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「あの」
「はい」
朱音はすぐに返事を返され言いよどみそうになった後、話すことにした。
「実は今日、父の決めた相手と無理矢理見合いをさせられたんです。
それもいきなり一対一で」
朱音の遠慮がちに話し出した内容を聞いても、冬子は特に驚きもせず穏やかな表情で続きを話すのを待っている。
「お相手は歳がかなり上ではあるんですが、良い会社に勤められて収入もかなり良いと。
父が私の早い結婚を望んでいるのはわかってはいるのですが、その・・・・・・」
朱音の顔は話していくたびに俯いていく。
朱音の父親は短大進学より結婚を優先すべきだと言い、そんなことを言う理由もわかっている。
わかっているからこそ邪険には出来ない。
性格の変わってしまった父親に耐えかねて、朱音は父親を一人にして東京の短大に飛び出してきた手前、負い目を感じていた。
だから今回も言われたとおりに会ってきた。
でも、後どれだけ結婚は嫌だと逃げ切れるだろう。
さっきまで明るい表情でいた朱音の顔に陰りがあることに気が付いて、冬子が声をかける。
「朱音さんはその方にどのような印象をお持ちなのですか?」
「あまり、良い印象は・・・・・・」
「もう少し話してみたい、というお相手ではないのですね」
「そう、なんですけど・・・・・・」
もっと我慢して話せば印象は変わるのだろうか。
自分が我が侭なだけで、父親の言うように凡庸な能力と顔の自分からすれば、もったいない結婚相手を逃してしまおうとしているのだろうか。
でもいつまでも思い出に残る、あの金髪に青い瞳の王子様を思い出してしまう。
友人達にはそれがいけない、そんな夢ばかり見るから未だに彼氏も出来たことが無いのだと何度注意されたことだろう。