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新サービスとおっさん

 ― ホームエリア ―


 モンスターとしての盗賊は、ゲームから除外される運びとなった。

 ここまでリアルなゲームで完全な人型は教育上よろしくないというクレームに加え、やはり殺すのに抵抗を感じるプレイヤーが多かったのも理由らしい。


 そんなこんなで今まで溜めていたクレームも一緒に処理をすべく、現在ゲームはメンテナンス中である。

 ゲームエリアには入れないがホームエリアだけは解放されているので、俺は大人しくここにいるという訳だ。


 訳なのだが――。


 実はメンテナンスの理由は、クレームだけが原因では無い。

 お上の手入れが入ったのだ。


 正確に言うと厚生労働省麻薬取締部による、『電子麻薬等取締法』に違反していないかどうかの調査が現在行われているのである。


 電子麻薬等取締法とは、フルダイブVRゲームに使われているような五感を再現できる機器で、麻薬を使用しているかの如き感覚を再現することを禁じた法律だ。

 この『幻想世界 -online-』の五感の再現性の高さと、料理を代表とした素材加工の自由度の高さから、もしや麻薬もしくはそれに準じた何かを作ることが可能なのではないか――という当局の懸念により、この度調査が行われる運びとなったらしい。


 技術の進歩って使う人によって、善くも悪くもなるんだよねー。

 某28号の歌を思い出すぜ……。


 ――とまぁ、そんな訳で。


 そんなこんなでホームエリアに軟禁されている状態の俺なのだが、実は特に暇を持て余してはいない。

 ゲーム内での、動画見放題と書籍読み放題のサービスが始まったからだ。


 本来なら課金案件のこれらのサービスだが、どうやら俺の加入しているプランにはどちらも含まれていたらしい。

 なんか普通に使えたし――実際そんなもんに、加入しているかどうかも分からんのだけれど。


 当然ながら見放題や読み放題になっているモノは、多少古いのとか人気の無いものが多い。

 だがこのゲームは30年後設定なので、古い時代の人な俺にとっては最新版も同然なのだ。


 昭和のおっさんバンザイである。


 まぁ、人気作とかは古くても観られないし読めないんだけどね。

 あと、ネズミ王国が権利を持っているヤツとかも……。


 なんかね、その辺の権利とかもキャラクター案件だけ期間が延びてるらしいのよ。

 しかも70年から110年と、40年も。


 おそるべしは、ネズミ王国である……。



 それにしても、ゲーム内で本が読めるのはいいよね。

 何と言っても、目が疲れないもの。


 リアルではもう文庫本1冊読んだら目が辛くて仕方が無いのに、ゲーム内だと何冊読んでもまだイケる。

 徹夜で本をむさぼり読んでいた、10代の頃を思い出すぜ……。


 そんなこんなでゲーム内時間の数日間ぶっ通しで小説を読み漁り続け、小説家になるぞ発の二十数巻にも及ぶスライムの話を読んでいる頃にメンテナンスが明けた。



 あと2巻なので、ゲーム再開は読み終わってからにしよう。


 ちょうど面白いトコなんだなコレが。



 ――――



 ― クランハウス ―


「メンテナンスの間、何してたんですか?」

「主に読書かなー、昔のラノベとか読んでた」

「タロウさんって、ラノベとか読むんだー」

「けっこう好きだからね、ラノベ――ほい、こっちできたよ」


 メンテナンス明けでみんなと最初にやろうと決めたのは、冒険者らしい『ひと狩りいこうぜ!』でなく、全員での動画鑑賞であった。

 そのためにわざわざシアタールーム作ったし。


 動画見放題で配信されている映画やドラマは、10人までなら同時に観られる設定となっている。

 俺たちのクラン『オリハルコンの鍋』は総勢9人なので、みんなで一緒に観ることが可能なのだ。


 ちなみに動画見放題に加入しているのは、俺と小次郎さんとミネコちゃんの3人。

 だからと言って、何故か30人同時視聴とかは出来なかったりする。


 要は少人数で観ろってことだね。


 で、俺とマカロンがキッチンで何をしているのかというと、動画鑑賞のお供であるチュロスとポップコーンを作っていたりする。

 ちなみに俺がポップコーン、マカロンがチュロスを作っているので、残念ながら2人の共同作業では無い。


「こっちもこれで、完成っと……ワタシやっぱり『タイタニックZ』が良かったなー」

「まぁまぁ、ミネコちゃんがホラー系苦手なんだから、今回は『パンツァーレース2』を一緒に観るんでいいじゃん」


 マカロンの観たがっている『タイタニックZ』とは、『タイタニック号沈没は、船内の化学物質漏れによる汚染でゾンビが発生・増殖し、人類をその脅威から守るために船長がわざと船を沈めたのが真実である』というストーリーの映画である。

 とりあえず既存の何かにゾンビ出しときゃそれっぽい話になるだろうという風潮は、どうやらこの時代でも変わっていないようだ。


 一方これからみんなで観る『パンツァーレース2』は、世界中の年代物の戦車でアメリカ大陸を横断するレースを描いた映画の第2弾だ。

 バリバリにチューンされた戦車たちが、その自重で公道をボコボコに荒らしながら障害物を砲撃でブチ壊して突き進むという、ド派手なアクションが売りらしい。


「でもアタシ、動画サービスに加入して無いから観られないし――タロウさん後で一緒に観ませんか? 面白いですよ!」

「あ、イヤ、うん……そうだね観ようか、俺まだそれ観てないし」

「やったー! 約束ですよ!」


 一緒にシアタールームで映画鑑賞……。

 コレではなんか、まるでデートみたいな気が――。


「それアタシも観たーい!」

「ボクもー!」


 みんなで今後どの動画をシアタールームで観るかを話し合っていたはずの、ナナちゃんとグリがこっちへ参加を表明してきた。

 こっちの話を聞いてやがったのか、こいつらは。


「じゃあみんなで観よう! いいですよねタロウさん!」

「あ、イヤ、うん……モチロン」


 だよねー、2人っきりとか無いよねー、

 うん、知ってたし……。


 おぢさん、期待してなんかいないんだからね!


「飲み物も準備できたからみんな持って行ってー」

「はーい」

「なんか楽しいよねこういうの」

「ズドーン! ガガガガガー!」

「シンタうるさい」

「今回勝つのって、確かメル――」

「わー!わー!わー! ネタバレ禁止! 僕まだ観て無いんですから!」

「違うよミネコちゃん、それ1のやつだから」


 みんな思い思いに飲み物やら食べ物やらを持って、シアタールームへ。

 こうやって大勢で映画を観るなんて、学生の時以来だ。


 つーか俺、パンツァーレースの『1』とか観て無いんだけど――。


 アクションだから、たぶん楽しめるよね?



 …………



 ― 砂漠エリア ―


 結論から言おう。

『パンツァーレース2』は迫力満点で、かなり面白かった。


 なのでついつい盛り上がった俺たちは、戦車は無理としてもレース的な何かをしたいと思い、第3の街でレンタルをしていたラクダに乗って砂漠の横断レースをすることにしたのである。


「くらえサボテニアン攻撃!」

「甘い! 剛射!」


 先頭を争っているのはマカロンとシンタ。

 何でもありのルールなので、シンタが砂漠エリアのモンスターであるサボテニアンを放り投げて妨害しようとし、マカロンが弓のスキルである【剛射】で跳ね返したりしている。


【騎乗戦闘術】のスキルを持った俺が先頭ではないのは、レンタルラクダにはスキルが意味をなさないせいだ。


 レンタルラクダは騎乗スキルが無くとも誰もが同じ水準の騎乗技術を強制的に自動で与えられ、乗りこなせる仕様となっている。

 そのためせっかく騎乗スキルを持っていても、この仕様のためにスキルが全て上書きされてしまうのである。


 騎乗系のスキルを使うには騎乗スキルと共に、馬であれラクダであれ何かしら自分の騎獣を持つ必要がある。

 だがその分、レンタルとは比較にならない機動力を得ることができるのだ。


 ――まぁ、そんな訳で。


 おかげさまで俺はチートとか関係なく、みんなと対等な立場でレースを楽しんでいる。

 つーか、そんなこと考えている間に、マイケルくんに抜かれたし!


落とし穴(アースピット)!」

「ぬわっ!」


 俺の前に出たマイケルくんが、最近覚えた土魔法で行く手を阻んできた。

 華麗な騎乗で目の前に開いた落とし穴をかわし――そこねた俺は、ラクダの後ろ足を穴に捕られてしまい立て直しに手間取る。


 くそっ、今度はナナちゃんとグリにも抜かれたぜ!

 たかがバケツ大の落とし穴に引っかかるとは、なんと情けない!


 ボンッと音がして、今度は煙に視界を奪われた。

 誰だよ、煙玉なんてアイテム使ったヤツは!


「お先に~」

「この声は……小次郎さんかよ! つか、一人を集中攻撃は無しってルールじゃん!」

「大丈夫ですよ、二人巻き込んでますから」

「イヤ、そういう問題でなくて!」


 ……ついに最下位を争うことになってしまった。


 並んでいるのは俺の他に、ピタコとミネコちゃんの2人。

 そしてゴールであるノンアクティブエリアは、もう目前……。


 そして――。


 見事1着となったのはマカロン。

 2着がシンタ。


 その他続々と着順が決まり、最後にレースを諦めた我ら3人が――。

『わたしたち、ずっ友だよ!』などと声を揃えながら手を繋いでゴールし、レースは終わった。


 これで最下位は、うやむやである。


 うむ、そのうち今度は馬とかでリベンジしよう。



 ――――



 ― 次の日・シアタールーム ―


 上映が終わり、室内の照明が明るくなった。


「期待してたより面白かったかも……」

「でしょでしょ! 名作だもん!」


 俺にお勧めした当人であるマカロンが、満足そうにドヤ顔をしている。

『タイタニックZ』は案の定B級の映画ではあったが、予想と違ってちょっとばかし感動的な物語であった。


 救命ボートまで辿り着きそのまま逃げられたはずの船長たちが『もしこのまま船が人のいる場所に漂着したら、世界が滅ぶかもしれない』と思い留まり、決然と船を沈めるべく船内に引き返すシーンなどは最高に盛り上がったし。


 ――マカロンが夢中になるのも、分かる気がする。


 一緒に『タイタニックZ』を観ていたグリが、そんなテンションの上がっている友人に呆れた様子で視線を送り口を開いた。


「マカロンって、ほんとゾンビ好きだよね」

「そういうんじゃなくって、この映画はほんと別格なんだってば!――もう、なんで続編無いのかなー」


 確かにいい感じの映画だったし、続編があってもおかしくは無い気はする。

 終わり方もB級映画によくありがちな、全てが終わって静まり返った海のシーンで『いきなり海中から手が伸びて、浮かんでいる救命ボートの(へり)を掴む』という、いかにも続きがありそうなエンドだったからね。


 まぁ、そんなエンディングでも続きが無いのが、B級のB級たる証でもあるのだが……。


 …………


 それから小一時間――。


「あー、もう! もっと『タイタニックZ』を語り合いたいのに、ログインの時間制限が来ちゃう!」


 などとマカロンさんはおっしゃっておりますが、実際は独演会状態でございました。

 ちなみに一緒にその場にいたナナちゃんはとうに逃げ出し、残った俺とグリは『うんうん』と頷くだけのマシーンと化していたりする。


 うーむ、マカロンにこんな一面があるとは知らんかった。

 まぁ、好きなモノを語る時にこんな感じになるというのは、人間の(さが)だし気にするまい。


「それじゃあボクはログアウトするね、また明日~」

「ワタシもログアウトしないと――明日も語り合いましょうね! タロウさん!」


 そう言い残してグリとマカロンがいなくなり、クランハウスには俺1人が残された。

 明日も語るつもりなのか……。


 今まで賑やかだった場所が、静まり返っている。

 だだっ広いクランハウスにおっさん1人……ぼっち感が半端ない。


「さて、と――これからどうすっかな」


 ぶっちゃけ狩りに行くのも何かを作る作業をするのも、ぼっち感が増幅されそうでなんとなく気が乗らない。

 野良でパーティーでも組んで狩りに行くのも、楽しい気分になるかどうかは一緒になる相手次第だ。


「またシアタールームで、何か観るべか?」


 なにげに思ったことがひとり言になってしまうということは、孤独を無意識に紛らわせようとしているのだろうか?

 ぼっち歴の長いおっさんは、これだからなー。


 まだまだ面白そうな、観ていない映画やドラマはたくさんある。

 ホームのTVサイズで観るよりも、ここのシアタールームのスクリーンで観るほうが、アクションものなどは迫力があって楽しかろう。


 シアタールームへと入り、まずは椅子に付属の操作タブレットで適当に映画なんぞを物色。

 やっぱアクションがいいだろうか? イヤ、昔懐かしいSFとか怪獣映画とかも捨てがたいか……。


 いくつか候補をつまんで、どれにしようかと腕組みしながらボーっと悩む俺。

 ふむ……なるほど……決められん。


 だいたいこう見えて、俺は優柔不断なのだ。

 そして優柔不断などという性質は、いくら歳を重ねようがさほど変わらんものなのである。


 ボーっと眺めているうちに、画面の右上隅っこにさりげなくショッキングピンクの小さな菱形のマークがあるコトに気づいた。

 よく見ると、菱形の中に細い明朝体で『18』という黄色い数字が見える。


 コレはもしかして……イヤ、もしかしなくとも押したらアダルトな世界へと、さりげなく(いざな)われてしまうボタンだったりするのではなかろうか?


 年甲斐もなくちょっとドキドキしながら、ピンクの菱形をポチると――。

【あなたは18歳以上ですか yes/no】と表示が出たので、迷わず『yes』をポチッとな。


 すると魔法が掛かったかのように――。


 タブレットの画面に、いきなり肌色が増えた。


 健全な男子――もしくはおっさんの皆様なら、もうお分かりであろう。

 そう、アダルト動画のページに切り替わったのである。


 おぉー、なかなかに肌色の量が多くなって……いるのだが……。

 どうやらヌードとかの画は無いらしく、どの女の子も最低限下着を身に着けている。


 下着の中は見てのお楽しみ、ということらしい。


 黒髪ロングでボンッキュッボンッの、良さげな女の子を見つけた。

 み、見てみようかなー。


 頭では『どうしよう』とドキドキしながらも、優柔不断なはずの俺の指はしっかりとその動画をポチろうとしている。

 男という生き物は、エロのためなら行動力が100倍にもなるものなのだ!


 ――と、いう訳で。


 ポチッとな。


 良さげな女の子の動画をポチったところ、確認画面が出た。

 ……は? 確認画面?


≪このコンテンツを楽しむには、課金が必要です。 課金画面に切り替えますか? yes/no≫


 あ゛ー……。


 うん……。


 だよねー……。


 そう、アダルトコンテンツには課金が必要なのだ。

 俺ってば、すっかり忘れておりました。


 そして――俺は、落ち込んだ。


 アダルトコンテンツに課金できなかったからではない。

 課金ができないことを、すっかり忘れていた俺の記憶力にがっかりしたからだ。


 大事なコトだからもう1度言う――。


【アダルトコンテンツに課金できなかったからではない】


 ここ、大事だから覚えておくように。



 まぁそういうコトなので、アダルトコンテンツは諦めよう。


 あ、でも待てよ……。

 アイドルの水着動画とかなら、無課金コンテンツの中にあるんじゃね?


 俺は膨大な動画コンテンツの中から、少しでもセクシーな水着動画を頑張って探した。

 ちょっと検索しにくいが、頑張って探し続けた。


 だいたい4時間くらい。


 そう、男というものは――。


 エロのためなら、行動力が100倍になる生き物なのだ!

しばらく休みます。

再開は未定です。


いろいろあって、メンタルをやられてしまいました。

更新を待って下さる皆様には、申し訳ございませんm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] >あと2巻なので、ゲーム再開は読み終わってからにしよう。 >つーか俺、パンツァーレースの『1』とか観て無いんだけど――。 >だいたい4時間くらい。 笑った ((o(^∇^)o)) […
[一言] どうぞごゆっくりお休み下さいませ。 作者さんが書きたいものが読者も読みたいものです。
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