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朱音のいる奥の部屋のドアに視線を向け、真央はそわそわとしていた。
もう少しで念願のブレスレットを手に入れられる。
学校では有名な洋館に住むあの美しい男性を見たその夜、真央は人を好きになって眠れなくなるという経験をして、いつか少しでも彼と話すことが出来たのならと夢見ていた。
親友にはそんなのはアイドルオタクみたいなものだと呆れられたけれど、その親友が一番自分を心配してこんなことにまで付き合ってくれる。
隣で眠そうにあくびをした親友、絵里を見て真央はくすっと笑う。
今日受け取るインカローズのブレスレットをつけて、今日は会えなくても諦めずにいつもよく顔を出しているというあのカフェに行って声をかけよう。
怒りっぽいのにとても優しい親友が、褒めてくれるに違いない。
そんなことを真央は思って嬉しさに頬が緩む。
「どうしたの?」
「ううん。絵里ちゃん、いつもありがとうね」
「何、急に」
絵里の言葉に真央が答えると、絵里が不思議そうな顔をした。
バタン!!という大きな音に絵里と真央が同時に奥のドアを見ると、鞄を持った朱音が走ってきた。
「逃げて!!」
もしかしたらさっきいた女に二人が捕らわれているのではと心配したが、女はなぜかそこにはおらず、椅子に二人は座ったまま朱音を見る。
だが朱音の必死の形相と声を目の前にしても、二人は訳がわからず不思議そうに朱音を見ているだけ。
朱音が振り向けばとてもゆっくりとあの女が歩いてきて、朱音は二人の手を掴むと入り口に引っ張った。