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「朱音さん」
女の呼びかけに朱音は俯いていた顔を勢いよく上げれば、目の前の机には何故か、冬子として出会った時に見かけたあの部屋にあった同じハーバリウムが置いてあった。
もしかして占い師の中で流行しているのだろうか。
洋館に住むようになってたまたまあの仕事部屋に入ったときには、このハーバリウムは無くなっていた。
冬真にその事を聞くと、ヒビが入ってしまって危ないので処分したと聞かされ、とても残念な気持ちになった。
「この中にあるものの色を教えて下さい」
女は屈託無い笑みで朱音に問いかけた。
朱音はじっとそのハーバリウムを見る。
中に入っているものも色もあの仕事部屋で見たものと全く同じ。
後でこれがどこに売っているのか教えてもらおう。
朱音はそう思いつつ声を出す。
「青い薔薇と、スワロフスキーのようなキラキラした石が入っています」
「石の色を教えて下さい」
「赤と、紫、うーん、これは虹っぽいような色です」
「・・・・・・Excellent」
突然、その女の口が動き、低い男の声がした。
朱音は英語で、それも男の声が目の前から聞こえたことに戸惑いじっと女を見つめるが、女は何事も無かったように笑みを浮かべた。
「わかりました。ではインカローズにパワーを込めましょう」
女は横に置いてあった引き出しから何かを取り出し机に置くと、それはインカローズのブレスレットだった。
大きめの、まるで血を薄めたような赤の石が一つあり、それ以外は水晶らしき透明の石が囲んでいる。
女は自分の手のひらにそれを乗せ、両手で挟むと目を瞑る。