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闇ライブ


 夜9時40分ごろ、僕は学生寮の隣にある建物に来ていた。

 静かだ。

 何もイベントらしき物は行われていないように見える。

 入り口近くの部屋で、数人の男子生徒がカードゲームに興じていた。僕の顔を見ると、あっちに行けというように手を振る。


「君も参加者? 悪いけどテーブルは一杯だよ」

「あの、これってここじゃないんですか?」


 僕がマーブルにもらった紙を見せると、ああ、と納得したように頷き、小声で教えてくれる。


「……地下だ。そこの廊下を行って右側の扉に入ると階段がある」


 なんだそれ? もしかして教官とかには内緒のイベントなのかな? 実はいけない事に関わっているのでは?

 よくわからないまま、僕は地下に向かった。


 地下には広めのホールがあって、人が集まっていた。

 奥にはステージがあって、ドラムやギターが置かれている。

 ここは、ライブハウスなのだろうか? あ、闇ライブってそういう意味か。デスメタルか何かの演奏があるのかな?


 僕は、バーカウンターにてジュースを買って、どこか端の方の席に座っている事にした。

 時間が9時55分になった。ちらりと入り口を振り返ると、カードゲームをやっていた人たちが入ってくるのが見えた。

 なるほど。中途半端な時間指定だと思ったけど、演奏開始前に受付終了するためか。


「あれ、タルムじゃん。おまえこんなところで何やってんの?」


 まさかのミューゼ再登場だった。


「行けって言ったのはミューゼさんですよ」

「そういう意味じゃない。おまえはこっちだろうが」

「え? え?」


 よくわからないまま引っ張られていき、最前列の席に連れていかれた。ベンチに座らされる。


「あの、ミューゼさんはなんでここに?」

「なんでって、実行委員だし……」


 あれ? そうか、仕事か。確かに、こういう所にもスタッフは必要だもんな。


「もしかして僕も手伝った方がいいんじゃ……」

「ダメだ。おまえはそこにいろ」


 ミューゼはそれだけ言い残して、どこかに行ってしまう。

 意味がわからない、どうなってるんだ。

 仕方がないので、ステージを見上げながら飲み物を飲む。


 ステージの上に妙な人たちが出てきた。素肌の上に革ジャンパーを着ていたり、頭の上にアリクイの縫いぐるみをのせていたりする。

 ロック関係の人は奇抜な格好をしていると聞いた事はあるけど、奇抜の方向性は本当にこれでいいんだろうか。


「よう、おまえら。闇だ! 俺たちには闇が足りない!」


 別にいらないよ、闇とか。


「おいこら、そこのおまえ! しなびたゾンビみたいな顔しやがって。本当に客か?」


 客ですけど何か?


「客ですけど何か、みたいな顔してんじゃねぇ! ちょっと叫んでみろ、ほら、うぼぉぉぉぉぉぉぉぉっ! うぼぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 え。僕に振るのかよ。拒否するのも申し訳ないので乗っておく。うぼぉぉぉぉぉぉぉぉっ。


「そうだ、その調子だ! さあいくぜ。おまえら俺のハートを受け取れぇ!」


 ギターマンがジャカジャカとギターをかき鳴らし、ドラムがマシンガンのような音を立て、ボーカルはそれ以上の音量でシャウトする。

 うぼぉぉぉぉぉぉぉぉっ。会場は謎の盛り上がり方をしている。

 なんか帰りたくなってきたんだけど、これ本当に最後まで付き合わないとダメかな?


 わけがわからないまま、一曲目の演奏が終わった。

 正直に言うと、曲だったかも怪しいのだけど、何かのリズムに合わせて何かの歌詞を叫んでいたようにも聞こえた。いや、やっぱり聞き間違えかもしれない。なんか耳鳴りがしていて、自分の耳が信用できない。


 二曲目は、うってかわって、マーチのような朗らかな曲だった。

 音楽に合わせてステージの左右から七人の少女が出てきて、踊り出す。右から二番目はマーブルだった。

 少女たちは全員が丈の短いスカートで、大きく動くと、ちらちらと端の方がめくれる。上着も、下の方のボタンをはずしていて、腰を振るとおへそがちらちら見える。

 ……なんか、いかがわしい出し物だな。妙に部外者を排除するシステムがあると思ったら、そういう事か。


 曲がひと段落したところで、さらにいかがわしくなる。少女たちは体をくねらせながら、上着を脱ぎ始めたのだ。上着を脱いだその下は胸当てしかない。下着姿だ。

 いや、水着のような見せていいタイプの下着だと思うけど……。


 しかも少女たちは、脱いだ上着をステージ外に投げ捨てる。マーブルの投げた上着は、僕の方に飛んできた。

 膝の上に乗った上着を、よくわからないまま手で掴む。

 顔を上げるとマーブルと目が合った。なぜかウインクしてきた。

 え? もしかして僕が預かっとく役目なの? そういうのって、事前の打ち合わせとか必要だと思うよ?


 僕が戸惑っている間にも、少女たちはスカートを脱ぎ捨てる。

 マーブルはこれも僕の方に投げてきた。はいはい、預かっておけばいいんですね。


 次はどうなるのかと思っていると、今度は水着姿の少年七人が追加で登場する。それぞれが浮き輪やら、ビーチパラソルやらを担いでいる。もう滅茶苦茶だ。これ、本当に毎年やってんの? バカなの?


「ちょっと……タルム?」


 後ろから突かれた。振り返ると、知らない少女がいた。いや、知ってるような気もする。

 この人、誰だっけ。クラスメートだったような……。


「あー、ティノンさん?」

「ディプリだよ! それ、預かっててあげるよ」

「え? なんで?」


 なぜか、マーブルの服を持っていこうとする。

 僕は別に困ってないけど? そんな風に見えたかな?


 と、急に音楽が止まった。

 ステージの方を見ると、踊っていた少女の一人が真っ青な顔で座り込んでいた。袖から飛び出してきたスタッフが、肩を貸して引っ張り出している。

 何かトラブルかな? たぶん、僕が出る幕じゃないからどうでもいいか。


「じゃ、これもらっていくから」


 ステージ上に僕が気を取られている間に、ディプリは僕の膝の上からマーブルの服を奪って、どこかに行ってしまう。


「あ、ちょっと……」


 預かってくれるというなら、預からせておけばいいのかな? でも何かがおかしい気がする。

 ステージの方に視線を残すとマーブルとまた目が合った。

 マーブルは、どこが具合が悪そうだった。悲しげな目でこっちを見ている。

 とてつもなく悪いことをしてしまったような気分になって、ついステルスを発動してしまった。


 あ……。これは、まずいかな。


 いきなり僕の姿が消えた場合は、見間違いとか、さっきまではいたのに、とかで済むんだけど。一度姿を消してしまうと、工夫なしに解除するのはさすがにまずい。一度、誰も見ていない場所に移動しないと……。

 いや、もういいか。こうなったら、ディプリを追いかけちゃった方が早いな。そうしよう。


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