつもの明るい笑みは無く、朱音はさっき起きたことを伝えなくてはと焦りながら話しかける。
「冬真さんに伝えないといけないことがあるんです!
冬真さんはどこですか?」
「お前の魔術師秘書とやらの仕事は終わったんだ。
だから飯食って風呂入って寝ろ」
そう言ってロビーを歩き出した健人を朱音は慌てて追いかける。
「中華街近くのビルでおかしな事が起きたんです!
女性から男性の声が聞こえて、あの、インカローズのブレスレットが」
「朱音」
必死に大きな背中に声をかけていたが、健人は振り返り朱音の名前を呼ぶ。
「冬真は全てわかってる。
後はプロに任せるんだ。もう俺たちの出る幕は無い」
「でも!」
「・・・・・・例えばお前が病院のビラ配りをして、患者を見つけて病院に知らせたとする。
そんなお前に手術が出来るのか?」
淡々と話す健人に、朱音は思わず抗議の声を上げた。
「そんなの、今回のこととは違います!
きっと危ないことが起きてるんです!だから」
「だからだ」
健人は興奮している朱音に静かな声で返した。
「だから俺たち普通の人間が入り込んではいけないんだ。
元々は冬真が巻き込んだことでお前がそう思うのは無理も無い。
だけどプロがここからはお前に関わらないようにさせたんだ。
危険な目にあったのなら余計にお前はこれ以上関わってはいけない」
そう言われても、朱音はどうしても冬真の元へ、せめて話がしたくて仕方が無い。
そんな朱音を健人は真っ直ぐにその必死な瞳を受け止める。