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休日2


 衣料品店を出た後は、二人で路地を歩く。マーブルはやや狭い路地に入っていく。

 建物と建物の間を抜けるような、幅一メートルもない道だ。途中で曲がっていて見通しも悪い。


「この道は、どこに続いているの?」

「そろそろ、ごはんでも食べようと思って……この先に、お勧めの店があるの」


 よくわからないまま付いて行く。坂上り切った所の店にマーブルは入っていく。

 僕も後をついて入る。暗い店内。静かな曲がかかっている。バーカウンターと、衝立で区切られたコンパートメント席。客の姿は見えない。


「こんな所、来るの?」

「一人になりたい時は、ちょっとね……」


 マーブルはいつも人に囲まれてるみたいな感じだったけど、そんな時もあるのかな。

 それにしてもこの店、流行ってないみたいに見えるけど大丈夫かな。知らない間に潰れていそう……などと思いながらよく見なおしたら、コンパートメント席にはちゃんと他の客もいた。遮音性が高いのか、話声もほとんど聞こえてこない。密談向きなのだろうか。

 店の端の方の席に案内される。


「私、パスタにしようかな」

「じゃあ同じので」


 料理が運ばれてくるのを待つ間、マーブルと話す。


「今日は付き合ってくれてありがとうね」

「大したことじゃないよ。僕もいつもと違う物が見れて楽しいよ」

「そう? よかった」


 マーブルは少し迷った後、口を開く。


「あのさ、この前の、中央から来たっていう……フラガーナだっけ? あの人、どう思う?」

「ギルティー」

「え?」

「あ、いや……なんて言うか、よくわからない人だった」


 本当は、よくわからないを通り越して敵性認定なんだけど……。マーブルはどう感じたんだろう。


「そうだね……タルム君は、そう思ったのかな。私は、ちょっと嫌われてるみたい」

「そ、そうなの?」


 ちょっとじゃないよ、と言いそうになってしまった。たぶん危うく濡れ衣をかぶせられる所だった。さすがにそれは言えない。

 いや、マーブルも張本人だし自覚はあるのかもしれないけど。


「あのさ、私ね、アドリーナとかと仲が悪かったんだ」

「うん」


 ABCDのAの事だ。あの後で確認したから間違いない。ちなみにDはディプリだけど、BとCはBやCで始まる名前じゃなかった。


「それで、私が殺したみたいな言われ方をして……」

「別に何かしたわけじゃないんでしょ。僕も一緒にいたんだし……」

「そうだけど……」

「なら、ただの偶然だよ。気にする必要はない」

「それは、わかってる。つもりなんだけど……」


 気にしても意味がない。フラガーナは、ただ濡れ衣を着せやすい相手を……立場の弱い人間を探していただけなんだから。マーブルが弱気になって同意してしまえば、相手の思う壺だった。騙される寸前だった……いや、寸前なんだよな?


「マーブルさんは、あの四人に死んで欲しくなかったの?」

「……」


 僕が問うとマーブルは目を逸らす。死んで欲しくないと思っていたなら、はっきりそう言うだろう。


「流石に死んでほしいと思ってたわけじゃないんだけど……いなくなって欲しいとは、思っていたかも」

「その事はフラガーナさんには言ったの?」

「え? 言うわけないよ」


 だよな。僕だって言わなかった。あれが正解だ。


「なら、それでいいんじゃないかな……」

「うん」


 マーブルは黙る。本当に言いたいことは違ったのかも知れないけれど、言いづらい事もあるだろう。

 ちょうどいいタイミングで、パスタが運ばれてきた。


「……料理来たね。冷めないうちに、食べちゃおっか」

「そうだね」


 パスタはおいしかった。マーブルがここをひいきにしているのも納得できる。

 食べ終わって、一息ついて、思う。

 マーブルはなぜ僕を誘ったのか。服を買うためとは思えない。あんなの一人でもできる事だし、他に誘える友達がいないわけでもないだろう。本題はこの喫茶店の方ではないか?

 もちろん、ひいきの喫茶店を布教するために僕と二人で出かけるわけがない。

 だとすると、僕に話したいことがあったのだろうか? こうやって特別な場を設けなければできないような話が? なんで僕にを選ぶ?

 理由はともかく、それが正解ならば、話を聞き出すまでは終わりにできない。


「タルム君はさ、スキルがない事を責められたりとかしても、平気なの?」

「まあ、それは諦めてるから……」

「そっか。タルム君は、強いんだね」

「僕なんか大したことないよ。マーブルさんの方が……」

「私は、強くなんかないよ」


 マーブルは目を逸らす。


「私は、あの人達にいなくなって欲しいとは思ってたけど……そんなの無理だし、いっそ、私がどこか遠くに行っちゃえばいいのかなって、思ってた」

「それはやだな。マーブルさんがいなくなったら、みんな寂しがるよ」

「そうかな。私なんかいなくたって、世界は何事もなく動いていくと思うよ……」


 そんな事はない、と言いたかった。マーブルがいてくれて、僕がどれだけ救われたか、それを説明したかった。

 だけど、それは僕が自分のスキルに気が付くまでの話をするのと同じことでもある。この場所で明かせるような事ではない。


「あの四人は普通じゃなかったんだよ」


 僕は適当にごまかす事にした。


「あんな人たちを基準に、重大な判断をしたらいけないと思う」

「そうかな?」

「人には人それぞれの価値があるのに、それがわからない人の事を相手にしたって仕方がないよ。もっと、自分の価値を認めてくれる人と仲良くした方がいいに決まってるよ」

「……」


 マーブルは探るように僕を見つめる。


「タルム君は、自分にどんな価値があると思ってる?」

「え?」


 僕は言葉に詰まる。

 マーブルも僕に価値がないと思っているのだろうか? それとも、スキルの事に気づいている?


「……私にも教えてくれないんだ?」


 ああ。スキルの方だ。

 マーブルは、僕がスキルを入手し、未だに隠している事に気づいている。

 ……どうしよう? もういっそ、話してしまった方がいいんだろうか?

 僕が迷っていると、マーブルはあいまいな笑みを浮かべる。


「デザートも食べよっか? ここのゼリーおいしいんだよ」

「そうだね」


 乗り切った、とは言えないだろう。

 保留にされただけだ。

 小さな罪悪感が残った。


〇〇〇


 喫茶店を出て帰り道、マーブルはおずおずと言う。


「あのね。あちこち連れまわして悪いんだけど、もう一か所、行きたいところがあるの」

「いいよ、どこ?」

「演習場」


 は? なんで?


続きます

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