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大猪の狩猟

 ― サイショの街から、少し離れた森 ―


「なかなか見つかりませんね、タロウさん」

「そうだねアルスくん、いないねー」

 冒険者生活を始めて幾数日、俺とアルスくん――冒険者パーティー『黄金の絆』は、順調に冒険者としての生活を続けていた。


「この辺で目撃されているんですよね、大猪」

「見たのはギルドの馬車の人とかだから、間違いは無いと思うんだけどねー」

 今までは採取の依頼だけをこなしてきた俺たちなのだが、今日は採取の依頼が無かったので狩猟依頼を受けていたりする。

 その依頼の内容はこれ――。


【 大猪の狩猟(食用肉の納品):食用肉30円/100g ※肉のみ買取 】


 そう、大猪の狩猟の依頼である。

 狩猟依頼と討伐依頼の違いは、対象から得られる部位が欲しい場合が狩猟、人々の生活や国の統治に害を及ぼす生き物を除くのが討伐、という区分だ。


 今回は狩猟なので、肉の確保が我々のお仕事となる。

 なので間違っても毒などは使えない、肉に毒が回ると食べられなくなってしまうからだ。


 つまり今回の依頼は、大猪を肉を食べられる状態のまま狩ることなのだ!

 ……アルスくんが。

 俺の役目は、大猪を見つけるまでである。


「あ、足跡みっけ――これ、大猪で合ってるかな?」

「そうです、これです! さすがタロウさん!――あっ! こっちには糞もありました!」

 糞を見つけたアルスくんが地面に這いつくばって、クンクンと臭いを嗅いだ。


「でも臭いが古い……もう近くにはいなさそうだな……」

「それでも痕跡が見つかっただけ良しだよ――にしても、ここまで出くわさないとは思わんかったな」

 朝から目撃情報のあった場所へ移動し大猪を探しているのだが、これがなかなか見つからない。

 昼過ぎにして、ようやく痕跡を発見できたという困った事態である。


 大猪を狩ることしか考えて無かったから、すっかり午前中で終わる気でいたのに……。

 まさか見つけるのにこんなに苦労するとは思わんかった。

 これは今後の依頼の選び方も、考えないといけないかもしれんなー。


 今後と言えば、実は冒険者生活を続けるに当たって考えたことがある。

 今回採取依頼が無かったように、今後俺たちが受けられないような依頼しか無い場合とか、天候や状況が依頼を受けるのを許さないなどという場合もあるかもしれない。

 そんな場合に備えて、冒険者とは別に何か副業を持ったほうが良いのではないか、という考えである。


 そこで出番となるのが、俺のスキルだ。

 もちろん今は、そんな副業に使えるスキルなどは持っていない。


 だから次にスキルスロットを回す時には、【職業スキル】のスロットを回そうと思っている。


 ※ ※ ※ ※ ※


【スキルスロット】


 便利スキル / 持っていたら便利なスキル:消費スキルポイント1

 職業スキル / 手に職をつける為のスキル:消費スキルポイント2

 戦闘スキル / 攻撃・防御に使えるスキル:消費スキルポイント3

 魔法スキル / 魔法を覚えられるスキル:消費スキルポイント4

 特殊スキル / 人間の枠を超えたスキル:消費スキルポイント5


 ※ ※ ※ ※ ※


 これが俺が1レベルアップにつき1ポイント得られるスキルポイントを消費して、3つのリールを回してスキルを得られる、スキルスロットの種類だ。


 当初は3スキルポイントを消費して得られる【戦闘スキル】のスロットを回そうと考えていたのだが、当面は無理して戦いには参加せず【職業スキル】を回して手に職を付け、まずは生活の安定を図ろうと思う。


 幸いサイショの街に向かうきっかけとなった、馬車を襲撃していた盗賊撃退のアシストをしたおかげで、レベルが1つ上がってスキルポイントを1ゲットできている。

 今回の狩猟依頼のような少しずつでも経験値を稼げる依頼を受けていれば、そのうちレベルアップの機会も訪れるはずだ。


 とりあえずはまず、戦闘のアシストを頑張ることにしよう。


 ……その前に腹ごしらえしたいな。

「アルスくん、まだ時間かかりそうだし昼飯にしない?」


 もう昼飯の時間は、けっこう過ぎているのだ。


 …………


「アルスくんさ――もぎゅもぎゅ――また肉串? 野菜も少しは食べた方が良くね?」

「夜に食べますよ――もぎゅもぎゅ――それ魚ですか?」

(ます)だよ――もぎゅもぎゅ――」

 アルスくんは肉好きで、いつもお昼は肉串を食べている。


 俺はと言えば偏った食事で色んな数値が引っかかっていた身なので、これ以上の肉体のポンコツ化を避けるべく、なるべく食事には気を使っている。

 それでも携帯できる食料の種類が限られているので、あまりバランスの良い食事をとっているとは言い難いのだが。


「ん……?」

「どうしたんです?」

「ねぇアルスくん……なんか聞こえない? こう、ドスドスって感じの――」

「音、ですか……」

 イヤ、確かに聞こえる気がするんだが――そう、ガサガサっていう音も聞こえる気がする。


「確かに聞こえますね――方向はたぶん、あっちの――」

 アルスくんが指さす先には――あ、大猪がいた。


「ウソだろおい! 何でこのタイミング!?」

「きっと僕らの食事の臭いです!――タロウさん下がって!」

 言われる前から下がってます!


 ブモオオォォ!

 大猪が吠え、こちらに突っ込んできた。


「ここだ!」

 真っ直ぐ突っ込んでくる大猪の額に、アルスくんの剣が突き刺さった。

 それでも止まらない大猪を、ひらりとアルスくんが避ける。

 ドス、ドス、と、剣が突き刺さったあとも数歩進んだ大猪ではあったが、ピタリと止まった後にドサリと倒れて動かなくなった。


 《レベルアップしました》

 頭の中にアナウンスが……はい?


 俺はどうやらレベルアップしたようだ。

 戦闘どころか支援もしてないのに……。


「やりました!――って、タロウさんどうかしました?」

 レベルアップに驚きポカンとしている俺を見て、アルスくんが聞いてきた。

「イヤ、何もしてないのに、なんかレベルアップしたみたいで……」

「おめでとうございます! この調子でこれからも頑張りましょう!」


 あれ? ひょっとしてこんなんでレベルアップするって、普通なの?


 聞いてみたら、パーティーを組んでいると戦闘に参加とか関係無く、経験値は等分されるのだそうだ。

 つまり今は、アルスくんが倒した分の経験値が俺にも半分入るという状態……。


 寄生に優しい世界って、いいよね。


 …………


 大猪はアルスくんが解体し、肉は300kgを超えた。

 ちなみにその肉は、これもアルスくんが背負子に軽々と担いでしまった……すげぇな、レベル31。

 牙や毛皮も別口で売れるので、それは俺が担いで帰る。


 持てるかな?と思ったのだが、これが案外軽く感じた。

 レベルアップして、筋力が上がったせいかもしれない。


 サイショの街に無事に戻り、冒険者ギルドに報告と納品をして依頼終了。

 肉やら何やらで、収入は10万円を超えた。

 この金で何を買うかは、アルスくんと相談してもう決めてある。


 回復ポーションだ。


 お値段が小瓶1つで5万円もするこのお薬は、裂傷程度ならその場で完全に治してくれるという、まさに魔法の薬である。

 ケガがそのまま死に繋がる冒険者の俺たちとしては、ぜひ持っておきたい品だ。


 ぶっちゃけアルスくんは親父さんにいくつか持たされていたりするのだが、自分たちで稼いだ金で1本ずつ買っておこうと2人で話し合って決めたのである。

 今回の収入をほぼ丸々使ってしまうほどの金額だが、パーティーとして持つことに意味がある……まぁ半分は冒険者生活が上手く行っている記念のようなものだ。


 この回復ポーション、素晴らしい効き目でお値段もお高いのだが、わずか1ヵ月ほどしか完全な性能を発揮しない。

 1ヵ月を過ぎると劣化が始まり、3ヵ月程度で痛んでくる――消費期限切れというヤツである。

 つまりは定期的に買い替えねばならない品なのだ。


 これを買うということは、これからも冒険者を続けるという意思の表れでもある。

 1ヵ月後も、2ヵ月後も、回復ポーションを継続して買おう、と。

 つまり記念というのは、これからも冒険者を続けることを決めたという意思を、お互いに確認したという記念のことなのである。


 回復ポーションを2瓶買った俺たちは、1瓶ずつ持って乾杯の時のようにカチンとぶつけて音を鳴らす。

 お互いにニヤついてから自分の荷物に仕舞って、ちょっとした儀式はおしまい。


 行きつけの酒場で1杯のビールと飯を食い、今日の活動は終了だ。


 俺たちは1泊1人2000円の、安宿の2人部屋に戻って眠りにつく。

 おやすみアルスくん、また明日な……。


「…………zzzz……」




 じゃねーよ。


 せっかくスキルポイイントが2になったんだから、【職業スキル】のスロット回さないと!


 その前に、レベルが上がった自分のステータスでも見てみようか。

 そういや冒険者生活でいっぱいいっぱいだったから、こっちに来た時に確認して以来、自分のステータスとか確認して無いんだよな。


 という訳で……「ステータス!」

 あ、やべ……声が大きすぎたかな? もうアルスくん眠ってるのに。


 ※ ※ ※ ※ ※


 名 前:タロウ・アリエナイ


 レベル:3/100


 生命力:199/199(300)

 魔 力:227/227(300)


 筋 力:17(31)

 知 力:23(31)

 丈夫さ:11(30)

 素早さ:7(30)

 器用さ:28(33)

  運 :31


 スキルポイント:2


 スキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】

 【光球:初級】【着火:初級】【暗視:初級】


 状態異常:老化


 ※ ※ ※ ※ ※


 なんか数値が跳ね上がっているんすけど!


 ……大猪の素材を持った時に、軽く感じた訳だよ。

 でもこれって普通なのかな?


 これが普通なら、アルスくんはレベル31なんだから、単純計算で俺の10倍以上の能力を持っていることになるのだが――そこまで差があるとは思えないんだよなー。

 だとしたら俺が特殊なのか?

 まさか俺って成長チート持ち?


 能力値を聞いたら、アルスくん教えてくれるかな?

 つーか、アルスくん以外の人のステータスも知りたい。

『鑑定』のスキルが欲しいぜ……。

【職業スキル】のスロットで手に入らないかなー、『鑑定』のスキル。


 考えても仕方が無いので、早く【スキルスロット】を回してしまおう。


「【スキルスロット】」

 俺は仰向けに寝っ転がったまんま、既に寝入っているアルスくんを起こさぬよう小声でスロットの筐体を呼び出した。

 今回投入するスキルポイントは『2』ポイント。

【職業スキル】のスロットである。


 そして運命のレバーオン!

 ……3つある、目押しのできないリールが回転し始めた。


 高速回転しているリールのに回転が、やがてゆっくりとなり……。

 左端のリールが停まった。


<お宝感知> ―回転中― ―回転中―


 何か想定外のが来たぞ……。

 次に真ん中のリールが止まる。


<お宝感知> <隠密> ―回転中―


 おっしゃ!『隠密』は『小説家になるぞ』の異世界ものでけっこうよく見る、使えるスキルのはずだ!

 でもこれ、手に職って感じじゃないよね。


 そして最後に右のリールが止まった。


<お宝感知> <隠密> <鍵開け>


 あれ? これって【職業スキル】のスロットだよね。

 こんなスキルを使う職業なんて――。


 その時、頭の中にアナウンスが流れた。

 《職業『盗人(ぬすっと)』コンボが揃いました――ボーナスとして熟練ポイントが10加算されます》


盗人(ぬすっと)』か……うむ、なんとなくそんな気はしていた。

<隠密>で人目に付かぬよう動き回り、<お宝感知>で金目の物を探し、<鍵開け>で頂戴する。

 なんて素敵なお仕事スキルのコンボ。


 ……て、勘弁してくれい!

 俺はさ、鍛冶師とか薬師とか、そういう系のお仕事スキルが欲しかったのよ。

 盗人って何? せめて堅気のお仕事スキルくれよ!


 てか熟練ポイントって何?――イヤ、分かってはいるんだよ。

 たぶんアレだ、スキルにある『:初級』とかいうのをレベルアップ?させるヤツなんだろう。


 冒険者生活は順調なんたが、どうもスキルの取得関連は思ったようにいかんなー。

 熟練ポイントとか、俺の小説の設定に無かった要素とか増えて来てるし……。

 もっとも、まともに設定してあったところなんて、ほとんど無いんだけどさ。


 今回は仕方が無い、堅気系のお仕事スキルは次に期待しよう。

 盗人系のスキルとはいえ、これはこれで冒険者としての生活に使えそうだし。


 スキルの件はそれでいいとして、後は熟練ポイントだな。

 ふむ、とりあえず使ってみないと分からんか……。


 一番使えそうなスキルは、やっぱ<隠密>だろう。

 問題はこの熟練ポイントなのだが、さて――どうやって使えばいいのだろう?


 試しにステータス画面の【隠密:初級】をタップして――おぉっと! なんか別なのが開いたぞ!?


 ――――――――――――――――――――――――――

 【隠密】自分の存在を他者に認識できないようにできる。

 ――――――――――――――――――――――――――


 イヤ、それは知ってるから。

 そうでなくて――参ったな、ホントこの熟練ポイントどうやって使えばいいんだろう。


 隠密の解説文を消そうともう1度タップしたら、また別の項目が開いた。

【初級】の右側に、縦のゲージがくっついたヤツ。

 ひょっとしてコレかな?


 縦のゲージの一番下にツマミのような部分があったので、少しスライドさせて上げてみた。

【初級】が【中級】になった。

 やっぱコレか!


 もう少し上げると【中級】が【上級】に、さらに上げると【達人】、そこからさらに上げると【極】となって、それ以上は上がらなくなった。

 熟練ポイントは1段階上げるごとに1ポイント、【極】まで上げるのに4ポイント掛かった。


 さて、一旦【初級】に戻して熟練ポイントの配分を改めて考えようかな――と思ったら、下げることが出来なかった。

 そういう仕様らしい。


 まぁいいさ、【隠密】なら【極】にしておいても損は無いだろう。

 俺ってば戦闘能力無いし、逃げるにしても素早さも無いからね。

 敵から隠れられるのは、非常に有難いのだ。


 残り6となった熟練ポイントはどうしようか……。

 俺は考えたあげく【暗視:上級】【お宝感知:上級】【鍵開け:上級】と、3つのスキルに熟練ポイントを2ずつ配分した。


 よし、これで今回ゲットした盗人系スキルは、全て上級以上となった。

 これならアルスくんとの冒険者生活でも、少しは役に立てるはずだ!


 ……斥候役として。


 おかしいな……俺は主人公のはずなのに……。

 こんなんでは元の世界に戻った時に、俺主人公の物語が書けんではないか!


 イヤ、書けんことも無いが、斥候役の主人公とか地味過ぎて面白く無さそうじゃん。

『異世界で斥候になってみた!』とか誰が読むんだよ……!

 あれ? どうだろう……読むかな?


 読むかもしんない。


 だがしかし、俺が面白く書ける気も全然しない。

 困った……。


 もう少し俺が主人公っぽくなれればいいんだがなー。


「……このいらいにしまにょー!……むにゃむにゃ……」

 あーびっくりしたー……。

 どうやらアルスくんの寝言らしい。


 待てよ……?

 俺は眠っているアルスくんを見て思いついた。


 別に主人公キャラって、俺じゃなくてもいいんじゃね?


 そうだよ、アルスくんのほうが強いし、カッコいいし、将来性もあるし、たぶん女の子にもモテるし……うむ、なんだろう、このまま自分と比較し続けるとメンタルがやられてしまう気がする。

 とにかく話の内容は横へ置いとくとして、主人公のモデルはアルスくんにしよう。


 そうと決まれば、明日からアルスくんをよく観察してみよう。

 つーか2人で冒険者やってれば、嫌でも観察できてしまうと思うが。


 だが自分主人公計画を諦めた訳では無いぞ。


 いつか主人公っぽいスキルを手に入れたら、主人公設定を俺に戻してやる!――ファーッハッハッハ!

 ……これじゃ悪役みたいだな。


 ……寝ようっと。

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