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無敵のギアロス

 ― 冬休み ―


 アンデッドの軍勢騒ぎからこっち、特に大きな事件は起きていない。


 まだ魔徒四天王も1人残っているし邪神ガンマもいるので束の間の平和なのだろうが、(エリス)たちはその束の間の平和を満喫していた。


 今年の冬休みは春の結婚式の準備のため、帰省はできない。

 何せ国を挙げてのイベントになるので、無駄にやたらと準備に時間が掛かるのだ。


 つーか、式前の準備段階にある『何とかの儀』みたいなの、ちょっと多すぎない?

 冬休みが終わると学園の授業があるからと、前倒しでこの冬休みにやっているのだが――その間に5つもこなさにゃならんのよ?


 もう面倒ったらありゃしない。

 こちとら春には元の世界に帰らにゃいかんから、もっとこの『乙女ゲーム』の世界を楽しみたいというのに。


 ちなみに今日は、仲間たちと雪山に遊びに来ている。


 冬の『恋のどきどきイベントスロット』で『マルオース』と『雪山』で『埋まる』という目が出たので、ならばこの際とことん楽しんでしまおうと考えた結果だ。


 アンとガーリも、帰省せずに王都に残ってくれたので一緒に雪山へ来ており――。

 ついでにマリアも今回は王都に残ったので、ユリオスくんも当たり前のように帰省せず王都に残っていたということで、バカップル2人も連れてきている。


 まぁ、全員参加ってヤツだね。

 で――。


「大きさはこのくらいでいいかな、エリス?」


「アタクシたち2人なら、このくらいでよろしいのではありません?」


 マルオくんと(エリス)は今、『かまくら』を作るべく雪をドーム型に盛り上げていた。

 どうせマルオくんと埋まるなら少しでも楽しい状況で埋まろうと思い、(エリス)が提案したのである。


「よし、じゃあ掘ろうか」

「入口の大きさは、このくらいかしら?」

「あまり広いと崩れやすくならないか?」

「ではこのくらいで……」


 マルオくんも案外楽しんでくれているようだ。

 まぁこれも2人の共同作業ではあるので、その辺も楽しんでくれている理由かもしれない。


 つーか、思っていたより『かまくら』作りが楽しい。


 …………


「よし、こんなものだろう」

「完成……ですわね」


 出来上がった『かまくら』を見て、互いに顔を見合わせニコリと笑う。

 さぁ、中へと入ろう。


「ちょっと暗いかしら?」

「待っていろ――【照明(ライト)】」


 魔法で灯りをともしてくれたので、かまくらの中が明るくなった。

 なにげに昼光色とかでは無く電球色――しかも光量弱め――というチョイスで良い感じの雰囲気を醸し出すとは、腕を上げたなマルオくん。


 実はこのかまくら作り、頑張っているマルオくんへのちょっとしたご褒美のつもりでもある。

 狭い空間に2人っきり、しかも寒いのであるから『寒くないかい、こっちへおいでよ』的なことを、マルオくんにさせてやろうというのだ。


 やろうというつもりであったのだが――。


 なんか思ったより、かまくらの中が暖かい。

 しかも作る時に目算を誤ったのか、中が想定していたよりも広い。


 これ、マルオくんと(エリス)の間に火鉢とか置いて、餅が焼ける広さだよなー。

 とか思っていたら、お邪魔虫がやってきた


「おっ、なんだよいいもん作ってんじゃねーか。 オレも入れろよ」


 永遠のやんちゃ坊主、コレスである。

 こいつ身体はでかくなったくせに、中身は出会った頃と変わらず子供のままなのだ。


「駄目だ入ってくるな、これは2人用だ」

「そうですわ。 入りたいなら、ガーリと作りなさいな」


 こいつの手綱を握っているはずのガーリはどこ行ったー?

 邪魔だから早くどっかに連れてけー。


「もう、どこへ行ったかと思ったら――コレス、お邪魔ですわよ」


 噂をすれば何とやら、ガーリが来てくれた。


「いやあ、こいつらが面白そうなの作ってたからさ――なぁガーリ、オレたちも作らねえ? かまくら」

「もう、仕方ないですね。 付き合ってさしあげ――」


 ドオォォーン!


 ガーリが仕方ない(てい)でコレスに同意しようとしたところで、大きな音がした。

 は!? 何の音!?


「まさか……」

「ヤバい! マルオ、エリス――逃げろ!」


 逃げろと言われてもだな……。

 なんかゴゴゴという音が聞こえるし――これはもしや、近づいてきているのか?


「何やってる逃げろ! 雪崩(なだれ)だ!」


 コレスが逃げながら何か叫んで――って、雪崩だと?

 なにそれ、やべーじゃん!


 急いでかまくらから出ようとしたら、マルオくんに止められた。


「待てエリス、このかまくらはかなり頑丈に作ってある。 むしろ出ない方が安全かもしれない」

「なるほど、そうですわね」


 確かにこのかまくらは、かなり頑丈に作った。

 きっと雪崩にも負けず、持ちこたえてくれるはず。


 そうなるとアレだな。

 これは雪崩で狭いかまくらに閉じ込められ、救助が来るまで2人っきりで互いに寄り添わざるを得ないという、黄金パターンな状況に……。




 ――と、思ってた時期が(エリス)にもありました。


 バコオォォーン! と、かまくらがぶっ壊れた。

 うむ、雪崩の威力というのを甘く見ていたな。


 おかげで(エリス)とマルオくんは、いともあっさりと雪崩に飲み込まれ――。


 雪に埋まることと相成ったのである。

 おそるべし『恋のどきどきイベントスロット』、情け容赦なく埋まってしまった……。


 が、しかし。


 チート悪役令嬢を甘く見るでない。

 こんな雪など、埋もれたところでどうということはないのだ。


 (エリス)はマルオくんの気配を感知し、そのまま雪をかき分けて救出して小脇に抱え――。

『とう!』と雪の中から脱出したのである。


 《恋のどきどきイベントが終了しました》


 ピロリロリーン♪

 《マルオースの好感度が上昇しました》


 うむ、だろうね。

 今更感は拭えないが、好感度はあるに越したことはないので良しとしよう。


 これでいいのだ。

 それよりも――。


「みんな無事かー!」


 (エリス)の小脇から脱出したマルオくんが、大声でみんなに問いかけた。

 おいおい、そんな大声出したらまた雪崩が起きかねんぞ。


「コレス無事だ!」

「ガーリも無事です!」


 だろうな、お前たち(エリス)らを放置して逃げてたもんな。

 コレスよ、護衛の任務はどうした?


「ガルガリアン無事だ――エフータを連れてこなくて良かった……」


 ガルガリアンくんは今回、婚約者いじりを避けてエフータを連れて来ていない。

 全く空気を読まないヤツである。


「フラワキ無事でぇ~す」

「えっと……アン、無事ですわ」

「あー、ラルフ無事~――ていうか、ごめんよ~」


 うん? ちょっと待って、ごめんて何?

 ラルフくんひょっとして、何かやらかした?


 …………

 ………

 ……


 ――点呼に2人ほど返事が無い。

 マリアとユリオスくんだ。


 気配を探ると――いた。

 どうやら2人とも、元気で無事らしい。


 まぁ、マリアはもう既にチート主人公キャラだからなー。

 そのマリアと一緒に居ればユリオスくんも当然無事だろうから、これは想定内である。


 ……なかなか出てこない。

 あいつら、絶対に埋まってるのを楽しんでるな。


 心配していた他のみんなも、(エリス)がある1点を見ながらジト目をしているのに気づいたようだ。

『あー、なるほどねー』といった表情で、心配するのを止めている。


 みんなが集まり『まだ出てこないのか』と待つのに飽きてきた頃、ようやくヤツらが動いた。

 ボコォ!っと雪の中から飛び出て来て――。


「美少女聖女マリアちゃん、華麗に脱出!」

「俺様たちの、スーパーな愛のなせる業だぜ!」


 うむ、お前らそのセリフ、雪の中で練習してただろ。


「いえーい!」

「うえーい!」


 なんかイラッとするからハイタッチはやめれ。


 ――ん? マルオくんその顔は何かな?

 ひょっとして、あいつらみたいにハイタッチして『うえーい』とかやりたいの?


 やらんぞ。

 さすがにアレはやりたくない。


 そうそう、さっきのラルフくんの『ごめんよ』だが――。

 上のほうでアンと2人、魔法の実験とやらをしていたのだそうだ。


 で、雪上で爆炎魔法をうっかり使ったせいで、雪崩が起きたという……。

 犯人はてめーかラルフ――あとで説教な。


 ――それとマルオくん、その顔やめれってば。


 だーかーらー、ハイタッチして『うえーい』とかやんないからね。



 ――――



 ― 3月1日 ―


 光陰矢の如し。


 しかも時の流れは年齢とともに加速するので、エリスの中の人でおっさんの俺の時間は、クラスのみんなよりも早く過ぎたりする。


 季節はあっという間に過ぎ去り、春となった。

 そろそろ元の世界に戻る予定の俺ではあるが、名残惜しいよりも前にやらねばならぬことが終わっていないので、正直焦っている。


 やらねばならぬこと――。

 それはもちろん『邪神ガンマ』の封印である。


 魔徒四天王――不死のゲヒャナによる襲撃以降、『邪神ガンマ』絡みと思われる事件は起きていない。

 だからといって王都が平和に満ち溢れているかというと、そんなことも無い。


 帝国の工作員がまだ王都に紛れているという噂と、住民の中に魔徒四天王に関係しているジャー教徒がいるという事実で、王都の人たちは互いに疑心暗鬼となり雰囲気が悪くなっている。

 その上、大幅に人員を増やした七色教の聖騎士団によるジャー教狩りは思うように成果を上げられず、王都のギスギスした空気に拍車をかけていた。


 邪神ガンマとの戦いは必ずある。

 なぜなら春の『恋のどきどきイベントスロット』の結果が、『攻略対象キャラ全員』と『レインボー学園』で『最終決戦をする』という結果だったのだ。


 この最終決戦が、邪神ガンマとの戦いでなくて何だと言うのか。


 (エリス)の準備は出来ている。


 いざ、決戦へ!


 ――――


 ― 十数日後 ―


 決戦に向けて意気込んだのはいいが、もう卒業式の前日となった。

 いつ何が起きても対応できるように緊張感を持って日々を過ごしていたのだが、こんな時期になっても未だに何も起こってはいない。


 もうこれはアレかね。

 卒業式が最終決戦の場になるってことでいいのかね?


 学園最後のイベントでもあるし――。

 それに卒業したらもう学園に来る用事とか無いんだもん。


 ――と、いう訳で。


 今日は卒業式の前日、予行演習の日だ。

 予行演習と言っても、やることは式次第の進行を確認するだけ――なのだが、規模だけはわざわざ全校生徒を集めた大掛かりなものである。


 ちなみにこの予行演習、当日の警備の確認も兼ねている。

 なので今日も学園の内外には、警備のための騎士たちがウロウロしていて邪魔くさい。


 卒業式の予行演習はすでに始まっている。

 ちょうど今、送辞を読み終わった(てい)の2年生代表が壇上から降りたところだ。


「答辞――卒業生代表、マルオース・アッカールドくん」

「はい!」


 講堂にびっしりと詰め込まれた生徒の視線が、壇上へと向かうマルオくんへと向かう。

 試験でのトップはマリアだが、さすがにここは次期国王が代表で答辞を読むという忖度が行われたようだ。


「答辞、卒業生代表マルオース・アッカールド――――答辞、終わり」


 今日は予行演習なので、もちろんマルオくんも答辞を読む体でおしまい。

 壇上に立っただけで、すぐに降りてきた。


 戻ってくるマルオくんと目が合ったのでニコリと笑いかけると、向こうもニコリと返してくれる。

 どうやら婚約破棄フラグは、仕事を忘れてニートになってくれたらしい。


 ――なんか急に講堂の外が騒がしくなった。

 笑顔で見つめあっていた(エリス)とマルオくんは、見つめあいながら互いに眉の間に皺を作り、このタイミングで来るのかと笑顔を引きつらせる。


 伝令が来た。


「ご報告! 聖騎士団が攻め入ってまいりました!――この講堂は既にとり囲まれつつあります! 我ら騎士が必ずお守り致しますので籠城のご準備を!」


「聖騎士団だと!?」

「急いで出入り口に閂を――」

「なぜ聖騎士団が!」

「教員たちは生徒を――」


 講堂内は大混乱となった。

 混乱しているその他大勢をよそに、(エリス)たちは特に声を掛け合うまでもなく自然に集まる。


「まさか今日を狙って来るとはな」

「アタクシ、明日の卒業式を狙って来るかと思ってましたわ」

「わたくしも」

「オレもそう思ってた」

「俺様は予想してたぞ」

「嘘つけ」


 この日が来ることを覚悟していた仲間たちは、落ち着いたものだ。

 だが問題は――。


「問題は武器だな」

「あぁ、卒業式の予行演習ってことで、教室に置いてきちまったからな」

「僕は魔法で戦うから問題ない」

「あたしもこのまま戦えますよー」

「アタクシも問題なく戦えますが――」


 武器を持たずとも問題なく戦えるのは、(エリス)とマリアとラルフくんくらいか……。

 他は武器が無いと、さすがに少々心許ない。


 ちなみにガルガリアンくんは、武器があっても心許ない。

 その時だった――。


「こんなこともあろうかとぉ、ボクがマルオ様の指示で講堂に武器を隠しておきましたよぉ~――もっともぉ、隠してあるのは普段みんなが使っている武器よりちょっと落ちる品だしぃ、防具も無いですけどねぇ」


「でかしたぞ、フラワキ!」

「お褒めいただきぃ、光栄ですぅ」


 フラワキくんが、マルオくんに褒められてデレている。

 イヤ、マジで良くやったぞフラワキくん。


 で、講堂のどこに隠してあるん?

 フラワキくんが『どうぞこちらへぇ』と案内した先は……ステージ?


「この中に隠してあるんですよぉ」


 とフラワキくんが、ステージの段差部分を何やらガタガタといじると――。

 ガコン、という音と共に板が外れ人が入れそうなくらいの入り口が出来た。


『しばしお待ちおぅ』と中に入ったフラワキくんがその出入り口から出てくると、その両腕には大きな袋が2つ抱えられていた。

 袋の中には剣・鞭・槍・弓矢・杖などの(エリス)たち用の武器の他にも、多種多様な武器がゴロゴロと……。


「あれ? なんか武器多くね?」

「そこはほらぁ、ボクらの他にも戦える人員はいますからねぇ――先生たちとか優秀な3年生とかぁ、1年生や2年生のトップクラスも戦えるでしょう~。 武器はまだあるのでぇ、使えそうな人は使いましょうよぅ」


 おいおいフラワキくん、君ちょっと有能過ぎない?

 つーかさ――。


「そんな予算、良く国庫から出す許可が下りましたわね」


 (エリス)がこの件を命じたマルオくんのほうを見て、感心した顔をすると――。


「あぁ、それは僕だ。 最近じいさんに宰相府の手伝いを無理矢理やらされていてね、ちょっとムカついてたからこれ幸いと書類を弄ってこの件に使うための裏金を作っておいた」


 と、ガルガリアンくん。

 イヤ、おい、それって国庫の横領とかになるんじゃね? などと聞いてみたら――。


「そもそもがマルオの命令なんだし、僕が罪を問われることは無いよ」


 とのことらしい。

 ガルガリアンくんといい、実行犯のフラワキくんといい、それらを命じたマルオくんといい――こいつらなにげにやりたい放題だなおい。


「じゃあ始めようか。 さっきの騎士と先生たちを呼んでくれ。 まずは作戦会議だ――ガル、任せるぞ」

「あぁ、任された――まずは戦力分析から始めようか」


 マルオくんがガルガリアンくんに議長役を任せ、作戦会議が始まった。


 …………


 まず、現在の状況はこうだ。

 学園に攻め入ってきた七色教の聖騎士団は約600名、対して警備に当たっていた騎士は300名。


 守備側の騎士のほうが数が少ない上に、そもそもそれぞれの騎士は貴族である生徒の家から出されている、言わば寄り合い所帯だ。

 なので騎士同士の連携が今ひとつである。


 個々の戦力としては騎士のほうが上だろうが、連携に不安がある事とそもそも2倍の数の敵ということで、おそらく不利は間違いない。


 教師たちによる『外の騎士に守りに徹するよう命じ、援軍を待つ』という戦略は、即座にガルガリアンくんに却下された。

 援軍が間に合わない可能性が1つと、もう1つは突破された場合に下手に頑丈に作られたこの講堂内に、魔法による攻撃を大量に叩き込まれるとその威力が講堂内に籠り、まだ未熟な1・2年生に被害が出かねないという理由からである。


 なので最善は、使える戦力をかき集めて講堂の外へと打って出ること。

 そして作戦の第一目標は、戦いの定石――敵の指揮官を叩くことだ。


 向こうの指揮官は、『魔徒四天王』の最後の1人である可能性が高い。

 そいつとこれから出現するであろう『邪神ガンマ』の相手は、(エリス)がするつもりである。


 作戦会議の際に『なぜ七色教の聖騎士団が攻めてきたのか』という議論にもなりかかったが、そこはあえて無視した――そんな議論をしている時間とか無いし。


 無理に推察するならば、七色教そのものが敵なら熱心な信者たちも聖騎士団に交じって攻め入ってくるはずなのでその線は無し。

 ということは、聖騎士団だけが敵だということだ。


 そうなると予想だが、聖騎士団がジャー教に乗っ取られていたとか、聖騎士団の偉いさんが魔徒四天王だったとか、まぁそんなところだろう。


 基本的な作戦は、雑だが決定した。

 先生たちはもちろん、生徒たちからも自己申告で『最低限、騎士より実力がある者』を集め、約100人の戦力を投入する。


 防衛目標は、講堂の全出入口。

 攻撃目標は、敵指揮官。


 まずは敵の戦力が厚いと思われる北西側から、一斉に出撃だ!


 …………


「お退きなさい雑兵ども! マルオース様の御成りです、頭が高いですわよ!」


 先頭で講堂の外に出た(エリス)は、入り口を守っていた騎士たちの前に出て鞭を振り、強引に聖騎士を薙ぎ払って道を開けた。

 この場の主役は、まずはマルオくんなのだ。


 苦戦していたであろう騎士たちも、王子の出馬ともなれば士気が上がる。

 それだけでも戦力の底上げになり、こちらが有利になるはずだ。


「皆の者、大儀! これよりはこのマルオースが指揮を執る! 皆存分にその武勇をこの私に見せるが良い!」


 騎士が『おおぅ!』と叫び声で応え、一枚岩になったのが肌で分かる。

 気合が入りアドレナリンが放出され力が増した騎士たちが、一気に聖騎士を押し返す。


 その時だった。


 勢いづいて聖騎士を押し返したはずの騎士の一角が、相当なパワーで弾き飛ばされた。


「敵の頭はそこか! このコレス・ゼクロードが、その首もらい受ける!」


 敵の首魁はそこにありと見たコレスが飛び上がり、騎士や聖騎士を踏み台として瞬く間にその場へと迫った。

 目的の相手が間合いに入るや否や、コレスが剣を一閃――見事に切りつけたかと思いきや『ガキィン』と音がして、コレスが飛び退った。


 コレスとコレスが切ったはずの相手を中心に、騎士と聖騎士が下がって戦場が開ける。


「嘘だろおい……業物じゃないにしても――剣が――」


 コレスが右手に握っていた剣は、根元からポッキリと折れていた。

 そして、切られたはずの男には見覚えがある。


「やはり最後の魔徒四天王は、あなたでしたのね――ギアロス聖騎士団長」


 予想はしていた。

 だがあまりにもバカバカしい推論だったので、『まさかな』と思って自分で否定してしまっていたのだ。


 だってさ、その推論ってのが――。


『ゴーアン』『ゲヒャナ』『グーガル』と来てトップが『ガンマ』ってコトは、最後の魔徒四天王が『ギ』から始まれば頭文字で『ガギグゲゴ』が揃うんじゃね?

 知ってるヤツで『ギ』が頭に付くのは――ギアロスとか?


 みたいな感じだったので、あまりにバカっぽいなと思いお蔵入りさせていたのである。


「おやおや、もしやバレておりましたかな? 左様、それがしの真の名は『無敵のギアロス』――最強の魔徒四天王である」


『無敵のギアロス』が高らかに名乗りを上げた。


 最後の魔徒四天王は、どうやら弱くは無さそうである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >俺エリスの小脇から脱出したマルオくんが、 >笑顔で見つめあっていた俺エリスとマルオくんは、見つめあいながら互いに眉の間に皺を作り、このタイミングで来るのかと笑顔を引きつらせる。 >ち…
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