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「冬真さんの本業の何かは私にはまだわからないですが、冬真さんが私に沢山してくれていることは事実でとても感謝しています。
それに本当に悪い人であれば健人さんはこんなに一緒に冬真さんと過ごしていないって思うので大丈夫じゃないかなって」
健人は目を丸くすると豪快に吹き出した。
「なんだそりゃ、俺の目を信じるから大丈夫だっていうのか?」
「私のイメージでは何というか、冬真さんは月、健人さんは太陽なんです。
きっと冬真さんも健人さんだからこそ、信頼して安心して一緒にいるんだなって見ていて感じます」
笑顔でそういう朱音を、健人は感心していた。
歳の割に朱音がしっかりしているのは育った環境でそうならざるを得なかったのだろうが、何かを純粋に感じ取る能力に長けているように思える。
だからこそ魔術師秘書だなんて言って、冬真は朱音を巻き込みたいのかもしれない。
俺や冬真には見えないものが、朱音になら見えるのだろうか。
朱音が冬真に完全に恋に落ちるのに、おそらく時間はかからない。
恋愛経験がいかにも少なそうな朱音を心配したつもりだったが、なんとなくこんな朱音をあの冬真にぶつけてみたい気になってしまう。
冬真には『彼女』の事とは関係なく朱音に向き合って欲しい。
自分が感じる朱音への冬真の態度の違和感が、もっと膨らめば面白そうなのに。
「あの・・・・・・」
自然と口元が緩みながらネギ塩タレがたっぷりかかった唐揚げを健人が口に入れようとしたら、朱音が遠慮がちに声をかける。
「ずっと水泳選手でいたかったですか?
イラストレーターとして有名になるよりも」
深刻そうな顔で聞いてきた朱音に、思わず健人は笑う。
「そうだなぁ、選手だったとしてもいずれ引退の時が来る。
俺はそれが早かっただけで、こういう道を進めたのはむしろラッキーな部類だと思っているし、今のこの生活が気に入ってるよ」