チュートリアルとおっさん
ゲームで使うアバターの設定は、無事に終了。
そして俺はチュートリアルを始めるために、ホームであるログハウスから外へと続く扉を開けた。
扉から出ると、そこは――。
オープニングの最初の舞台、見渡す限りの草原だった。
ふむ、使いまわしだな。
だが文句などは言うまい、ゲームなんてそんなものだ。
≪では、チュートリアルを始めます――まずは歩いてみましょう≫
へ? そこからやるん?
……歩いてみた。
≪良くできました――次は、走ってみましょう≫
うむ、これは地味なのが長く続くヤツだ。
知ってたし……。
俺はチュートリアルに従い、いろんな動きをさせられた。
走ったり飛んだり、昇ったり降りたり、体操したりダンスしたり――イヤ、いいかげん戦闘とかやらせてくんない?
さんざんいろんな動きをさせられ『おっ、こんだけ動いても俺のポンコツなはずの身体が、どこも痛くなったりせんぞ――やっぱゲームっていいよなー』とか思っていたら、ようやくその時が来た。
≪それでは、実際に戦闘をしてみましょう≫
よっしゃ戦闘キターー!
ちなみにお相手は、ちっこい角が額から生えている、大柄な1匹の茶色のウサギさんである。
そして俺の武器は、長さ1mほどの木の杖――ちょっとゴツい系。
どうやら従魔士は、杖を使うカテゴリーの職業らしい。
「コレはアレかな? まずはこのウサギさんを従魔化しろってコトなのかな?」
≪このチュートリアルでは、テイムはできません。 他の攻撃をお試し下さい≫
あー、さよけ。
ならばこの杖で、殴ってみるとしますか。
つーかこのアナウンスの声、ヨミセンさんだよね。
ぴょんぴょん――ではなくビュンビュンとウサギさんが飛んできた。
まっすぐ飛んでくるので、カウンターでゴツンとな。
杖が命中したウサギさんは、いとも簡単に吹っ飛んで死んだ。
モンスターは死ぬと、破壊されるポリゴンのエフェクトを残して消えるらしい。
――おぉ! まるでゲームみたいだ。
イヤ、ゲームなんだけどさ。
どうも俺が2度も異世界に行っているのと、このゲームがリアルなおかげで『なんか異世界なのにゲーム要素がある』的な錯覚をしてしまうのだ。
≪いかがでしたか? これで戦闘のチュートリアルは終了です――引き続き、冒険者ギルドのクエストを受けるチュートリアルを始めましょう≫
うーむ、戦闘のチュートリアルがあっさり終わってしまった。
もう少しやりたかったのに……。
で、何だって? 冒険者ギルドでクエスト?
あー、やっぱあるのね冒険者ギルド――定番だもんね。
≪冒険者ギルドのクエストを受けるには、まずクエストのある冒険者ギルドに冒険者として登録する必要があります――始まりの街に入ったら、まずは冒険者登録を忘れないでください≫
はいはい……で、今回クエストを受けるための冒険者ギルドはどこに?
≪今回はギルドでクエストを受理することができませんので、クエスト画面を呼び出して受理してください――クエスト画面でのクエストの受理は、街の中ならばどこでも可能ですので覚えておいてくださいね≫
「ちなみにクエスト画面は、どうやって――」
≪『クエスト画面』と口に出して唱えるか、念じてください≫
カブり気味に返事が来た。
んじゃ――。
「クエスト画面」
で、クエスト画面を開くと、そこにはたった1つ――。
『ウサギ肉10個の納品』というクエストがあった。
ふむ、これを受けろってコトね。
ほいほい――ポチっとな。
≪『チュートリアルクエスト:ウサギ肉10個の納品』を受理しました――フィールドに出現する一角ウサギを狩猟し、ドロップするウサギ肉を10個集めて納品して下さい≫
ほう、あの角が生えた茶色のウサギは、一角ウサギというのか。
フィールドにはいつの間にか、その一角ウサギがパラパラと点在していた。
なるほど、ここからは自由に戦えってコトね。
了解! ならばひと暴れと行きますか!――まぁチュートリアルだから、楽勝なんだろうけど。
俺はまずウサギさん目掛けてダッシュ、スコーンスコーンスコーンと3匹を倒してポリゴン化させた。
チュートリアルだからだろうが、全て一撃である。
つーか、ドロップアイテムが見当たらんのだが……。
ひょっとしてモンスターのドロップ率って、そんな渋いの?
≪モンスターがドロップするアイテムの取得は、自動と手動に切り替えられます――現在は『自動』になっていますが、『手動』に切り替えますか? 運営はアイテムの取りこぼし防止のため、『自動』を推奨しています≫
あ、じゃあ自動のままで。
取りこぼしとか嫌だし。
とりあえず引き続き、ウサギを7匹狩ってみた。
これで合計10匹――うむ、自動で取得しているせいか、アイテムが落ちてんだか何だか分からん。
拾ったアイテムを確認するには――。
≪『アイテムBOX』と口に出して唱えるか、念じてください≫
へーい。
分かりましたー。
「アイテムBOX」
で、アイテムBOXを開くと、そこにあったのは――。
――――――――
アイテムBOX
一角ウサギのハンマー×1
一角ウサギのベスト×2
一角ウサギの手袋×1
一角ウサギのハーフパンツ×2
一角ウサギの尻尾×4
――――――――
なんだこの一角ウサギシリーズ?
つーか、全然落とさないってコトは、もしかしてウサギ肉ってレアなのか?
ウサギ肉とか、普通にドロップするアイテムなイメージなんだけどなー。
つーか、チュートリアルなのにレアなドロップアイテムを要求するとか、なんか違わね?
――まぁいい。
そういうことならば、ウサギ肉を10個落とすまで一角ウサギを狩りまくるのみ!
おらー! 出てこいやー!
悪いウサギはいねがー!
俺は一角ウサギを、狩って狩って狩りまくった。
で、狩って狩って狩りまくっていると――。
≪チュートリアルの『隠しクエスト:一角ウサギを1000体倒せ』をクリアしました――隠しクエストのクリア報酬『称号:チュートリアル大好き』と『ランダム職業コイン:1枚』を取得しました≫
なるほど、こういう隠し要素もあるのか。
どうやら称号には特に効果とかは無いようだが、名前の代わりに使えたり、二つ名として使えたりするらしい。
イヤ『チュートリアル大好き』とか、微妙に恥ずかしいから使いたくないし。
で、こっちの『ランダム職業コイン』とは何ぞと思ったら、ヨミセンさん曰く『そのコインを使うと、職業がランダムで手に入ります』とのことだ。
そっか、そういやキャラ作成の時に『職業はゲームを進めているうちに増やす機会があります』とか言ってた記憶があるな。
アレはコレのことだったのか。
まぁ、レアな一角ウサギ肉10個のために倒していけば、1000体なんてすぐだしなー。
この称号とコインは、チュートリアルをやった人のためのボーナスってヤツかな?
――なんてこたーないよね。
イヤ、ついつい夢中になって1000体も倒してしまったなー。
一撃でポコポコ倒せるもんだから、ついね……。
さて、タイミングもちょうどいいし、ドロップアイテムの確認をしてみよう。
さすがにこれだけ倒せば、ウサギ肉10個くらいは余裕で手に入っていることだろう。
――で、見てみると。
――――――――
アイテムBOX
一角ウサギのハンマー×87
一角ウサギの着ぐるみ×6
一角ウサギのカチューシャ×89
一角ウサギのベスト×78
一角ウサギの手袋×80
一角ウサギのハーフパンツ×81
一角ウサギの長靴×76
一角ウサギの尻尾×497
――――――――
うむ、ウサギ肉とか1個もねーし。
これ、さすがにおかしくないか?
やはりコレは、運営さんに報告すべきだろうか?
イヤイヤ、ここはやっぱり十分に検証してから報告するほうが良かろう。
――と、いうことで。
一角ウサギ狩り、再開じゃあ!!
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら~!」
「ほあたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」
…………
………
……
≪チュートリアルの『隠しクエスト:一角ウサギを10000体倒せ』をクリアしました――隠しクエストのクリア報酬『称号:チュートリアルの鬼』と『ランダム職業コイン:1枚』を取得しました≫
ぜい…ぜい……俺はやったぜ――やり切ったぜ!
つーか、2つ目の隠しクエストをクリアしてしまった……。
だが、そんなことはどうでもいい。
肝心なのはドロップアイテムじゃい!
おら来いや! ウサギ肉!
――――――――
アイテムBOX
一角ウサギのハンマー×828
一角ウサギの着ぐるみ×53
一角ウサギのカチューシャ×811
一角ウサギのベスト×847
一角ウサギの手袋×874
一角ウサギのハーフパンツ×792
一角ウサギの長靴×829
一角ウサギの尻尾×4966
――――――――
やっぱ無えし!
うむ、これは間違いない――不具合だ。
運営さんに報告するとしよう。
その前にちょっと休憩。
疲れたし……。
イヤ、ゲームだから肉体的な疲労感は無いんだけどね。
ウサギさんを倒し続けるという作業を延々と続けていたので、精神的にかなり疲れたんすよ。
――ふう。
一休み、一休み。
さて、運営さんに連絡するとしよう。
えっと……どうすれば……。
あっ、そうだ――。
「すいませーん、運営さんに連絡するにはどうしたらいいんですかー?」
ここはヨミセンさんに聞いてみよう。
≪運営に連絡しなくても、こちらで聞きますよ――何かありましたか?≫
ふむ、ヨミセンさんに言えばいいなら楽でいいな。
じゃあ、遠慮なく。
「さっきから一角ウサギを10000匹ほど倒しているんですが、ウサギ肉が全くドロップしないんすよ――コレ、不具合なんじゃないすかー?」
≪原因を調査しますので、しばらくお待ちください≫
「へーい」
――で、待つこと10分ほど。
暇なので、俺は更にウサギさんと戯れ続けている。
「つーか、こんだけ倒しているのにレベルとか上がらんのね」
≪チュートリアルでは、経験値の取得ができません――ドロップアイテムは全て、ゲーム本編に持ち込まれます≫
あー、さようで。
このアイテムBOX内にある大量の一角ウサギシリーズ、全部ゲーム本編に持ち込んでどうしろと?
まぁ、売ればこの数だからそれなりのお金にはなるのだろうが。
などと思いながら、アイテムBOXの中身を眺めていると――。
≪ウサギ肉がドロップしない原因が特定されました。 運営と協議の結果、救済措置として装備アイテムをお送りします――装備して、引き続きチュートリアルを続行して下さい≫
ピコーンと音がして、アイテムBOXに1つのアイテムが追加された。
――『超絶激大凶の指輪』?
なんぞこれ?
どんなアイテムなのか知りたいのだが――とりあえず、画面の文字をタップしてみるか?
――――――――
【超絶激大凶の指輪】
装備すると、運:-1000
――――――――
「はぁ?」
思わず声に出てしまった。
どゆこと?
≪一角ウサギからウサギ肉がドロップしない原因は、プレイヤー『タロウ』の運の値が高すぎることが原因とのこと――よって救済措置として、運の値を下げるアイテムを進呈しました≫
うん、待って。
俺の記憶が確かならば、俺の運の数値はSPを振り分けて確か10にしたはず。
こんな指輪とか付けたら、運の数値がマイナスになるじゃん。
やっぱコレ、不具合とかバグじゃね?
試しにこの指輪装備して、ステータス見てみようか?
『超絶大凶の指輪』を、とりあえず左手の小指にでも着けて……っと。
よし、ステータス出ろ!
ほら、運の数値が――って、はい?
※ ※ ※ ※ ※
名前:タロウ
レベル:1/20
生命力:11345/11345
魔 力:11440/11440
筋 力:1152
知 力:1171
丈夫さ:1097
素早さ:1194
器用さ:1190
運 :1292(-1000)
職業1:従魔士 / レベル:1/10
職業2:薬 士 / レベル:1/10
スキル:【テイム】【回復薬作成】
祝 福:【女神ヨミセンの祝福】
残りSP:0
プレイヤースキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】
【光球:極】【着火:極】【暗視:極】
【お宝感知:極】【隠密:極】【鍵開け:極】
【気配察知:極】【隠蔽:極】【罠解除:極】
【水鉄砲:極】【呪い:極】【メテオ:極】
【真・暗殺術:極】【水中戦闘術:極】【投擲術:極】
【短刀術:極】【毒使い:極】【防具破壊:極】
【筋力強化:極】【真・餌付け:極】【魔力譲渡:極】
【解呪:極】【回復魔法:極】【吸着:極】
【便意の魔眼:極】【悪臭のブレス:極】【真・腹時計:極】
【治癒魔法:極】【不死者消滅:極】【毒球:極】
【真・包丁術:極】【手加減:極】【敵意引受:極】
【対人特効:極】【縄抜け:極】【捕縛術:極】
【採取:極】【藁細工:極】【木登り:極】
【賄賂:極】【チョーク投げ:極】【採掘:極】
【盲牌:極】【雄雌判別:極】【アク取り:極】
【染み抜き:極】【育樹:極】【飴細工:極】
【火加減:極】【真・操船:極】【開墾:極】
【燻製作り:極】【通貨偽造:極】【美味しい店探し:極】
【下処理:極】【耐G:極】【浮遊:極】
【水中呼吸:極】【人化:極】【真・盗撮:極】
【邪神封印】【取得経験値2倍】【毒無効】
【異世界言語取得】【神光召喚】【盾術:極】
【氷上移動】【木刀術:極】【命中率上昇:極】
【雪上移動】【鎚術:極】【砂上移動】
【騎乗戦闘術:極】【斧術:極】【剣術:極】
【刀術:極】【泥上移動】【殺菌:極】
【運上昇付与:極】【詠唱破棄】【落とし穴:極】
【腐食:極】【麻痺:極】【氷の突起:極】
【雨乞い:極】【配下強化:極】【魔力回復量増加:極】
【重力球:極】【邪神召喚】【宝箱擬態】
【蜘蛛糸:極】【精力増強】【貴族の心得:達人】
【鞭術:上級】【火魔法:上級】【水魔法:上級】
【風魔法:上級】【土魔法:中級】【威圧:上級】
【お菓子作り:中級】【イジメ:達人】
加 護:【女神ヨミセンの加護】
状態異常:老化〔ゲーム内につき無効〕
※ ※ ※ ※ ※
こらこらこら――この展開は以前にも覚えがあるぞ。
コレ、素の俺のステータスが上乗せされてるヤツじゃん!
つーか、アバターのキャラメイクの時は普通の数値だったのに、いつの間にこんな……!
「えっと……ヨミセンさん、これはいったいどういう?」
≪ドロップアイテムは、運の値1に対してレアアイテムとなる確率が0.1%上昇します。 よってタロウさんの運の数値が1000を超えていたため、ドロップアイテムが全てレアアイテムとなり、ノーマルのアイテムである『ウサギ肉』がドロップしないという現象が――≫
「あ、イヤ、そっちの説明でなく――まぁ、そっちの説明も必要ではあるんだけど――それよりもこのステータス、なんで俺のリアルの数値とかスキルが乗っかってんのよ? もしやヨミセンさん、また何かやらかした?」
≪やらかしたとは失敬な――それは、ゲームの仕様によるものです≫
は? 嘘つけ。
どんな仕様だよ?
≪ステータスの『祝福』の文字に触れてみて下さい≫
祝福ってこの『祝 福:【女神ヨミセンの祝福】』ってヤツ?
まぁ、触れてみろって言うならそうするけど……。
――――――――
【女神ヨミセンの祝福】
プレイヤーの持つステータスとスキルが、アバターのステータスとスキルに加算される祝福。
――――――――
うむ、コレは……。
「イヤ……ヨミセンさん、この祝福はさすがに駄目なヤツっしょ!?」
≪運営の許可は下りています≫
「イヤイヤ……これだとアバターのステータスが、エラいことになるでしょうが!」
≪普通の人であれば、平均で各数値が10ほど加算されるだけなので、レベルが上がればそれほど問題ではありません≫
「イヤイヤイヤ……あなた、俺のステータスがヤバいこと知ってるでしょうに! つーか、あんたこうなるコト分かってて、わざとやっただろ!――あと、このプレイヤースキルも駄目っしょコレ!」
≪そういう仕様です≫
「イヤイヤイヤイヤ! おかしいだろうが!――プレイヤースキルで格闘技とかならともかく、【メテオ】なんぞブッ放せるヤツがどこの世界にいるんだっつーの!」
≪ここにいます≫
「それはそうだけどもさ!」
わざとだろ!
絶対わざとだよな!
「祝福の内容を、変更することを要求する」
≪祝福の変更は、今からでは不可能です≫
「じゃあ、守護神をチェンジで」
≪守護神の変更にはログアウトしてゲームを最初からやり直す必要がありますが、タロウさんはそもそも転移でこのゲームを始めたのでログアウトができません――よって守護神の変更は、不可です≫
へ? 俺ってば、ログアウトできないの?
何その、デスゲームとか始まっちゃいそうな設定……。
「ログアウト……ホントにできないの?」
≪できません≫
「ずっとゲームの中で生きて行けと……?」
≪そうですね、サービスが終了するまでは≫
マジか……。
でもショックなはずなのに『それはそれでもいいか』とか思っている自分がいる。
うむ、伊達に2度も異世界に飛ばされてはいないな。
俺ってば、この手の順応性が高くなっている気がする……。
だが――。
「ログアウトができないのはともかく、さすがに俺のステータスってチート過ぎない?」
普通の異世界ならさておき、これはゲームなのだ。
さすがにこのステータスは、正にチート――ズルみたいなものだろう。
≪運営と出資者の公認なので、特に問題はありません≫
「うん……どう考えても、他のプレイヤーに『チート』って言われる気がするけどね」
≪そのようなプレイヤーは、運営がBANするのでご安心なさい≫
「余計不安だわ! それより俺のステータスを下方修正するよう、運営さんに頼んで」
≪神界からの介入は、禁止されています≫
「イヤ、さっき運営さんと相談して『超絶激大凶の指輪』とかくれたじゃん!」
≪先ほどのは、ゲームを始められないという不具合だったので――特例です≫
「ステータスの初期値が高すぎるのと初期スキルが大量なのとで、ぶっちゃけゲームがやりにくいっす」
≪あなたのステータスとスキルが原因なので、自分が悪いのだと諦めなさい≫
「俺のせいかよ!」
≪ハァ……仕方ないですね。 分かりました、運営には伝えるだけ伝えておきます――チュートリアルをお続けください≫
うむ、コレはアレだ――。
運営には伝わるけど、結局このままのヤツだ。
――うーむ。
異世界転移でのチートはものすごーく欲しいが、VRゲームでのチートは正直あんましいらんぞ。
しかもこんな、まるでデータを不正改造したようなあからさまに異常な数値とか……。
どう考えてもゲームバランスを崩しそうな、大量のスキル群とか……。
『異世界転移・転生』ジャンルと『VRゲーム〔SF〕』ジャンルは、違うんですよヨミセンさん。
面白そうだからと言って、チートをブッ込めばいいってもんでは無いんですよ?
分かります? そこんトコ?
――などと文句を言ってはみたものの、たぶんコレ修正とか変更はしてくれない気がする。
そして俺としては、いいかげんゲームを始めたい。
「しゃーない、とりあえずコレで始めるか……」
俺は『運営公認チートプレイヤー』として、この『幻想世界 -online-』で遊ぶことに決めた。
キャラを育てる楽しみとかは無くなるが、戦闘とかは楽になるので良しとしよう。
つーか結局のところ、やっぱし俺はヨミセンさんのブッ込んだ設定に振り回されるのか。
コレはアレだ――。
もう『ヨミセンさんに頼んだらこうなるのだ』と、諦めて飲み込むしかあるまい。
――よし、続き始めるか。
チュートリアルを再開。
今度はちゃんとウサギ肉がドロップした――確率3割くらいだけど。
ウサギ肉の納品クエストをクリアすると、ゲーム内の通貨1000Gを貰えた。
チュートリアルを続けながら考える。
さすがにチートだと、友達とかは作りにくいかもしれないなー。
ソロプレイも嫌いでは無いので、まぁその時はその時だが。
今度は『採取』のチュートリアルで、薬草を採取。
採取できるものにマーカーが付いているので、けっこう簡単。
その後、レシピを貰って『回復薬(微)』を作るチュートリアル。
うむ、完成した『回復薬(微)』が、俺のステータスのおかげなのかエラい高性能になっているし……。
更にいろいろと続け、チュートリアルが終了。
これでゲーム本編が、ようやく開始できる。
ホームであるログハウスに戻された。
どうやらゲーム本編は、ここから始めることになるらしい。
≪次に扉を開けば、そこは『始まりの街』――それでは『幻想世界 -online-』を、お楽しみ下さい≫
いつの間にやらログハウスから姿を消した、ヨミセンさんの声が聞こえた。
声に従い再びログハウスの扉を開けた俺は、次の瞬間――。
中世ヨーロッパ風の街並みの中に、立っていたのであった。
まだゲーム本編に入れないという……(- -;




