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おっさん無双

2020年初更新となります。


本年も引き続きよろしくお願いいたします。

 ― 深淵の森 ―


「それじゃあ、また暫くいなくなるから」

「グオオォ」

「ガルルル」

 金ちゃんとポチに手を振って、俺はまた旅立つ。


 半月ばかり金ちゃんの縄張りで過ごしたので、英気は十分に養われた。

 これでまた、深淵の森を歩くことができる。


 ぶっちゃけ疲れるんだよね、深淵の森を歩くのって。

 すんごい格上の魔物ばっかしだから。


 超合金乙製で作られた戦闘用の包丁を手に入れたとはいえ、ボスキャラレベルの魔物がうようよしている深淵の森では、少々心許ない。

 弱そうな相手を厳選すれば1匹くらいならなんとかなる気もするが、連戦や複数体の相手などをしてはまず生き延びられる気がしないのだ。


 なので深淵の森を歩くのには、非常に神経を使う。

 正直、途中に金ちゃんの縄張りが無かったら、神経をすり減らしてして森を抜けるなどまず不可能だったであろう。


 でも採取をするのは楽しいんだよなー。

 人が立ち入らないから、珍しい素材とかが手つかず状態でたくさんあるからだ。


 俺がこれから向かうのは、もちろんアルスくんたちのいるミッツメの街。

 ドワーフの酒を飲ませてやるという約束を守り、尚且つドワーフの国で手に入れた戦闘用の包丁を、みんなに見せびらかそうという魂胆なのだ。


 ついでにレッドドラゴンの肉も食わせてやろう。

 昨日、恒例行事となりつつある俺の見送りの会で、ポチが狩ってきたのだ。


 ちゃんとした料理にするのが面倒だったからステーキにしたのだが、これが美味かったのよ。

 爬虫類感とか全然無くて、旨味ぎっしりの柔らか肉だった――むしろもう少し歯ごたえが欲しいくらいの。

 久しぶりに無理して胃袋に詰め込みましたわー。


 肉は柔らかかったが、レッドドラゴンの表皮は硬かった。

 仕方が無いので超合金乙の包丁を1丁、料理用にしたくらいである。


 これで3丁の包丁はそれぞれ、戦闘用・戦闘用の予備・料理用として持ち歩くこととなった。

 とりあえず料理用にはしたが、予備の包丁まで壊れたその時にはもちろん料理用の物も戦闘に使うつもりである。


 ちなみに超合金乙の包丁を使って料理をしたところ、まな板がすぐに駄目になってしまったので、今はまな板の代わりに金ちゃんの鱗を使っている。

 これがまた使い勝手がいいのですよ、なんたって傷も汚れも着かないんだもの。


 ドラゴンのカテゴリーであるレッドドラゴンの肉ということで、ドラゴンである金ちゃんが食べるの嫌がるかなと思ったが気にするようなものでは無かったらしい。

 同種と言っても俺たち人間の感覚でいうところの、ほ乳類カテゴリー程度にしか考えてないようだ。

 普段の倍くらい食べていたので、きっと金ちゃんも美味しいと感じていたのだろう。


 そろそろ金ちゃんの縄張りを抜けるな。

 気を引き締めないと。


 深淵の森は本来、人が入り込めるような場所では無いのだから。


 ――――


 ― まだ深淵の森 ―


 マジヤバな地域もだいたい過ぎて、そろそろ深淵の森でも浅い地域へとやってきた。

 ここまで来れば、魔物の危険度も俺がなんとか対処できるレベルとなってくる。


 人間の国――テマエ法国まで、俺の足ならあと2日程度の距離。

 魔物は弱くなってきているとはいえ、まだまだ油断は禁物だ。


 とか言いつつもそこそこ余裕をぶっこいて、俺は適当に採取などをしながら歩いていたりする。

 なんか美味しそうで珍しいキノコがたくさん生えてるんだよね、この辺。

 もう少し安全な場所まで移動したら、焼いて食べてみよう。


 今はまだ保存食で我慢。

 さすがに危険地帯で火を使ったり匂いを漂わせたりするのは、魔物を呼び寄せてしまうので出来ないのだ。


 そんな訳で――。


 コカトリスジャーキーを咥えながら呑気に歩いていると、人の気配が引っかかった――3人組だな。

 あと魔物の気配も1つ――この気配は知ってる、火熊の気配だ。


 火熊――それは北海道に生息している熊で、大きさは2mを――。

 ――じゃねーし。


 改めてもう1度――。


 火熊――それは体長7~8mにもなる熊の魔物だ。

 見た目普通に大きいだけの熊なのだが、こいつは口から火を吐く。

 なのでちょいちょい森林火災の原因にもなるという、厄介者なのである。


 皮膚も筋肉も頑丈で、打撃系のダメージには特に強い。

 加えて魔法にもけっこうな耐性があり、とにかくタフな魔物なのだ。


 そんな火熊と3人組が、たぶん戦闘をしている。

 加勢が必要かどうかは分らんが、とりあえず近づいてみよう。


 慌てずゆっくりと。


 こちとら駆けつけて無双できるほどの、最強系チートでは無いのだ。


 …………


 ようやく戦闘している連中が見えてきた。


 盾を持った槍士が1人と両手剣を持った剣士が1人、火熊と戦っている。

 杖を持っているおばちゃんが回復魔法を掛けているので、彼女は治癒士なのだろう。


 見た感じ互角の戦いをしているようだが、いかんせん火熊のほうが圧倒的に防御力が高すぎる。

 盾を持った槍士が、回復魔法のおかげで怪我こそ治癒されているが、体力的にけっこうキツそうだ。


 俺は少し離れたところから、3人組に声を掛けた。

「おーい! 俺は『銅クラス』の冒険者なんだが、良かったら手伝おうか?」

 声を掛ける暇があるなら早く助けてやれとか思われるかもしれないが、うっかり無断で手を貸すと怒る冒険者もいるので、こういう声掛けはしなければいけないというのが冒険者のルールなのだ。


「助かるよ、手を貸してくれるかい? そろそろあたしも魔力が厳しいんだ」

 即座に返事をしてくれたのは、治癒士のおばちゃん。

 たぶんこのパーティーのリーダーなのだろう、他の2人は文句も言わず火熊との戦闘を続けている。


「なら少し休んどいていいよ、しばらく俺が相手するから。疲れたら交代よろしく」

 さてと……【敵意引受(ヘイトテイクオーバー)】発動!

敵意引受(ヘイトテイクオーバー)】のスキルは、使った相手の敵意をこちらに向けるというものだ。

 これで火熊はこちらへ向かって来るはずだ。


 案の定こちらに向かってきた火熊だが、もちろん俺はまともに戦うつもりなどさらさら無い。

 さんざん引き付けておきながら【隠密】と【隠蔽】のスキルを使い、木の後ろにヌルリと隠れて姿を消す。

 火熊が俺のことを見失ったところで、【真・包丁術】のスキルを使って攻撃だ。


 唸れ! 超合金乙製の出刃包丁よ!


 スパッとな。


 ――うわ、マジでスッパリ切れたよ。

 スキルの効果もあるのだろうが、とにかくすごい切れ味だ。


 切られて再び火熊がこちらに敵意を向けるが、俺も再び【隠密】と【隠蔽】のスキルを使い姿を消す。

 そして火熊が再び俺を見失ったところで、出刃包丁を振る。


 あとは、これの繰り返し。


 何度も何度も繰り返していくと、徐々に火熊が弱ってきた。

 つーか、これだけスパスパ切っているのにまだ倒せない。


 苦し紛れなのか、火熊が口から火を吐いてバラ撒いているが、そんなものには注意さえしていれば巻き込まれることは無い。

 それに火力そのものも大したことが無いので、この程度なら命中しても防具が軽い火傷程度に防いでくれるはずだ。


 超合金乙製の出刃包丁の性能テストをしたかったので、わざと急所を狙ってはいないというのもあるが、やはり出刃包丁の刃渡りだと大型の魔物相手ではやや殺傷能力に欠ける。


 数十mサイズで急所が肉の奥にある魔物では、強さに関わらず仕留めるのにかなり苦労するのは間違いないだろう。

 その分小回りは効くので、素早い相手や小さくて数の多い相手には向いている得物かもしれない。


 やはり武器という物は、実戦で使ってみたほうが長所も短所も分かりやすいな。


 逃がさないように後ろ足を入念に切りつけると、火熊が無茶苦茶な攻撃をし始めた。

 それこそ、必死なのだろう。

 ここまで来ると、こちらは無理に攻撃をする必要は無い。


 冷静に落ち着いて無理をせず、隙を見極めて少しずつ火熊にダメージを与えていく。

 ここまでくると、殺すというよりも死を看取るような気分になる――相手がもう死を待つだけなのが、はっきりと見て取れるからだ。


 だが油断をするつもりは無い――じっくりと、確実にダメージをくれてやる。

 やがて力尽きた火熊が、ドウッと倒れた。

 念のために首を掻き切っておこう。


 これで安心――と。

 あ、いけね――。


「すまん、倒しちまったんだけど――マズかったか?」

 超合金乙製の出刃包丁の切れ味を試すのに夢中になり過ぎて、結果的に獲物を横取りする形になってしまった。

 手を貸してくれとは言われたが、血の気の多い冒険者だとそれでも腹を立てるかもしれない。


「全然マズか無いさ――なぁ?」

「おう、助かったわ」

「正直キツかったからな」

 どうやら、倒してしまっても問題は無かったらしい。


 というよりも火熊との膠着状態が続いてジリ貧になり、そろそろ隙を見て撤退しようかと思っていたところに俺が倒してしまったもんだから、彼らにとっては思いがけぬ幸運が舞い降りた気分なのだそうだ。


 ちゃんと撤退を考慮に入れて戦ってたのは、いかにもベテラン冒険者らしい。

 戦いで冒険をしないというのが、冒険者が長生きする秘訣だ。


 火熊の素材だが……話し合いの結果、素材を売った金を半分俺がもらうことになった。

 まぁ、ほとんど俺が倒したようなもんだからね。

 遠慮はしないよ。


 俺がテマエ法国に向かっていることもあり、彼らも一緒に戻ることにしたらしい。

 彼ら『カンテボの夜明け』はテマエ法国を拠点にしているのだそうだ。


 旅は道連れ世は情け。


 たまには知らない冒険者と一緒というのも、悪くは無いか。


 ――――


 道中ちょっと端折(はしょ)る。


 ――――


 ― ミッツメの街・冒険者ギルド ―


「あ、いた」

 どうせアルスくんたちは依頼に出かけていないんだろうなー、とか思いながらギルドの中に手続きをするために入ったら、タイミングが良かったらしく『黄金の絆』の面々が喫茶スペースでだべっていた。


「ほら、やっぱりおっさんさだべ」

 最初に俺を見つけたのは、やっぱりノミジ。

 つーか、俺の来る気配を察知していたらしい。


 みんなが手を振ってくるので俺も振りかえし、受付に届けを出してからアルスくんたちのところへ向かう。

「タロウさん、お久しぶりです!」

「おひさ~、みんな元気してた?」


 と、聞いてはみたが――たぶん元気なんだろうな。

 だいたい怪我とか病気とかしても、パネロが治しちゃうだろうし。


「オレがいるんだから、誰も怪我なんかさせねーよ。それより土産は?」

 ふんぞり返りながら、土産を要求しているのはマリーカ。

 椅子を後ろに傾けながら座っているが、けっこうギリギリの傾きなのでそのうち後ろにすっ転がりそうな気がする。


「ドワーフの国で、酒を買ってきたぞ」

「わたしお酒より食べ物のほうが良かったなー」

 ペンギンの着ぐるみの手羽先ヒレで、器用にティーカップを掴んで紅茶を飲んでいるのはパネロ。

 つーか、良くその手羽先でティーカッブの持ち手を握れるな、お前。


「それなら心配するな、レッドドラゴンの肉という柔らかくてすげー美味い肉が手に入ったからな――後で腹いっぱい食わしちゃるぞ」

「は? レッドドラゴンって……まさかおっさんが狩ったの?」

 レッドドラゴンと聞いて驚いている年増の魔法少女は、もちろんクェンリー。


「イヤ、さすがに俺には狩れんてば。なんつーか……今の仲間が狩ってきたんだよ」

「仲間? おっさんさ、ソロの冒険者になるんでなかっただか?」

 あ、イヤ、違うからノミジ。

 冒険者の仲間でなくて――。


「酷いですよタロウさん! 僕たち『黄金の絆』から抜けておいて、他の冒険者なんかとパーティーを組むなんて!」

 アルスくんが仲間と聞いて、すんげー怒っている。

 ちょい待ちアルスくん、俺の話を聞いて。


「違うから! 仲間っつっても冒険者じゃ無いから――どっちかっつーと、仲魔?」

「冒険者じゃない仲間ですか?」

 うんにゃ、仲間じゃなくて仲魔――オレサマ オマエ マルカジリ的なのが2頭ほど。


「その辺の話はここじゃ何だから、部屋に行こう――おまけで、面白いもん見せたげるから」

「分かりました、なら早く帰りましょう。タロウさんの仲間の件、しっかり聞かせてもらいますからね」

「たぶん、驚くと思うよ」


 俺たちは、アルスくんの部屋へと帰る。

 さて、レッドドラゴンのステーキの他にも、何を食わせてやるか考えないとな。


 献立考えるのって、面倒くさいよね。


 …………


 ― アルスくんのお部屋 ―


「ドラゴンにフェンリルですか!? それがタロウさんの仲間……!?」

「より正確に言うと、ドラゴンのほうが俺の親分でフェンリルが弟分になった。なんかいつの間にかパーティーを組んでる状態になっててさ、もう俺もどういう理屈なんだか訳わかんないんだよ」


 アルスくんたちに土産話をしているのだが、さすがに金ちゃんとポチの話をしたら驚いている。

 ドラゴンとフェンリルに出会ったというだけでもとんでもないことなのに、そいつらとパーティーを組むという訳わからんことになっているのだから当然だろう。


「なんでパーティーを組んでるって思ったのよ? ステータスに何か表示があったとか?」

 クェンリーの疑問ももっともだが、もちろんステータスにそんな表示などは無い。


「それがさ、ポチ――フェンリルが狩りをしに行った時に、俺にも経験値が入ったみたいでレベルアップしちゃったんだよ。他に経験値が入るような身に覚え無いし、これはパーティーを組んでるんだろうな……と」

 うむ、みんな呆れてるな。


「おっさんが餌付けしたとかじゃ無いのか?」

 いつの間にか俺がドワーフの国から買ってきたウイスキーをグビグビやりながら、マリーカが――って、勝手に樽を開けてるんじゃねーよ、飯の時まで待てって言ったじゃん!


「それがそうでも無さそうなんだよなー……つーか、ポチはともかく金ちゃんに【真・餌付け】のスキルが有効だとは思えないし」

 なんせ【隠密】と【隠蔽】を使ってる俺を普通に眺めていたくらいだし、それに飯食わせる前後で全然態度とか変わんないしさ。


「ほえ~、そんなことあるんですねー。ところでその『金ちゃん』ってドラゴン、何ドラゴンなんですか?」

 パネロがマリーカからウイスキーの入ったマグカップを受け取りながら、金ちゃんの種族を聞いてきた。

 もう俺が買ってきたウイスキーは、飯の時を待たずに飲んでしまうことが決まったらしい。


「金ちゃんは何ドラゴンでも無くて、正真正銘本物のドラゴンだよ――ほら、あれだよ、神話とかで出てくる金色のヤツ」

 実際金ちゃんと同じ個体かどうかは知らんが、たぶん同じのはずだ。


 しばしの沈黙――。

「「「「「えぇーーー!!!」」」」」と驚くみんな。


 うーむ、なんか異世界チート物のお約束みたいだな。

 確か、この後『非常識だ!』とか言われるのがワンセットのネタのはずだ。


「本当ですか!?」

「たぶんね」


 ――そうだ、鱗を見せるの忘れるところだった。

「これ見てよ」

 俺はストレージから、金ちゃんの鱗を取り出し床に置く。

「これが金ちゃんの鱗、すんごい硬いんだぞこれ」


 硬いと聞いて、みんなが自分の武器やら何やらで鱗をカンカンと叩く。

「たぶん何やっても傷つかないと思うよ」

 カンカンという音が、ガンガンに変わった。


 これ絶対に、近所迷惑なレベルの騒音だよなー。


 とうとうアルスくんが剣を抜いた。

 以前から持っているほうの剣。

 そして大きく振りかぶって――イヤ、ちょっと待って。


「待て待て待て! さすがにそれは床が危ないから! 壊れるから!」

 大型の魔物ですら見事に叩き切るアルスくんが思いっ切り剣を叩きつけたら、たとえ金ちゃんの鱗越しでも床が抜けてしまう。


 ここは一旦、外に出ようよ。


 …………


 ― ミッツメの街の外 ―


 考えてみたら金ちゃんの鱗というのもあんまし人目に晒してはマズそうなブツなので、街の外まで出ることにした。

 夜だし人の気配も無いので、この辺なら問題無いだろう。


「じゃあ、行きますよ!――えい!」

 アルスくんが、地面に置いた金ちゃんの鱗に剣を振り下ろした。


 ガッキーン!

 けっこうな衝突音と共に、金ちゃんの鱗がズボッと地面にめり込む。

 ずいぶん深く潜ったな。


 覗き込んで確認。

 よしよし。


「ほら、見てごらんよ。かすり傷もついてないから」

 俺がそう言うと、みんなも覗き込んだ。

「ほんとだべ、傷一つ無いだ」

 だろ? ノミジ。


「良く見えねーな」

「良く見えないよね」

「暗いものね」

「部屋に戻って、灯りの下で見ましょうか」

 どうやらちゃんと見えているのは、俺とノミジだけだったらしい。


 まぁ、そうだよね。

 戻ろうか……。


 あ、マリーカ――。


 ちょっと、これ掘りだすの手伝って。


 …………


 アルスくんの部屋に戻ってきた。

 改めてさっきの金ちゃんの鱗を出す。


「凄いですね……本当に傷一つ無い――アダマンタイトの剣で、思いきり切りつけたのに」

 あぁ、アルスくんの愛剣ってアダマンタイトの剣だったんだね。

 今知ったし。


「凄いでしょ? しかもほら、汚れも全然ついて無いし――傷も汚れもつかないし雑菌なんかも繁殖しないから、金ちゃんの鱗って最高のまな板なんだよ!」

 と言って、俺はレッドドラゴンの肉の塊を取り出し、ステーキ用に切り分け始めた。

 イヤ、そろそろ晩メシ時なので。


「まな板かよ! 勿体ねーな。そんな使い方するなら、この鱗でオレの盾作ってくれよ――これなら最高の盾ができるぜ!」

 うむ、マリーカのその意見も理解できる。

 つーか、俺もそれは考えた。


 でもな――。

「加工ができないんだよ。変形したり穴を開けたりももちろんだけど、接着剤もくっつかないんだ――あと別な素材でくるんでも、何故だか剥がれて分離してしまうらしい」

 これはミクタのおやっさんがそうボヤきながら説明してくれたことなので、間違いは無いと思う。


 そんな訳で金ちゃんの鱗は、そのまんま使うしか無いのだ!

 だからまな板として使うのが、最適なのだよ。


 ほれ、みんな切り分けたレッドドラゴンの肉を、自分で焼いて食すが良い。

 あと深淵の森で採ってきたキノコも、切ってやるから食え。


「その包丁、ずいぶん切れるだな」

 ふふん、ノミジよ気づいたか。

 つーか、他のみんなも気づけよ。


 さぁ、今度は超合金乙製の出刃包丁の自慢を始めようか。


 この包丁、凄いんだぞ!


 …………


 包丁自慢も終わったところで、スロットを回すことになった。


 途中アルスくんが室内にも関わらずいきなり模擬戦を挑んで来ようとしたり、食べていた深淵の森で採取してきたキノコが毒キノコだったということが発覚したりしたが、どれも些細なことなので話は割愛する。


 ちなみに深淵の森で採取したキノコは毒キノコではあったが美味かったので、パネロと俺が治癒魔法を駆使してみんなで完食している。

 治癒すれば食っても問題無いのだから、そこはやはり食うだろう。


 人の食い意地というものを、ナメてはいけない。


 で、スロットの話に戻るが――。


 特に必要な物も無いので、スキルスロットでも回してやろうかと思っている。

 ぶっちゃけ俺はもうこれ以上スキルは必要無いかなとか思っているので、適当に回しても特に問題は無い。


 ちなみに今のステータスはこんな感じ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 名 前:タロウ・アリエナイ


 レベル:41/100


 生命力:2091/2091(4100)

 魔 力:2394/2394(4100)


 筋 力:197(428)

 知 力:233(440)

 丈夫さ:126(420)

 素早さ:79(418)

 器用さ:286(433)

 運 :414


 スキルポイント:2

 熟練ポイント:184


 スキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】

【光球:極】【着火:極】【暗視:極】

【お宝感知:極】【隠密:極】【鍵開け:極】

【気配察知:極】【隠蔽:極】【罠解除:極】

【水鉄砲:極】【呪い:極】【メテオ:極】

【真・暗殺術:極】【水中戦闘術:極】【投擲術:極】

【短刀術:極】【毒使い:極】【防具破壊:極】

【筋力強化:極】【真・餌付け:極】【魔力譲渡:極】

【解呪:極】【回復魔法:極】【吸着:極】

【便意の魔眼:極】【悪臭のブレス:極】【真・腹時計:極】

【治癒:極】【不死者消滅:極】【毒球:極】

【真・包丁術】【手加減:極】【敵意引受:極】

【対人特効:極】


 付与スキル:【刀術:中級】※森定貞盛の兜による


 加護:【女神ヨミセンの加護】


 状態異常:老化


 ※ ※ ※ ※ ※


 さすがにこれだけ大量のスキルがあれば、普通以上に冒険者稼業はできる。

 それに俺は別に世界最強とかは目指していないし、魔王とか邪神なんかを倒さねばならない立場でも無いので、これ以上のスキルは正直いらないっちゃーいらないのだ。


 あとは地味~な冒険者稼業を続けて、働けなくなったらどこか田舎で平穏な老後の人生を送るというのが俺のこれからの人生設計なのである。


 ――てな訳で。

 スロットを回そう。


「【スキルスロット】!」

 いつもの半透明の筐体が浮かび上がる。


「始まりますよ!」

「しゃーない、付き合うべ」

「どんなスキルが出るんだか」

「何でもいいから、面白そうなの頼む」

「もう眠いから早くしてよー」


 なんかもう楽しみにしてくれているのはアルスくんだけな気もするが、気にせず始めよう。

 スキルポイントを全部――2ポイント投入して――。


「レバーオン!」

『職業スキル』のスロット開始だ!


 目押しなんぞくそくらえな仕様の、3つのリールが回り始めた。

 せっかくの『職業スキル』のスロットなのだから、老後のことを考えると何か手に職を付けられるスキルでも欲しいものだ。


 んで、ボーッと眺めているうちに、左のリールが停まった。


<縄抜け> ―回転中― ―回転中―


『縄抜け』の必要な職業って、何かあったっけ?

 イリュージョンをする人とか?


 また、変な特技が増えちゃったなー。

 そして真ん中のリールが停まる。


<縄抜け> <捕縛術> ―回転中―


 おっと『捕縛術』ときましたか。

 これはアレかな? 自分を捕縛してから縄抜けするとかいう、一人遊びをしろということかな?


 ひとりSMプレイってヤツか?

 ん? あれ? 違うか?


 で、最後右。


<縄抜け> <捕縛術> <採取>


 おう……。

 なんかものすごーく今更な、冒険者の基本スキルが来たか……。


 回復ポーション作る系のファンタジーで、序盤に活躍するヤツだ。

 いいかげん話が進んだこの時期に出ても、あんまし活躍する機会の無いヤツ。


 まぁいいけどねー、俺は未だにしょっちゅう採取とかしてるからさ。


 スキルの確認に関しては割愛する。

 分かりやすいスキルだから、説明とかいらんだろ。


 明日当たり『採取の依頼』でも受けて、【採取】のスキルがどの程度の物か確認してみよう。

 なるべく食べられる物の採取。


 何やら品質が良くなるらしいので――。


 採取したものがいつもより美味くなるかもしれんし。


 ――――


 ― そこらの森のけっこう奥 ―


 採取の依頼をしたいという俺の提案は、アルスくんの『採取なんて狩りの途中でもできるじゃないですか!』というひと言であっさりと却下された。


 で、結局受けた依頼は『バジリスクの狩猟』

 バジリスクとは、言わずと知れた石化の魔眼持ちのでっかいトカゲの魔物である。


 俺が『黄金の絆』と共に行動するということで回復役が2人となり、万一どちらか片方が石化してももう片方が治癒できるので、十分な安全マージンが取れるとの判断によるものだ。

 バジリスクは深淵の森でちょいちょい見かけるので俺にとっては珍しくも無く、ぶっちゃけワクワク感とかは大して無かったりする。


 てな訳で、俺の優先順位としてはまず美味そうな物の採取、次に誰かが石化した時の回復役、最後に戦闘用の包丁の使い勝手の検証だ。

 戦闘用の包丁に関しては火熊戦で使ってみてだいたい分かったので、特に検証する必要も無く優先順位は低いのである。


 バジリスクの生息域に辿り着くまでに2日ほど掛かったが、深淵の森で気配は覚えていたので発見するのはすぐだった。

 発見したら、次は狩りだ。


 俺たちはたまたまバジリスクの背後に位置していたので、奇襲をするには絶好のチャンスとなっている。

 念のためパーティーを2つに分け、パネロ・マリーカ・ノミジを右に回りこませた――石化の魔眼で一気に全滅をするのを防ぐためだ。

 残ったアルスくん・俺・クェンリーが、このまま背後から奇襲を掛けるメンバーとなる。


 クェンリーがまず、バジリスクの頭部を狙って【閃光(フラッシュ)】の魔法を放った。

 これは強烈な光をバジリスクに見せて目を眩ませ、『石化の魔眼』の無効化を狙ったものだ。


【閃光】の魔法が頭部へと届こうかというその時、バジリスクがいきなり向きを180°変えやがった。

 つまり、こっちを向いたのだ。


 あ、ヤバ……石化の魔眼が!


 先頭を走っていたアルスくんが転がるのが見えた。

 転がったアルスくんは目を閉じている。

 もちろん石化したとかでは無い。


 バジリスクの石化の魔眼は、視線が合うと発動する。

 なので発動を防ぐために走りながら目を瞑ったせいで、盛大にすっ転んだらしい。


 先頭を走るアルスくんに向いていた視線は、当然すぐ後ろを走っていた俺へ――。

 ヤバ……こっちに石化の魔眼が来る!

 ここで目を閉じればいい話なのだが、俺は何でだかバジリスクに対抗意識を持ってしまった。


『石化の魔眼』に【便意の魔眼】をぶつけてみようと思ってしまったのだ。

 どう考えても理屈に合わない行動であることから、これは魔眼持ちの本能によるものなのかもしれない。


 くらえバジリスク! 【便意の魔眼】!


 バチン! と、俺とバジリスクの間で何かが弾けた。

 同時に俺の両目に、激痛が走る!


 うおおおぉ! 痛え!

 目が……! 目がああぁぁぁ!!


 グゲエェェ!

 バジリスクの苦しそうなうめき声が聞こえ、ドタドタと暴れているような音が続く。

 あぁ……向こうも目をやられたのだな……。


 どうやら魔眼勝負は、相打ちとなったようだ。


 俺とバジリスクの魔眼が相打ちとなったならば、勝負はこちらの勝ちだ。

 向こうは1匹だけだが、こちらには仲間がいるのだから。


「でやー!」

 アルスくんの掛け声が聞こえた。

 狩ったな――アルスくんなら、魔眼の使えぬバジリスクを仕留め損なうはずが無い。


「タロウさん! 大丈夫ですか!」

「大丈夫だよ、目が痛むだけだから――【完全回復(オメガヒール)】」

 心配してくれながら駆け寄ってくるアルスくんの気配に大丈夫と言いながら、俺は自分に回復魔法を掛けてダメージを回復させる。


 回復させたら、目はすぐに見えるようになった。

 相変わらずの老眼ではあるが、見えるとはやはり有難いものだ。


 バジリスクは、バッサリと頭部を切り落とされていた。

 アルスくんは、相変わらずいい腕をしている。


 落とされた頭部をよく見ると、両眼には矢が突き刺さっていた。

 念のため目を潰したか――うむ、ノミジもいい腕だ。


 やっぱ『黄金の絆』は、良いパーティーだな。


 さすがは俺の自慢の友達たちだ。


 ――――


 ― ミッツメの街・冒険者ギルド ―


『バジリスクの狩猟』も無事終わり、俺たちはミッツメの街へと戻ってきた。


 魔眼と魔眼がぶつかり合うと相打ちになって双方とも目を傷めるということを発見したが、これはギルドに報告しなくてもいいだろう。

 どうせ報告しても、面倒くさいことになるだろうし。


 そうそう、【採取】のスキルなのだが、やっぱりスキルがあると採取した食べ物の味が少し良くなった。

 おかげでこれからの食生活が少しばかり豊かになりそうなので、やはり【採取】のスキルは俺にとって有用なスキルだったようだ。


 ギルドに入ると、もう昼近い時間だというのに何やらバタバタと慌ただしい。

 普段は依頼が貼りだされる早朝と、冒険者の帰還が立て込む夕方が忙しい時間のはずなのだが――。

 何かあったのかな?


「あぁ! 丁度いいところへ!――ギルマス!『黄金の絆』の皆さんが、帰ってきました!」

 パタパタと走り回っていたギルド職員のおねーさんが俺たちを見つけ、ギルマスに報告している――どうやらやはり、何かあったようだ。


 奥のほうから、昔は美人だったと言われているギルマスさんがやってきた。

 ちなみに名前はすっかり忘れている。


「あんたたち! ちょっと頼まれてくれないかい!」

「何があったんです?」

「ゴブリン塚が見つかったんだよ! とりあえず手の空いてる冒険者に緊急依頼で出張ってもらうつもりだが、ゴブリン塚だからね――もしかしたら、『キング』がいるかもしれない」


 なんじゃそれ? と思う人もいるだろうから、説明しておこう。

 まず、ゴブリン塚とは――。


 ゴブリンの巣は一般的に地下に穴を掘って作られているものだが、巣の中の群れの規模が大きくなると地上へも巣が拡張されて、蟻塚のように大きく盛り上がった巣が形成される。

 それがゴブリン塚だ。


 ゴブリン塚が作られるほどのゴブリンの群れとなると、その数は少なくとも500匹以上――多い時には数千という、凄まじい数の暴力となる。

 しかも数だけが増えるだけでは無く、進化個体と言われる強力な個体も出現するのだ。


 その中でも『ゴブリンキング』と言われる進化個体、これはゴブリンの進化個体の中でもズバ抜けて強い個体であり、その強さは高ランク冒険者でないと太刀打ちできないとされるほどなのである。

 ちなみにその頭には横に広がった角が生えており、王冠のように見えるのが『キング』と名付けられた由来だ。


 なるほど『黄金の絆』に声が掛かるわけだ。

 アルスくんなら相手がゴブリンキングであっても、まず確実に倒せるだろう。


「分かりました、いつ出発ですか?」

「できれば昼過ぎには出発させたい。急がせて悪いが、頼むよ」

 ギルマスさんはそう言うと、慌ただしく別な仕事へと向かって行った。


 依頼から帰ってきたばかりだというのにゴブリン塚の駆除とか、頼りにされるってのも良いことばかりじゃ無いよね、アルスくんたちもご苦労様だな。


「ゴブリン塚かー、街の有力冒険者ってのも大変だね――んじゃみんな、頑張ってきてね」

「何を言ってるんですか? タロウさんも行くんですよ?」

「へ? 俺もなの?」

「それはそうでしょう。ギルマスが『あんたたち』って僕らのことを呼んだ時、そもそも指をさされていたのはタロウさんなんですから」

「あれ? そうだったっけか?」


 アルスくんの勘違いでないん?

 どうなの?


「そうだべ」

「そうですよ」

「そうよ」

「そうだな」


 仲間に確認を取ろうと目を向けたら、みんなして『そうだ』とか言うし。

 それ本当か?

 適当に俺も巻き込んでやろうとかじゃ無かろうな。


 イヤ、君たち――なして道中のメシを俺が作る前提で、メニューを決めているのかな……?


 なんかそれ、おかしくね!?


 つーか、やっぱ俺を指さしてたとか絶対ウソだろ、お前ら!


 ――――


 ― 4日後・荒地 ―


 ゴブリン塚のある場所に到着した。

 人数が多いのでどうしても足の遅い冒険者に合わせることになり、ここまで4日も掛かっている。


 周囲は荒地である。

 ゴブリン塚のある場所はゴブリンが動植物を問わず食い荒らすので、だいたい荒地になるのだ。


「では、手はず通り外に出ているゴブリンを駆逐しながら、ゴブリン塚を囲んで下さい。囲んだら魔導士隊は炎の魔法を隙間無くゴブリン塚の周囲に放って内部のゴブリンを塚ごと焼き、炎を突破してきたゴブリンを残りの冒険者で打ち取ります」


 冒険者たちに指示を出しているのはアルスくん。

 この中では最もランクが高い『ランク:銅』のパーティーのリーダーなので、必然的に全体のリーダー役をやっているのだ。


 冒険者たちが、ゴブリン塚を囲むべく散った。

 俺とパネロとアルスくんは、ゴブリン塚を中心に3方向から攻める――『クラス:銅』の冒険者は俺たちだけなので、同じ方向から攻めると他の方向の包囲が弱くなってしまうのだ。


 全冒険者の配置が終わった。


 作戦開始だ!


 …………


 10分経過――。


 作戦は順調に推移している。

 現在は魔導士の皆さんが、ゴブリン塚を囲んで丸焼きにしているところだ。


 ちなみにこっちは風下なので、ものすごーく煙たい。

 あと、臭い。

 くそっ! 完全に攻める方向を間違ったぜ!


 しばらく煙を我慢しながらボーっと丸焼きを見ていたら、ボコッとゴブリン塚に穴が開いた。

 そこから1匹のゴブリンが出てきて、炎の壁を強引に突破してくる。


 一番近くにいた冒険者が、突破してきたゴブリンを討とうと向かって行った。

 あ、バカ油断するな!

 炎を突破してくるくらいなんだから、そいつは進化個体だ!


 やべー! こん棒で殴られて冒険者がよろけてるし!

 えぇーい! しゃーないな!


「危ないから下がってろ!」

 俺はよろけた冒険者と炎を突破してきたゴブリンとの間に割り込み、超合金乙製の出刃包丁を構えた。

 見せてやろうじゃないか進化個体のゴブリンよ、【真・包丁術】のスキルの威力を思い知るが良い!


 俺の包丁は、あっさりとゴブリンのこん棒を切断。

 続けて背後に回り、喉首を掻き切る。


 周りにいた冒険者たちから、『おぉ~』と歓声が上がる。

 あと、ちらほらと拍手。


 うむ、決まったな。


 と、珍しくカッコ良く決まった自分に浸っていたら、今度は次々とゴブリンが塚から湧きだしてきた。

 あと周囲の冒険者たちが、何故だか後方へと下がっていく。


 ちょい待てお前ら!

 俺が下がれと言ったのはそこのうっかり冒険者にであって、お前ら全員にでは無いぞこら!


 そんなこんな考えているうちに、ゴブリンが次々と炎を突破してくる。

 ええい、くそったれ! こいつら全部進化個体かよ!


 後ろに下がった冒険者に、もう1度陣形を整えさせるには時間が掛かる。

 ならば――。


 俺は後方へと声を出す。

「とりあえずこいつらは俺が始末する! 打ち漏らしは頼んだぞ!」

 もうこうなったら、1人でやったる!


 さっきの進化個体の手ごたえからして、この程度なら俺1人でも余裕だ。

 唸れ!超合金乙製の出刃包丁よ!


 ……なんか語呂が悪いな。

 超合金乙製の出刃包丁に、名前とか付けようかな……?


 流れるように舞うように、我ながら見事にゴブリンの進化個体を倒していく俺。

 ギャラリーから『すげぇ……』とか『圧倒的だ……』とかいう声が聞こえてくるので、ぶっちゃけ俺はノリノリになってきている。


 はっきり言おう。

 俺は今、調子こいているのだ!


 調子こいているので、次から次へと湧いてくる進化個体を俺は1人で片付けていた。

 やがて湧いてくるゴブリンもいなくなり、ようやく一息をついて一言。

「よし、やったか!?」


 ドオオォォォン

 ゴブリン塚の、こっち半分が吹っ飛んだ。

 塚を作っていた土と、おそらく塚の中で死んだと思われるゴブリンの死体がまき散らされる。


 その中に1体だけ、大柄な人間ほどの大きさのゴブリンが仁王立ちをしていた。

 その頭には、パッと見で王冠にも見える大きな横に広がる角。


 ――『ゴブリンキング』だ。


 うん、知ってた。

 なんか強そうな気配が残ってたし。

 お約束なんで、ちょっと『やったか!?』とか言ってみたかっただけっす。


 さて、強いと言われるゴブリンキングだが、どの程度のもんかなー?

 と、調子こいて余裕の様子見をしていたら、ゴブリンキングが動き出した。


 ドンッという地面を蹴る音がした直後、俺のすぐ近くにゴブリンキングが――うわ! 早い!

 右手1本で振り回すゴブリンキングの大剣が、ほぼ同時に目の前に――。


 ガギン!

 かろうじて包丁で受け、なんとか大剣を逸らすことに成功。


 これは――ゴブリンキングを舐め過ぎたぞ。

 正直、こんなに身体能力が高いとは思わなかった。


 負けるとは思わないが、これだけの身体能力を持つゴブリンキングに逃げに入られてしまったら、俺では間違っても追いつけないだろう。

 今回の依頼は『ゴブリン塚のゴブリンの駆除』なので、もちろんキングも取り逃がす訳にはいかない。


 こうなればゴブリンキングが逃げようとする前に、俺の全スキルを駆使してでも倒さねば!


 俺は【真・包丁術】はもちろんのこと、【隠密】と【隠蔽】を発動。

 更にはゴブリンキングは人型ということで、【真・暗殺術】も発動し必殺の構えを整えた。


 嗅覚も鋭くなっていると予想されるゴブリンキングの鼻を目掛けて【悪臭のブレス】を吐き、気が逸れた隙をついて死角に潜り込む。

 ここまでくれば、もう逃がしはしない。


 俺は振り回される大剣を器用に避け、斜め後方の死角から逆手に持ち替えた包丁をゴブリンキングの首に当てて、一気に押し込んだ。

 包丁は滑らかに――本当に滑らかにその太い首に入っていき――。


 通り過ぎた後には、首から下のゴブリンキングの死体が残った。


 俺が突き出した右手に持った包丁には、見事にゴブリンキングの首が乗ったままである。


 ドオッと冒険者たちが沸いた。

 俺が見事にゴブリンキングを倒したことへの、歓声である。


 これは決まった。

 決めポーズがいささか厨二臭いが、たぶんカッコいいはずだ。


 進化個体のゴブリン相手に無双し、尚且つゴブリンキングまでいとも容易く屠った冒険者。

 これでカッコ良くないはずが無い。


 俺は異世界に来て初めてのカッコいい自分に酔いしれた。

 そして酔いがちょっとだけ覚めたところで、困った。


 カッコつけてゴブリンキングの首を包丁に乗せたはいいが――。

 この首、どうすればいいのだろう?


 せっかくだから最後までカッコつけたいのだけれど――。


 どなたかカッコいい首の降ろしかたとか、知りません?

プチ俺Tueeeができるくらいに、強くなりました♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔眼対決。その発想はなかった。 フィニッシュシーンを意識できるほど強くなりましたね。おっさんも成長しましたなぁ、しみじみ。
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