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「んで、大学の途中でいわゆる自分探しの旅に出たわけだ。
オーストリアやフランス、そしてイギリスのロンドンに行ったときに冬真に出会ったんだよ、スリに遭って金がなくなった俺が公園のベンチで呆然としてた時に。
外国人かと思ったら流ちょうな日本語で話しかけられたから、最初は何か怪しげな奴かと思ったよ、もうなんか色々重なって不信感だらけになってたし。
そうしたら自分の家に泊まらせて、飯おごってくれて。
パスポートや飛行機のチケットはホテルに置いてたから無事だったけど、なんか居心地良くてしばらく厄介になってた」
健人は懐かしそうにビールと一緒に来た枝豆をつまんでいる。
健人が大学の夏休みに海外に行くと言ったら、親も周囲も揃って賛成して快く送り出してくれた。
それだけ進む方向を見失っていた自分を心配して周囲は後押しをしてくれたのだろうが、その時の健人には周囲が自分を腫れ物を扱うようにしているように思えて誰にも感謝するなんて事は出来なかった。
なんとなく有名どころを見て回ろうかと選んだ国や都市には素晴らしい美術館があり、そこに行く度に健人は圧倒された。
美術館自体が美術品そのもののような場所もあれば、教科書で見た絵画が所狭しと置かれている近代的な美術館、こういうものに小さい頃から触れられるこの国がただ羨ましく、でも何かが湧き上がってくるわけでは無かった。
「しばらく冬真のアパートメントの一室に転がり込んでいたわけだが、そこで冬真が講演用のパンフレットを作ってるのを見て、これがまた味気なかったんだよ。
思わずイラストくらい入れたらどうだって言ったら、もう誰かに頼む時間が無いっていうんで色鉛筆買ってきてくれって頼んだんだ、少し描くくらいならできるかなって思ってさ。
でも買ってきたのがただの色鉛筆じゃなくて高級な水彩用色鉛筆で、もったいないから水彩画に仕上げたんだ。
それを冬真が絶賛してくれて」
「じゃぁKEITOさんの作品第一号は」
朱音がドキドキしながら聞けば、健人が笑う。