37
「あの、一体」
「ドア開けて!!」
絵里の戸惑った声に、朱音は焦りながら声を荒らげる。
だがそれが二人には朱音に不信感を抱かせ、絵里は朱音の手を振り払った。
「私達、まだブレスレット受け取ってないので」
嫌そうに言われ、朱音はどう説明したら納得してもらえるのか混乱する。
ぎゅ、と背後から手首を掴まれ、朱音は心臓が止まりそうになった。
「待て」
女から低い男の声が聞こえたことに、絵里と真央は顔をゆっくりと見合わせた。
「逃げて!!」
再度朱音が声を上げると、絵里が真央の手を引っ張りドアを開けて走り出した。
絵里と真央もその声にゾッとしたのだ。
真央はすぐに動けなかったが、運動神経の良い絵里がすぐに動いた。条件反射に近かったかもしれない。
鞄と真央の手を掴み薄暗い廊下を突っ切り階段を駆け下りる。
薄暗さと階段が降りにくくて思わず踏み外しそうになったのを絵里は耐えてビルの外に出て振り返った。
真央は硬直した顔で息を切らせている。
二人はビルの外から朱音を待つべきかもっと逃げるべきか迷っていた。
*********
朱音は必死に女の手から逃れようとその手を押しのけようとするのに、無表情の女はじっと朱音を見ている。
その女が口を開こうとしたとき、女の手に突然現れた犬が大きな口で噛みついた。
女の声で、きゃぁ!と朱音から手を離した後、また無表情な顔に変わる。
朱音は自分の前に突然現れた大型犬に驚いていた。
コリーのような長い鼻、艶やかな長い毛と長い尻尾、大きな黒目。
牙を剥き、低い声で唸りながら威嚇するように前の女を見ている。
その犬が朱音を見上げると、まるで誘うように朱音の横を走りドアに向かうと振り向いて朱音を見た。