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健人から以前言われた、魔術師は本音を話さないというのを忘れていた。
朱音は少しでも力になれるなら、楽しく感じてくれるならとただ純粋に思ってつい言ってしまった。
急に恥ずかしそうな表情をして椅子にすとんと座った朱音に冬真は目を細め微笑んだ。
「ありがとうございます」
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講演15分前にレクチャールームを開き、女子中学生、高校生、大学生がわいわいと受付に並んでいる。
朱音は笑顔で既に申し込みをうけた女子学生達の名前と、参加条件にしているインカローズのブレスレットを確認する。
朱音にはそれが問題のものかはわからないが。
5分前には席はほとんど埋まり、ドアから冬真が入ってくるとおしゃべりに花を咲かせていた女子学生達は一瞬冬真を見て黙った後、一気に騒ぎ出した。
カジュアル目のグレー地にチェックのシングルブレストのスーツ、白のシャツに濃い紺のネクタイ、ジャケットの胸元には淡いピンクのポケットチーフがふんわりした形で折られている。
優しく笑みを浮かべ参加者に軽く冬真が会釈すれば、ダークブラウンの髪がさらっと流れて女子学生達から同時にため息が出た。
受付をしている女子学生達も動きを止め頬を赤らめてみている。
冬真がゆっくり席に座る学生達の横を通り前に進んでいると、学生達が、来て良かった、こんな素敵な男性見たこと無い、アニメの王子様が三次元で現れた、と小声で話している。
朱音にもそんな声が聞こえその反応も無理が無いと思いつつ、王子様、という言葉に一瞬動きを止めた。
思わず前の台で俯きがちに準備をしている冬真を見る。
そうだ、こんなにも王子様にしか見えない人がすぐ側にいるのに。
だからきっとロンドンでの王子様と重ねてしまうのは無理が無いのだと、朱音は言い聞かせながら心のどこかであれが冬真さんだったなら、という気持ちが沸いてしまう。
でもそれを知ってどうするのだろう。
余計に苦しくなるだけなのに。
「あの」
目の前で早くして欲しそうにしている学生に声をかけられ、名前を確認中だった朱音は現実に引き戻され慌てるように名簿に○をつけた。