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「もちろん。ロンドンに住んでいたこともありますから。
さて、皆が待っていますよ、お姫様」
笑顔で冬真はそういうと、戸惑ったように冬真を見上げている朱音の手を引く。
考えてみれば、あの王子様は冬真さんの親戚である可能性だってあるのに、何故冬真さんと重なってしまうのだろう。
ダイニングに入れば、健人が待ちくたびれたと笑って出迎え、椅子を引いてくれた冬真に礼を言いながら、朱音は心に浮かんできた疑問をなかなか消し去ることが出来なかった。
冬真が椅子を引き朱音が席に座れば六人掛けの広々としたテーブルに、朱音の目の前に冬真、その横に健人が座り、テーブルの上を見れば目の前の大きなお皿にピンク色の綺麗に折りたたまれたナプキン、両端には磨かれた銀製のスプーンやフォークなどが並ぶと共に箸も置いてある。
まるでフレンチでもスタートしそうだと思ったら、
「一皿目はどうぞ手でお召し上がり下さい」
ナプキンを取るとアレクはその皿は下げて、コトリと置いた大きな皿の中には小さな料理が乗っていた。
一口サイズのパイ生地の上には生サーモンのスライスとホイップしたようなもの、そしてキャビアが乗っている。
「このホイップ、何?」
「クリームチーズをベースにしたものです」
「お、ほんとだ美味い」
健人の質問に特に表情も無くアレクが答えれば、大きな口を開けて一口で食べてしまった。
その美味しそうにしている顔を見て、朱音も一口でそれを食べる。
サクサクとしたパイ生地にふんわりとしたホイップ、ちょっとしょっぱいキャビアなどが絡みたまらない。
「凄く美味しい!
まさかパイ生地から作ってないよね?」
「作りました」
既に空いた皿を片付けていたアレクが無表情なまま事もなげに言うので朱音は驚いてしまう。
朱音もアップルパイを作ったことがあるが、パイ生地は冷凍品を使用していたし、パイ生地から作るなんて大抵プロくらいなものだ。