呪いの装備とおっさん
【幻想世界 -online-】
このゲームは日々進化している。
つーか、サービス開始の時点でどう見ても完成品とは言い難かったので、進化中というよりも制作中のほうが正しいかもしれない。
こないだのアイテム『海のやつ』みたいなミスとか、従魔が完全自由行動中に生命力が0になると消滅するようなバグなんかもちょいちょい見受けられるので、プレイヤー――特に第一陣のプレイヤーたちには『俺たちって、もしかして人柱なんじゃね?』などという声もあったりする。
そしてミスは修正されるが、バグはゲームに支障が出るようなものしか修正されない。
様々な部分で実装が遅れていることからも、制作陣には余裕が無いのだろう。
楽しいゲームの裏側は、どうやらブラックっぽい。
なので最近、俺はクレーム等を運営に送るときには必ず『お疲れ様です』のひと言を添えるようにしている。
彼らにはぜひ健康に留意して、引き続きこのゲームを楽しませて欲しいものだ。
――話を戻そう。
日々進化を続けるこのゲームだが、ついにレベルキャップ――レベルの上限値が解放され、基礎レベルの最大値が20から30となり職業レベルも最大が10から15となった。
これでレベルが頭打ちになっていたプレイヤーたちの、稼いだ経験値の新たな行き場ができたのである。
更に追加で、装備関連で新たな要素が加えられた。
それはプレイヤーたちが欲しがっていた要素――。
『属性付与』である。
武器や防具を作る時に属性を付与することも可能になり、普通の武器防具に魔法で一時的に属性を付けることも出来るようになった。
これでモンスターへの弱点属性での攻撃で、より大きなダメージを与えられる。
属性攻撃のあるモンスターはまだいないが、きっとこれから出てくるのだろう。
武器や防具をモンスターによって変える、なんて戦略性が求められるのかもしれない。
ちょっと楽しみだ。
――――
「タロウさん、これはさすがに――」
「チート武器過ぎるわよねー」
作れるようになったということで、武器や防具に属性を付与してみた。
属性付きの武器やら防具やらを作って楽しんでみたのはいいが、やはり作ったら試してみたいと思うのがクリエイターの性というもの。
しかしながら俺はチートなので、そんなもんを使おうが使うまいがボスを一撃で倒せるし、どんな攻撃を受けてもダメージは最小の1にしかならない。
つまり、俺が使っても意味が無いのだ。
なので小次郎さんに装備させ、草原ボスの一角タイガー相手に使ってみてもらったのだが――。
「私が使ってボスが瞬殺とか、強力過ぎですよ」
「明らかにバランスブレイカーよね」
ただでさえ強力な俺謹製チート武器が更にヤバくなり、メシ生産プレイヤーである小次郎さんでも、サクッとボスモンスターを倒せたくらいに強化されてしまったのだ。
「やっぱそうだよねー。 うん、後で【分解】して素材に戻そうっと」
生産職にはレベル10で、もれなく【分解】というスキルが手に入る。
武器や防具などのアイテムは、作成時の半分になってしまうが【分解】で素材を回収できるのだ。
「分解するなんて勿体ないわよ、あたし使いた~い」
「イヤ、ミネコちゃん剣使えないじゃん。 コラ持つな、引っ張るな――仕舞おうとするんじゃない」
「え~、けちー」
誰がケチだ。
つーか、使えない武器を仕舞ってどうする気だおまいは。
「そろそろ約束の時間ですよ、行かないと」
「えっ! もうそんな時間?」
俺たちはこの後マカロン&その友人たちと、小次郎さんお手製の熊肉カレーパーティーをする予定なのである。
焼肉にして食べたが期待してたよりイマイチだった熊肉を、『熊肉カレーとか観光地で売ってるし、カレーにしたらけっこうイケるんじゃね?』などと俺が言いだした結果そうなった。
自分で作っても良かったのだろうが、不思議とこのゲームではレシピ通り作っているはずなのに、料理をする人によって味が変わる。
これは思うに、個々人のプレイヤースキルが影響しているのかもしれない。
このゲーム、戦闘は能力値などの数値によるし、農産は能力値などは関係なく独立した別ゲームのように畑と種で品質が決まり、料理はプレイヤースキルで味が変わる。
統一性に欠けるような印象もある一方、様々なプレイスタイルに対応しているようにも思えるのは、このゲームを気に入りつつある俺のひいき目だろうか?
まぁそんな訳で、今回の熊肉カレー作りは小次郎さんに頼んであったのだ。
熊肉カレーの存在自体は知っていたが、食べるのは初めてなので――。
ちょっと楽しみである。
――――
― サバンナ・ノンアクティブエリア ―
「意外……臭みが無い」
「それね、下処理をきっちりやってないと臭みが出るんですよ」
「はー、下処理ですか」
「下処理してきっちり煮込まないと臭みと硬さが取れないんで、なかなか苦労しました」
苦笑いに、苦労の後がしのばれる。
ごめんね小次郎さん。
「……なんかすいません、面倒なコト頼んで」
「なに構いませんよ、これはこれでいい経験になりました」
ぶっちゃけると、熊肉カレーはそんなに美味いもんでもない。
まず間違いなく、苦労に味が見合っていないだろう。
「お肉柔らか~い」
「普通に美味しいよねー」
「だよね、こないだの焼肉はイマイチだったのに」
マカロンたち女子高生軍団の感想に、小次郎さんの顔がほころぶ。
苦労を吹き飛ばすには、笑顔が一番だ。
俺も一緒に笑顔になりかけたが、ちょっとだけ躊躇する。
小次郎さんくらいの歳まで行けばセーフな気がするが、俺の年齢だと女子高生を見ながらニヤニヤするのは若干アウトな気がしたもので。
マカロンと目が合った。
特にやましいことなど無いのだが、ついドキリとしてしまう。
やっぱ可愛いよなー。
アバターだけど。
「バタークッキー作ったんですけど、食べます?」
「あ、うん、いただく」
別に『甘いもん食べたいから、出してくんないかなー』とか思ってマカロンのほうを見ていた訳では無いのだが、くれるならもちろん食べます。
マカロンの作ったクッキー、美味しいし。
「ボスが瞬殺ですかー?」
「そうなのよ、実際やった小次郎さんもドン引きしてたわ」
「まさにチート武器ですね」
マカロンとそんなやり取りをしている一方で、ミネコちゃんとその他2人――えっと、グリとピタコだっけか?――が、さっき試してみた俺作の属性付与剣がいかにチート武器なのかを、適当な面白話にしていた。
若干ディスられている気がしないでもない。
「ところで回復魔法って、付与できるんですかー?」
マカロンの友達その2――ロリドワーフのピタコが、急にこっちへ話を振ってきた。
だいたい考えてることは分かるが、それは既に他のプレイヤーが検証済みだ。
「付与はできるけど、それで味方を回復させるのは無理だぞ」
「なんでですかー?」
「回復させるには攻撃を当てないといけないけど、このゲーム、フレンドリーファイア無効――つまり味方への攻撃がそもそも不可だから、どうやっても攻撃が当たらない」
「あっ! そっかー!」
回復属性の武器で生命力を回復というのは確かに可能であれば便利だが、その辺はさすがにできない仕様となっていた。
もちろん治癒魔法も同様である。
現在プレイヤーたちはなんとか穴やバグを探そうと模索してはいるが、今のところその辺の抜け道は見つけられていない。
ちなみに面白そうではあるので、俺もいろいろ試してみるつもりだ。
ひとしきり食を楽しんだので、俺たちは解散することにした。
もちろん俺は一旦ホームへと戻って、設置してある鍛冶スペースで何かを作るつもりである。
生産系のスペースは街で借りることもできるが、ホームに設置することも可能だ。
俺は大枚はたいて、現状では最高級の鍛冶スペースを手に入れている。
生産のためにホームに戻れば俺の存在がマップに表示されなくなるので、はた目にはログアウトしているようにも見える。
これは24時間ゲームの中なのを、誤魔化す手段でもあるのだ。
――と、いう訳で。
なぁマカロン、そのクッキー少しもらって行って良い?
作業しながら、ちょっとつまみたいので。
――――
― ホーム・鍛冶スペース ―
けっこう試してみたのだが、味方に使える回復武器が作れない。
休憩しながらクッキーをつまみ『こりゃ、やっぱ無理かな?』などと、面倒臭くなった作業を止める決意をする。
つーか、他に面白そうな属性武器とか作れないもんかねー。
こういう時には、面白そうな何かが見つかりそうなトコを探すに限る。
探す先はそう、俺のプレイヤースキル倉庫である。
ゲームの仕様で使えるのかどうかは分からんが、つらつらと眺めると使えそうなのがちらほらとあった。
属性付与は魔法しか使えないはずだから、それ以外のスキルは除外するとして――。
ちょっと試しに。
ふむ、【光球】は聖属性付与になるのか――光る武器とか作れるかと期待したのだが。
【着火】は火属性、【水鉄砲】は水属性になる、と……イマイチつまらぬ。
【不死者消滅】は……普通に聖属性になるのか。
おっ!【メテオ】ならばきっと――へ? 付与するとただの土属性になるの?
うわー、つまんねー。
【毒球】は付与でけんかった。
あと【重力球】とか【浮遊】とかもダメで、【落とし穴】は土魔法扱いだった。
付与できないのはアレかね、後々何か実装されるとかなのかね?
毒とかは『状態異常付与』だったりとか、なんかありそうじゃん。
あと試してないけど、何かできそうなのは――。
あ、まだ【呪い】があった。
でもコレ、闇属性とかになりそうな気がする。
まぁ、物は試しということで。
…………
………
……
完成!
うむ、できてしまった。
なんか――。
『呪われた武器』が……。
とりあえず銅の剣を作ってみたのだが、見た目普通の剣だけど黒っぽいモヤモヤが立ち昇ってる。
性能で言うと装備した者の筋力を下げて、剣の攻撃力を大幅に上げる感じ。
筋力の低下より武器の攻撃力アップのほうが効果が大きいので、ぶっちゃけチートに拍車が掛かっている。
封印コース確定だが、面白いのでもっと作ってみようかな。
――装備してみた。
なんかカッコいい。
『今宵の銅の剣は、血に飢えておるわ』とか言いたくなる。
赤いモヤモヤのエフェクトとかだったら完璧だったんだけどなー。
黒のモヤモヤかー。
これ色変更とかできないのかね?
――ん? あれ?
他にも何か作ってみようと、鍛冶道具に装備変更しようとしたのだが――。
装備した『呪われた銅の剣』が、外れてくれない。
あちゃ~、そっち系か~。
外すにはやはり教会に行くのかなコレはと思ったが、良く考えたら俺には【解呪】というスキルもあったので、そっちを試してみる。
うむ、『呪われた銅の剣』が見事に装備から外れた。
外れたのはいいのだが【解呪】した『呪われた銅の剣』が、普通の『銅の剣』になってしまった。
どうやら解呪すると【呪い】による各種効果が、全て消え失せ普通の装備になるらしい。
まぁ俺の作った剣だから、それでもチートではあるんだけど……。
よしっ! ちょっと本気でいろいろ作ってみよう。
超絶激大凶の指輪を外して、運の数値を元に戻して……っと。
武器防具を量産するぜ!
…………
結論から言おう。
思ってたより大成功だった。
特に防具。
呪われた防具は装備した者のステータスの数値を下げ、その防御力を大幅に上げる。
そして俺が本気で作った呪われた防具はもちろんチートなので、ステ数値の下げ幅も半端なかった。
つまり、俺は自作の『呪われた防具』を装備することによって、自らのステータスを大幅に下げることに成功したのだ!
それでも一般のプレイヤーに比べて、数倍する数値ではあるけども。
今まで数十倍だったのが数倍になったのだから、十分凄いよね?
――とにかく!
これで少しはモンスター狩りが、ゲームとして楽しめるようになるだろう。
生産するブツも普通の高性能アイテム程度に、性能が抑えられるはずだ。
ステータスが下がる代わりに、俺の防御力が鉄壁からアダマンタイト壁くらいに上昇するけど、どうせ元から食らうダメージなど皆無だったのだからそんなもんはどうでもいい。
これで俺も、モンスター相手に少しは狩りっぽくプレイできるぜ!
――――
― サバンナ・ノンアクティブエリア ―
「さ、食べて食べて」
「小次郎さんたちは食べねーの?」
「私たちはこの間、試食しましたから。 遠慮せずどうぞ」
今日はシンタたちお子様軍団に、熊肉カレーを食べさせる会だ。
別名、誰も食べたがらない熊肉カレーの残りを処理させる会とも言う。
小次郎さんも人が良さそうに見えて、こういうところはいささか腹黒い。
まぁ、人間誰しもどこかに闇が潜んでいるものだ。
マカロンたちも誘ったのだが、熊肉カレーという単語を出したとたん断られた。
食べた時は『普通に美味しい』とか言ってた割には、2度は食べたくないらしい。
なかなか正直な女の子たちである。
「「「いっただっきまーす!」」」
シンタたち3人が、一斉に熊肉カレーを口に放り込んだ。
で、その食レポはというと――。
「う~ん、イマイチ……」
「そうだ! アタシこないだからダイエットしてるんだった! 残りマイケルにあげるね!」
「えー……待って、これゲームだから食べても太らないんじゃ――」
「あげるね!」
「う……」
あまり評判はよろしく無かったようだ。
ナナちゃんに至っては、ひと口だけ食べて残りをマイケルくんに押し付けてるし。
決してマズくはないはずなのだが……。
全く、口の肥えたお子様たちである。
「ごちそうさまー。 やっぱ熊肉って、特に美味くはないよね」
「そうよねー」
「せっかく作ってくれたのに、悪いよ」
なんだかんだ言いながらも、ちゃんとシンタは完食している。
こういうところが憎めんのよなー。
マイケルくんは相変わらず、地味だが真面目な男の子だ――2人分完食してるし。
あとナナちゃん、ひと口しか食べて無いのにそれは無いんでないかい?
「美味いもん食えるかと思って期待したのに、なんか損した気分だよなー」
こらこらシンタ、褒めた先からそんな憎まれ口を……。
ふむ、ならば――。
「なぁシンタ、面白い刀を作ったんだけど使ってみるか?」
「マジ? どんなん?」
俺はアイテムBOXから、ひと振りの刀を取り出しシンタに手渡した。
ついでにスクリーンパネルをいじって、譲渡の申請をする。
シンタが譲渡を受理し、これで刀はシンタのものとなった。
「装備して、鞘から抜いてみ」
「どれどれ……おぉっ! なんかすげぇ!」
抜いた刀からは、黒いモヤモヤが立ち上っている。
「どうよ、なんか妖刀みたいでカッコいいだろ?」
「うん、マジでカッコいい――なぁコレ、マジで妖刀なのか?」
うむ、妖刀と言われれば妖刀に見えちゃうよな。
でも違うのだよ。
「うんにゃ、妖刀ではないけど近いっちゃ近い」
「勿体ぶるなよ、おっちゃん。 何なんだよ」
「それな、実は『呪われた刀』なんだわ」
「はぁ!? 呪われた?」
しげしげと『呪われた刀』を見るシンタ。
ひとしきり眺めてから、ニッコリとする。
「『呪われた刀』、カッコいいじゃん!」
「だろ? 性能も凄いんだぞ」
チート武器とまでは言わんが、なかなか高性能な刀だ。
きっとシンタも満足できるだろう。
「マジか!?…………うわすげー、攻撃力が223も上がって――って、知力が106も下がっておいらの知力がマイナスになってんだけど!?」
「そりゃ呪われてるんだから、デメリットもあるさ。 でもいいだろ別に? どうせシンタは、魔法とかほとんど使わないし」
「最近コイン使って『水魔法使い』取ったんだけど……」
「諦めろ。 知力マイナスだと、たぶん使えないから」
魔法と引き換えにしても余りある性能だから、そこは我慢しろ。
呪いの武器は、万能ではないのだ。
「あとそれ、呪われてるから外れないぞ」
「は? 何それ――うわっ! マジで外れねーじゃん! 何してくれてんだよジジイ!」
誰がジジイだコラ。
「安心しろ、耐久値が無くなったらちゃんと壊れるから。 そしたら自動的に外れるし」
「それまで外せねーのかよ!」
「うむ」
「『うむ』じゃねーよ、なんとかしろよ!」
「無理」
本当は【解呪】のスキルで外せるけれど、それではつまんないので無理なコトにしておく。
あ、ついでだから防具もプレゼントしてあげるね。
もちろん呪われたヤツだけど。
…………
防具もシンタに装備させてみたが、最終的には外すことになった。
装備した『呪われた全身鎧』が、シンタの素早さを下げて数値をマイナスにしてしまったからである。
着けてみて初めて分かったことだが、素早さがマイナスになると全く動けなくなるのだ。
さすがにそれではゲームが出来なくなるので、防具だけは解呪してやった。
『呪われた刀』はそのままである。
シンタが何やら文句を言っているが、聞いてやるつもりは無い。
ふはははは、シンタよ貴様も無理矢理チートにされた俺の気分を――。
少しは味わうが良い!
だんだんシンタが主人公の相方化してる気がする。




