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第二のフィールド活動


 たまに、わけもなく不安になってくる時がある。

 自分はこのままでいいのか、本当はもっと何か凄い事ができるのではないか。

 今は埋もれているけれど、本来なら他人から尊敬されるような特別な存在なのではないか……。

 不安と言うより、誇大妄想の類かもしれない。


 そういう時は、僕は自分にこう言い聞かせるようにしている。


 このままでは何がいけないのか? もっと凄い事ができたとして何なのか? 他人から尊敬されると何か得するのか? ……誰に騙されてそんな誇大妄想を抱くようになった?


 過ぎた望みを抱くことは、破滅への第一歩だ。

 それが事実であるのなら、役立たずと謗られるのを甘受するのも、一つの義務ではないだろうか?


 あがいたところで世界は変わらない。何より自分が変わらない。

 結局、できることはできるし、できないことはできない。そんな当たり前の事を再確認するに過ぎない。

 それでいいんだ。

 できない事をできると思い込んで行動すると、だいたい悲惨な結果になるからな。


〇〇〇


 アルゴス祭が終わると、一週間ほどの時間を挟んで次のフィールド活動が告知される。


「次のフィールド活動は、予定を変更して、ロワール遺構で行われることになった」


 教官の説明に教室内はざわつく。

 ロワール遺構は200年前には大都市があった場所だ。無数の高層建築が立ち並んでいた場所で、まだ建物のほとんどは原形をとどめている。しかし、今の人類の居住地域の外にあり定期的なパトロールはされていない。敵は多めだ。

 演習前に危険な敵は処理されるのだろうけど……潜伏タイプのモンスターが残っている可能性はある。

 本来なら、僕たちが行くのは数か月先になるはずだった。


 誰かが手を上げる。


「教官、荒野フィールドはどうなったのですか?」

「微細な問題が発生して確認中だ。しばらくは演習に使えない」


 微細な問題? 僕が知らない所で何かあったのだろうか。


「今日は、市街地戦闘の基本について確認しておく。エルアリア、答えてみろ」


 指名された女子が立ち上がる。


「市街地は遮蔽物が多いです。視界を遮られるため、歩行体をはじめとした小型の敵を見落とす可能性があります。また大型の敵の住処になっている場合も多いため、注意が必要です」

「ロワール遺構に限定した注意事項はあるかな」

「……ロワール遺構は、大きな川で南北に分断されています。北側はグリーンフォールの量が多く、激しい戦闘になる事が予想されます。ただし北側には、歴史的な遺跡が多いため、できるだけ破壊しないことが推奨されています」


 教官は頷く。


「今回使用する演習地帯には、北側も一応は含まれている。だが、橋を渡る事は推奨されない。非常に危険だからだ。このことは心得ておくように」


 北側では大型の魔物が確認されたとか、遭難した場合も北側の捜索は後回しになるとか、とか……そんな注意が続く。

 あえて禁止はしないのか。

 たぶん主任教官としては北側で活動させたいのだろうけれど、ガープス教官は生徒の安全の面から見て好ましくないと考えているのだろう。

 もちろん僕は北側に入ったりしない。


 大きな川があるから間違えようもないし、望んで北側に入るようなバカもいないよね。


〇〇〇


 ロワール遺構は、この都市からはかなり遠い。

 鉄道で半日はかかる距離にある。昼に出発して夜に到着、一晩、駅の宿泊施設に寝泊まりして、二日目は朝から夜まで周辺の散策。そして三日目に帰還という日程だ。


 駅はこの前にもまして頑丈そうな建物だった。建物の周囲も厚さ数十センチのコンクリートの壁で囲まれている。

 これならドラゴンが攻めてきても破壊できないだろう。

 まあ、相手に知能があったら、繋がっている線路を壊されて兵糧攻めされるのがオチだけど。


 他には、随分と設備が整った救護所もあった。薬や機材も揃っているし、必要なら外科手術などもできるらしい。

 この辺りだと、けが人も多いのだろうか?

 ステルス化すればどんな敵からも逃げられる僕にとっては、あまり関係ない気がするけど。


 前回と同じように、グループを組んで出発する。僕も入れて六人。少しメンバーが減ったり増えたりしたような気がするけど、よく覚えてないのでどうでもいい。でも確か、前はメレー系の人はいなかったかな。

 今回は、刀を背負った女子がいる。


「ねえ、タルムだっけ? あんたもメレー系になったの?」

「えっと……」

「エルアリアよ」


 エルアリアは僕がリュックに固定しているショベルを見てそう判断したようだ。


「別にそういうわけじゃないよ。ただ、何もないよりましだと思ってるから持ってきただけで……」


 正確に言うと、周囲にそう言い訳するために持ってきているような物だ。ステルスと毒があればショベルはもういらないけど、これに頼っているふりをすれば、スキルの存在が発覚する可能性は下がる。

 まあ、今回はスキルを使うわけにはいかないので、実質的に役立たずだからな。


 翌朝。グループで駅からそれぞれの方向に出発する。

 僕たちが向かう先は北だった。


 見通しをよくするためか、駅の周辺数百メートルの建物は破壊されていた。そこかしこに瓦礫の山が残っている。僕たちは歩きやすい瓦礫の少ない所を進んでいく。

 空は晴れていて、空気は澄んでいる。たまに出てくるゾンビを誰かがスキルで瞬殺しながら進んでいく。


 すぐに建物が残っているエリアに入る。道の両側に石造りの建物が立ち並ぶ落ち着いた雰囲気の通りだ。植物に浸食されて白地に緑の草模様になっている。

 マーブルがふと呟く。


「なんか凄いね。この辺りって、昔は大きな国の首都だったんだっけ?」

「いや、違うよ。それはエスカルゴ遺構の事だと思う」


 僕が答える。

 エスカルゴ遺構はここから120キロほど北東にある大都市の跡地だ。

 正規軍がたまに遠征に行っているようだけど、無数の巨大な魔物が闊歩する危険地帯で、制圧は困難らしい。


「いつかそこにも行けるのかな」

「どうだろうね。あっちは、もっと遠くて……もっと危ない」

「正規軍に入れば、いけるかもな」


 ギドゥルスが口を挟む。マーブルは考え込む。


「正規軍か……それ、私たちでも入れるのかな」

「厳密に言うと、今でも私たちは軍人でしょ。まだ正規軍じゃないけど。学園を卒業する時に、拒否しなければ正規軍扱いじゃないの? でも、配属先は希望通りにはいかないんじゃないかな」


 エルアリアが言う。

 おいおい。なんだおまえら、もしかして自ら危険地帯に派遣されたがってるのか? 世の中には奇妙な趣味の人もいるんだな。


おかしいです。

月末まで残り22日。

投稿しなければならない話数は24話。

毎日投稿しても2日ほど足りません。


どうして、どうしてこんなことに?

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