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きまずい雰囲気


 料理を受け取る長い列に並んで、冷めたシチューを受け取って、炎から少し離れた所に座って食べる。

 なぜかマーブルも僕の隣に座って、無言でシチューを食べている。なんだか怒っているようにも見えた。

 パチパチと燃え上る炎の音だけが、やけに大きく聞こえる。


 何か声をかけた方がいいのだろうか? 沈黙自体は苦ではないのだけれど、横から無言の圧力を感じる。

 でも、言うようなこともないんだよな。困っているとマーブルの方が先に言う。


「……よく無事だったわね」

「まあ、運が良かったのかもね」

「そう……」


 なんだか妙に気まずい。僕が何か悪いことしたかな? もしかして、あれかな?


「えっと、僕も悪かったよ。今日は一人で行くって、事前に言っておいた方が良かったよね」

「そういう事じゃなくて……」


 ほかに何かあったっけ? あ、そう言えばまだお礼言ってないな。


「そのグループに誘ってくれたことは感謝してるよ。本当にありがとう」

「た、タルム君?」

「えっと、今日単独行動を取ったのは、別にそれが嫌だったとか、そういう事じゃなくてね。ただ、そんな気分だったって言うか……」

「……」


 これも違うのか。あるいは弁解の仕方が悪いのか。よくわからん。

 マーブルは言葉を選ぶように、何かを言いかけ、困ったように口の中でもごもご言っている。……おかしいな。これ、もしかして僕の方が気を使われてない? なんで?


「ねえ、タルム君。あなたはもしかして、スキルがない事を悩んでいたの?」

「え? まあ、悩んでいたとは言えなくもないけど……」

「そっか。でもさ、物事には順番ってあるから……やっぱり、無茶をしたらダメだよ」

「うん。そんな無茶をしたつもりはないんだけど」


 それなりに勝算はあったし、一人でやった方がいろいろ都合がよかった。

 心配をかけてしまったようだ。

 ただ、スキルの事を隠したままで、どうやって納得してもらったらいいのだろう。……そうだ。それっぽい独白でもしてみたら、ごまかせるかも。


「確かに、いつまでたってもスキルがないのは嫌だったよ」


 これは事実だ。ここから話を膨らませてみよう。


「どうして僕だけスキルが手に入らないのか、何がいけないのか必死に考えた。あるいは僕は何も悪く無くて、周りの方がおかしいんじゃないかと思った事もあった。正直に言うと、最初にスキルを手に入れた君に嫉妬しそうになった事もあった」

「そっか……」


 よし、信じてるみたいだ。凄いぞ僕。やり方は簡単、先にそれっぽいネガティブ要素を告白するだけ。まあ完全な嘘というわけでもないから通るだろう。

 そして次にひっくり返す。


「でもね。スキルだけが、僕の価値を決める物ってわけじゃないって思ったんだ」

「あなたの、価値?」

「うん。結局さ、スキルがあってもなくても、自分にできることを自分にできる範囲でやっていくしかないってのは、同じだと思うんだよ」

「それは、そうね」

「だから僕は今の自分にできる事がなにかあるんじゃないかって考えて……それで、やってみたんだ」

「それが、一人で行く事だったの?」

「うん」

「そんな事をして、大丈夫だと思ってたの?」

「どうだろう? でも、少なくとも、ここまでは来れたし」

「……」

「数か月前に考えていたのとはちょっと違ったけど、これも一つのやり方だと、僕は思ってる」


 マーブルは深いため息をついた。


「タルム君……なんか変わったね?」

「変わってないよ?」

「ううん。一昨日の教室にいた時とは全然違う気がする」

「そんなことないと思うけど……」


 何か変わったかな? ライラ曹長から受け取ったショベルの事かな? という軽口を放ちそうになった。やばいぞ、確かに二日前の自分だったら絶対こんなこと言わない。

 マーブルは立ち上がると、僕の前に立ってじろじろと観察する。


「んー?」

「な、何か?」

「タルム君、あなた何か隠してない?」

「何も隠してないよ」

「本当に? 私に隠したいならそれでもいいけど、教官には話した方がいいと思うよ」

「何を?」

「……なんでもない」


 教官に話した方がいい、とな? スキルの事を言っているのだろうか。


 おかしい、何かがおかしいぞ。エノック、教官、そして今度はマーブルだ。

 なんで会う人会う人に即バレするんだ? 見ればわかるような物なのか?

 いや、ギドゥルスは言及してこなかったし、主任教官は絶対気づいてないな。気づく人と気づかない人の違いは何だろう? 面倒見の良さかな?


 まあ、気づいた上で追及してこないなら、問題ないか。

 僕はまだスキルを入手したことに気づいていない、という設定で押し通す。この方針に変わりはない。

 それなら、明日は昨日と同じグループに入れてもらおう。そして寄生の立場に甘んじるとしよう。



 カンカン、と何か金属を叩くように音がした。主任教官が板を叩いて注目を集めている。


「皆、聞いてくれ。明日で最後だ。明日の朝にここを出発し、夕方ごろに駅に集合する事になっている。それは改めて説明するまでもないな?」


 今更どうしたんだろう。変更事項でもあるのかな? こんな急に伝達されても聞いてない人とかいるんじゃないの?


「各自で移動しながら敵と戦うだけだと思っているな。だが、私は考え直した。君たちが立派に戦ったという証拠が欲しい」


 なんだそれ、死体でも持って来いって言うのか?


「耳だ。倒したゾンビ……、あー、歩行体の耳を切り取って持ってこい。一人、一つか二つでいいだろう」


 ざわざわと困惑が広がる。キャンプファイヤーの周囲にいた生徒たちは、僕とマーブルも含めて、呆然と主任教官を見つめていた。

 生徒たちだけでなく教官の間でも、急に何を言い出すんだ、みたいな空気が漂っている。

 主任教官は話し続ける。


「協力して戦うのは構わない。だが、何もせず人の後をついて歩いて、耳だけ恵んでもらうような軟弱者は、絶対に許さん」


 そしてにやりと笑った。目が合った、ような気がした。

 軟弱者というのは僕の事かな?

 なるほど、僕にも戦えと要求しているわけだ。いや、戦えるけどな。

 しかし、そうなると明日もスキルを使うしかない。つまりソロ活動確定だ。

 僕は立ち上がる。


「マーブルさん。僕はもう寝るよ。明日も早いと思うから」

「あ、あのさ、明日は?」

「ごめん。明日も一人で行こうと思ってる」

「ちょっと! 何言ってるのよ! 今までの話は何だったの?」

「それは、えっと……心配してくれたのはうれしいよ。お休み……」


 マーブルはまだ何か言いたそうにしていたが、僕は先にその場を離れる。


 それにしても、主任教官は何を考えてるんだ? いきなりあんな適当な発表をして聞き逃した人がいたらどうするつもりなんだろう?

 あ、そうか。僕以外は忘れててもお咎めなしにするのかな?

 やれやれ、どこまでもクズだな。これは目にもの見せてやる必要があるぞ。


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