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 五人から十人ぐらいのグループが作られて、それぞれ出発していく。

 その様を僕は黙って見送っていた。


 グループとか無理だな。できればソロで行きたい所だ。

 しかし、ソロ活動はまずい。

 スキルを手に入れるためには、敵を倒して経験値を得なければならない。しかし、スキルを持たない僕は敵を倒せない。ショベルがあれば……いや、無理だな。それでなんとかなるなら、人類はスキルなんか必要としなかっただろう。

 つまり、誰かに寄生しなければ始まらない。


 しかし、寄生される側の立場で考えてみよう。

 頑張って敵を倒したとしても、その一割か二割の経験値玉を僕に吸われるのだ。

 普通に嫌だぞ。


 これは詰みでは?


 いやしかしちょっと待ってくれ。

 少し前まではそれでもよかったんだ。誰も生まれた時からスキルを持っていたわけじゃない。

 前回までは、教官や先輩が敵を倒しているのを近くで見ているだけで、経験値玉が飛んできた。

 そうだよ、みんな寄生してスキルを入手したんじゃないか。最初は誰だって寄生なんだ。僕はちょっとその期間が長引いている、それだけの事じゃないか。


 僕の何がいけないんだ? 僕が何か悪い事でもしたというのか?


 ……という主張を声高に訴えたとしても、グループに入れてもらえない事ぐらいはわかっていた。だから僕は隅の方で静かにしていた。

 ああ、世界はどうして僕に優しくないのだろう? いっそ消えてしまいたい。


 僕は全てを諦めて、もう放っておいてくれ的なオーラを出しながら、状況を傍観する。


 妙なことに目の前を何度もマーブルが行き来する。

 おかしいな、君って人気者なんじゃないの? 入れるグループなんていくらでもあるでしょ?

 それとも、特定の誰かを探しているの? その人、もしかしてもう出発しちゃったんじゃないの?


 生徒の半分どころか、8割ぐらいはいなくなった集合場所をウロウロするマーブル。

 たまに端の方で待機している集団の所に行って何かやりとりして、教官の所に行って何かやりとりして……あ、ガープス教官が相手をしようとしたら主任教官に追い払われてる。そんな必死になって、誰を探しているんだろう?

 どうせやることないし、手伝った方がいいかな?


「ねえ、マーブルさん……」


 僕はまた目の前を通り過ぎようとするマーブルに声をかける。

 とたん、マーブルは驚いたように僕の方に駆け寄ってくる。


「えっ? あー、こんな所にいた! どこに隠れてたのよ!」

 

 少し怒っているようにも見える。僕は何も悪いことしてないと思うんだけど……。


「タルム君……グループには入らないの?」

「え、いや、僕は、スキルがないから……」

「スキルがないんだったら、なおさら頑張ってグループに入ろうとしなきゃダメじゃん、何やってんの」


 言われてみればその通りだった。反論の余地もない。

 でも頑張るって、何をどうやって……。


「ほら、みんなを待たせてるんだから、行くよ……」

「え? 行くって?」


 マーブルは僕の手を取り、どこかへ引っ張っていく。

 わけがわからないままついていくと、五人ぐらいのクラスメートが暇そうに、出発していくグループを眺めていた。

 マーブルはそいつらに手を振る。


「連れてきたよ」

「やっと揃ったか」


 エノックがやれやれと肩をすくめる。こいつはクラス一のリア充イケメン野郎だ。僕とは対極の存在と言っても過言ではない。

 マーブルが頬を膨らませる。


「もう、そんな事言わないの」

「悪い悪い。じゃ、行こうか」

「なんだ、おまえと一緒かよ」


 ギドゥルスが嫌そうに言う。僕も嫌だよ、と思ったけれど、努めて表には出さなかった。

 僕は場の空気を乱さないタイプだ。


 遅ればせながらに気づいたが、マーブルは僕の事を探してくれていたのか。

 本当、優しい人だなぁ。



 遮る物のない平坦な荒野と思っていたけど、意外とそうでもないようで、語るほどもない丘や窪みがあったりする。

 そういう所を通ると、少しずつ歩く方向がズレていく。

 ランドマークがない土地は地味に危険だ。太陽と影は少しずつ移動していくから、同じ方向を目指していたはずが、30度ぐらいズレていたなんてことは普通にありえる。

 30度ズレた方向に20キロぐらい歩いたら、目的地から10キロぐらい離れてしまう。地平線までの距離はおよそ5キロ。目的地を目視で確認できない。確実に遭難する。

 10分に一度、方位磁針を取り出して方向を修正し、地図に歩いたルートを示す。


 もちろん、歩いて目的地に到着するだけではダメだ。グリーンフォールを見つけて倒さなければ。

 特に僕の場合は、さすがに今回の活動でスキルを得ないとマズイので死活問題だ。立ち止まるたびに、念入りに双眼鏡で周囲を確認する。

 なかなか見つからない。

 まさか、先に出たグループが全部狩りつくしてしまったのか?


「あれとか、どうかな……」


 女生徒の一人が荒野の一点を指さす。

 二キロぐらい離れた窪地に座り込んでいるゾンビの集団。数はおよそ50。


「うん、いいんじゃないかな……」


 マーブルが言って方針が決まった。僕たちはゾンビの集団に向かって進む。

 数百メートルまで近づいたところで、ちゾンビもこちらに気づいたようだ。一斉に立ち上がり、雄たけびを上げながら走ってくる。


「来るね。私が足止めするよ」


 マーブルが何かスキルを使った。地面のあちこちからつる草のような物が生えてくる。ゾンビの大群は足を絡めとられ、バタバタと転倒していく。

 これがマーブルのスキルだ。植物のような物を実体化させて敵の動きを制御できる。


 倒れたゾンビを踏み越えて後ろからやって来たゾンビも、別のつる草に足を取られて転ぶ。

 それでも一匹が突破した。


「盾!」


 別の女生徒がスキルを発動。地面から生えてきた石の塊が、その勢いでゾンビを突き飛ばした。

 実体化系のスキルは、大群の足止めに向いている。


「よし、攻撃する」

「いや俺が行くぜ!」


 エノックを押しのけて、ギドゥルスが前に出る。

 空に無数の火球が発生した。無数とは言ったが、たぶん50個か100個ぐらいだ。

 EN系の得意分野は範囲殲滅。着弾した火球がゾンビを弾け散らし焼き払う。


「へっへぇ。どんなもんだい!」


 ギドゥルスが誇らしげに胸を張る。

 いいなぁ。僕もああいう派手なスキルが欲しかった。

 強いて問題点を挙げるなら、範囲設定が雑すぎて倒しきれていない事とか、マーブルの植物まで燃えて残りのゾンビが拘束から逃れてしまっている事とか……。

 やっぱり、意外と欠点が多くないか? ないよりはいいけど、もう少し別のが欲しいな。

 とはいえ、その狩り残しも、他のクラスメート達が倒していく。

 ゾンビが倒されるごとに、経験値玉が飛び散って、それらはクラスメート達に吸い込まれていく。


 経験値玉の一割ぐらいは僕の方にも飛んでくる。

 いいのかな、何も経験してないのに経験値とか貰っちゃってるし。寄生と割り切っていたはずだけど、実際にそういう状況になると心苦しい物がある。

 僕も今からスコップをもって前に出ようか……。いや、ダメだな。ちゃんと戦っている演技なんかしてどうなるっていうんだ。意味がない。


 僕が前に出た所で、射線に入って邪魔するのが関の山だ。

 隅の方で大人しくしていよう。


これが真面目系クズか

自分で書いた小説で精神的ダメージを受けるとは思わなんだ


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