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「あの、冬真さんはその、本業って楽しくないんですか?」
魔術師という仕事を冬真は自分で選んだと以前話していたのを聞いて、冬真にとってこの仕事は楽しいのかと単純に朱音は思っていた。
戸惑ったように聞いた朱音に、
「朱音さんは今の会社、楽しいですか?」
と逆に聞かれて朱音は驚いて少し考える。
「楽しい、とかじゃなく、生活しないといけないので。
自分の学歴や能力からすれば悪くない会社だと思いますし」
「少し違うかもしれませんがそういうことです」
朱音は自分があまりに社会人らしくない質問をしてしまったことを恥ながらも、静かな表情の冬真を見る。
自分が仕方なく仕事していることと、冬真がする魔術師の仕事は違うようにどこかで思っていた。
「僕の本業はとても歴史あるものです。
母の家がそういう血筋で、僕はそんな母から産まれた。
幼いときからそういう才能に恵まれていましたが、だからといって誰でもその仕事を継ぐわけでは無い。
僕はその歴史をハーフであっても、いや、だからこそ残したかったんです。
楽しい、というよりはそうしなければいけないと勝手に思っているのかもしれませんね」
困ったように冬真は笑う。
「でも、今回少し楽しく感じたのは本当、ですか?」
朱音は緊張しながら問いかける。
「えぇ」
「なら、今後も出来るだけお手伝いさせて下さい!」
椅子から立ち上がり冬真の方に前のめりになってそう言った朱音を、冬真は驚いて見上げる。
「あ、役に立てるかはわかりませんが・・・・・・」
思わずそんなことを言ってしまったが、平凡な自分が役に立てるかは自信が無い。
というか、さっきの冬真の言葉も本音だったのだろうか、単に緊張している自分への気遣いかもしれないのを真に受けてしまったかもしれないと朱音は思って焦ってくる。