キャラクリエイトとおっさん
お待たせしました。
第3部:VRプレイヤーおっさん編、開幕でございます。
無理せずボチボチやりますんで、よろしくお付き合いください。
あれから4か月。
「これも面白かったから、★5……っと」
クソ長いタイトルだった2作目が完結してから、俺はまた『小説家になるぞ』で読み専に戻っていた。
久しぶりに自己紹介でもしておこうか。
俺の名は『有江内 太郎』――2度も異世界に行って戻ってきたおっさんだ。
しばらく前からやっていた飴細工の店は、客が減ったので畳んでいる。
なんかね、最近この辺で競合する屋台の飴細工屋さんが出て来て、客を取られちゃったんすよ。
造形とコスパはこっちのほうが上なんだけど、屋台をやっているのが美形の兄妹なせいで、よほど精巧なものを欲しがっているオタの人以外はあっちへ行ってしまったのだ。
世の中、やっぱり顔は大事らしい。
ちっ、世知辛いぜ……。
――てな訳で。
店舗を持つとどうしても維持費が掛かるということで、最近はネット通販で飴細工を売っている。
ついでに藁細工も――スキル持っているんで。
つーか、飴細工の梱包って気を遣うよね。
壊れ易い物だから、輸送時の振動とかでさえマジでヤバくて――って、そんな話はどうでもいい。
――本題に入ろう。
で、読み専をしている俺が何を最近読んでいるかなのだが――。
今ハマっているのは『VRゲーム〔SF〕』というジャンルだ。
これがかなり面白い。
『VRゲーム〔SF〕』とはなんぞ? という人もいるだろうから、一応説明しておこうか。
ここで言う『VRゲーム』とは、今現在あるようなVR――バーチャルリアリティー用のゴーグルを着けて、一目でそれと分かる視覚だけの仮想現実で遊ぶそれとはちょっと違ったりする。
小説の中で一般的なのは、フルダイブ型というまるで本物の異世界の中に放り込まれたような仮想現実世界で遊ぶというタイプのゲームだ。
この手の小説の仮想現実では五感が再現されたりするゲームが多いことからも分かる通り、設定が現在よりも未来になっているものが多い。
『VRゲーム〔SF〕』とは、その本物の異世界と感じるほどの仮想現実世界で、MMORPGとか戦略シミュレーションとかシューティングなどのゲームを体験するというジャンルなのである。
まぁ、9割以上はMMORPGなんだけどね。
ちなみに小説としてのジャンルは『VRゲーム〔SF〕』なのだが――。
SFジャンルのくせして、何故か大半がファンタジー系のゲームが舞台だったりするのには、若干のジャンル詐欺感が無くも無いよねと個人的には思っていたりする。
そんなゲーム世界で好き勝手に遊ぶ主人公を描いている作品が『VRゲーム』ジャンルなのだが、何故だか主人公はポーションだのアイテムだの作物だのを作る『生産職』と呼ばれる職業で遊んでいたり、魔物使いと呼ばれる職業になって使役するモンスターと戯れている作品が多い。
それ以外だと、超人的なプレイヤースキルで無双するパターンとかもある。
主人公が実は武道とか戦闘の達人だったりとかで、ゲーム内でその辺の技術がさく裂するヤツね。
あとは……ステータス極振り系とか、ユニークスキルやユニークアイテムをゲットする系かな?
ゲームの中に閉じ込められて云々というのもあるが、そっち系は正直俺の好みではないのでどうでもいい。
――と、まぁ説明はこの辺にして。
でもってそんな作品群をつらつらと読んでいるうちに、ついつい俺もやってみたくなった。
何をって……それはもちろん、これらの小説にあるような『VRゲーム』をですが何か?
『VRゲーム〔SF〕』ジャンルの小説を書くんじゃないのかって?
そりゃ書くつもりではありますけどね、それよりもやってみたいのですよ。
まるで本物のファンタジー異世界のような仮想現実世界を、思う存分楽しむ。
誰だってやってみたいと思うだろう。
イヤイヤ、お前は2度も本物の異世界に行ってるじゃないかだって?
ちっちっちっ――それはそれ、これはこれで全然違うものなのだよ。
本物の異世界は、死んだらそこでおしまいなんだよ?
まるで本物みたいなゲームなら、死んでも大したペナルティーも無く復活できるし安全なので、安心して強敵相手に無謀な挑戦なんかもできる。
それに魔物のうん〇の臭いに悩まされることも無いし、虫にたかられてあちこち食われ痒くなることも無い。
おかしな陰謀や事件なんかに、勝手に巻き込まれるようなことも――あ、イヤ、そんな小説はあったな。
――とにかく。
俺はリアルな異世界でけっこう大変な思いもしてきたので、そっちはもうそろそろお腹いっぱいなのだ。
だから、リアルっぽいゲームで平和なファンタジー異世界を楽しみたいのである。
だがそんなゲームは、現実には存在しないだろうだと?
確かにその通りだ、そんな凄いゲームなど今の時代にはありはしない。
だがしかーし!
不可能を可能にする方法を、俺は知っている!
ふっふっふっ……。
これからその、不可能を可能にする魔法の言葉を唱えてやろう!
いいか……耳の穴をかっぽじって、良く聞けよ。
3…2…1…。
「あー、『VRゲーム〔SF〕』ジャンルの小説を書きたいなー。 そうだ! 書くには参考にするために、実際にフルダイブ型のファンタジー系VRMMOとか、やっておくべきだよなー」
そう……魔法の言葉とは、小説を書く参考にしたいからとか言って『読み専の女神』さんを召喚し、その世界に強制的に送ってもらうという、いつものヤツなのである!
出でよ読み専の女神さん!
我をVRゲームの世界へと送るのだ!
…………
………
……
あれ? おかしいな反応が無いぞ?
いつもならこのタイミングで『その願い、叶えてあげましょう』とか言って、読み専の女神さんが俺を異世界に飛ばしてくれるはずなんだが……。
イヤ、まぁ、今回は異世界でなくてVRゲームの世界なんだけど。
それはそれとして。
――ひょっとして、聞こえて無かった?
――おーい、読み専の女神さんやーい。
「フルダイブ型のファンタジー系VRMMO、小説のためにやってみたいなー」
再召喚してみた。
…………
………
……
うむ、反応が無い。
あ、もしやコレは、読み専の女神さんは『VRゲーム〔SF〕』のジャンルが嫌いだったとか……?
これは困った。
もしそうなら『VRゲーム』ができないことに――。
≪只今準備中です、しばらくお待ちなさい≫
頭の中に、涼やかな声――毎度おなじみ、読み専の女神さんの声が響いた。
なんだろう? いいかげん聞きなれた声のはずなのに、今日は少しデジタル合成音っぽく聞こえる。
『VRゲーム』に飛ばすから、それっぽくしたのかな?
知らんけど。
――まだかなー。
――はやく! はやく!
――待ち時間って、暇だよねー。
で、待つこと5分。
≪その願い、叶えてあげましょう≫
よっしゃキター!
これで俺も、フルダイブ型のVRゲームで遊べるぞ!
楽しみだなー。
ゲームが始まったら、生産職とかテイマーで遊ぶんだー。
生産は、やっぱポーションを作るのが基本だろう。
イヤ、それとも農業をやるのが良いだろうか?
――あ、まさかそういう系ができないとか無いよね?
女神さん、そこんとこよろしくお願いしますねー。
そして俺は、毎度おなじみな光に包まれた。
でもって――。
俺は光に包まれたまま、またまたこの世界から消滅してしまったのであった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
気が付くと、俺は草原に立っていた。
どこまでも続く草原には、そよ風が吹いていた。
自然の緑の匂いが、鼻腔をくすぐる。
空の青さは美しく、太陽の光はやさしい。
浮かんでいる雲は緩やかに形を変え、踏みしめる大地には命を感じられた。
俺は思った。
すごい、まるで本物みたいだ……。
――とはならないんだな、これが。
なんせこちとらは、2度も異世界に飛ばされたおっさんなのだ。
ぶっちゃけこのVRの世界がリアル過ぎるせいで、むしろ今までの異世界転移と感想が何にも変わらん。
うむ、やっちまったな。
『フルダイブ型のVRゲームの世界へ飛ばしてくれ』ではなく、『フルダイブ型のVRゲームができるゲーム機をくれ』と、女神さんに頼むべきだった。
VR用のヘッドギアなんかを装着してゲームの中に入る、みたいな手順を踏んでからこの光景を見たなら『すごい、本物みたいだ!』とか思えたのに……。
やっぱ始まりのプロセスって大事だよね。
出撃シーンとか発進シークエンスとか、わくわくするもんね……。
まぁ、やってしまったものは仕方が無い。
これはこれで良しとしてしまおう。
ところでさっきから、この状態で何も起こらないのだが――。
これ、ゲーム始まってんの?
とか思ったら、何やら急に荘厳な音楽が流れ始めた。
そして、大空に巨大な文字が浮かび上がる。
『幻想世界 -online-』と。
どうやらこの『幻想世界 -online-』というのが、このゲームのタイトルらしい。
つーか今更だけど、タイトルすら知らないゲームを始めてしまった俺ってば、なかなかのチャレンジャーなのではないだろうか?
そうこう考えているうちに、いきなりそこいら中にモンスターらしき生き物が現れた。
角の生えたオオカミや角の生えたイノシシ、ゴブリンやオークと思しき人型のモンスター、空を飛ぶ小型の竜――アレは、ワイバーンかな?
いきなり戦闘かと思いきや、どうもそうでは無いらしい。
モンスターたちは俺など視界にも入っていないかのように、普通に素通りしていく――ふむ。
そんな光景を2~3分見続けた頃だろうか、いきなり俺は冬山に立っていた。
どうやら場面が切り替わるように、立っている場所そのものが切り替わったらしい。
そしてまた、色々なモンスターがゾロゾロと……。
あ、もしかしてコレって、オープニングムービー的なヤツか?
長いのかなー。
確かに本物にしか見えないから凄いとは思うのだが、異世界に行った経験のある俺としては正直そんなにそそられはしない。
場面は2~3分毎に切り替わっていく。
廃墟・湖・岩場・沼地・海・砂漠・荒地・山岳――――イヤ、長げーし!
いつまで続くのよこのオープニング!
くそう、飛ばしたいけどやり方が分からぬ。
つーか、飛ばせるのかどうかも分からんのだけどさ。
そして今度は、モンスターだけでなく人間も出てきた。
ん? エルフとかドワーフみたいなのもいるな――獣人とかはおらんのか。
モンスターと人との戦いが始まった。
なるほど、戦闘はこんな感じになりますよ……と。
戦闘シーンはそれほど長くは無かった。
それでも5分はあった気がするが。
戦闘シーンが終わると、急に世界が暗転した。
世界が明るくなると、俺は小さなログハウスの中にいた。
そして――。
≪ようこそ! 幻想世界 -online- へ!≫
涼やかな声が聞こえた。
どうやら、ようやくオープニングが終わったようだ。
…………
声がしたほうを見ると、何やら知った顔が立っていた。
薄い顔と胸をした、女神様である。
「あれ? ヨミセンさん、なしてここにいるの?」
≪私はあなたの守護神――女神ヨミセンです≫
は? 守護神?
どゆこと?
≪このゲームでは、それぞれのプレイヤーに対して、ランダムで1柱の神が守護神として付くこととなります。 守護神となる神の種類は全部で256柱、それぞれが様々な恩恵をプレイヤーに祝福という形で与えることになるのです≫
あ、イヤ、ゲームの設定をいろいろと説明してくれるのは有難いのですが……。
俺が聞きたいのは――。
「そうでなく――なしてゲームの中にあなたがいらっしゃるのかと。 もしやこのゲームって、やっぱしヨミセンさんが作ったとか?」
そうなるとアレだ。
前回の『乙女ゲーム』の邪神ガンマみたいに、余計な要素がブッ込まれている可能性が……。
≪ご安心なさい。 このゲームは、人間が作ったものです。 私とその他の神々は、出資者としての権限で出番をねじ込んだだけの存在に過ぎません≫
うむ、『ご安心なさい』とか言われても、それ不安感しか無いわ。
つーか、出資者?
≪よろしい、設定を説明しましょう――このゲームは、あなたのいた世界の約30年後に、私たち神々が作った出資会社の資金によりカプダイン社が制作したゲームです≫
ほうほう、カプダイン社とな――知らん会社だな。
つーかこのゲーム、30年後設定なんすね。
≪ですから、私たち神々はこのゲームの制作そのものには、一切タッチしておりません≫
と言われても、既にこうしてこのようにヨミセンさんが出演なさっておられますが?
その時点で信用とかできんす。
≪疑り深いですね……我々神々が関わったのは、守護神キャラとしての出演と、プレイヤーに与える祝福などの設定をそれぞれが制作陣に提案したことのみ――ゲームの内容や設定は全て制作会社の人間たちが作りしもので、もちろん祝福の内容もゲームとして破綻しないギリギリを責めていますからご安心なさい≫
うん、その『ギリギリを責めている』というのが不安だよね。
それに制作したのが人だとしても、ゲーム中に神様が介入したら意味が無い気が……。
≪それもご安心なさい。 このゲームには神々が介入できぬよう、神界の側から厳重なプロテクトが掛けられています。 たとえ神であろうと、ゲームに介入するには最低でも2週間は掛かるでしょう――その間に他の神々が介入阻止に動きますから、心配は無用ですよ≫
そうなんだ、なら少しは安心かな?
神様が介入すると、まずゲームバランスが破綻する未来しか思い浮かばんからなー。
≪それよりも、そろそろゲームを始めませんか?≫
「そーすね。 正直不安もありますが、それツッコんでいくとキリがなさそうですし」
確かにヨミセンさんの言う通り、いいかげんゲームを始めたほうが良かろう。
俺だっていつまでも、こんな問答は続けたくはないのだ。
≪では最初に、このゲームで使用するアバターを設定しましょう――まず、あなたが使用するアバターの名前を決めてください≫
おっ、まずはキャラクタークリエイトというヤツか。
名前かぁ……そうだなー。
「タロウで」
どうせ本名を使ったところで、身バレすることもあるまい。
タロウなんて良くある名前だし、ここは30年後のゲームという設定だしね。
≪タロウという名前は他に2名重複していますが、よろしいですか?≫
へー、同じ『タロウ』という名前を使っている人が、2人もいるんだ。
このゲームのユーザーが何人いるのかは知らんけど、ゲーム中に出会うならそれはそれで面白そうだ。
「タロウでお願いします」
≪アバター名『タロウ』で登録しました――次に、アバターの容姿を決めましょう≫
ふむ……全く別人のキャラでロールプレイするのも悪くないけど、ここはやっぱり自分感がある見た目にするほうがハマれそうな気がする。
なので――。
「とりあえず俺のリアルな姿をベースにして、そこから変更する――とか出来ますか?」
≪もちろん可能ですよ≫
ログハウスの中央に、俺が現れた。
上半身は裸で、下半身にはボクサーパンツのような黒のインナーを身に着けている。
うむ、普通にくたびれたメタボのおっさんだな。
正直、良い見た目とは言い難い。
≪まず、種族を設定しましょう≫
俺の手前40~50cmくらいのところに、ホログラムっぽいスクリーンが現れた。
そこにはいくつかの種族名と、その種族のゲームにおける補正値が書かれている。
――――――――
【人間】:ごく一般的な種族
特筆するものは無い。
【エルフ】:森に棲むと言われる長命な種族
魔法を含む遠距離攻撃ダメージに、+5%の補正
中・近距離攻撃ダメージに、-5%の補正
植物素材の加工に、+5%の補正
金属加工に、-5%の補正
【ドワーフ】:人間よりやや背が低く頑健な種族
中・近距離攻撃のダメージに、+5%の補正
魔法を含む遠距離攻撃ダメージに、-5%の補正
金属加工に、+5%の補正
植物素材の加工に、-5%の補正
【ホピット】:小柄で平和を愛する種族
全ての状態異常に対して、+50%の耐性を持つ
攻撃ダメージ全般に、-10%の補正
――――――――
あれ? 種族ってこれだけ?
少なっ! せめてあともう1種類は欲しかったな――ノームとか。
だがしかーし、種族などいくらあろうが俺には関係ない。
最初からどんなに種族の種類があろうが、人間を選ぶつもりだったのだから!
そもそも種族の設定とか俺には使いこなせる気がしないし、このゲームがどういう代物かというのも分かってはいないのだ。
だったら人間を選ぶのが、最も無難な選択というものであろう。
――という訳で。
モニターの【人間】という場所を、ポチっとな。
うむ、当たり前だがアバターの俺の姿には、何も変化がない。
モニター画面が、今度は体型等の設定画面になった。
選択肢がやたら多くて、何をどうしていいか良く分からん。
「どうすりゃいいんだコレ?」
≪口頭で『こんな感じにして欲しい』と要望を出していただければ、こちらでそれっぽく設定しますよ≫
迷って頭を抱えている俺に、ヨミセンさんがそう助け船を出してくれた。
なるほど、それは助かる。
「じゃあ――もっと筋肉質にしてくれます? あと少しばかりイケメンに」
≪では――こんな感じではどうですか?≫
俺のアバターが、まるで歴戦の勇士のような肉体になった。
顔もやたらイケメンになり、なんか30歳くらいに若返ったし――あと、薄くなっていた髪が増量した。
さすがにコレは、あまりにもカッコ良すぎないか?
つーか、もう別人じゃね?
「あー、すいませんが――顔は3割くらい元に戻してもらえます? あと筋肉の量も2割くらい減らして下さい」
≪このようになりますが、これでよろしいですか?≫
うむ、顔に俺の面影が戻ってきた――まだイケメンだけど。
身体は歴戦の勇士から、鍛え上げられた肉体くらいとなった。
かなり良さげな感じもするが、見た目は30そこそこ……。
だけど俺のアバターなんだから、もう少しおっさん感が欲しいところだな。
それと――。
「身長を5cmくらい高くしてもらえますか? でもって、脚をもうちょっと長く……」
≪身長は身体のサイズ変更で5cm高くします。 脚を長くするなどのバランス変更は、肉体の動作に大きな違和感を生じさせますので推奨しません――身体のバランスを変更したい場合は、同意書にオンラインサインが必要です≫
ふむ……脚を長くすると違和感が生じるのか。
よし、諦めよう――危なそうだし。
あとは――そう、おっさん感を醸し出したいんだった。
現実では若さが欲しいくせに、アバターが若いと自分感が無さすぎて嫌なのは何故だろう……?
「あのー、全体的に少しばかりくたびれた感を出して貰うって、出来ます?」
≪では――これでは?≫
俺のアバターの顔と筋肉が、少しダルっとした感じになった。
おぉっ! なかなかいい感じじゃん!
顔は俺感をちゃんと残しつつ、渋い感じのイケオジに。
身体のほうも『一線は退いたがまだ現役でも行けるぜ』くらいの、おっさん感が出ている。
「うん、これでokっす」
≪ではこれで決定としますが、よろしいですか?≫
あ、待てよ。
どうせなら――。
「右ひざに、矢傷とか付けられます? あと左の目じりに、10cmくらいの長さの刀傷も」
言うとすぐに、右ひざに矢傷・左の目じりに刀傷が追加された。
うむ、いい感じだ。
≪他に何か追加しますか?≫
「うんにゃ、これで決定します」
髪や目の色を変えるという選択肢もあるが、俺としてはこれで十分。
これ以上あちこちイジると、ゲームで自分が活躍している感が失われそうな気がする。
≪では、アバターを決定します――次は、初期ステータスにポイントを割り振りましょう≫
ログハウスの中心にあったアバターが消え、俺自身の姿がそのアバターに変わる。
そして目の前のスクリーン画面が、ステータスの数値の画面に変更された。
――――――――
レベル:1/20
生命力:150/150
魔 力:150/150
筋 力:5
知 力:5
丈夫さ:5
素早さ:5
器用さ:5
運 :5
職業1:---- / レベル:--/--
職業2:---- / レベル:--/--
残りSP:30
――――――――
おう……レベルの上限って20なのか。
これはアレかな? そのうちレベルの上限値――確かレベルキャップって言うんだったかな?――が、ゲームの進行に連れて上がっていく仕様なのかな?
でもってこのSP――たぶんステータスポイント――を、各数値に割り振るのだろう。
一応、それぞれの項目を確認しておこうか。
俺は勘で『たぶんこうだろう』と、まず生命力の文字を触ってみた。
――――――――
生命力:これが0になると、プレイヤーは死亡判定となる。
基本値は100で、筋力・丈夫さの数値により増加する
死亡したプレイヤーは、最後に利用した街の神殿かプレイヤーのホームで復活する。
――――――――
おっ、勘が当たった――てかホームってどこよ?……ここか?
よし他のも――。
――――――――
魔 力:魔法を使用する際に消費される。
基本値は100で、知力・丈夫さの数値により増加する。
消費魔力が足りない場合、魔法を使用することはできない。
――――――――
――――――――
筋 力:物理攻撃の攻撃力に影響する。
身に付けられる装備の最大重量に影響する。
筋力×5の数値が、生命力の基本値に加算される。
――――――――
――――――――
知 力:魔法の効果全般に影響する
魔法効果のある装備の最大出力に影響する。
知力×5の数値が、魔力の基本値に加算される。
――――――――
――――――――
丈夫さ:防御力・体力の自動回復力・魔力の自動回復力に影響する。
丈夫さ×5の数値が、生命力・魔力の基本値に加算される。
――――――――
――――――――
素早さ:戦闘での武器を振るう速度・各種アイテムや装備の使用速度・移動速度に影響する。
作製するアイテムの作製時間・成功率・品質にわずかに影響する。
――――――――
――――――――
器用さ:魔法を含む遠距離攻撃の命中力・採取・採掘に影響する。
生産・作製するアイテムの成功率・品質に大きく影響する。
――――――――
――――――――
運 :ドロップ・採取・採掘・生産・作製における品質に影響する。
採取・採掘・一部の生産における量に影響する。
――――――――
なるほど、自分のプレイスタイルによって数値をこれらに振り分けろ……と。
うむ、良く分からん。
なので――。
――――――――
レベル:1/20
生命力:200/200
魔 力:200/200
筋 力:10
知 力:10
丈夫さ:10
素早さ:10
器用さ:10
運 :10
職業1:---- / レベル:--/--
職業2:---- / レベル:--/--
残りSP:0
――――――――
全て均等に振り分けてみた。
こうするとだいたい器用貧乏になるらしいが――器用貧乏上等! 俺はいろんなことを楽しみたいんだ、ならばコレがベストな選択なはず!
つーか、何をどうすればいいのか良く分からんので、とりあえずコレで。
≪問題はありませんよ。 SPはレベルアップ毎に10加算され自由に割り振れますから、上げたくなった時に上げれば良いのです≫
ほら、ヨミセンさんもこう言っているし。
これでいいのだ。
――ということで、決定っと。
≪次は、戦闘職と生産職の中から、各ひとつずつを選んでください。 職業はゲームを進めているうちに増やす機会があります≫
あー、職業1と2があったのは、そういうことね。
ならやりたいことは決まっているので、選択はすぐだ――つーか、職業って増やせるのか。
まず戦闘職は『従魔士』で。
従魔士とは、他のゲームではテイマーとも呼ばれる、モンスターを仲間にして戦わせる職業だ。
実は俺は、モフモフで可愛い生き物――ネコを仲間にしたいのだ。
あ、ちなみにネコじゃなくても、トラとかライオンみたいなネコ科ならokね。
で、生産職は『薬士』を選んだ。
薬士とは、回復ポーションとか治癒ポーションなんかを作る職業――まぁ、生産職と言えばとりあえずコレ的なヤツである。
これでステータスも、決定……と。
ポチっとな。
≪アバターの初期設定が終了しました。 これで冒険の準備は整ったことになります――すぐに冒険に行きますか? それともチュートリアルを受けますか?」
あぁ、チュートリアルがあるのか。
ゲームにおけるチュートリアルとは、実際にゲーム内の行動をお試しでやりながら遊び方を学習するという、イージモードの練習パートのことだ。
つーか、スキル設定とかは無いんだね。
そういうゲームでは無いのかな?
うむ、チュートリアルは大事だな。
このゲームがどんなものなのかさっぱり分かってないのだから、やっておくほうが良かろう。
それに、一応ヨミセンさんには『ファンタジー系のVRMMOで』とはリクエストしたけど、実際にはどんなもんなのかも確認したいしね。
――てな訳で。
「はーい! もっちろんやりまーす!」
≪ではまず、私の祝福を授けましょう――チュートリアルを始めますので、そちらの扉から外へと出てください≫
俺の身体がふわっと一瞬だけ光り、ログハウスの扉が開いた。
ここから出ろと?
…………
扉から出ると、そこは――。
オープニングの最初の舞台、見渡す限りの草原だった。
著作権の関係上、ホビット(ヒに濁点)の名称をホピット(ヒに半濁点)表記に修正しました。
同じ種族とみなして下さい。
読者様におかれましては表記通りヒに半濁点で読むも、ヒに濁点に空目するもご自由ですので、その辺は臨機応変にお読み下さるようお願いします。
なお、お分かりかとは思いますが、作者は適当な人です。




