謎の石板とおっさん
諸事情によりしばらく休んでましたが、とりあえず再開。
落ち着いて執筆できる状況になったりならなかったりなので、引き続きちょいちょい休みながらとなります。
できるだけ休む時は予告する予定ですが、できない場合もあると思うのでそこはご了承ください。
従魔が帰って来ない。
イヤ、帰って来ないのはいい。
そもそも俺がヤツらを死なせるために、自由行動を命じたのだから。
問題なのは、いつになっても従魔たちの死亡のお知らせが無いことだ。
おかげで従魔の枠が空かず、俺はお猫様をテイムできないでいる。
実はこの間解放された第2の街には、環境生物として野良猫がいた。
サバンナエリアには一角ライオンもいるので、テイムできるネコ科の生き物が現在2種類もいることになる。
お猫様を従魔にしてモフりたかった身としては、ぜひともテイムしたいところなのだが――。
従魔の枠が空いていない。
せめて従魔たちの現在の状況くらいは知りたいのに、あいつらが戻ってこないのでそれすら俺は知ることができないでいる。
どうすりゃいいんだろうね、コレ。
従魔たちが戦い続けていることだけは、俺としてはとりあえず把握している。
何故ならば、俺がまったり休憩しているにも関わらず、ガンガンと経験値が増えていたからだ。
従魔士である俺が稼いだ経験値の半分は、従魔たちに分配される。
同様に従魔が稼いだ経験値の半分も、他の従魔と俺に分配される。
勝手に俺の経験値が増えていると言うことは、従魔がモンスターを倒して経験値を稼いでいるということに他ならない。
そこまではまぁ、理解の範囲内なのだが――。
困惑しているのが、何か知らんが見知らぬモンスターのドロップアイテムと思しきブツが、いつの間にかアイテムBOXの中に入っていたりすることだ。
どうやら従魔たちは、まだ実装されていないエリアにまで足を延ばしているらしい。
ゴブリンとか巨大サソリとか岩トカゲとか、いつ頃になったら出てくるモンスターなのだろう……?
もう訳が分からん……。
ちなみに従魔たちがなかなか死なない理由は、ついこの間発見した。
たぶん死蔵している俺のプレイヤースキル、【配下強化】の仕業だと思う。
見つけた時は、さすがに思わず膝をついたね。
チートな俺のスキルだもの、そりゃ環境生物でも簡単には死なんわなー。
しかもおまけに【取得経験値2倍】という、すっかり忘れていたスキルも見つけてしまった。
俺のレベルが順調すぎるほど上がっていたのは、どうやらコレのおかげらしい。
きっと初期の従魔たちのレベルも、ガンガン上がっていたことだろう。
俺のレベルも結構な早さで上がってたからなー。
つーか、レベルも上がって進化もして、既にボスキャラ並みに強くなってたりして……。
――うむ、笑えん。
あいつらは、俺が追放したようなものだからなー。
強くなって『ざまぁ』とかは、勘弁してもらいたいものだ。
――――
― 山林エリア ―
山林エリアはプレイヤーたちの間では、別名『虫エリア』と呼ばれている。
出てくるモンスターが、巨大アリ・巨大イモムシ・巨大クワガタ・巨大クモと、虫系のモンスターばかりだからだ。
「おっしゃ! アリごとき余裕だぜ!」
「シンタくんすごーい!」
「僕らにはモンスターが強すぎるよ、もう少し弱い相手にしない?」
「は? 何言ってんだよ。 パワーレベリングなんだから、モンスターが強くないと意味ないじゃん?」
シンタが巨大アリを倒して、友達2人にドヤ顔をしている。
イヤ、そのアリってば、俺が生命力の半分以上を削っているのだが……。
まぁ、友達に強いところを見せて自慢したい気持ちは分かるけどね。
「だいたい強いモンスターと戦うから、わざわざこのおっちゃん連れてきたんだし」
おいこら、身もふたも無い言い方をするんじゃない。
それだと俺が、パワーレベリング用の便利ツールみたいじゃないか。
せめて本人の目の前でくらいは気を使って友達扱いをしろや、このクソガキめ。
「あの……僕らのために、ありがとうございます」
シンタの友人の男の子『マイケル』くんが、ペコリと済まなそうに頭を下げてきた。
マイケルくんは見た目も言動も地味だが、礼儀正しい回復魔法使いの男の子である。
「いいよいいよ、どうせ大して忙しくも無かったし」
まぁ、気にすんなマイケルくん。
つーか、アバターなんでそんな地味な見た目にした? いくらでもカッコ良くできるのに。
「じゃあ次! イモムシぶっ殺しに行こうぜ!」
「さんせー! 糸吐くんだっけ? 楽しみー」
こらシンタ、おめーはもっと気を遣え。
そもそも一番気を遣わないといけない立場だろーが。
シンタと息を合わせてはしゃいでいる女の子は『ナナ』ちゃん。
ピンクのツインテールをした、物怖じしなさげで活発そうな斧士の女の子だ。
巨大アリに対してもそうだったけど、巨大イモムシにも積極的に挑もうとしているところから、虫系のモンスターとかでも平気らしい。
なかなか強者である。
マカロンたちなんかは、虫系が嫌で山林エリア避けてるからなー。
まぁ、虫が平気なのは子供のうちだけかもしんないけど。
「イモムシ殺せ!」
「イモムシ殺せ♪」
シンタとナナちゃんが奇妙な踊りを踊っている。
元気だね君たち。
おじさん、そのテンションには付いていけんわ。
あと――。
なして全員、種族をホピットにした?
…………
巨大イモムシ戦が始まった。
始まったのだけれど、所詮はエリア内にバラ撒かれているモンスターである。
俺はもちろん、シンタでも普通に倒せる相手だ。
なので戦闘はすんなりと終わった。
終わったのだが――。
「イエーイ! イモムシなんて余裕だぜ!」
「シンタお前さ、ナナちゃんとマイケルくんにも少しは活躍させてやれよ。 いくらパワーレベリングっつったって、これじゃ2人ともつまんないだろ?」
俺とシンタだけでイモムシを倒してしまっているのは、さすがにナナちゃんとマイケルくんも面白くは無かろう。
これはゲームなんだし。
「あー、そっか! 悪りぃ悪りぃ、今度はお前らに譲ってやるから勘弁な」
「なら次はアタシたちが倒すね!」
「あー、僕は別に……」
「えー、やろうよマイケル~」
うむ、なんだかんだクソガキだけど、言えばちゃんと分かるヤツなんだよなシンタは。
でなきゃ一緒に遊んだりはしない。
――おっと、次の巨大イモムシが来たようだ。
「いいタイミングでもう1匹来たぞー」
「じゃあおいらは今回休みだな」
「イヤ、少しは参加しなさい。 つーか、俺に休ませろ」
「えー、だってそのためのおっちゃんじゃん」
「やかましい、やれ。 壁役はやっちゃるから」
楽などさせてなるものか。
働けシンタ、それがきっと未来の君の為になるはずだから。
…………
戦いは激戦を極めた――俺以外は。
イモムシの攻撃は全て俺が受け止めているが、ナナちゃんとマイケルくんの攻撃力がまだ低いために、倒し切るのに時間が掛かったのである。
「やった倒したー!」
「ナナちゃんナイス止め!」
「疲れたー」
ナナちゃんが頭部を斧で叩き割って、イモムシの止めを刺していた。
なかなか豪快な子である。
「あっ! イモムシメイス落ちた!」
「やったねマイケル!それ欲しかったヤツじゃん!」
「お前一番役に立ってないのにレアドロかよ、運だけすげぇのな!」
これこれシンタくんや『役に立ってないのに、運だけすげぇ』って、その言い方はどうなのよ?
ここは普通に『良かったね』だけでいいんじゃね?
だったらガンガンとレアドロップが落ちまくる俺の立場は、いったいどうなると?
ほら、今回だってなんだかレアドロっぽいブツが――って、おや?
――なんぞコレ?
「おーい、みんな……コレ、何だと思う?」
見せたのは、今回初めて落ちたレアドロップ。
まぁ、イモムシはまだそんなに狩っていないので、レアドロ自体それほどゲットしてはいないのだが。
そのドロップアイテムの名は――。
「えーと……『海のやつ』?」
「海の…………なんなの?」
「アイテムのテキストには、なんて書いてあるんですか?」
そう……マイケルくんが言うように、普通はアイテムにはそれがどのようなモノなのかを説明するテキスト文がある。
あるのだが――。
「それが――空白なんだわコレが。 何にも書いてない」
「攻略サイトに情報とかはねーの?」
「待って、見てみる」
アイテム名――海のやつ、海のやつ……っと。
ありゃー。
「駄目だった、まだ検証中だってさ」
「なんだよ空振りかよ」
「検証が終わるまで、正体はお預けですね」
野郎3人がガックシと肩を落とす中、残りの女の子1名だけがまだ諦めてはいなかった。
「だったらさ、もうアタシたちで検証しちゃおうよ!」
そう来たかー。
やっぱメンタル強いねナナちゃん――検証とか面倒くさいのに。
「おーっ! それいいじゃん、やろーぜおっちゃん!」
シンタが乗っかりやがった。
やろーぜとか言われてもなー。
「あの、僕も検証やってみたいです」
マイケルくんまでかよ……。
検証ねえ……まぁいいか、どうせ忙しい訳でもないし。
「いいけど、検証するにも『海のやつ』はコレ1個しか無いからな」
「ケチくさいこと言うなよ、どうせもっとイモムシ狩れば落ちるじゃん。 おっちゃんチートなんだから、レアドロ集めるのなんてチョロいもんだろ?」
「レアドロ自体は100パー落とせるけど、そん中で『海のやつ』だけとかは無理なんじゃバカモノ。 俺のリアルラックなめんなよ、けっこう無いんだぞ……」
「おっちゃん、まぁなんだ…………強く生きろよ」
小学生に肩ポンされ、慰められてしまった……。
それでほだされてしまった訳では無いが、その後あーだこーだと話をした結果『海のやつ』を3つだけ検証してみることになった。
もちろんイモムシを狩るのは、俺である。
…………
「さぁ、検証を始めよう」
「で、何だよその両腕を広げたポーズ」
「……昔そういう感じの特撮ヒーローものがあったんだよ、知らん?」
「知るわけないじゃん」
「だよねー」
シンタと戯れている場合では無いな、うむ。
せっかく『海のやつ』を3つ手に入れたというコトで、検証の始まりだ。
まず、見た目。
グレーで厚さ2cmほどある、野球のベース板サイズの四角い物体――それが『海のやつ』である。
地面に置くと、ちょっと珪藻土マットっぽく見えなくもない。
重さは思ったより軽い。
表面がザラザラしていて、叩くとコンコンと軽い音がする。
硬さはけっこう硬いが、強く叩けば簡単に割れそうな感じ。
質感は、なんというか――軽石っぽい?
とりあえずの結論としては、この『海のやつ』は見た目その他の情報によると『石板』ということになる。
謎の石板――なかなかいい響きだ。
「謎は全て解けた!」
「「おおー!」」
見たり触ったりなんやかんやしていたシンタが、突然そんなことを口走りやがった。
お前はどこの探偵坊主だ。
「ほほう、ならば教えてもらおうか」
「いいだろう、おっちゃん。 この『海のやつ』の正体はな――』
「うむ、正体は?」
勿体つけて間を開けるシンタ。
どうせハズレるんだから、そんなんせんでも。
「ズバリ、『ビート板』だ!」
「へー」
「なるほどー」
待て待て小学生たち。
それで納得するとか、さすがに無いだろう。
「イヤ、海専用のビート板ってあり得なくね?」
「なんでだよ、あるかもしんないじゃん!」
ねーよ。
「だったら検証してみようよ。 里山エリアなら川あるし泳げるから」
「さんせー! ナイスアイディアだよマイケル!」
そうだねマイケルくん、ナナちゃん。
検証は大事だよね――場所、川だけど。
「おーし、やってやろうじゃん! もしビート板だったら、なんかレアなもん寄越せよおっちゃん!」
「なんでそうなる――イヤ、まぁ良かろう。 なら違ったら、俺の言うこと何でも1つだけ聞けよ」
「おうっ、いいぜ!」
なんか知らんが、賭けが成立した。
向かうは、里山エリアである。
…………
「よーし、見てろよ! まずはビート板を浮かべて――」
と、シンタが『海のやつ』を川に浸けると――。
『海のやつ』が急にふやけてフニャフニャになり、溶けて流れてしまった。
「あれ……?」
「ビート板じゃないわね……」
「違うね……」
「さすがに溶けるビート板は無いわな……」
「うっせいわ!」
当たり前だが、これでビート板の線は無くなった。
ついでに『海のやつ』も1つ無くなった。
残りの『海のやつ』――謎の石板は2つである。
「くっそう……だったら次は――」
「おっと、シンタは外したから1回休みな。 他に何か思いついた人~」
「えー! 何だよそれー!」
「ビート板じゃなかったら、俺の言うこと何でも1回聞くって約束だったよな」
「……ぐぬぬ」
どうせだから、マイケルくんとナナちゃんにも聞いてみよう。
できれば3人平等に。
俺としては、焦って『海のやつ』の正体を突き止めるつもりは無い。
なので謎解きも、後でじっくり考えることにする。
ここは子供たちに楽しんでもらおう。
さぁさぁ、次は誰かな?
「はいっ」
「はいマイケルくん」
俺はガッコの先生かよ。
自分でそれっぽく言ってて何だが。
「運営に問い合わせてはどうでしょうか?」
「それ採用」
実に現実的で理性的な意見、見事だマイケルくん。
でも君、ひょっとして『つまんねーヤツ』とか言われない?
意見としてはクソつまんないけど、まずは運営さんに問い合わせ。
他にも問い合わせしているプレイヤーがいるだろうが、こういうのは数撃ったほうが目に留まるべ。
「これで良しっと。 で、『海のやつ』の正体なんだけど――」
「はいっ!」
「はいナナちゃんどうぞ」
「これは『花火』だと思います!」
また斬新な意見が出たなコレは。
石板型の花火か……ハズレだと思うが面白い。
「その推理は無いな」
「なんでよシンタ、海っていったら花火じゃない」
「花火は海じゃなくてもできるじゃんか」
「だーかーらー、海で映える花火なんだってば」
「へー、そうなんだ」
「なんかムカツクー」
すったもんだの口喧嘩の末、石板に火を点けてみることになった。
もちろん点火するのは俺である。
――てな訳で。
【着火】のスキル発動!
『海のやつ』という名の石板に火が――。
イヤ、けっこうな勢いで燃え広がっているのだが、明らかに花火っぽくは無いぞ。
つーか、何かこう……香ばしい匂いがしてくる。
ちょっと空腹感を刺激する……。
もしかして、食べ物だったとか?
「やべぇ! 燃える燃える!」
「け、消さなきゃ!」
「水汲んできて! 早く!」
ナナちゃんの指示により、シンタとマイケルくんがすぐそこの川から水を汲んできた。
君たちよく、そんな大きなバケツ持ってたね。
慌てて燃えている『海のやつ』に、水をぶっかけるシンタとマイケルくん――。
「あ、イヤ、ちょっと待て!」
水をぶっかけて火を消すのはいいんだが、それはマズかろう。
なんせその『海のやつ』は、さっき川に浸けたとたん溶けたヤツなのだから。
「えっ!?」
「あっ!?」
「うそっ!?」
案の定というか何と言うか――『海のやつ』は、溶解液でも掛けたかのように溶けた。
つーか、そのくらい予想しなさいよ君たち。
――とにかく。
2つ目の『海のやつ』――謎の石板も溶けた。
残りは1つである。
「溶けちゃった……」
「水ぶっかけたからな」
「誰だよ、水掛けろって言ったヤツ!」
「なによ! アタシのせいだって言うの!?」
ナナちゃんとシンタで、言い合いが始まってしまった。
やめなさい君たち、こんなしょーもないことで喧嘩するんじゃない。
「こらこら、『海のやつ』はまだ1つ残ってるんだぞー。 検証しないんなら、これで終わりにするけどいいのかー?」
「まって、やるやる!」
「検証するってば!」
「ぼ、僕もやりたいです!」
喧嘩があっさりと終わった。
ほら、こんな程度で収まるし。
「だったら、みんなで仲良くすること。 それが検証を続ける条件だからな」
「大丈夫だって」
「も、もちろん仲良くするわよ」
「僕は最初っからそのつもりです!」
はいはい、信用しますよー。
君らどう見ても仲良しだしね。
「おいらたちは仲良しだ!」
「「おぉー!」」
「おいらたちは謎を解く仲間だ!」
「「おぉー!」」
善きかな善きかな。
若干わざとらしさも感じるが、それもそれで良しだ。
「人呼んで、少年探偵団!」
「「おぉー!」」
うん、それはナンカチガウ。
俺たちがやっているのは謎のアイテムの検証であって、事件の謎解きではないし。
それにそれだと、俺の立ち位置が名探偵に――あっ、まさか『体は子供、頭脳は大人』的なヤツじゃないよね?
俺ってば、体も頭脳もくたびれたおっさんなのだが……。
「だから検証続けようぜ! 助手!」
「コラ誰が助手だ」
つーかシンタ、その肩に置いた手を放せ。
「だっておいらたち探偵だもん、だったらおっちゃんは助手じゃん」
「イヤ、少年探偵団ってそういうんじゃねーだろ!?」
この時代の少年探偵団って、どういうのよ?
まさか少年が団を作って、おっさんが助手やってるアニメとかの影響か?
そんなアニメがあるのかは知らんけど。
……探偵か~。
いつか推理小説とか書いてみたいもんだ。
「結局、花火でもなかったね」
「ビート板でもなかったし」
「…………」
「お前も何か言えよマイケル」
「えっと……分かんない」
こらこら、俺をほっぽって考察を再開してんじゃねーよ。
おじさんも混ぜなさい。
「なぁ、さっき燃えてた時、けっこういい匂いしなかったか?」
「あぁ! それ僕も思いました!」
「なら、食べ物なのかしら?」
「そうだよ!『海のやつ』なんだから、何か海の食べ物なんだよ!」
それはさすがにどうだろう?
「イモムシからドロップしたのに、海の食べ物は無くないか?」
「それもそうよね」
「冷静に考えればそうですよね」
「でも『海のやつ』で食べ物だぜ? アリじゃね?」
「ねーな」
「ないわね」
「ないと思う」
シンタの海の食べ物説は、完全否定された。
イモムシからドロップするのは、やっぱ変だもんね。
「でも食べ物っぽくはあるのよね」
俺もナナちゃんの意見には賛成だ。
なんせ焼いたときの匂いが、美味しそうだったんだもの。
このゲームは再現性が高い。
匂いが美味しそうと言うことは、食べ物の可能性が十分ある。
「そうだ! 料理してみませんか!」
「それいいな! マイケル冴えてるじゃん!」
なるほど、食材として使ってみるということか。
案外悪くない意見かもしれない。
「とりあえず、細かく切ってみようか」
料理に使うにしても、このままだとちょっと大きすぎる。
たぶん切っても消えることは無かろう。
「小次郎の爺ちゃん呼ぶ?」
「そこまでせんでもいいだろ、俺も料理士の職業取ってるし」
「マジかよいつの間に!?」
あれ? シンタに言って無かったっけ?
あー……今言ったからそれでいいよね。
――そんな訳で。
アイテムBOXから包丁とまな板を取り出して、短冊状に切――れないなコレ。
普通に石みたいに硬いからなー。
仕方ないので、秘密兵器を取り出そう。
今度は【無限のアイテムストレージ】から……えっと、コレじゃなくて……あった。
これこれ、超合金乙の包丁。
これなら石くらい簡単に切れる。
まな板は、いつもの金ちゃんの鱗でいいか。
鉄とかでも簡単に切れちゃうからな、この包丁。
「おーし、切るぞー」
「なんかすげー金ピカだけど、そのまな板って金なのか?」
「うんにゃ、フツーのまな板だよー」
まな板のことは気にするな。
普通にどこの異世界にもありそうな、神話のドラゴンの鱗だから。
おし、やっぱサクサク切れる。
やっぱ切れ味のいい包丁って、いいよねー。
「ねぇねぇ、何を作るの?」
「やっぱカレーとかじゃね?」
「僕、ビーフシチューがいいなー」
こらこら、それは自分の食べたいもんだろ。
だいたいそんなもんの中に入れたら、『海のやつ』がどんな味なのか分からんだろうが。
「とりあえず、お湯に溶かして飲んでみよう」
「えー、カレーじゃねーのかよ」
「ビーフシチューがいいのに」
「アタシ豚汁でいいよ」
「ま・ず・は、お湯に溶かして飲んでみるからな」
ブツブツ文句を言いやがるので、後で『海のやつ』を溶かしたお湯で何か作ることになった。
なのでとりあえず、大きめの鍋でお湯を沸かす。
湯が沸いたらお椀に入れて、『海のやつ』をひと欠片入れて飲んでみるつもりだ。
――って、おい!
「ちょっと待て、お前ら何してる!?」
「何って……」
「溶かすんでしょ?」
「違うの?」
見るとホピット小学生軍団が、『海のやつ』をドバドバと全部鍋の中に投入しているところだった。
つーか、全部ブッ込まれてしまったし……。
ポーンと、通知音があった。
どうやら、運営からのお知らせだったようだ。
なになに――。
――――――――――――――――――――
プレイヤー〈タロウ〉様
お問い合わせのあった『海のやつ』ですが、開発スタッフのミスで名称及びテキストが開発段階の仮称のままになっていたことが判明しました。
修正されたアイテムの正式な名称は『海の魚用撒き餌』
テキスト内容は『海の魚を集めるために使う、漁業用の撒き餌。 様々な魚を集めることができる』となります。
近日中に修正する予定ですが、修正前でもアイテムとしての効果はあるのでご使用は可能です。
ご報告ありがとうございました。
これからも【幻想世界 -online-】の世界をお楽しみください。
― 幻想世界 -online- 運営事務局より ―
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――うむ、なるほど。
『海のやつ』は、食べ物は食べ物でもお魚の食べ物だったらしい。
つーか、魚の餌ね。
イモムシが原材料の。
海の魚用ということは、しばらく使い道は無いな。
まだ海とか実装されてないし。
おっと、あいつらにも教えてやらねば。
でないと、撒き餌を溶かした汁を飲んでしまいそうだし。
もしかしたら川魚にも使える可能性があるかなとも思うが、今は検証が難しい気がする。
最後の『海のやつ』――『海の魚用撒き餌』は、全て鍋の中でグツグツと煮られているからだ。
そうだ、せっかくだから決めゼリフでも言ってみようか。
ほら、探偵小説に良くあるヤツ。
「謎は全て溶けた!」
イヤ、キョトンとするなよお前ら。




