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生贄探し


 午後は主任教官の演説だ。

 校庭に整列させられて、わけのわからない話を聞かされる。


「既に知っている者もいるだろう。前回のフィールド活動では少なくない犠牲が出た。だがこれは必要な犠牲だ。耐えなければいけない犠牲だ」


 世の中には立ったまま寝るという特技を持った人間もいると聞いた事がある。

 僕がそのような特技を身に着けていたら、まさにこの時とばかりに有効活用しただろう。


「私としても、確かに生徒が死ぬことは悲しい。カリキュラムについてこれない生徒が出てしまうのは悲しい。だが、その悲しみを恐れていては前に進めない」


 眠い。話が始まる直前までは何の眠気も感じていなかったのに、どうしてこんなに眠いのか。

 待てよ。ステルスでこの場を離脱して、解散の時にさりげなく戻ってくるというのはどうだろう。ちょっと無理があるか?

 もし最後尾にいれば実行できたかな。残念。


「君たちも、本当はわかっているはずだ。真の戦場で足手まといを守る余力などない。足手まといがいる所から戦線は崩壊する。足手まといが死ぬのは、それが正しい事だからだ」


 んんん?

 いや。寝てる場合じゃないな。

 やばいぞ。こいつ何言ってるんだ?

 周りの教官も、ハラハラしてたり、主任教官を睨みつけていたり……なんか空気が悪くなっていくのを感じる。


「弱き者は淘汰される。いや、淘汰されなければならない。戦場で足手まといが死んでいくことにより、全体の平均値が上がっていく」


 誰かが急にわっと泣き出すとか、そういう事はなかった。ただ、見えないどこかで、悲しみが怒りに変換されていくのを感じる。

 死んだ人の友人の前で、死んで当然とか言い出すとか、空気が読めないにもほどがある。

 なんで主任教官はこんなスピーチができるんだ? 僕には無理だ。台本を渡されて演じろとか言われても、プレッシャーに耐えられないと思う。


「だが、まだ完全ではないな。君たちの中には足手まといが残っている。そのような者は、遠からぬうちに淘汰されるだろう。その時こそが、君たちが真の戦士となる時だ」


 例えばマーブルが、何かの理由でスキルを発動できなくなったとする。そしたら、それを見捨てろと言うのか? それが「真の戦士」なのか?

 僕も含めて、大半の人はそんな「真の戦士」になりたくないと思う。

 主任教官は、本当に士気を上げようとしているのだろうか? 無能すぎて敵のスパイの可能性を疑いたくなる。ゾンビ派閥のスパイか……想像しただけでも頭がおかしくなりそうだが。本当にそれ以外に説明がつかない。

 こんな人の形をした無能が存在すると信じたくない。


「情に流されてはいけない。正しい判断ができなければ、戦いに勝つことはできない。弱きものを守る事は善行ではない。悪だ。弱き者を淘汰する意思。それこそが勝利への近道だ。君たちも、常々心に刻んでおくように……」


 そして、主任教官は憎しみのこもった視線をこちらに向けてくる。

 生徒を憎んでいる? いや、もしかして僕か?

 なるほど。死んだ人間が無能という説が正しいなら、今生きているスキルなしの僕はあの29人よりも有能という事になってしまう。それは理屈に合わない。


 今の演説が正しいと心の底から信じているサイコパスがいるとしたら、そういう人は、僕が生きていると都合が悪いのかもな。


〇〇〇


 頭がおかしくなりそうな演説を乗り越えて、やっと帰れると思ったら、僕は引き止められた。

 僕だけではない、マーブルやエノック、ギドゥルスにステラにエルアリア。

 ガープス教官は、あの時の六人を集めて、どこかへと向かっていく。


「あの、これは何の集まりなんですか?」


 ステラが恐る恐る聞いても、ガープス教官は答えてくれない。何か様子がおかしい。イレギュラーな命令に嫌々従っているような感じだ。

 たどり着いたのは、生徒指導室だった。三つの部屋に一人ずつ入るよう命じられ、残り三人は廊下のベンチで待たされる。

 待たされたのは、僕とギドゥルスとステラ。……この分け方には何か意味があるのだろうか? いや、先に話を聞く三人に意味があるのかな?

 いろいろと想像してしまうが、それを口に出したりはしない。無駄話が許されるような雰囲気ではない。


 廊下には、黒い服を着たいかつい男が数人、僕たちを見張るように立っている。

 たぶん、この学園の教員ではない。


 十分ほど待たされて、エノックとエルアリアが出てきた。代わりにギドゥルスとステラが入っていく。

 マーブルが入った部屋の扉はまだ開かない。話が長引いているようだ。

 何か嫌な予感がするんだけど、大丈夫かな?


 さらに十分が経過した。ギドゥルスが部屋から出てくる。開いた部屋に僕が入るのかと思ったけど、そういう指示はなかった。

 ほどなくステラも出てくる。

 そしてやっとマーブルが出てきた。何か憔悴しているようにも見える。何で話が長引いたんだろう?


「おまえの番だ、入れ」


 黒服に言われて、僕はマーブルが出てきた部屋へと入る。

 なるほどね。他の四人はダミー、あるいは参考程度。本当に話を聞きたい相手は僕とマーブルだったのか。


 部屋の中には、パリッとしたスーツを着た女性がいた。

 机を挟んで向かい合う。


「私は中央府、情報略奪局の監査役員フラガーナです。どうぞよろしく」

「……タルムです。よろしく」


 情報略奪局か。なんかヤバいのが来たな。できれば相手にしたくないのだけど、わざわざ本部から来たような人が、成果もなく帰ってくれるとは思わない。

 こういう人に対して全てを正直に話すと、損をする事になる。

 そして嘘をついても、遅かれ早かれバレてしまい、もっと損をする事になるのだ。

 どうしろと言うのか。


「監査って、何を調べているんですか?」

「いろいろです。今回は、ロワール遺構で何が起こったのかについて、調べています」

「……」


 やはり、死者29人は中央から見ても多すぎたのだろう。だから原因を調査しに来た。それはわかる。

 察するに、このフラガーナは、他の質問者よりも階級が高いのだと思う。だから事件の重要な部分を担当しているのだ。

 この推測が正しければ、僕とマーブルが事件の重要な部分だと考えられている事になる。だがどうして?

 僕にできるか? この役人に情報を渡さず、逆に情報を奪う事が。


「あなたを含む六人のグループが、ウオヴァサウルス倒していますね。その戦いにおいて、あなたは何をしましたか?」

「何もしていませんね」


 僕はきっぱり答えた。

 事実だからな。

 ほかの人、というのはマーブルたちの事だろうか? きっと同じ証言をするはずだ。

 表向きは、スキルがない、という事になっているのだから仕方ない。


「……本当に、本当に何もしなかったのですか?」

「あの、教官から聞いていますよね? 僕がスキルを入手できていない事は……」

「ええ、知っています。その事については、どう考えていますか?」

「よくわかりません。他のみんなと同じようにやっているつもりだったんですけど。何か間違っていたのでしょうか」


 まあ、何も間違ってないよな。スキルを入手したことを隠している以外は。

 もしかして、この場で明かさないとまずいのだろうか? いや、僕は自分のスキルに気づいていないという設定なんだ。うまくやりきらなければ。


「あなたの、戦闘に対する意欲が低い、という指摘もあったのですが、これは事実ですか?」


 誰がそんな指摘を? これは主任教官かな。


「そんな事はないと思います。意欲はあります。ただ、それを目に見える形で実行に移すことが難しいので……」


 なにしろステルスだからな。見えないよ。


「スキルがないと、そういうものでしょうか?」

「……。あの、あなたもスキルを持っているんですか?」

「ええ。ありますよ。実体化系のスキルです」

「どうやって手に入れたんですか?」

「普通に、授業に出て、フィールド活動で敵を倒して……」

「本当に? 僕も授業には出てるし、フィールド活動もやってるし、経験値玉は浴びてますよ? それとどう違うんですか?」

「私に聞かれても困ります。それと、質問しているのは我々の方ですからね」


 我々、と来たか。権力機構の力を自分の力だと勘違いしているタイプだな。こいつはいけない。


「他のスキルを持っている同級生に対して、何か思う所はありますか?」

「マーブルやエノックには感謝しています。迷惑をかける事も多くて、申し訳ないと思っています」

「嫉妬のような物はないと?」

「なかったと言ったら嘘になりますけど……他人を恨んでもスキルが生えてくるわけじゃないでしょう?」

「……」


 フラガーナは僕の答えに満足しなかったようで、露骨に不満を顔に表した。


 さっきから、何か質問がおかしいような気がする。なぜか嫌な予感が消えない。

 もしかして、僕が失言をするのを待ってるのか?



会話の選択肢をミスると即死するタイプのイベント。

ただし、死ぬのはタルムだとは限りませんが。


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