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敗走 前


 崩壊したキャンプ地を離れて、どこへともなく逃げる。

 最初は五、六十人ぐらいいたけど、途中ではぐれたのか、三十人ぐらいになっていた。

 ステラはスキルの使い過ぎで半分意識がないような状態で、エノックに背負われている。


「これから、どうしよう」


 僕の隣を歩くマーブルが不安げに言う。


「しばらくは、大丈夫だと思うよ」


 僕たちはバラバラの方向に逃げている。こっちに追いかけてくる可能性は十分の一ぐらいだろう。

 問題は、水も食料もなしに、歩いて一日かかる距離にある駅まで帰らなければならない事だ。今日、昼間、一日歩き通しで疲れているのに、夜寝る事も許されないとは……。


 そんな事より、よくわからないのはスケイルドラゴンの思考だ。僕たちを殺すことが目的なら、もっと素早く攻撃して回る事も可能だったはず。

 それをせず、攻撃を受けてから反撃するような動きをしていた。いくら防御力に自信があっても、先制攻撃をしない理由にはならない。


 まるで、相手のスキルを見定めてから攻撃していたようだ。

 何か特定のスキルを持った人を探しているのだろうか? あの場で一番特殊なスキルと言ったら、間違いなく僕だけれど……。ステルスのスキルを追跡するような能力があるとは思えないし……。


「これぐらい離れれば、いいんじゃないか?」


 一時間ぐらい歩いたころに、エノックが言う。人間一人背負って歩いてきただけあって、少し疲れているようだ。

 僕たちは休息をとる事にして、その辺りの地面に座り込んだ。


「ステラ、大丈夫か? 降ろすぞ」

「う、うん……」

「無理させて悪かった」

「いいの、ありがとう……」


 ステラは力なく笑う。

 実体化スキルで実体化しておける質量には上限があって、その上限を超える量を出そうとすると危険があるらしい。

 僕も注射器を二つ出したりできないもんな。


 ステラは一時間ほど経っても本調子には戻っていないようだ。この様子だと、主任教官の二度目のスキルが発動していたら、石壁は耐え切れなかったかもしれない。ザーバス教官の判断は正しかった。


 そう言えば、教官たちは無事だろうか?

 僕はキャンプの跡地を振り返る。既に跡地は地平線の向こうだが、スケイルドラゴンの長い首はぼんやりと見える。ここはまだ重力カタパルトで移動できる射程圏内のはずだ。もう少し遠くまで逃げた方がいいかもしれない。


 この状況で移動し続けた場合、一番怖いのは遭難だ。

 どこが安全なのかわからない状況で、無軌道に歩き続けて、自分の居場所すらわからなくなったら? 絶望しかない。

 コンパスで正確な方角を図ってから……えーと、距離は? 五キロぐらいでいいか……地図に現在地を書き込む。


 さて、ここからどうしよう。夜通し歩いて駅に向かうか、ある程度の休憩を取るべきか……。


 ウォォォォォォォオオオオン!


 低音の叫び声が聞こえた。

 反射的にキャンプ跡地の方を見るが、スケイルドラゴンに動きはない。

 別の方向だ。地平線の向こうから、何か巨大な四つ足の魔物が走ってくるのが見える。


 ギドゥルスがうんざりしたように言う。


「嘘だろ。二体目もいるのかよ……」

「いや、あれは外見が少し違うような……」


 首は長いが、ドラゴンではない。

 ウオヴァサウルスだ。


 こんな状況で、こんな所にまで出てくるとは……。それとも、スケイルドラゴンからしたら、取り巻きみたいな物なのだろうか?


「まずい、逃げよう」


 誰かが慌てて言うが、エノックは首を振る。


「それじゃダメだ。ここで倒そう。二体の敵から逃げ回るのは挟み撃ちにされる危険がある」

「倒すって、作戦とかあるの?」


 マーブルが聞くと、エノックは頷く。


「そんなの必要ない。遠距離から火力で押し通す。倒した後は、幼獣の反撃を食らわないように遠くに逃げればいい」

「急ごしらえのチームで連携なんか取れるか?」


 ギドゥルスはまだ不安そうだが、エノックは既にやる気のようだ。


「……足止めと拘束、攻撃用のEN系でグループに分かれよう。それぞれのグループ内で連携を取るだけでも、何とかなるはずだ! 短時間で仕留めるぞ!」


 この様子だと、

 その後、十秒で迎撃態勢が整った。

 参加できないスキル構成の生徒(僕も含まれる)はステラの周囲で待機する。


 既に近くまで来ていたウオヴァサウルスの手前に、雷系の攻撃をばらまいて足止め。

 マーブルが植物を出して、足の一つを拘束。他の足もトラバサミや鎖のような実体化系のスキルが撃ち込まれて、それぞれの足を固定する。

 追加で雷撃が連続して放たれて、ウオヴァサウルスは一瞬でその場に崩れ落ちた。

 動きが止まれば、もう終わりだ。

 そこに無数の火炎弾と光の矢のような物が降り注ぐ。全てが胴体上部を狙った攻撃。胴体を中に抱えた卵ごと焼き尽くすことを目的とした、執拗な爆撃。

 戦闘開始から一分経ったかどうかという頃には、経験値玉が飛び散っていた。


 見ていただけのエルアリアが呟く。


「凄いじゃん。これなら、ドラゴンにも全員で挑めば勝てたかも」

「無理だよ……」


 アレはそういう枠じゃない。

 ウオヴァサウルスの死体の方に警戒しながら三百メートルほど離れるが、幼獣が出てくる気配はない。


「どうする?」

「放置しておいて誰かが気づかずに近くを通りかかったら危ないんじゃないか?」

「そうは言っても、まず俺たちが危険なんだぞ」

「跡形もなくなるまで攻撃し続けるしかないんじゃ……」


 そうは言っても、EN系の攻撃も無限ではないだろう。この先、何が起こるかわからない状況で、撃ち過ぎるわけにはいかない。


 ギィィアァァァァァァァァァァァッ!


 僕たちの迷いを切り裂くように、何かが叫ぶような声が聞こえた。


「幼獣の声だ……」


 エルアリアがつぶやく。僕は意識を失っていたあの時に、ほかの皆は聞いていたのだろう。

 見れば、倒れたウオヴァサウルスの上に幼獣がいて、天に向かって吼えていた。


 けれど、何かがおかしい。こんな風に姿を現して吼えたら、奇襲が失敗してしまう。

 それに威嚇しているわけでもない。まるで、誰かに情報を伝えているような……と思っていると、幼獣はどこかに逃げていった。

 何をしていたのかは、十五秒後にわかった。スケイルドラゴンを呼んでいたのだ。


 キャンプ跡地にたたずんでいたスケイルドラゴンが羽を広げるのが見えた。それは飛ぶための羽ではない。重力カタパルトを発生させるためのアンテナのような物だ。

 そして、ロウソクの火が消えるようなあっけなさで、スケイルドラゴンの姿が上空の闇に消える。

 飛んだのだ。どこかに。

 ギドゥルスが慌てる。


「ま、まずい。どこだ? どこに飛んでくる?」


 誰も答えない。幼獣に呼ばれて動いたのだから、こっちに来るに決まっている。

 直後、五十トンはあろうかと言う巨体が数百メートルの距離に着地した。勢いはすぐには止まらず、何回もバウンドし、転がる。

 衝撃で辺りの地面が波打ち、土砂が散弾の様に辺りを飛び交う。


 振動が収まって僕は顔を上げる。スケイルドラゴンのトカゲ顔と目が合った。


 うん、これは勝てるわけないよな。

 どうしよう。


あと二千文字ぐらいですね。

今日中にもう一話がんばります。

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