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朱音はそんな絵里達を前に、もしかしたら冬真の言っていた例のインカローズのブレスレットの可能性があると思えた。
こんなチャンスを逃すわけには行かない。
時計を見ればまだセミナーが終わるまで10分ほどある。
朱音はきゅっと右手を握り、必死の顔で自分を見つめる女子高生二人を見た。
「わかりました。コートと鞄を取ってくるからここで待ってて下さい」
その返事に、絵里と真央は一気に嬉しそうな顔をした。
「すぐ戻ってきて下さいね!」
絵里に急かされ、朱音は急いで洋館に入り二階に上がれば冬真の話す声がレクチャールームのドア越しに聞こえる。
荷物を置いている会議室に行けば、アレクはいない。
ランチの荷物を一旦持ち帰ったのだろうと思い、朱音はスマートフォンを取り出し冬真に簡単に事情を打ってLINEを送り、鞄とコートを取って急いで部屋を後にした。
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早足で横浜山手洋館地域のある高台から降りて、人でごった返す横浜中華街の中に入り込む。
朱音と女子高生の絵里と真央は歩きながら互いに自己紹介をし、早足でスマートフォンの地図を見ながら歩く絵里達の後ろで、歩くのが速いです、そもそも歩きスマホはいけません、という言葉を朱音は心の中で繰り返しながらついていった。
平日でも混んでいる中華街だが、土曜ともなるとその混み方もすさまじい。
カラフルな看板、店の前で売っている肉まんなどの良い香りが漂い、カタコトで中華料理店の呼び込みをする人を傍目に見ながら、朱音は今自分がどこにいるのかさっぱりわからなかった。
元々ほとんど中華街に行ったことの無かった朱音には、どの路地も同じように見えて、慣れたように進む女子高生達に必死についていくしか無い。
やっと絵里と真央が立ち止まり、スマートフォンの地図を確認しビルを見上げる。
騒がしいエリアから少し離れているようだが、ビルが密集しているところで薄暗い階段が奥に見え、一階の店舗らしきところはシャッターが降り、スプレーで落書きがされている。