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未だに目の前の二人はわいわい揉めているようだ。
外でも仕事でもスマートに振る舞う冬真もここでは気を張らずに過ごせるのだろうと思うと、自分がこうやってそんな中に入れてもらい、誕生日を祝ってもらっているのは自分にも新しい家族のような居場所が出来たことを朱音は実感して嬉しい気持ちにならないわけが無い。
そんなことを朱音が思っていると、目の前の空になったティーカップにアレクが紅茶を注いでいる。
「あの二人って仲が良いよね」
「そうでしょうか」
アレクは朱音を見ることも無く答えたが、そんなアレクのそっけない態度に朱音はくすっと笑う。
「お礼に今度は私が何か作るね、たいした物は出来ないけれど」
「おっ、朱音の手料理か!俺はいかにもお袋の味ってのが良いな」
「兄に立候補したのに、朱音さんに母を要求するんですか」
「何で突然日本語に慣れてない外国人みたいな斜め上の返しすんだよ!」
アレクに返したはずが、あっという間に健人と冬真が割り込んできて、思わず朱音は笑ってしまう。
楽しくて、温かい。
賑やかで騒がしいダイニングで、朱音は笑って出る涙では無い、何か心の奥底から湧き出た涙を必死に我慢して笑った。