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オークの討伐

 ― 宿 ―


「ふっふっふっ――これで完璧」

 俺は窓の外を眺めながら、満足げに笑う。


「タロウさん、なんで朝から気配消してるんですか?」

 アルスくんが不思議そうな顔して【隠蔽】のスキルを使っている俺を見ている。

「知ってた? アルスくん――【隠蔽】のスキルって、気になるニオイも隠蔽して消せるんだよ」

 そう、これが俺の気配が朝っぱらから消えている理由である。


 実は昨夜ステータスを色々と確認していたところ、【隠蔽】のスキルは気配だけでなく音や臭いまで隠蔽して消してしまうことができることを発見した。

 これはつまり、ここ数年の俺の悩みが1つ解消できるということなのだ!


 悩みと言うのは臭い。

 しかもただの臭いでは無い。

 それはおっさん特有の困った臭い――そう、『加齢臭』だ!


 数年前になにげなくこの自分の臭いに気付いてから、俺はすんごく気になっていた。

 普段は全然自分では気づかない臭いに『ひょっとして今、俺は臭っているのではないだろうか』とか、女性社員が近くにいる時に『加齢臭が臭ってるのに、気を使って我慢しているのではないだろうか』とか、ずっとびくびくしていたのだ。


 だがこれで、気になる『加齢臭』ともおさらばだ!

 ビバ!【隠蔽】スキル!


「タロウさん、そのままギルドに行くつもりですか?」

「もちろん!」

 せっかく加齢臭とおさらばできたんんだから、当然じゃないか。


 何を言ってるんだろうね、アルスくんは。


 ――――


 ― 冒険者ギルド ―


「うおっ! びっくりしたー。おいおっさん、何で朝っぱらから気配消してんだよ! 気持ち悪りーな」

「ですよねー、ジャニさんもそう思いますよね」

 うきうき気分でギルドに入ってきた俺を、いきなり出迎えた反応はこれであった。


「気持ち悪りーとか失敬な――つーか、アルスくんまで酷くね?」

「えー……だって……」

「気持ち悪いっての、おっさんが気配消して近づいてくるとかよ」

 えー、そうかなー?


 かくかくしかじか――。

 加齢臭を消すためだと説明すると、思いっきり反論が帰ってきた。

「あのなおっさん、想像してみろよ。おっさんが気配を消して女の子に近づいていく――こっちのほうが加齢臭よりよっぱど気持ち悪りーっつーの」


 ほう、ならば想像してやろう。

 俺は目を瞑って、そのシチュエーションを頭に描いてみる。

 女の子の背後から、気配を消しながら近づくおっさん――うむ、これはストーカーだな。


「すまぬ! 俺が間違っていた……」

 俺は深々と頭を下げる。

 やっぱ己の間違いは、素直に認めるべきだろう。


「だろ、おっさん。今度から気を付けろよ」

「ういっす」


 俺の加齢臭無臭化計画は、ここに頓挫してしまったのであった。


 …………


 そんなこんなしているうちに、依頼が張り出された。

 掲示板の前にはいつもの如く冒険者が群がっている。

 もちろん俺たちも。


 今日の依頼は……と。

 ふむ、イマイチ旨味のある依頼が見つからんな。


 薬草採取はおバカ3人組のために取っておいてやるとして――猪狩りにでもすっかなー。

「おい、おっさんたちよ。この依頼、一緒にやんねーか?」

 思案しているところに、ジャニが声を掛けてきた。


「どの依頼よ?」

 この依頼――と掲示板から既に剥がされた紙を見せられたのだが、ピラピラと揺らされているのでまともに文字が読めない。

 なのでちゃんと見せろという意味で、わざと『どの依頼よ』とか言ってみたのだ。


「これだよ。俺とドンゴだけじゃちいと手が足りねーのよ、小僧と一緒に手伝ってくんねーかな――もちろん報酬は等分でいいからよ」

 そう言いながらジャニのヤツがまだ依頼の紙をピラピラしてやがったので、俺は紙を取り上げて読む。


【オークの討伐:5万円/西の街道付近の森で目撃されたオークの討伐 ※男性冒険者のみ/目撃は8匹】


「オークか……8匹とか多いな」

 オークとは、二足歩行する豚のような人型の魔物だ。

 サイズは人間よりやや背が低いくらいで、筋肉が多く力が強い。


 手先は不器用で武器を持っていたとしてもせいぜい棒か石だが、筋力が強いので殴られると非常に危険だ。

 防具や衣服という概念も無いので刃物は通りやすいが、脂肪と筋肉が厚いので打撃は効きにくく、致命傷を与えるにはこちらもけっこうな筋力が必要となる。

 問題なのはここから――『※男性冒険者のみ』という記載でなんとなくは見当がつくだろうが、オークは女性を見ると真っ先に襲う。

 もちろん襲うとは、戦闘的な意味と性暴力的な意味の両方のことである。

 

 人間の女性でなくとも、鹿や猪などという獣でもメスなら襲うし、ゴブリンのような人型の魔物ですらメスなら襲う――見境無しである。


 オークという魔物は何故だかオスしかおらず、襲って交配した種に子を産ませて繁殖する。

 もう、遺伝子って何だろうというレベルの見境の無さだ。

 一度に3~5匹が生まれ、そのまますぐに雑食性を発揮してぐんぐんと成長していくのだが、だいたいこの時生まれた子がそのまま群れとなることが多い。


 今回は8匹ということだが、苗床になった生き物が同じ群れとかだったのだろう。

 同じ場所で生まれたオークの群れが合流する、というのは時々あることらしい。


 そんな魔物なので、いつも股間は臨戦態勢だったりする。

 服など身に着けていないので、間違って映像化されたらモザイクは必須だろう。

 肉は食用となるし睾丸は高価な精力剤の原料となるので、売ればけっこうな金になるらしい。

 なのでオークの討伐は、そこそこ美味しい依頼なのだ。


「だろ? さすがに8匹だと、囲まれちまうかもしんねーからな。坊主とおっさんがいりゃー確実だろ――安全マージンは、しっかり取らねーとな」

 俺としては特に断る理由は無い。

 むしろこの辺にはあまり出ないオークを直に見ることが出来るのだから、有難い申し出とも言える。


「ちょっと待って、一応アルスくんに聞いてみないと」

 俺としては前のめりでOKなのだが、相棒に無断で決める訳にも行かない。

 掲示板に貼られた依頼を吟味するのに夢中になっているアルスくんの肩を、つんつんと突いてとりあえずこっちを向かせる。


「なぁ、ジャニがオークの討伐依頼を一緒にやらないかと言ってきたんだが、どうす――」

「やります! やるに決まってるじゃありませんか! 楽しみだなぁ、オーク……」

 アルスくんが食い気味に返事をした挙句、うっとりとオークを楽しみにしている。


 俺も楽しみにはしているんだが、俺の楽しみとアルスくんの楽しみは別物なんだよなー。

 俺のはオークを見ることができる、という楽しみ。

 アルスくんのはオークと戦える、という楽しみなのである。


 アルスくんってば、けっこう戦闘狂(バトルジャンキー)なんだよね。


 こうして今回俺たち『黄金の絆』は、ドンゴとジャニたちのパーティー『黒い稲妻』と一緒に、オークの討伐依頼を受ける事になった。

 全員が近接戦闘型なのが気になるが、俺以外は強いから大丈夫だろう。


 すっかり説明するタイミングを逃してしまっていたが、ドンゴとジャニは『ランク:木』の冒険者である。


 本当は上のランクに上がれるだけの金と実力はあるのだが、暴れて稼いで酒を飲むという生活サイクルが維持できればいいらしく『ランクを上げるための金があるなら、その分いい酒を飲む』と言ってはばからないヤツらだ。

 周りの評価では実力者らしいのだが、アルスくんにボコられたイメージしか無いので俺には全くピンと来なかったりする。


 今回の依頼で彼らの実力も見られるだろう。

 お手並み拝見、である。


 俺? 俺はオークを発見するまでがお仕事ですよ?


 ――――


 ― 西の街道付近の森 ―


「お~れ~たち~は~ぼーうけんしゃ~♪ まも~の~を殺して~、さ~けを~飲む~♪」

 俺たちは西の街道沿いで目撃されたオークを探して、街を少しずつ離れながら歩いていた。

 先頭を歌いながら歩いているのは、ドンゴである。


 その風貌からして歌声はいじめっ子キャラのリサイタルかと思いきや、意外にも素晴らしい音程の良く響くバリトンであった。

 森の木々に反射するその歌声が、緑の香りがするそよ風に乗って心地いい。


「ドンゴさん、歌がお上手だったんですね」

 アルスくんの耳にも心地よく聞こえていたようで、ずいぶんと機嫌良くドンゴを褒めている。

「だろ? いっつもジャニしか聞かせる相手がいねぇからな、今日は人数が多くて気合が入っちまうぜ! がっはっはっ」

 多いと言ってもたった2人だけどな。


 にしても本当に上手い、俺たちだけで聞くのが勿体ないくらいだ。

 これ本当にリサイタルやっても、金取れるんじゃなかろうか?


 ゴツい皮の鎧を身に着け戦斧(バトルアックス)を担いでいるその姿は、顔の怖い木こりといった風情のドンゴではあるが、人の才能というものはなかなか見た目では分からないものである。


「俺は聞き飽きてんだけどなー」

 とジャニは言うが、今日初めて歌声を聞く俺とアルスくんはまだまだ聞き足りない。

 ついついリクエストをしながら道中を適当に進んでいくと、ようやくその気配が【気配察知】に引っかかってくれた。


 8匹のオークの気配である。


 …………


 先に見つける、というのは戦闘においてアドバンテージとなる。

 オークは野生の獣と同じく、嗅覚が良い。

 なので俺たち4人は、風下からオークに近づいた。


 特に戦闘の準備もしていないオークに、一気に襲い掛かる3人。

 オークから見ると、右側面からの奇襲である。

 ちなみに俺は周辺の警戒だ。

 イヤ、奇襲でもそんなに役に立てる気がしないし、そっちのほうが全員の為にいいかと……。


 3匹のオークが初撃で倒れた。

 アルスくんはオークの頭を剣で叩き割り、ドンゴは戦斧で豪快にオークの首を飛ばし、ジャニは槍でオークの心臓を正確に貫いた結果である。


 《レベルアップしました》

 頭の中にアナウンスが流れる。

 ついでに何もしてない俺もレベルアップしたようだ。


 残るオークは5匹。

 あとは仲間を殺されたオークたちの振り回す棒きれを躱しながら、焦らず確実に仕留めていけば普通に終わる――はずだった。


 俺の【気配察知】の範囲の中に、大量の何かが侵入してきた。

「何か来る、数は約50――速いぞ!」

 早速みんなに報告する。

 警戒していて良かった――相手が何であれ、こんな数に奇襲されたらヤバかったかもしれない。


「おっさん気配は何だ! 魔物か! 獣か!」

「獣だ! マジで速いぞ、3分でここまで来る!」

 ジャニに聞かれて俺は即答した、というかのんびり返答してたら間に合わない。


「ジャニさん、何だと思いますか?」

 アルスくんは冷静だ。

「ここいらで群れで襲ってくる獣なんざ決まってる――狼だ!」

「急いで片づけねぇとマズいな、オークと狼を同時に相手とか洒落にならんぜ」

 ジャニとドンゴには焦りが見える、もちろん俺も焦っている。


 狼というと野生の犬みたいな認識の人もいるかもしれないが、大きさからして別物だ。

 そこらで見かける大型犬よりも1回りも2回りも大きく、体重は倍程度はある。


 噛みつかれたら危険なのは当然として、体当たりでも食らうとヤバい。

 態勢を崩したら最後、四方八方からその牙が一斉に襲い掛かってくるのだ。


「だったら急ぎましょう!」

 アルスくんが、またオークを1匹倒す。

 あと4匹。


「だな!」

 ドンゴが強引に戦斧を振り回し、オークの頭を叩き割る。

 あと3匹。


「おっさん! 狼が来るまで、あとどのくらいだ!」

 ジャニの槍は何度もオークを刺しているが、致命傷には至っていない。


「あと1分半!」

 俺が伝えてる間に、またアルスくんが1匹のオークを倒した。

 あと2匹。


 ジャニが相手をしていたオークをドンゴが倒し、アルスくんが最後のオークを倒した。

「おっさん! あと――」

「15秒だ!」

 皆まで言わせず、俺は狼の現着時間を伝えながら、来る方向を腕をいっぱいに使って指す。


 全員が一斉にそちらの方向を向いて、戦闘態勢を取った。

 俺も【隠密】と【隠蔽】を発動して待つ。


 きっかり15秒後、群れの先頭の狼が姿を見せた。


 …………


 俺たちはあっという間に狼の群れに取り囲まれ、そのまま戦闘となった。

 ヒット&アウェイを細かく繰り返す狼の素早さに、こちらの攻撃がなかなかヒットしない。

 隙を伺う狼の群れの戦い方に、戦闘は長期戦の様相を見せている。


 そんな中アルスくんだけが、その素早さに対応して狼の数を減らしていた。

 狼の群れはそんなアルスくんを警戒し、むやみに攻めかかるのを止めたようだ。


 ジャニはなんとか上手く立ち回っているが、ドンゴは戦斧(バトルアックス)という武器の性質上、素早い狼には相性が悪く防戦がやっとという状況となっている。

 そんな中で俺はと言うと、狼には全く無視をされていた。


 肉食の獣は動く物に反応する性質を持っているはずなのだが、気配だけでなく臭いや音も【隠蔽】している俺は、狼たちには攻撃対象として認識されていないらしい。

 正直理屈としては良く分からないのだが、せっかく無視してくれているのだから、俺はこれ幸いとドンゴの支援に回ることにした。


 ドンゴの周囲で隙を窺っている狼に近づき、喉首を素早く掻き切る!――とカッコ良く立ち回るはずだったのだが、狼が素早過ぎて辿り着く前に移動されてしまう。

 おかげで思うように狼を仕留められない。


 それでも時間は掛かりながら狼を仕留め続けている俺と、アルスくんの獅子奮迅の活躍により、狼の大半をなんとか駆逐することに成功した。

 そしてひと際大きな狼――たぶんボス――をアルスくんが仕留めたところで残り数頭となった狼は逃げ出し、ようやく俺たちは狼の群れを撃退できたのである。


「お……終わった……」

 残った狼の気配が全て【気配察知】の範囲外に去るのを確認して、俺はその場にヘタり込む。

「おいおっさん、狼はもう近くにいねーんだな?」

 ジャニの問いに『いない』と短く答えてやる、もう返事をするのも億劫なくらい俺はヘバっているのだ。


 その俺の返事で、他の全員がその場に座り込んだ。

 ドンゴもジャニも、疲労困憊である。

 1人アルスくんだけが、いい汗かいたとばかりに満足げな顔をしている。


「いやーキツかったぜー、おかげで久々にレベルが上がっちまった」

「ジャニさんもですか? 実は僕もなんですよ」

 ジャニとアルスくんは、レベルが上がったらしい。

 で、俺はと言うと――。


「俺はさっきのオークと今の狼で、レベルが2つ上がった」

 そう報告すると『おぉー』とか『やりましたね!』という声と一緒に――。


「なんだよ、俺だけレベルが上がってねぇのかよ!」

 という、ドンゴの声があった。

 大丈夫、仲間外れだけどいじめたりはしないぞ。

 ……見た目、お前のほうがいじめっ子だけどな。


「ところでこれどうするよ、思うに解体しないと荷車に積みきれねーぞ?」

 ジャニに言われて改めて周囲を見渡すと、そこには屍累々――オーク8匹と狼がざっと40頭以上という屍が、俺たちの解体作業を待っていた。

 俺たちが今回引いてきた荷車は2t用――解体せずにそのまま積むと、過積載となるのは間違いあるまい。


「解体苦手なんだよなー」

「甘えてんじゃねーぞ、おっさん。苦手なら丁度いい、これで慣れろ」

「頑張りましょう!」

「くっちゃべってる暇があるなら、さっさとやんぞ」


 解体作業が始まった――にしても、数が多いよなぁ……。

 人型のオークを解体するのはなんか嫌だから、狼を解体しようっと。


 ……肉もちゃんと取り分けろと?


 へ? 狼の肉って、食用なの?


 ――――


 解体したけども、やっぱり2tの荷車には荷物がちと多過ぎた。

 積むには積めたのだが、オークと狼の肉やら素材やらを積んで街まで戻ったら、ギルド職員に過積載が見つかってこっぴどく怒られるという事態になってしまった――ついでに過積載の罰金として、1万円取られちまったし。


 それでも依頼の達成の5万円とは別に、肉と素材の代金で60万円を超える収入を得られたのだから、なかなかの収入と言えよう。

 ちなみに肉と素材の代金の割合は、8匹のオークと40頭の狼でも6:4と、オークのほうがいい稼ぎになっていたりする。


 狼は、群れを倒すのに苦労する割には、うま味の少ない獣なのだ。

 だから討伐依頼でも無い限り、普通は誰もやりたがらない。

 そういう意味で今回の狼との戦いは、臨時収入にはなったが貧乏くじを引いたとも言えるだろう。


「ぷはー! 苦労した分、今日は酒がうめーや!」

「おうよ! 狼に囲まれた時にゃ、冷や汗かいちまったけどな!」

 ジャニもドンゴも今夜は上機嫌だ。


「俺も今回は『仕事した!』って気分だわ」

 そう、俺はなんだかんだで狼を9頭も倒していた。

 これは俊敏な動きをする狼を苦手としているドンゴはもちろん、ジャニをも上回る戦果である。


「俺の周りにいた狼がいきなり喉から血を噴き出して倒れてくから、最初何が起きてんのかと訳分かんなかったぜ――あれおっさんだろ? あんがとよ」

 ドンゴに礼を言われた――他人に礼を言われるというのは、嬉しいものだ。


「おっさんもなかなかやんじゃねーか。あんだけ戦えんなら、大したもんだ」

「でしょう! タロウさんは凄いんですよ!」

 ジャニに褒められたのは、なんだかんだで嬉しい。

 アルスくんはいつも俺のことを過分に持ち上げるので、嬉しいことは嬉しいのだが素直には喜ぶことができん――本気で言ってくれてるのは分かってるんだけどね。


 4人で遅くまで飲んだ。

 いつもより楽しく飲んだ。


 いつもより楽しく飲んで――。


 今日はいい気分で眠れそうだ。


 …………


 じゃねーし!

 イヤ、うっかり眠っちまったけどさ。


 深夜に目が覚めて、上半身だけ跳ね起きた。

【夜目】のスキルがあるので、暗くても周囲はちゃんと見える。


【スキルスロット】を回そうと思ってたのを、すっかり忘れてた。

 気持ちいい酒だったもんで、頭からすっぽりと。

 おかしいな、楽しみにしていたはずなのに……。


 回そうと思っていたのは【魔法スキル】のスロット。

 せっかくファンタジー異世界に来たのだから、やはり魔法は使えるようになりたいのだ!


 それに理由は他にもある。

 アルスくんがバリバリの前衛なので、俺は後衛で遠距離攻撃を受け持ちたい。

 それには魔法を覚えるのがいいだろう。


 弓や投擲など、覚えたところですぐには役に立たん。

 でも魔法ならなんとかなる気がする。

 それに俺には既に【隠密】と【隠蔽】という使えるスキルがある。

 見えないところからの魔法攻撃とか、カッコいいと思わん? どうよ?


 という訳で早速【魔法スロット】を回そう!

 せっかく今日レベルが2つも上がってスキルポイントが4になり、回せるようになったのだから!


 ……深夜だし、とっとと回そう。

 あんまし時間かけると、明日の朝起きれないし。

 つーか1度目が覚めるとなかなか眠れんのだよなー。


 ステータス見るのが面倒くさいな。

 今回は見なくてもいいや。


「【スキルスロット】」

 深夜だから当然小声である。


 筐体が浮かび上がったので、4ポイント全てを投入。

 回れ【魔法スロット】――レバーオン!


 仕様が変わっていないので、相変わらず目押しの効かないリールが3つ、回転を始める。

 やがて徐々に回転がゆっくりとなり……。

 左端のリールが、まず停まった。


<水鉄砲> ―回転中― ―回転中―


 水……鉄砲?

 攻撃魔法なのかな?

 あとで確認してみようっと。


 次に真ん中のリールが停まる。


<水鉄砲> <呪い> ―回転中―


 うむ、これはたぶん攻撃魔法だ。

 イヤ、待てよ――状態異常魔法かな?

 これも後で確認せねば。


 そして最後に、右のリールが停まった。


<水鉄砲> <呪い> <メテオ>


 こ、これは……。


『メテオ』キタ――(・∀・)――!!

 メテオ、それは隕石を落とすという高威力の魔法である。


 この魔法さえあれば、俺でさえも今日から大魔導士を名乗れるかもしれない。

 実際に使ってみなければ何とも言えないが、そこらの魔物であれば間違い無く1撃で倒せるほどの凄い魔法――それが『メテオ』のはずなのだ!


 早速魔法の詳細をチェックしてみよう。

『メテオ』は最後のお楽しみに取っいおくとして、まずは『水鉄砲』からだ。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 【水鉄砲(ウォーターガン):初級 / 水属性】水流を放つことができる / 消費魔力:40

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ふむ……やっぱり使ってみないと分からないが『消費魔力:40』ならば、そんなに強力な魔法では無いのかもしれない。

 明日、依頼で街の外に出たら試してみよう。


 次は『呪い』だ。

 字面からして印象が悪いが、実は使える魔法かもしれない。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 【呪い(カース):初級 / 呪い属性】対象の最大体力を、消費魔力の1/100下げる。

 解呪の魔法以外で、治療は不可。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 イヤイヤ、使い辛れーし。

 でもこれなら、毎日呪いを使い続ければいつかは――。

 ……うむ、これは丑の刻参りみたいなもんだな。

 なるほど、呪いだ。


 さて、最後はお待ちかねの『メテオ』の確認といこう。

 ワクワクドキドキの時間だ!

 しかし、何でこの魔法だけカタカナなんだろうね?


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 【メテオ:初級 / 無属性】対象に、隕石を1つ落下させる / 消費魔力:8000

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 消費魔力……8000?


 えーと……今のところ魔力の最大値は、1レベルにつき100ずつ増えているから――。

 このペースだと『メテオ』が使えるようになるには、レベル80になればいいのか。

 なるほど。

 でも待てよ……俺は【状態異常:老化】のせいで、だいたい7割強まで魔力の最大値値が下がるから――。


 ……って、使えねーじゃねーか!

 レベルMaxの100になっても、魔力の最大値が老化のせいで8000に届かねーよ!

 せっかくの『メテオ』が死にスキルとか――トホホだなー。


 なんか魔法で無双とか期待していたのに、ちょっとガッカリ。

 やっぱ地道に【戦闘スキル】を回しとけば良かったかなー。

 うむ、次はそうしよう。


 つーか方針がブレブレだよね、俺って。

 もっと色々考えないとだな。


 とりあえず今は、朝まで頑張ってふて寝をしよう。


 ちゃんと二度寝ができますよーに。

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