はじめてのあんさつ
― 金ちゃんの縄張り・夜 ―
雨が降っている。
金ちゃんの縄張りに到着してから十数日――。
俺はベッドに寝ながら、どうやって冤罪を晴らそうかと考え続けている。
ちなみに掘っ立て小屋は、頑張って建て直した。
簡単には雨漏りがしないということから、それなりに良い物ができたはずだと自分では満足している。
冤罪を晴らすといっても、なかなかに難しい。
何より無罪だという物的な証拠など、どこにも無いのだ。
ならば物的ではない証拠ならば、見つけることはできるだろうか?
と、ここまで考えて俺は思う――。
神経痛が痛てーな。
――と。
もうね、雨のせいか低気圧のせいなのかは知らんけど、なんか手足がビリビリと痛いの。
おかげでさっきから冤罪を晴らす方法を考えているんだけど、神経痛の痛みに邪魔されて全く思い浮かばないんすよ。
今夜はもう、何度目になるか分からない寝返りを打つ。
扉など付けてもいない入り口側を向くと、金ちゃんと目が合った。
『またこっち向いたのか?』という目つきで、こっちを見ている。
しゃーないじゃん、神経痛が痛くて眠れないんだよ。
以前に手に入れた痛み止めって、こないだ使い切っちゃったんだよなー。
人里に買いに行くのは、面倒だなー。
待てよ……いっそ薬の調合とか覚えて、自前で作れた方がいいかな?
この深淵の森には、貴重素材なんかも山ほどあるし。
どうせ暇だし、これから薬の調合でも勉強しようか。
大きな街なら教本とか売ってるかな?
薬師に弟子入りとかしないとならんのなら、ちょっと難しいか。
なんせ、手配中の身だしなー。
いっそ、『職業スキル』のスロットでも回してみるか。
上手く行けば『薬師』とか『調合』とかのスキルが手に入るかもしれない。
よし、今度スキルポイントが手に入ったらそうしよう。
今後の方針は決まった。
冤罪をどう晴らすかは、全然決まって無いけど。
それにしても神経痛が痛い。
今夜は、眠れそうにないな……。
――――
― 次の日の夕方 ―
珍しく金ちゃんはお散歩に出かけている。
ポチもいつもの巡回中なので、俺は今1人でお留守番中だ。
で、お留守番中の俺はと言うと、特にヒマをしているということも無い。
現在は、自宅の屋根の修理を頑張っている最中なのだ。
イヤ、なんか今朝起きたら床が濡れていてさ。
たぶん雨漏りだと思うんだよね。
隙間だらけの屋根ってのは、やっぱ駄目だな。
屋根に上って接着剤を塗り、全体に布を張り付ける。
もちろん普通の布では無く、防水加工の樹液を塗り付けた物だ。
これで良し。
あとは念のため、もう1度この上に藁束を乗せて――。
《レベルアップしました》
は? この間レベルアップしたばっかしじゃん。
これはポチの仕業じゃ無いな――ここまでの経験値の持ち主を仕留めるとなると、たぶん金ちゃんの仕業だ。
いったい何を仕留めたのやら……。
屋根に藁束を敷き終わった我が家を眺めていると、金ちゃんが空を飛んで戻ってきた。
右手――というか右前脚には、何やら大きな鳥が掴まれている。
あと何か、鳥がところどころちらほらと燃えている――。
あー……これはアレだ、ギルドの魔物図鑑で見たことがあるぞ。
たぶん間違いない。
纏っているはずの炎はほぼ消えているが、こいつは不死鳥というやつだ。
初めて見るぞ、不死鳥なんて。
体長5~6mはある……。
また金ちゃんも、凄いのを狩ってきたなー。
「ググオゥ、グォ」
なんか金ちゃんが『早いとこ血を飲め、体にいいから』とか言って、不死鳥を差し出してきたし。
若い頃、上司に健康にいいからとスッポンの血を飲まされたのを思い出すなー。
言われたままに不死鳥の首を切って、流れ出る血をカップに入れて飲む。
パワハラ上司のような金ちゃんの行動ではあるが、たぶん俺のことを思っての親分心だと思うので、ここは黙って言う通りにするのが子分の役目というものだ。
不死鳥の血は、ちょっと生臭い。
あと、けっこうドロドロしていて喉を通りにくい。
「グォ?」
イヤ、『どうだ?』とか聞かれても……。
ん? おや? あれ?
なんか体が熱くなってきたぞ?
だんだんポカポカと――というのを通り越して、もうクソ暑い。
つーか、汗がどんどん出てきた。
激辛の何かを食べた時みたいだ……。
クソ暑いのを我慢していたら、不死鳥の死体がいきなり燃え出した。
それはもう、盛大に。
やがて不死鳥は燃え尽き、炎の収まったそこには真っ白な灰だけが残った。
――燃え尽きたぜ、おっつぁん――真っ白な……真っ白な灰にな。
俺の体の熱さは、不死鳥が灰になると同時に消えている。
不思議と体が軽く感じる……これが不死鳥の血の効能ってやつなのだろうか?
本当に体が軽い。
あと気のせいか、視界が明るい気がする。
ほら、あんなに遠くのスズメの表情までくっきりと――ん? くっきりと?
あれ? 俺の老眼どこ行った?
なんか、あっちもこっちも良く見えるぞ。
まるで老眼も近眼も治ったみたいに……。
両腕をグルグル回してみる――上がらないはずの五十肩が上がる、しかも痛くない。
屈伸運動をしてみる――最近坂道の下りでギシギシと微妙に痛いはずの膝も、何の問題も無くスムーズに曲げ伸ばしができた。
はっ! これはまさか!
俺はアイテムストレージから、手鏡を2つ取り出した。
これで『ある部分』を確認するためだ。
その『ある部分』とは――。
もちろん、俺の頭頂部である。
不死鳥の血を飲んで調子が良くなった箇所は、どれも老化によってポンコツ化してきていた箇所だ。
もしかしたら、不死鳥の血によって俺の『老化』が治癒されているのかもしれない!
ならば薄くなった俺の頭頂部にも、きっと新たな髪の毛が!
――――あった。
2つの手鏡を駆使して確認した俺の頭頂部には、ぽやぽやとではあるが新しい毛が生えていた。
おっしゃー!(゜∀゜)キタコレ!!
発毛バンザーイ!
そうだ! ステータスも確認してみよう!
※ ※ ※ ※ ※
名 前:タロウ・アリエナイ
レベル:43/100
生命力:4300/4300
魔 力:4300/4300
筋 力:448
知 力:460
丈夫さ:440
素早さ:438
器用さ:453
運 :435
スキルポイント:2
熟練ポイント:172
スキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】
【光球:極】【着火:極】【暗視:極】
【お宝感知:極】【隠密:極】【鍵開け:極】
【気配察知:極】【隠蔽:極】【罠解除:極】
【水鉄砲:極】【呪い:極】【メテオ:極】
【真・暗殺術:極】【水中戦闘術:極】【投擲術:極】
【短刀術:極】【毒使い:極】【防具破壊:極】
【筋力強化:極】【真・餌付け:極】【魔力譲渡:極】
【解呪:極】【回復魔法:極】【吸着:極】
【便意の魔眼:極】【悪臭のブレス:極】【真・腹時計:極】
【治癒:極】【不死者消滅:極】【毒球:極】
【真・包丁術】【手加減:極】【敵意引受:極】
【対人特効:極】【縄抜け:極】【捕縛術:極】
【採取:極】
付与スキル:【刀術:中級】※森定貞盛の兜による
加護:【女神ヨミセンの加護】
状態異常:老化〔停止中〕
※ ※ ※ ※ ※
おぉっ! やはり老化が完治!――。
――した訳では……無いのか……。
うん、まぁ、そうだよねー。
そんな都合良く、老化は消えて無くならなんよねー。
〔停止中〕ってことは、そのうち元に戻るってことか……。
まぁ、それでもありがたいっちゃありがたい。
にしても不死鳥の血の効能って、いつまで持つんだろう?
なるべく長く続くといいんだけどなー。
不死鳥が燃え尽きてできた真っ白な灰の山が、いきなり再び燃え盛り始めた。
急な炎に驚いていると炎の中から不死鳥が飛び出し、何処へと飛んで行く……。
不死鳥の復活だ。
優美に羽ばたき去っていく不死鳥は輝く炎を纏い、その姿はいかにも神秘的な生き物に見えた。
これは良いものが見られたな……。
つーか、思わず拝みそうになっちゃったよ……。
――――その日の夜、俺は神経痛に悩まさせることも無く、久しぶりに熟睡することができた。
もちろん、老化が停止しているおかげである。
ありがとうな、金ちゃん。
俺のために、わざわざ不死鳥を狩ってきてくれて。
――――
― シンナカリン王国・国境 ―
金ちゃんの縄張りを出発してしばらく南下し、ようやく目的地のエルフの国――シンナカリン王国へと辿り着いた。
他国と隣接する地域とは違い、深淵の森から入るこの地はよそ者でも入れる表層地域では無く、許可なくば入ることのできない中層地域だ。
ちなみに俺は許可証代わりの発信機付きの腕輪をしているので、入ることができたりする。
まぁ手配犯なので、入った時点で捕まるのは間違いないだろうが……。
不死鳥の血の効能は、3日間で終わってしまった。
非常に残念ではあったが、老化に悩まされない3日間は俺に素晴らしいものをもたらしてくれている。
それは何かというと――。
ボルディ王子暗殺――その冤罪を、晴らせそうな案を思いつくことが出来たのだ。
思いついてしまえば何ということも無い。
どうしてこんな簡単なことが頭に浮かばなかったのかと、我ながら呆れてしまうほどのことだ。
その方法とは――。
シンナカリン王国での不法侵入で捕まった時に、尋問に使われた魔道具――質問の返答が真実か否かを正確に判定するという『真実判定機』を使って、エルフの尋問官に尋問をしてもらうのだ。
『真実判定機』の正確さは100%なので、尋問してもらえば俺が暗殺などしていないという証明ができるはずなのである。
俺はシンナカリン王国の国境の警備兵に、身分を明かし自ら捕縛された。
あとはシンナカリン王国の、エルフのお偉いさんの出方を待つだけだ。
――――
― 王都デカイキ・牢獄 ―
エルフの国――シンナカリン王国の国境で捕まった俺は、ほどなくして王都へと移送された。
俺が『冤罪を晴らすために、真実判定機を使って尋問してくれ』と幾度と無く主張したのもあるかもしれないが、おそらくダミーのアイテム袋に入れておいたブツが効いたのだと思う。
ダミーの袋に入れておいたのは、金ちゃんのゴミ捨て場で拾ったレアな魔物素材。
不法侵入の罪を無敵ガメの狩猟で許してくれたような国だ、もっと希少で貴重な素材を俺が持っていたとなれば、もっと貴重素材を手に入れるために俺に恩を売るべく動いてくれる可能性が高いと踏んで、わざと仕掛けておいたのだ。
わざわざ王都まで連れてこられたということは、シンナカリン王国がレア素材を持っていた俺に価値を見出したということ、つまり――。
ふっふっふっ……。
計 画 通 り だ。
などと頭の中にノートで人を殺すキャラを思い浮かべ自らの計画に酔っていたら、兵士さんと一緒に不法侵入の折に俺を尋問した尋問官のエルフがやってきた。
「君の勝ちだ、来たまえ――尋問させてもらおう」
「有難い――あんたになら、俺の冤罪を晴らしてもらえそうだ」
牢から出た俺は両脇をガッチリと兵士に固められ、尋問部屋へと連れていかれる。
ある程度の取引は必要だろうが、ここまでくれば我が事は成ったも同然だ。
ふっふっふっ……。
計 画 通 り だ。
――――
― チョーテン帝国・帝都セーマン ―
チョーテン帝国にはギルドの総本山、冒険者ギルド総本部がある。
そして俺は今、その全てのギルドを束ねる総本部の一室にいる。
なしてまたそんなところに? と思うかもしれないが、これはシンナカリン王国のエルフの偉いさんが冒険者ギルドの偉いさんと交渉しに来ているためだ。
ボルディ王子暗殺の容疑が掛かっている俺は、トリアエズ王国から指名手配されている。
だから本来なら俺がエルフさんたちに無罪だと証明してもらう相手はトリアエズ王国なのだが、問題は冤罪を仕組んだのが冒険者ギルドのNo.2と言われている男――アーク・ドイマンだということ。
下手に冤罪を晴らしてしまうと、今度はシンナカリン王国がアーク・ドイマン――延いては冒険者ギルドと対立することになってしまうという、厄介な事態になりかねない。
ならばどうするか。
毒を以て毒を制すように、ギルドの有力者を以てギルドの有力者を制すのだ。
現在の冒険者ギルドは、2つの派閥に分かれている。
1つはもちろんお馴染みの、ギルドのNo.2であるアーク・ドイマン率いる――冒険者ギルドの勢力拡大のためには、手段を選ばないという『ギルド強硬派』
もう1つは、ギルドのNo.1であるシャッカ・ノテヒラ理事長を頂点とする――冒険者ギルドは各国と手を取り合って、協力体制を広げるのが本来の在り方だとする『ギルド穏健派』
この2つだ。
てな訳で――。
俺とシンナカリン王国の偉いさんは、このたび冒険者ギルドの理事長――つまりNo.1のところへと、交渉に来ているのである。
――まぁ交渉するのは、シンナカリン王国の偉いさんだけなのだがさ。
実際、俺は控室に待機させられていて、交渉の結果を今か今かと待っているところだ。
シンナカリン王国の偉いさん曰く『ギルド穏健派のノテヒラ理事長なら、対立する強硬派のトップであるノイマン副理事長の勢力を叩くための武器として、必ず冤罪の事実を認定してくれるはずだ』とか言っていたが、実際のところどうなるかは俺には分らん。
なので最悪、俺の身柄がギルドに売られることも想定している。
その時は、脱兎のごとく逃げるだけだ。
まぁ、たぶん売られることは無いとは、思ってはいるんだけどね。
その根拠はというと――。
実はこの交渉の内容は、シンナカリン王国にも利があるものなのだ。
冒険者ギルドとしては、俺に冤罪を着せたことを外部から指摘されるのはあまりよろしくはない。
それはギルドと対立したり反感を持っている勢力にとって、格好の攻撃材料となるからだ。
故にギルドとしては、冤罪を仕組んだ者を自らの手で発見し、自らの手で処分したということにしてしまいたいはずだ。
あくまでギルド内部の問題として処理をすることによって、外からの批判をかわすことを狙うためである。
ここにシンナカリン王国が利を手にするための、交渉の余地が生まれる。
冤罪のことを証明したのは、シンナカリン王国。
これを冒険者ギルドからの依頼によって行ったということにする代わりに、シンナカリン王国はギルドとの輸出入における関税を、交渉によってほんの少し調整しようというのだ。
これで冒険者ギルドとしては冤罪を仕組んだ者を、自ら調査発見し処理したということになり、シンナカリン王国としては関税の調整によって今までより若干有利な貿易ができることになる。
何よりこのことは『ギルド穏健派』のトップであるノテヒラ理事長にとって、ドイマン副理事長率いる『ギルド強硬派』の勢力を削ぐ武器を手に入れることにもなるのだ。
――コンコンコン。
ノックの音がして、シンナカリン王国の通商使節団の1人が部屋に入ってきた。
「タロウ・アリエナイ、来てくれ――兜を忘れぬようにな」
お呼びが掛かったようだ。
俺は外していた顔の隠れるフルフェイスの兜を装備し、使節団のエルフさんの後ろについていく。
フルフェイスの兜を着けるのは、もちろん顔を見られないためだ。
さすがにここ冒険者ギルド総本部にはアーク・ドイマンの手の者も大勢いるので、顔を晒して歩くのは危険だと判断したからである。
俺がここに来ていることも、シンナカリン王国の通商使節団の交渉内容も、もちろん表向きは極秘になっている。
我々はここに、交渉という名の奇襲をしに来ているのだ。
目的の部屋へと到着した。
部屋の入口には2人の兵士が、門番よろしく扉を守っていた。
部屋の中へと入る――やたらと広いな。
広い部屋は奥側しか使われていない。
手前側半分は空間としてしか使われておらず、奥半分のスペースには大きなテーブルをはさんで、手前にシンナカリン王国の使節団と護衛、奥に真っ白な髪とこれも白くて長いヒゲを蓄えた老人が座り、その両脇を2人の護衛が守っていた。
右の壁側には2人の職員と思しき人が立っている。
あと、天井裏にも気配が3つ――こっちは、影の護衛というところだろう。
なるほど……察するにこの、白髪白髭の爺さんがシャッカ・ノテヒラ理事長その人なのだろう。
パッと見どこにでもいそうな爺さんだが、人は見かけで判断できんからなー。
「兜はもう外しても大丈夫ぞい――まぁ、座りなされ」
奥の老人に促されたので、どうしたもんかとちらっと使節団の団長さんを見ると、小さく頷かれた。
なので俺は兜を外し、遠慮なく大きなテーブルのこちら側の椅子に腰掛ける。
「まずは挨拶といこうかの。 ワシはシャッカ・ノテヒラ――冒険者ギルドの理事長ぢゃ」
やはりこの爺さんが、シャッカ・ノテヒラだったか。
「タロウ・アリエナイ――『クラス:銅』冒険者です」
名前だけを名乗ろうかとも思ったが、俺はまだ冒険者なのを思い出したので付け加えておいた。
おそらくギルドの法で裁けるほうが冤罪で殺すのに都合がいいとアーク・ドイマン辺りが思ったのだろう、俺はまだ冒険者の資格をはく奪されてはいないのだ。
「喜びなされ、タロウ・アリエナイどの――お前さんの容疑は晴れたぞい」
ノテヒラ理事長のその言葉に、俺は大きくフウーっと息を吐き出しながら安堵した。
どうやら思っていたよりも、俺は緊張していたらしい。
「助かりました」
ギルドの側の人間による冤罪なのだから、向こうに晴らしてもらうのは当たり前という話ではあるが、ここは礼を言っておく。
何より実際、助かったのだ。
「まだ書類上の手続きが残っておるで、正式にはまだじゃがの。 すぐにやらせるんで、すまんがちっとだけ待ってもらうぞい――そこのお前さん、ツゴーイを呼んできておくれ」
ノテヒラ理事長が、壁側手前に立っていた雑用の人にツゴーイとかいう人を呼びに行かせた。
きっとその人が、俺の冤罪を正式に晴らす書類の手続きをしてくれるのだろう。
「それでは我々もこれで失礼します――実りある会談でした」
「もう行ってしまわれるか――国王陛下に、良しなにお伝え下され」
使節団の人たちがノテヒラ理事長と挨拶を交わし、もうここでの仕事は終わったと立ち上がった。
俺はそれを見て慌てて立ち上がり、使節団の人たちに今度は心からの礼を言う。
「此度は本当に、ありがとうございました」
「なに、こちらにも益があってのことです――礼には及びません」
イヤイヤ、そうだとしても助かりましたよ。
そのうち珍しい素材でも、そちらの国に納品させていただきます。
シンナカリン王国のエルフさんたちを見送り、俺は再び椅子へ座った。
晴れて自由の身になるまで、あともう少しの我慢だ。
対面に座っているせいで、シャッカ・ノテヒラ理事長と目が合った。
俺を見定めているように思えるのは、気のせいだろうか?
「アーク・ドイマンを、罪に問えますかね?」
ノテヒラ理事長と目が合ったついでに、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「無理ぢゃろうの。 あ奴のことよ、また配下の者を切って逃げるだけぢゃろう――多少は派閥を切り崩せる、というところかの」
なるほど、やっぱりそんなもんか……。
だとしたら、そのうちまた嫌がらせとかされそうだなー。
アーク・ドイマンが生きている限り……。
ならばとりあえず、目の前の爺さんと誼を通じておくのも手かもしれない。
偉い人と繋がっていれば、たぶん少しは抑止力になると思う。
「ところでノテヒラ理事長、魔物の希少素材なんかに興味はありますか?」
俺がそう尋ねると、目の前の爺さんの目がキラリと光った気がした。
「ワシは冒険者ギルドの理事長ぢゃぞ? 魔物の希少素材なんぞ――――――――もちろん、大好物ぢゃ!」
ニッカリと笑顔になって、いかにもワクワクとし始めるノテヒラ理事長。
「レア物を持っておるのか? 見してみぃ、モノによっては多少の無理くらいは聞いちゃるぞい!」
立ち上がって身を乗り出してくる爺さん――つーか、モノによっては無理を聞いてくれるのか。
……いいのか? それ?
ガッツリ職権乱用な気がするぞ……?
「じゃあまずは――こんなのはどうです?」
アイテムストレージから取り出したのは、クリスタルドラゴンを覆っていたクリスタルと、クリスタルドラゴンの骨と皮だ。
「クリスタルドラゴンの素材ぢゃな……ふむ……レアぢゃが、手に入らんモノでも無いの」
ノテヒラの爺さんのテンションが少し下がった。
どうやらあまり、お気に召さなかったらしい。
ならば、これならどうかな?
「クリスタルドラゴンは前座ですよ、ここからが本番です」
そう爺さんを煽ってから取り出したのは、つい最近手に入れた品――不死鳥が燃え尽きた時の、真っ白な灰だ。
どうよ、これはさすがにレアだろ?
「これは……!?」
ノテヒラの爺さんが身を乗り出し、俺が取り出した500mlサイズの瓶に入った灰を見つめている。
「これはですね――」
「説明はいらんぞい!――【鑑定】!」
へ? 【鑑定】?
【鑑定】と言いますと、まさかあの『なるぞ系異世界系小説』のスキルで定番かつ最強との説さえあるという、あの【鑑定】ですか!?
何という羨ましいスキルを……。
俺も欲しいんだよなー、【鑑定】のスキル。
「こ、これは……不死鳥が燃え尽きた時に残る、灰か!?」
よしよし、驚いてる驚いてる。
いやー、こういう反応っていいよねー。
なんか、まるで正統派のチート系の主人公になった気分だ♪
「どうです? 少しはご満足していただけましたか?」
「無論ぢゃ! 不死鳥は死す時に自ら火山に飛び込むという――灰を手に入れるには滅多にいない地上で死んだ不死鳥を見つけねばならん! しかも死んですぐでないと、灰は風に飛ばされたりして散ってしまう――お主、どうやってこれを!」
いいねいいねー!
この『こ、これはあの伝説の!』的な驚かれかた!
これぞ異世界ファンタジー物語って感じだよね!
「これはですね、深淵の森の――」
「なんだ貴様ら――ぐぁっ!」
「ここは通さ――ごふっ!」
さりげなーく『大したことは無いですよ』風を装いつつ、希少素材について爺さん相手に自慢たらたらに話してやろうとしたら――なんか扉の外から声が聞こえた。
これは、扉を守っている警備の人の声か?
ということは――まさか襲撃されてる!?
バァン! と扉がぶち破られ、3人の襲撃者が突入してきた。
襲撃者たちはそれぞれ、中央と左右に分かれて向かって来ようとしたが――。
「させん!」
「任せろ!」
「理事長、お下がりください!」
「中央は我らに!」
「どいていろ冒険者!」
とまぁ、元からいた護衛の2人が正面の敵、天井裏にいた3人のうち1人ずつが左右の敵に相対した。
天井裏から降りてきた残りの1人は、ノテヒラ理事長にぴったり張り付いて護衛をしている。
ちなみに俺は、蚊帳の外。
つーか、襲撃してきたこいつらの気配には覚えがあるぞ。
前にアーク・ドイマンと会った時に、天井裏と奥の部屋に隠れていた奴らだ。
ということは、こいつらはアーク・ドイマンが差し向けやがったのか!
どんだけ俺の邪魔をすりゃあ気が済むんだ! あんにゃろうめ!
左右の戦況は互角――双方とも暗殺者系の襲撃者と護衛が、相手の隙を突こうと駆け引きを続けている。
中央から突破しようとしている敵はどうやら騎士系のようで、先ほどから護衛の兵士2人を相手に剣を振りまわしていた。
――中央が押されている。
護衛の兵士の1人が、吹き飛ばされた。
どいていろと言われたけど、そろそろ手を貸してあげようかな?
俺としても爺さん――ノテヒラ理事長が殺されるのは、とってもマズいし。
俺は中央から攻めてきている相手に、ゆっくりと近寄――。
「冒険者が行ったぞ! そいつも標的だ、打ち漏らすな!」
右手の暗殺系襲撃者から、中央の襲撃者たちに声が――って、『そいつも標的』って何?
もしかして爺さんだけでなくて、俺も襲撃対象ってこと?
マジすか……。
イヤ、これはマジなんだろうな。
そういうことなら、俄然こっちの殺る気が変わってくるぞ。
殺っていいのは、殺られる覚悟のある奴だけなんだからな!
俺は愛用の武器、超合金乙製の戦闘用包丁を構えた。
毎度おなじみ【隠密】と【隠蔽】のスキルを発動し、全身鎧の中央の襲撃者の死角に潜り込んで、首筋の鎧の薄いところを狙って――。
ガキンッ!!
戦闘用包丁の切っ先が、わずかに鎧に食い込んで……止まった。
嘘だろ、超合金乙の刃が通らんぞ!
――はっ! まさかこの鎧……!?
「無駄無駄無駄ァ!――俺の鎧は『無敵ガメの甲羅』で出来ているのだ! 貴様のチャチな武器など、この鎧の前には玩具も同然!」
なるほど、やはりアダマンタイトの剣でも歯が立たない硬度を持つ、無敵ガメの甲羅だったか。
「くそうっ! 無敵ガメの甲羅の鎧だと! これでは手も足も出ないじゃないか!……ぐぬぬ――――なんて言うとでも思ったか、この阿呆が」
ぶっちゃけこいつの腕自体は大したことは無い、無敵ガメの甲羅の鎧のおかげで力押しが可能になっているだけだ――イヤ、まぁ、スキルのおかげだけで戦えている俺が言うのも何だけどさ。
「ふん! 負け惜しみか!」
「負けて無いのに、負け惜しみは言わんよ。 その程度じゃ俺が本気を出さなくても、余裕で勝てるってだけの話さ――くらいな! ショットガン【防具破壊】!」
『ショットガン【防具破壊】』というのは、攻撃が命中すると5%の確率で防具を破壊できる【防具破壊:極】のスキル効果を使った状態で、握りしめた数十個の小石を【投擲術】を使って敵に叩きつけるという、確率と数の暴力で防具をぶっ壊す俺の編み出した戦法である。
【防具破壊】のスキルは、『不壊』とか『防具破壊無効』の効果を持つ防具でないと防げない。
そういった効果の無い防具は、例えどんなに硬く頑丈な防具でも、スキルの効果が発動すれば破壊を免れないのだ。
スキルの発動しない確率は、小石1個に対して95%。
破壊を免れる確率は95%×小石の数――小石の数が50個ならば、僅か7.7%しか無い。
【防具破壊】のスキルの乗った小石の雨が、無敵ガメの甲羅の鎧にバラバラと命中すると――確率の暴力により、鎧はバラバラに吹き飛んだ。
下手に全身鎧だったので、頭から足先まで木っ端微塵に……。
鎧を破壊された襲撃者が驚愕し、その動きが止まった。
俺はすかさず喉元に包丁を当て、一気に掻き切る。
まず1人。
次は膠着している両サイドの、右側の襲撃者へ向かう。
「そっちは任せるぞ」
反対側の襲撃者に手の空いた護衛の兵士を向かわせ、俺は再び【隠密】と【隠蔽】のスキルを発動。
俺を見失った襲撃者の背後に回り込んで――待てよ? 全員殺すのはマズいかな?
こいつらの口を割らせてアーク・ドイマンの指示だと証言が取れれば、ヤツを罪に問えるはずだ。
簡単に口を割るような連中では無いとは思うが、まぁ生かしておくとするか。
死ぬほどのダメージを与えても体力を1だけ残す【手加減】のスキルを使い、ザックリと襲撃者を切りつける。
倒れそうになるところを【捕縛術】で縛り上げ、【回復】の魔法で傷だけ塞いでやった。
これで殺さずに捕らえることが出来た。
これで2人。
残りの1人は――。
あぁ、あっちは殺っちまったか……。
まぁいい、これで3人の襲撃者は制圧できた。
さて、終わったからさっきの素材自慢の続きを――。
俺はぐるっと、室内の惨状を見まわす。
まずは片付けをせんとならんかな?
護衛の連中が、死体と捕らえた襲撃者を片付け始めた。
えーと……俺はどうすれば? 何か手伝う?
「大した腕ぢゃの」
ボーっと突っ立ってると、爺さん――ノテヒラ理事長に、俺の手腕を褒められた。
気のせいか、俺を見る目が鋭くなっている気がする。
「人間相手なら、まぁなんとか」
俺としては、不本意なんだけどね。
「こやつらには見覚えがあるの……ドイマンの坊やの手の者ぢゃな。 狙いはワシだけでなく、お主もぢゃったか――あやつめ、また随分と思い切ったの」
確かに思い切ったなとは思う。
冒険者ギルドのNo.1であるノテヒラ理事長を殺りに来るとは、これは相当リスクのあることだ。
「にしても俺まで殺そうとするとか全く、勘弁してくれよなー」
「おおかたお主を、今度はワシを殺した下手人にでも仕立て上げるつもりぢゃったんじゃろうて。 ワシらを殺した下手人のお主を、ドイマンの坊やの手の者が片付けた――そんな筋書きでの」
「うわー――でもまぁ、あり得る話すね。 つーか、また罪を俺に着せるつもりだったのかあの野郎は……」
1度ならず2度までも、しかも今度は殺す気だったとは……。
ノテヒラの爺さんが、襲撃者たちを眺めながらボソリと呟いた。
「ドイマンの坊やも、そろそろかのぅ……」
「ん? そろそろと言いますと?」
なんとは無しに聞き返すと――。
「いやなに、そろそろ切り時かと思うての」
なんかヤバそうな返事が来た。
はい? なんですと……?
「えーと……切ると言うのはまさか……」
「今まではギルドの勢力拡大に役に立つと思うて好きに遊ばせておったのぢゃが、さすがにここまでお痛が過ぎると、首を胴体に繋げたままにはしてはおけんぢゃろうて」
おい、なんかサラッと怖いこと言ってやがるぞ、この爺さん。
「死刑とかにできるんですか?」
ん? イヤイヤ、ちょっと待って。
俺の冤罪を画策した件の時は、部下を切って逃げるから罪に問うのは無理とか言ってませんでした?
「そこはほれ、アレぢゃ――お主なら分かるぢゃろ?」
「あー、まさか暗殺……とか?」
俺の口から出てきた『暗殺』の言葉に、爺さんがニヤリとした。
「何ならお主が殺ってくれても構わんのぢゃぞ――もちろん礼はちゃんと支払うぞい、どうぢゃ?」
イヤ、『どうぢゃ?』とか言われてもなー。
つーかこの爺さん、けっこう危ない爺さんだったんだなー。
まぁ冒険者ギルドという巨大組織の頂点にいる時点で、普通の爺さんな訳がないんだけどさ。
まぁ、とりあえずその話は置いといて――。
さて、どうしようか?
まずはアーク・ドイマンの暗殺を、受けるかどうかだな。
ぶっちゃけ今の心境だと、相手がアーク・ドイマンとなれば、殺りたくないことも無い。
さすがにここまでやられた俺としては、かなりムカついてるしね。
それにヤツが生きている限り、俺にどんな嫌がらせが降りかかるか分らんし。
暗殺自体は好きでは無いが、あいつだけは殺っておかねば。
でないと俺は永遠に、平穏な生活を送れない気がする。
あと、ここで暗殺の話を断ったら断ったで、また後々面倒なことになりそうな気もするんだよなー。
――アーク・ドイマンを敵にした時以上に。
なんせ相手はギルドの最高権力者だし。
ふむ、どうせ殺るとしたらアレだよな。
そのお礼とやらを、せいぜい高く吹っ掛ないと損だよなー。
待てよ?……冒険者ギルドの理事長という立場で無いと、出来なさそうなことをやってもらうってのも――。
交渉次第ではいけるかな?
よし、だったら――。
実は前々からどうにかしたかったのだが、自力ではどうにも解決し難いという案件を、俺は1つだけ抱えている。
これは冒険者ギルドの理事長である爺さんなら、何とか出来るかもしれない案件だ。
それは俺にとって唯一、『そのためなら暗殺を引き受けてもいい』と思える案件である。
「ちょっと取引しませんか? 俺が暗殺を受ける代わりに、ちょっとお願い事があるんですが……」
「もちろん構わんぞい――で、何が欲しいんぢゃ?」
「いえね、物とかじゃ無いんすけど……」
俺はノテヒラの爺さんの耳に小声で話しかけた。
ごにょごにょごにょっ…………とな。
「……っていうのは、お願いできたりしますかね?」
「ふむ、できんことも無いのぢゃが――さすがにそれの交換条件としては、ドイマンごときの暗殺では足らんの」
なるほど、だったら――。
「さっき出した不死鳥の灰も付けるから、なんとかなりません?」
「うーむ、それでもちと足らんかの――裏工作や交渉というのは、簡単そうに見えて凄く面倒ぢゃでな」
――この強欲爺いめ。
まだ足らんというのなら仕方が無い、取って置きを出してやるとするか。
皆さんだいたいご想像がつくとは思うが、もちろん出すのは『アレ』だ。
「だったら、お釣りがくるのを出しますよ。 これは取って置きです、見て腰抜かさんで下さいよ――よいしょっと」
「な、なんじゃこれは!!――これはまさか!!」
「ええ、そのまさか――神話のドラゴンの鱗です」
どうよノテヒラの爺さん、これなら文句はあるまい。
お釣りは、貸しにしといてやるからな。
爺さんの表情を見るに、これで取引することは決まりだな。
あとは詳細を詰めさせてもらおう。
――冒険者ギルドの最高権力者と異世界人のおっさんとの、かなりグレーなお話し合いが始まった。
なんかすんごく軽いノリで暗殺の話をしているけども、まぁそこは気にするな。
あと、俺と爺さんがちょっと悪い顔になっていたりもするが――。
おっさんと爺さんなんて生き物は、大概そんなもんだ。
――――
― 3日後・帝都セーマンの路上 ―
――来た。
アーク・ドイマンだ。
周囲を警戒している様子なのは、ノテヒラ理事長襲撃の報復を恐れているからだろう。
護衛を10人も引き連れているが、全員それほど実力があるようには見えない。
ヤツの最も強力な護衛だった3人は、襲撃に失敗して消えた。
なのでドイマンの身辺は、以前に比べれば無防備も同然である。
俺が【隠密】と【隠蔽】のスキルを発動しながら、アーク・ドイマンを待っていたのは他でも無い。
ヤツを暗殺するためだ。
これはノテヒラ理事長との取引のためでもあるし、俺のこれからの身の安全のためでもある。
アーク・ドイマンが生きているとまたいつ何時、俺に悪意という名の災難が降って来ないとも限らないのだ。
10人の護衛の隙間を、俺はスルスルとすり抜ける。
誰も俺には気づいていない。
アーク・ドイマンの目の前まで来て、わざと右肩をポンポンと叩いてやる。
いきなり肩を叩かれ、ヤツが俺に気づいた。
目の前に突如現れた俺の顔を見て、ヤツが息を呑む。
感謝しろ、これはお前に対するちょっとした贈り物だ――お前だって、自分を殺す相手が誰なのかくらいは、知った上で死にたいだろう?
俺が右手に握っている超合金乙製の出刃包丁が、アーク・ドイマンの頭と胴体の間をスッと通った。
さよならアーク・ドイマン。
お前はホント、俺にとってイヤになるほど――。
――記憶に残る厄介者だったよ。
ドイマンの後方の護衛の隙間を抜け、俺は通りの小さな路地へと消える。
背中のほうではドサリと地面に首が落ちる音と、護衛たちが大声で怒鳴り騒ぐ声が聞こえた。
これでノテヒラ理事長からの依頼は果たした。
ドイマン殺しの犯人役は、ノテヒラ理事長襲撃で捕らえた男に強制的にやってもらう手はずとなっている。
あとはノテヒラ理事長に、約束を守ってもらうだけなのだが――。
まぁ、これは時間が掛かることなので、気長に待つしかあるまい。
この世界の女性の結婚適齢期は、確か10代の後半だったはず。
なのであと、5~6年くらいで何とかしてもらいたい。
アルスくんの愛するフィーニア姫は、今年で11歳なのだ。
あの2人の間の気持ちに関しては、心配していない。
アルスくんはフィーニア姫ひと筋だし、フィーニア姫だってアルスくんのことを憎からず思っている――と思う。
ならばなんとかして外堀を埋め障害さえ無くしてしまえば、あの2人は絶対に結婚できるはずだ。
ノテヒラ理事長ほどの実力と権力を持った人物ならば、そんな工作でも不可能ではないはず。
そう、俺が取引によってノテヒラの爺さんと交わした約束とは『アルスくんとフィーニア姫の結婚』を成就させるための、裏工作なのだ。
そしてここからが、俺の野望。
なーに、些細なことさ。
俺はアルスくんとフィーニア姫の結婚式に出席し――。
できれば友人代表として、スピーチをやりたいと思っていたりする。
それが、俺の今の野望なのだ。
頼むよノテヒラの爺さん、裏工作でアルスくんとフィーニア姫の結婚という俺の願いを、どうにかして叶えておくれよ。
俺の願いはただ1つ。
俺はあの2人の、幸せいっぱいの結婚式に出席し――。
輝く2人の笑顔を、友達として見届けたい――それだけなのだ。




