スキル入手
「いやー、五十体を一度に倒すとか、先輩の引率でもなかったよな。俺、実は結構強いんじゃないか?」
ギドゥルスがはしゃいでいる。
だがその考えは正しくない。
その時は大きな規模の群れに遭遇しなかっただけとか、今回はマーブルが足止めしてくれたからとか、狩り残しを倒してくれる仲間あっての戦い方だとか、とかとかとか。
言いたいことはいろいろあったけど、何もせず見ていただけの僕にそれを口にする資格はない。
マーブルが近寄ってきて僕の顔を覗き込む。
「どう? スキル、使えそう?」
「え? どうなんだろう? わからないけど……」
ギドゥルスがやっていた炎をイメージしてみる。……ダメだ、何か違う気がする。
EN系なら、他にもいろいろあるけど、どうも僕の性格と合っていないような気がする。
「スキルが使えるようになる時って、どんな感じだったの?」
「えー、言葉で説明するのが難しいなぁ……。なんか、その時になるとわかるんだよ。そういう感じのスキルが使えそうな気がしてくるの」
「使えるような気がしてくる?」
「スキルを初めて使った時は、あんまり難しく考えたなかったな。私は経験値玉を浴びてる時に、すぐそこに植物が生えてきそうな気がして……後は見えない草を別の性から引っ張り出すみたいな感じで……」
「な、なるほど」
ダメだ、全然わからない。植物? そんな物が出てくる気はしない。
「おい、マーブル、ちょっと来てくれ!」
エノックが向こうの方で叫んでいる。何かゾンビの死骸を調べていたようだ。爆撃でほとんどがボロボロになっているのに、何かわかる事でもあるのだろうか?
「呼ばれちゃった。行ってくるね」
マーブルはパタパタと走っていった。
僕は一人でスキルについて考えることにする。
しかし、どう考えても、植物が出てくるイメージができない。
でも、たぶん、ガープス教官やさっきの、ステラだっけ? そこの女生徒なら、金属とか石を出せると思ったのだろうか? じゃあ、僕のスキルが実体化系スキルだとしたら、何が出てくる?
ピンとこないな。実は空気の実体化とかだったりしない? 元からそこにあるから新しく出現させるイメージがわかないとか? いや、それはないか。
じゃあメレー系は……いや、これは聞かなくてもいいや。大体予想がつくし。
残りは概念系だけど……これもどうした物か。
時間とか速さみたいなわかりやすい概念ならいいんだけど……。
ライラ曹長は、敵の動きが遅ければ、あるいは自分が早く動ければ、大群相手でも一体ずつ倒せる、とか思ったんだろうか?
そうだな。よく考えてみると、そっちの方がいい。ギドゥルスみたいに広範囲にばらまくのは、エネルギー効率が悪いような気がする。
もし僕がスキルを得たら、一体ずつ倒していくスタイルを目指そう。
とはいえ、まだスキルは手に入っていないんだけど。はぁ、しばらくは寄生の日々が続きそうだ。消えたい。
僕がそんな事を考えていると、エノックは出発する気になったのか、皆を集めている。
「あれ? タルムは、どこ行った? さっきまでその辺りにいたよね?」
「え? 嘘でしょ? さっきはいたのに? なんで?」
エノックどころかマーブルまで慌て始める。
なんでだよ、ここにいるじゃん。
「……あ、あれ? ごめんごめん。普通にいたね」
酷いなぁ。遮る物の何もない荒野だし、辺りはまだ明るいし、服が保護色になっているわけでもない。見失うわけないじゃん。僕ってそんな影が薄いの?
あるいは僕をからかって遊んでいるのかな?
でも、ふざけてるにしては、真剣に僕を探していたようにも見えたし……ん?
……いや、待てよ? まさか……そういう事なのか?
〇〇〇
その後も二、三度ゾンビの群れを倒して、日が暮れるころにはキャンプ地点についた。
ここは一応の安全地帯だ。
先に来ていた教官や先輩たちが、周辺のゾンビを狩っておいて、夜通し見張りをしてくれることになっているという。
まず教官の所に行って、到着した事を報告して名簿にチェックを入れる。僕たちは最後の方だったらしい。まあ、出発も遅れたからな。
テントで囲まれた広場には、材木が組まれて炎が燃え盛っている。
これはキャンプファイヤーのようなリア充向けアクティビティーであると同時に、空を照らして遭難者にキャンプの位置を教える実用的効果もあるらしい。
キャンプファイヤーの近くのテントで料理が用意されていて、並んで受け取っていく事になっているようだ。
僕もその列の最後に並んで、トレーを受け取る。硬いパンとやや冷えたシチュー。
こんな所での食事にはあまり期待していないけどな。
さてと、食事を終えたら、そろそろスキルを試してみよう。
ターゲットは誰にしよう? 歩いていると、キャンプファイヤーから10メートルぐらい離れた所に主任教官がいるのを見つけた。その隣には固形燃料が入った箱。そして水のタンク……なるほど、ここで火を管理してるのか。
ちょっと仕掛けてみよう。
まず、袋を用意する。
その中に手ごろなサイズの石を集める。10個もあればいいか。
僕は息を潜める。そして自分に言い聞かせる。僕は消える、消える、誰にも見えない、見えない……。
……うまくいっているかな?
主任教官に後ろから近づく。
主任教官は隣にいる別の教官と話していて、燃料の方を見ていない。チャンスだ。
僕は固形燃料を手に取り、袋に入れて、代わりに石を置く。固形燃料を全部石と置き換えたら、少し離れた所に移動して見守る。
気づかれた様子はなかった。
「火が弱くなってきたかな」
五分ほどしたころ、主任教官はそんな事を言いながら固形燃料の箱に手を伸ばし、石をつかんだ。
「ん? なんだこれは……え? え? え?」
主任教官は慌てて固形燃料の箱の中を覗き込む。もちろんそこに燃料はない。全部石だ。
「ありえん、どうして、どうなってる? おい!」
騒ぎ出す主任教官。他の教官や近くにいた生徒も何事かと集まってくる。
僕は騒ぎにはかかわらず、ていた。
これで確認できた。僕の勘違いなどではない。
ステルスのスキルは実在する。
ただし、これだけだと、主任教官が果てしなくマヌケなだけかもしれない。
明日はこのスキルを本格的に試してみる必要がありそうだ。