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「ありがとうございますっ!」
友人達にも毎年祝ってはもらっていてそれもとても嬉しいのだが、こんなにも温かな誕生日はそれこそ自分が子供の頃以来では無いだろうか。
気が付けば家族はすれ違い、母親の死後、父親から誕生日を祝ってもらうことは無かった。
母親が手作りしてくれたケーキを母と二人だけで食べた記憶が蘇り、朱音の視界がぼんやりしそうになる。
すぐ近くにアレクが来てケーキを切り分けだし、平たい大きな皿の真ん中に切り分けたケーキをのせると、チョコレートのペンを出しすらすらと皿の縁に書き出す。
「俺もやりたかった」
健人が前のめりでそれ見ていると、アレクが無言で皿とペンを差し出せば、健人が意気揚々と何かを描きだした。
「最後お前ね」
うっと珍しく冬真が戸惑うと、覚悟を決めたようにペンを受け取る。
上手く進まないのか、あっ、とか、あれ?とか言いながら真剣に向かい合い、最後心底申し訳なさそうにケーキの乗った皿を朱音に差し出した。
横では健人が、お前に不器用な物なんてあったんだなぁと冷やかしている。
「すみません、下手で」
冬真が差し出した皿には、Happy Birthday朱音の他に、ケーキを飾るように薔薇が沢山描かれ、隅の方に、おめでとうございます、と文字が途切れ途切れで波打ったように描かれている。
すぐに誰が何を描いたかわかって、その一つ一つが愛おしい。
さすがに朱音は我慢できなくなって、
「すみません、スマホ持ってきます!」
と言って急いで部屋に戻ると、すみません!と言いつつ戻ってきた朱音が、
「写真撮らせて下さい!これだけは絶対残したいんです!」
そう言って必死に写真を撮りだし、健人は笑い、冬真も優しく見守った。