9
「そのパンフレットが好評だったらしく、冬真はわざわざKENTOが描いたって言ったのに、どうもどっかで聞き間違いが広がったらしく、俺は気が付けばKEITOになっていた」
「ええっ?!」
てっきり自分の名前をベースに健人の意思で名前をそうしたのかと思ったら、まさかの展開にファンとして朱音は驚くとともに、こんな特別な話を聞けて、ミーハーな気分が盛り上がりそうなのを必死に押さえる。
「冬真に、この絵は素晴らしい、もったいない才能だと言われて俺も何だか良い気分になって。
で、日本に戻ってからもやりとりはしてたんだが、冬真が日本の洋館を譲り受けて住むけど部屋が空いてるから一室貸そうかって誘われて、二つ返事で転がり込んだよ。
その頃には絵の仕事も入るようになっていたけれど、あの家に住むようになってからの方がイラストレーターとして人気が出たって感じだな。
アレクがいるから描くことに集中できるし、何より冬真と出会ったのがでかかった」
途中、頼んだ食事を持ってきたさっきの店員は話しを遮らないよう静かにテーブルに置いて出て行って、健人も特に気にすること無く朱音に話していた。
「健人さんも冬真さんに出会って救われたんですね」
「・・・・・・お前はあいつと会って救われたのか?」
健人の話を聞いて感動していた朱音が言った言葉に、健人は真面目な顔でそう聞いてきたことが朱音としては驚いてしまった。
もしかして冬真には自分の感謝が伝わっていないのだろうかと。
「もちろんです!
もしかして冬真さんが気にしてたりするんですか?」
心配になってそう聞くと、健人は黙ってしまった。
「あいつの本業は知ってるよな?」
「はい」
「あの連中は腹の探り合いが日常で、本音を話すなんてもってのほか。
あの冬真だって例外じゃ無い。むしろあいつはあの連中そのもの、だ」
真面目な顔でそんなことを言われ、朱音は困惑したように健人を見る。