異世界は恋の予感
第2部開始しました。
無理せずボチボチ更新していく予定。
あと1話10000文字超えとかはもう止めようと思います。
遅筆なのでしんどいのですよ、さすがに。
30万文字くらいで予定ですので(願望)、引き続きお付き合いいただけると有難いです。
うむ、面白かった。
「これも★は5つ……と。 他に面白そうなのは――」
俺は【☆ロリコン勇者☆ ~アルスの大冒険~】を書きあげてからずっと、新たな作品は書かずに『小説家になるぞ』で読み専をしている。
忘れている人もいるかもしれないから、自己紹介をしておこう。
俺の名は『有江内 太郎』――異世界帰りのおっさんだ。
務めていた会社を辞めていたので無職だったが、異世界で【飴細工:極】のスキルを手に入れたので、先月から飴細工の店を始めてみた。
異世界の魔物なんかをデフォルメしたものとか、武器や防具の形を模した飴細工がなかなか評判で、おかげで最近は口コミで客が増えなかなかの稼ぎとなっている。
店の広さは作業スペース込みで5坪と広くは無いが、立地としては繁華街にほど近い商店街の――って、そんなどうでもいい話は置いといて。
――話を戻そう。
で、読み専をしている俺なのだが――。
今ハマっているのは『悪役令嬢もの』というジャンルだ。
これがなかなか面白くて、最近ブックマークをしたものはだいたいこのジャンルである。
『悪役令嬢もの』って、いったいなんぞ? という人もいるだろうから、簡単に解説をしておこう。
そもそも『悪役令嬢』とは乙女ゲーム――女性が主人公で、好みの男性となんやかんやして仲良くなるのが目的のゲーム――の中に登場して主人公を邪魔したりイジメたりする、ゲーム内カーストの上位に属するライバル的な立場の女性キャラを指す。
このライバルキャラがだいたい、大貴族や大会社の社長や大金持ちの『令嬢』だったりするので、こういったキャラのことを『悪役令嬢』と呼ぶらしい。
で、この『悪役令嬢』なのだが――。
ゲームがエンディングとなりハッピーエンドを迎えると、主人公に対してさんざん嫌がらせやイジメをしてきた『悪役令嬢』はそれまでの行いの報いとして、没落したり婚約破棄されたり殺されたりというひどい目に遭ったりする――いわゆる『ざまぁ展開』というヤツだ。
『悪役令嬢もの』と言われるジャンルの小説とは、乙女ゲーム内の『悪役令嬢』に転生してしまった主人公が、その『悪役令嬢』としてのバッドエンド――没落や婚約破棄、死罪など――を、上手いこと恋愛もしつつ頑張って回避していくというようなストーリーの物語なのだ。
もっとも最近では、そこからさらに派生した作品も多くて、バリエーションもかなり増えてたりするんだけどね。
まぁ、基本はそんな感じである。
こんな説明じゃいまいちピンとこないかもしれないが、まぁ1度読んでみるといい。
案外面白いのですよ、これが。
そんなこんなで最近はずっとこの『悪役令嬢もの』ばかり読んでいたのだが――。
「だいたい面白そうなのは読みつくしちゃったかなー」
検索を『悪役令嬢・100000文字以上』に絞っているのだが、もう出てくる結果が既読のものか自分に合わなかったものばかりになっている。
自分に合う作品って、ありそうで案外無かったりするんだよね。
もう1回検索。
うーむ……やはり結果は変わらんか……。
どうすっかな……。
今度は別なジャンルを読むことにしようか――イヤ、待てよ?
自分が読みたい作品が無いなら、自分で書けばいいじゃん!
そうだよ、パンが無いならケーキを食べればいいの精神だよ!
――違うか。
まぁ、でも、俺はこれでも長編を1つ書いたことのある作家(あんまし読まれなかったが)なのだから、いっそ自分で書いちゃうってのもアリかとは思う。
――試しに書いてみようかな?
あ、でも待てよ……。
やっぱ『悪役令嬢もの』を書くんだったら、『乙女ゲーム』とかチラっとやっておいた方がいいのかな?
だいたいの雰囲気くらいは掴んでおいたほうが――。
つーか、ちょっと『乙女ゲーム』とやらをやってみてから、小説のほうを書くかどうかを決めてもいいかもしんない。
うむ、そうしようっと。
俺はテレビの電源を入れ、据え置き型ゲーム機を起動した。
そしてオンラインで、適当に価格の安い『乙女ゲーム』を物色する。
そして――。
「やっぱ『悪役令嬢もの』を書くんなら、『乙女ゲーム』の世界ってのを知っておくべきだよねー」
などと、迂闊なひとり言を口にしてしまったその時――。
「その願い、叶えてあげましょう」
何度か聞いたことのある、涼やかな声が聞こえた。
この声は!?――ひょっとして『読み専の女神』さん!?
えっとあの……おい! ちょっと待って!
これってまさか、また異世界に飛ばされるの!?
声は続く――。
「どうか作品の執筆に生かしてください」
イヤイヤイヤ、『乙女ゲーム』の世界に行くつもりとか無かったんだけど!?
つーか、まだ『悪役令嬢もの』を書くって決めてないのに~!!
そんな俺の意志など無視して――。
俺は光に包まれたまま、やっぱりこの世界から消滅してしまったのであった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
気が付くと、俺は空中に浮いていた。
白っぽいローブのような服を着て、なんか豪華で広めの部屋の天井辺りに……プカプカと。
下のほうにはこれもやたら豪華な天蓋付きのベッドがあり、その周りを数人の人たちが取り囲んでいた。
そしてそのベッドには、真っ青な顔色をした少女が1人――。
取り囲んでいた人たちはみな泣いており、ベッドの中の少女は息が荒く苦しそうだ。
これはどういう――。
「あぁ神様! わしの命ならいくらでも差し出します! ですからどうか……どうか孫娘の――エリスの命をお救い下さい!」
俺が何が何やらまだ理解できずにボーっと見ていると、ベッドの右側にいる爺さんが、なにやら両手を合わせて祈り始めていた。
その時、俺の右隣が光り輝き直後にどこかで――というより、ついさっき聞いた声がした。
「その願い、叶えてあげましょう」
これもまたさっき聞いたようなセリフのしたほうを見ると、以前に行った異世界の教会で見た『女神ヨミセン』の像にそっくりな胸と顔の薄い年齢不詳の女性が、光り輝きながら俺の横にプカプカ浮いていた。
うむ、たぶんこの女性は『女神ヨミセン』――つまりは『読み専の女神』さんだろう。
なにげに実は初対面なので『あ、その節はどーも』的な感じで、とりあえず頭を下げておく。
本当はいきなりまた異世界に連れてこられた件でクレームの1つも言ってやりたいところだが、さすがにこの場の空気だと言い辛い。
俺は空気を読む男なのだ!
「め……女神様!」
「女神ヨミセン様!」
「ああっ女神さまっ!」
さっき祈っていた爺さんと、女の子の父と母と思しき人たちが『読み専の女神』さんを見上げて、ものすごーく驚いた顔をしている。
つーか『女神ヨミセン』さんってば、なにげにこの世界でも認知されてるんすね。
「その娘の肉体を、私の横にいるこの『使徒タロウ』に預けなさい。 さすれば娘の病は3年で完治することでしょう」
『読み専の女神』さんが、まるで神様の御託宣みたいなことを言っているのだが……。
ちょっと待てコラ、何だその設定?
俺ってば『使徒』なの? ちなみに何番目?
「本当に……本当に娘の病は治るのですか!?」
女の子の母親らしき人が、女神さんにそう聞いてきた。
その目からは涙が溢れている。
「治ります。 ですがその病は魂の病――治すには肉体を『使徒タロウ』に任せて3年の間、娘の魂をゆっくりと休ませる必要があります」
なんかそれっぽいことを言ってはいるが、それってまさか――。
「それで――それで治るのならば、お願いいたします! 女神様!」
「エリスの命をお救い下さい!」
「足りなければ、わしの命でも魂でもお捧げします! ですからどうか孫を!」
父・母・爺さんが、必死な表情で女神さんに手を合わせている。
藁にも縋りたいという気持ちが伝わってくる。
「女神様、どうか姉上をお救い下さい!」
「あねうえをおすくいください」
今までポカンと見ていた、小学校高学年くらいの男の子と低学年くらいの女の子も、女神さんに向かってお祈りを始めた。
ベッドに横たわっている女の子の弟と妹だろうか――なんか健気で可愛い。
「3年の間、娘は『使徒タロウ』となりますが――宜しいのですね?」
と、『読み専の女神』さん。
なるほど、やっぱり今回はそういう設定ですか……。
俺にあの女の子になって、3年間過ごせとおっしゃるんですね。
で、たぶんあの女の子は『悪役令嬢』なんでしょ?
「エリスの命がそれで助かるならば」
「どうかお助け下さい、女神様」
父母がすがるような眼で、女神さんに懇願した。
爺さんはさっきから目を閉じて、お祈り中だ。
弟妹たちは目をウルウルさせながら手を合わせている。
「よろしい。 ならば『使徒タロウ』よ、あの娘――エリスの中に入るが良い」
……えー……なんかそう言われても、あの女の子と家族をこっちの都合に巻き込んじゃうみたいで、すんごい気が引けるんですが……。
「……入るが良い」
あの……女神さん? ジト目で睨むの止めてもらえませんか?
つーか、たかが俺の小説のためにそこまでするのは、さすがにどうかと……。
ちょっとばかし気が進まないと言おうとしたんだけど、口が開かない。
つーか、金縛りに会ったように動くこともできぬ。
「入・る・が・良・い」
分かりました、分かりましたってば――入りますよ。
入って、3年間『悪役令嬢』をやればいいんでしょう?
もう覚悟を決めましたってば。
3年間『悪役令嬢』をやって、あなたのリクエストに応えて『悪役令嬢もの』の小説を書きますよ!
なんかごめんね、女の子とその家族の皆さん。
悪いのは全部『女神ヨミセン』さんだから、俺を恨まないでね。
覚悟を決めると、なんか動けるようになった。
さて、逆らえないみたいだし仕方ないから――頑張って『悪役令嬢』になるとしますか。
俺はベッドに横たわる女の子に近づき――。
えーと……入るってどうすればいいんだ?
ええい! ままよ!
俺はものは試しと、女の子に飛び込んでみた。
すると俺の手が女の子に触れたとたん、スルっと吸い込まれた。
「願いは叶えました。 皆の者、感謝するように」
そう言うと、女神さんの気配は消えた。
俺は女の子の中に入ってしまい外の様子が見えないが、おそらくいなくなったのだろう。
つーか『皆の者』の中には、俺も入ってるんだろうなぁ……。
感謝しろって言われても――。
『乙女ゲーム』の世界に連れて行ってくれって、頼んだつもりは無いんだけどなぁ……。
――――
― 1週間後・夜 ―
俺が女の子――『エリス』の中の人になってから、早1週間が過ぎた。
『エリス』になったのはいいが、俺はまだ状況がしっかり飲み込めていなかったりする。
つーか、今回の異世界ってば『憑依』だよねー。
転移とか転生とかでなく……。
異世界憑依――新たなジャンルだな。
ちなみに俺の中には、半覚醒状態の『エリス』がいる。
肉体の主導権は俺が握っているのだが、心の奥底のほうにいる『エリス』の感情がそれなりに伝わってきていたりするのだ。
当初は俺もエリスも困惑していたので、困惑(俺)×困惑(エリス)で大困惑になっていた。
どうやら俺の心理状態は、微妙にエリスに引っ張られるらしい。
――理由は知らん。
半覚醒状態で俺の中にいるせいか、エリスの覚えていることは俺にも知識として入ってくる。
おかげでこの世界の知識に関して困ることは無いし、貴族としての立ち振る舞いにも不自由はしていない。
なので日常生活にも何の不自由も無いのだが、エリスの感情が伝わってくるというのには、まだ慣れることができない。
例えば、エリスはキノコ類が嫌いだ。
なので食事にキノコ類が出てきた時とかに、露骨に嫌そうな感情が俺の中のエリスから駄々洩れしてくる。
俺はキノコ類が好きなので、食べる時に『うえ~』みたいな感情が伝わってくると、美味しく感じられなくなってしまうのだ。
分かっていれば無視することもできなくも無いと思うのだが、慣れないせいか急にエリスの感情が伝わると、気になってしゃーないのである。
あと、風呂に入る時にもすごく嫌そうな感情が伝わってくる。
どうもエリスは、自分の体形を他人に見られるのが嫌いらしい。
俺に見られるのが嫌だというよりも、上から下までストーンと真っ直ぐな自分の体形にコンプレックスを持っているようなのだ。
大丈夫だよー、まだ13歳なんだから気にすること無いよー。
これからだって……たぶん。
言っておくが、お風呂に入るからといって俺がエリスの裸にハァハァするということは無い。
ロリ好きじゃねーし。
イヤ、嘘じゃないから。
……だから、無理もしてないし見栄も張ってねーよ。
つーか、エリスの肉体に憑依してから、そっち系の欲とかは無くなってしまっている。
自分の肉体ではないせいなのか、女神さんがその辺調整したのかは知らんが、なんかそうなってしまっているのだ。
あ、風呂と言えば面白い発見があった。
エリスの髪型は金髪の縦ロールなのだが、これは巻いているとかではなく天然だったのだ。
風呂上がりの髪をトリートメントしながら乾かすだけで、なんか勝手に縦ロールが出来上がっていくのである。
あとはメイドさんたちが整えるだけで、キラキラツヤツヤの縦ロールヘアの出来上がり。
ぱっと見は作るのが大変そうな髪形に見えるが、実はエリスの金髪縦ロールはナチュラルな髪形だったという……。
おそるべし異世界ヘア。
ついでだから、エリスについて少し説明しておこう。
身長はこの年齢にしてはけっこう高め、金髪縦ロールの髪形に睨むと怖そうな切れ長の青い目。
細身の身体で運動神経はまぁまぁ、そしてやや病弱。
頭は良く、勉学に関しては世代トップクラス(家庭教師・談)らしい。
フルネームは『エリス・ハイエロー』
辺境候ハイエロー家の長女で、家族は祖父・父・母と弟・妹が1名ずつ。
ちなみにこのハイエロー家の領地は、とんでもなくデカい。
所属する『アッカールド王国』の実に1/3もの土地を領地とし、なんと国の人口の約1/4がハイエロー家に属するという、小国家並みの貴族なのだ。
つーか、大丈夫かこの国?
こんなデカい領地を1貴族が持ってるとか、洒落にならなそうなんだが……。
まぁ、その辺の設定にツッコミを入れるのも野暮というものだろうから、あんまし気にするのは止めよう。
そんなハイエロー家なので、当然のことながらその権力もデカい。
他の貴族なんぞ相手にもならず、対抗できるのは王家だけというのが現状だ。
ぶっちゃけ俺が憑依しないでエリーがそのまま悪役令嬢だったら、主人公ってば普通に詰む気がする。
たぶんハイエロー家の権力に対抗できるだけの何らかのチートを、主人公は持っているのだろう。
そうでないと、あまりにも難易度が高すぎる。
ハードモードにも程があるというものだ。
――そうだ、肝心のことを説明するのを忘れてた!
これがね、何と言うか――設定的にどうかと思うのだが……。
この世界には、やっぱりレベルとかステータスとかスキルとかがあるんだけどね――。
――それがまぁ、こんな感じなのですよ。
※ ※ ※ ※ ※
名 前:エリス・ハイエロー(+タロウ・アリエナイ)
レベル:9/100(+63/100)
生命力:148/148(+6300/6300)
魔 力:182/182(+6300/6300)
筋 力:16(+650)
知 力:22(+662)
丈夫さ:9(+641)
素早さ:18(+639)
器用さ:15(+655)
運 :28(+638)
スキル:【貴族の心得:達人】【鞭術:中級】【火魔法:中級】
【水魔法:中級】【風魔法:中級】【土魔法:初級】
【威圧:中級】【お菓子作り:初級】【イジメ:上級】
(+スキルポイント:1)
(+スキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】
【光球:極】【着火:極】【暗視:極】
【お宝感知:極】【隠密:極】【鍵開け:極】
【気配察知:極】【隠蔽:極】【罠解除:極】
【水鉄砲:極】【呪い:極】【メテオ:極】
【真・暗殺術:極】【水中戦闘術:極】【投擲術:極】
【短刀術:極】【毒使い:極】【防具破壊:極】
【筋力強化:極】【真・餌付け:極】【魔力譲渡:極】
【解呪:極】【回復魔法:極】【吸着:極】
【便意の魔眼:極】【悪臭のブレス:極】【真・腹時計:極】
【治癒:極】【不死者消滅:極】【毒球:極】
【真・包丁術:極】【手加減:極】【敵意引受:極】
【対人特効:極】【縄抜け:極】【捕縛術:極】
【採取:極】【藁細工:極】【木登り:極】
【賄賂:極】【チョーク投げ:極】【採掘:極】
【盲牌:極】【雄雌判別:極】【アク取り:極】
【染み抜き:極】【育樹:極】【飴細工:極】
【火加減:極】【真・操船:極】【開墾:極】
【燻製作り:極】【通貨偽造:極】【美味しい店探し:極】
【下処理:極】【耐G:極】【浮遊:極】
【水中呼吸:極】【人化:極】【真・盗撮:極】
【邪神封印】)
(+加護:【女神ヨミセンの加護】)
(+状態異常:老化〔停止中〕)
(+お知らせ)
※ ※ ※ ※ ※
――お気づきだろうか?
あー……なんかホラー映像の解説みたいな言いかたしちゃったけど、そうじゃなくてね。
なんかさ――本来のエリスのステータスに、俺のステータスがプラスされてるみたいなのですよ。
あとスキルも……。
これって、俺Tueeeができるのではなかろうか?
しかもエリスのステータスに関する知識によると、この世界ではレベルアップによる各数値の上昇が前の異世界よりも少ないらしいのだ。
なので俺のステータスの数値が加算されたエリスは、既に人間離れした存在になっているという……。
うむ、悪役令嬢無双が出来るな。
これならばとりあえず、死罪エンドは無さそうだ。
俺のステータスとスキルがあれば、それだけでいくらでも逃げられるしねー。
余裕、余裕♪
――じゃねーし。
問題はそこでは無い。
そもそもここは『乙女ゲーム』の世界なので、俺Tueeeにそれほど意味は無いだろうし。
イヤ、これもまぁ結構な問題でもあるのだが、もっと問題なのがある。
言っておくが【威圧:中級】だの【イジメ:上級】だのという、ツッコミ処がちょいちょいあるエリスのスキルのことでは無いぞ。
もちろん、俺の『状態異常:老化』が停止しているというところでも無い。
(+お知らせ)のところをタップすると表示される『熟練ポイントの設定は、都合により廃止となりました。 今後スロットで取得したスキルは、無条件で[極]となります』という設定変更のことでも、当然ながら無い。
問題なのは、俺のスキルの1番最後のヤツだ。
そう、俺のスキルの最後尾にいつの間にか、しれっと追加されている【邪神封印】――これが問題なのである。
――これって間違いなく、最後のほうのイベントの『ネタバレ』だよね?
どう考えてもこれは最終的に邪神とやらが出てきて、女神さんの使徒設定である俺が封印するという流れになるヤツにしか思えない。
もうね……この段階でネタバレとか、勘弁して欲しいっす。
せめて必要になる直前に、スキルをゲットするとかにして欲しかった……。
と、まぁこんな感じで、どうやら俺とエリスの『悪役令嬢』生活は、ある程度決まったストーリーの中で展開していくようなのだ。
まぁ『乙女ゲーム』としてのストーリーもあるだろうから、これはたぶん仕方のないことなのだろう。
――若干、納得いかんが。
つーか、元になってる『乙女ゲーム』のストーリーとか知りたいよなー。
だいたい『悪役令嬢』であるエリスの乙女ゲームとしてのバッドエンドって、何なのだろう?
死罪エンドは俺の能力値とスキル的に、無しになったとして……。
あとありそうなのは、婚約破棄エンドと没落エンド辺りなんだけど――。
でもまだエリスは婚約とかしてないんだよなー。
残る没落エンドのほうは――ハイエロー辺境候家はアッカールド王国の屋台骨を支える大貴族なので、没落してしまったら王国そのものが危うい。
なので没落エンドとかも、あり得ない気がする。
つーか絶対に没落させらんないよね、この国の構造的に。
ハイエロー辺境侯爵家が潰れたりしたら、領主が不在になった土地を巡って大混乱になるだろう。
つーか、下手したら内乱になるんじゃないか?
たぶんハイエロー家は、大きくなり過ぎて潰せない的な貴族な気がする。
で、あと残っているバッドエンドとしては――まぁ、アレだ。
俺のスキルに勝手に追加されていた【邪神封印】絡みのエンド。
つまりは『邪神復活』エンドが、エリスにとっての――。
というより、この世界にとってのバッドエンドになるのだろう。
――イヤ、そうなると話がでかすぎるっつーの。
俺の手に負えるとは思えねーよ……2つの意味で。
『邪神復活』を阻止し封印して世界を救うとか、そんな重い責任負いたく無いっす。
それと世界を救うようなスケールの大きな話、小説にしろとか言われてもキツいっす。
俺はもっとお気楽でのほほんとした、無責任な異世界生活がしたかったのに――。
せっかくの『悪役令嬢』なんだから、金と権力に任せて贅沢三昧とかしたかったのに――。
世界を救えとかあんまりっす……。
まぁ、贅沢はしてるんだけどさ。
明日のおやつ、何かなー。
――と、まぁこんな感じで、今夜もフワフワのベッドに入って眠りに着いた。
だがこの時の俺は、すっかり忘れていたのだ。
ここが『乙女ゲーム』の世界だということを――。
大概の『悪役令嬢』ものは、『異世界〔恋愛〕』というジャンルに分類されているものだということを――。
――――
― そして深夜 ―
いきなり頭の中に、若い女性の声でアナウンスが響いた。
《3月1日になりました。 春の『恋のどきどきイベントスロット』が始まります》
は!? いったい何ごと!?
スロット? 俺、そんなスキル使った覚え無いんだけど!?
突然のことに困惑しながらガバッと上半身を起こすと、俺の目の前に半透明のピンク色をしたスロットの筐体が現れた。
なにこれ、初めて見るんですけど?
《スロット、スタート!》
イヤ、勝手に始まるんかい!
俺が回すんじゃねーの!?
つーか、これって強制なの!?
レバーも無ければ停止用のボタンも無い筐体の、3つのリールが回り始めた。
―回転中― と ―回転中― で ―回転中―
ん? このリールの間にある『と』と『で』って、何なんす……?
うむ駄目だな、仕様が掴めぬ。
あっけにとられながら眺めていると、勝手に回り始めた左側のリールが、これまた勝手に停まった。
<マルオース&コレス> と ―回転中― で ―回転中―
は? マルオース&コレスって、一体……?
と、一瞬思ったのだが、頭の中にエリスの知識が流れてきて理解ができた。
『マルオース』も『コレス』も、人名だ。
『マルオース』は、この国――アッカールド王国の第1王子。
『コレス』は、将軍の息子だ。
真ん中のリールが停まった。
<マルオース&コレス> と <アキエムの森> で ―回転中―
アキエムの森――これもエリスの知識にあった。
どうやら王都の西にある、魔物が出没する森のことらしい。
なんとなく、このスロットの仕様が分かった。
そして最後の――右側のリールが停まる。
<マルオース&コレス> と <アキエムの森> で <戦う>
なるほど……こういう仕様か。
察するにつまり俺――エリスが『マルオース&コレス』と『アキエムの森』で『戦う』というイベントが、たぶん強制的に起こるということなんだろう。
ふむ。
――って、おいこら、ちょっと待て。
これって『恋のどきどきイベントスロット』だよね?
戦って芽生えるのって、普通は男同士の『友情』とかじゃ無かったっけ?
『恋』とかじゃ無くね?




