休日1
翌日、寮の近くの公園にて待ち合わせた。僕は少し早めについたので、ベンチに座って待っていた。
他にもぽつぽつと人がいる。あれも待ち合わせだろうかと思いながらぼんやりと眺めていた。
「タルム君、おはよ」
呼ばれて振り返る。いつの間にかマーブルが来ていた。
青いTシャツと短めの赤いスカート。私服を見るのは初めてかもしれない。
「待った?」
「いや、今来た所だよ」
なんとなくでそう答える。
「よかった。じゃ行こうか」
「どこに行くの?」
「西区域の衣料品店に行こうと思ってる。あの辺りは、目立たないけどいい物が置いてある店が多いの」
バスを乗り継いで西地区に向かう。
僕は西区域はあまり来た事がなかったけれど、景色を見る限りでは他の場所と大差ない。
マーブルは勝手を知ったように街中を歩き僕を先導する。
あの店では変わったぬいぐるみを売っているとか、前に誰かと来た時はあの店で何をしたとか……。
そんな話を聞きながら、目当ての衣料品店にたどり着いた。
衣料品店の中に入ると、服が所狭しと大量に並んでいる。
「いっぱいあるね」
「んー、そろそろ夏だから、かわいいワンピースとかが欲しいんだけど、確か、こっちだったかな?」
細かい配置場所までは把握していないようで、マーブルはきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。
店内は広い。外見からはもう一回り小規模な店を想像していたのだけれど、思ったより奥行きがあるようだ。
僕はマーブルにつかず離れずの距離でついていく。ハンガーラックが視界を遮るので、離れすぎると見失いそうだ。
「あった、ここだ」
ワンピースの売り場は、店内をぐるぐる歩いて、わりと奥の方で見つかった。
50着ぐらいが並んでいる。
「いっぱいあるな……」
「どれがいいと思う?」
「いや、僕に聞かれても……」
僕はこんな物を選んだことがないから、どう答えたらいいのかわからない。しかし、聞かれたからには、頑張って何とか対応してみるか。
服の目的は体を覆う事であり、防寒や防御のために生み出された。
だが、それだけなら、こんな沢山のバリエーションは必要ない。外見を飾る目的があるのは疑いようもない。
いや、まてよ? もしかして、外見を飾るって言う発想が僕の本質とずれていないか? 少なくともステルスの精神とは180度違うのでは……。
まあいいや。
選択のポイントは……色と形、だろうか? 流行とかTPOみたいな事は、知識がないのでどうしようもない。
当然、服単体の情報だけではなく、マーブルが着るという事も考慮する必要がある。ということは……。
「明るい色の方がいいんじゃないかな?」
「うーん、こんなのとか?」
マーブルは白いワンピースの一つを手に取って体の前に重ねる。
悪くはない、と思う。
でも白いと汚れが目立ちそうだな。いや、それはお節介か? 僕は避けるけど、わかった上で着る人がいるから白い服も売られているのだろうけど。
僕が迷っているのを否定と捉えたのか、マーブルはその服を戻してしまう。
「明るい色って言ってもいろいろあるよ? もうちょっと具体的に……」
「具体的?」
「例えば、赤、青、黄色……」
「黄色かなぁ」
僕が言うと、マーブルは並んでいる服の列を三分の一ぐらいまで見てから、三つをピックアップした。
オレンジに近いのと、やや色彩が薄いクリーム色と、鮮やかな黄色。
「この三つだったら? どう?」
「これが、良さそうな気がするけど……」
僕はオレンジを進めてみた。夕焼けみたいできれいだ。
鮮やかな黄色もタンポポみたいでかわいいと思ったけれど、少し派手すぎる気がする。
「そうだね。これ試着してみるね」
マーブルは他の二つを戻してから、試着室に入る。
カーテンを閉めた後、細く開けて片目だけで外をのぞく。
「な、何?」
「覗いたらダメだよー」
「……覗かないよ」
誰がそんなことするんだ、と思いながら外で待つ。
マーブルは一分ほどで着替えて出てきた。
なかなか似合っていると思う。ただ、スカートが短過ぎるのではないかとも思う。
「どうかな?」
「いいんじゃないかな……でも、ちょっと、スカートが短いかも」
「んー? タルム君はこういうのが好きなの?」
「いや、別にそういうわけでは……」
マーブルは、その場でくるっと回って見せる。
風と遠心力でスカートの裾が少し持ち上がった。
「この横の所にスリットが入っててさ、こんなになってるんだよね。ちょっと引っ張ったらパンツ見えちゃいそう」
言いながら、マーブルはそのスリットに指をひっかけて十センチぐらい持ち上げる。そこまで持ち上げたら、本当に見えるんじゃないかな。
「や、やっぱり、やめた方がいいんじゃないかな」
「ふふっ、タルム君が面白いからこれで正解だね」
「ええっ……」
何でそんな基準で選ぶんだ? 意味が分からない。
マーブルが元の服に着替えなおしてから、会計にもっていく。
「せっかくだから、タルム君も何か買ってみる?」
「あー、今日は、持ち合わせが微妙だから……」
別に新しい服はいらないと思っていたけれど、この流れなら買ってもいいかなと思わなくない。
こうなると知っていたら、配給チケットを持って来たんだけど。
「ふーん? じゃ、今度来るときは、私がタルム君の服を選んであげるよ」
「え?」
「ダメかな?」
「うん。いいね。次はそうしよう」