キンベトカゲの狩猟
『なろう』よ! 私は帰ってきたー!!
― ツギノ村から少し離れた森の中 ―
季節は流れて冬。
今は新年などとっくに過ぎた2月である。
冬の割にはここツギノ村周辺は暖かく、相変わらず緑に溢れている。
理由は知らん。
地理的な理由か、気流とかの影響か、はたまた魔法的な何かなのか……。
暖かくなる理由はあるのだろうが、そんなもんの研究や考察をしている人などいないらしく、理由は明らかにはなっていない。
だからもちろん俺も知らんのである。
……ということで、俺たちは今日も暖かく豊かな森に依頼をこなしに来ている。
年がら年中同じような環境で依頼を受けられるツギノ村は、良い狩場と言えるだろう。
「うーみーだー♪ うーみーだー♪ しょっぱいみーずーだー♪」
ご機嫌な様子で歌っているのは、ノミジだ。
「そんなに海が楽しみなの? ノミジ」
そう尋ねるクェンリーの顔もが笑顔である。
はしゃいでいるノミジを眺めているのが楽しいらしい。
「おら、まだ海は見たことねーだよ。だからすんげー楽しみだべ!」
「わたしもまだ海って見たこと無いんですよ!」
パネロも海を見たことが無いので、ノミジほどでは無いがはしゃいでいる。
なんか2人でスキップとかし始めたし……。
海の話が出ているが、別に海へと向かっている訳では無い。
ようやく村との契約期間が終わり、俺たちがついに別の土地――海のある街へと拠点を移すことに決めたので、こんな話になっているのだ。
次なる拠点にする予定の場所は、ミッツメの街。
トリアエズ王国の東の果てにある、山々に囲まれた湾にある港町だ。
なので海を見たことが無いノミジとパネロが、ウキウキとはしゃいでいるのである。
出発は明日。
なので今日受けている依頼は、ツギノ村で受ける最後の依頼ということになる。
受けている依頼は『キンベトカゲの狩猟』、肉が柔らかくてかなり美味らしい。
当然ながら村での宴会用だ。
つーか今夜の宴会って、俺たちの送別会なんだよなー。
自分たちの送別会用の食材を、自分たちで狩ってくるってどうなのよ?
普通は全部用意してくれるものなんでないの?
まぁやるけどさ。
キンベトカゲは美味いが個体数が少ないので、資源保護のために普段は狩ることを禁止されている。
今回は俺たちの送別会用に、特別に狩ることが許されたのだ。
ギルマスのオタカ婆曰く狩れる機会もなかなか無いとのことなので、仕方ないから有難くキンベトカゲの狩猟を経験させてもらうことにしよう。
とはいえ、キンベトカゲの狩猟は難しくは無い。
基本的には虫系の魔物などを主食にしている、体長5~6mほどで大した危険も無いトカゲの魔物なのだ。
なので俺たちにとっては簡単に狩れる程度の相手である。
気を付けるのはせいぜい、こいつが『魔眼』持ちであるということくらいだろう。
キンベトカゲの持つ『魔眼』は、珍しいがそんなに危険なものでは無い。
その『魔眼』とは――。
『便意の魔眼』
というものである。
『便意の魔眼』に見つめられた相手は急な便意に襲われ、自分の意志とは関係無く便を漏らしてしまう。
肉食や雑食の生き物は便をする時には動きを止めてからするという習性があるので、キンベトカゲは便をするために動きが止まるその隙に敵から逃げるのである。
そんな『魔眼』であるから、見つめられたところで命の危険は無い。
せいぜいが、う〇こを漏らして情けない姿になるくらいなのだ。
しばらく森の中をウロつくと、ようやくキンベトカゲの気配が引っかかった。
進行方向をしっかりとチェックして、まずは後ろ側に回り込む。
命に関わることは無いとはいえ、迂闊に前方から近づいて『便意の魔眼』に捕まるのは御免だ。
キンベトカゲの後ろを取った。
実は今回はアルスくん1人でサクッと狩る予定なので、俺を含む他のみんなはおまけである。
「じゃあ行って来ます」
アルスくんが剣を構え、キンベトカゲへと猛ダッシュで向かった。
アルスくんがキンベトカゲへ近づく。
キンベトカゲはまだ気づかない。
ようやくキンベトカゲが気付いて反応したその時には、既にアルスくんの剣がキンベトカゲの首に振り下ろされていた。
これでキンベトカゲの狩猟は完了。
仲間が糞尿を漏らすというようなお約束も無く――。
俺たちのツギノ村での冒険者生活は、これでおしまいである。
――――
― ツギノ村・自宅 ―
「ツギノ村卒業記念、便利アイテムスロット大会~」
ドンドンドン! パフパフ!
俺の開会宣言と共に、便利アイテムスロット大会が始まった。
『便利アイテム』のスロットは、10万円――金貨1枚を投入して回す、あると便利なアイテムを手に入れるためのスロットだ。
うむ、説明がまんま過ぎるな。
なんでこんな大会を開催したのかというと、明日から始まるミッツメの街への道中がけっこう長いので、何か道中で役に立ちそうなアイテムが手に入らないかなというけっこう適当な理由からである。
それと村の人たちに良さげなアイテムが手に入ったら、今まで世話になったお礼にプレゼントでもしようという意図もある。
あと、旅の支度もだいたい終わったんで、夜の送別会までの暇つぶしだったりもする。
回すのは1人1回。
なので全員が10万円――金貨1枚を握りしめて、ワクワクしながらスロットを回す順番を待っている。
こんな風に半ば娯楽としてスロットに金貨1枚を使えるようになったとは、俺たちもずいぶんと裕福になったものだ。
「んじゃ始めるよ~【アイテムスロット】!」
青い半透明の筐体が浮かび上がり、スロット大会の開始だ。
「最初は誰だっけ?」
「オレオレ、オレが最初!」
手を挙げたのはマリーカだ。
『オレオレ詐欺か!』というツッコミを我慢した俺は、なにげに偉いと思う。
筐体は常に俺の前に位置しているので、マリーカが俺の横に来てまず10万円――金貨1枚を投入。
「いくぜ! レバーオン!」
この『レバーオン!』の叫びは特に必要無かったりするのだが、俺がギャラリーへのサービスとして叫んでいるうちに仲間内に定着してしまっている。
グルグルグルっとリールが回って停まった。
マリーカの『便利アイテム』のスロットの結果は――。
<蚊取り線香> <万歩計> <たこ焼きプレート>
便利アイテムというよりは、雑貨だよねこれ。
つーかお前ら、俺がたこ焼き作るのを決定事項にすんなよ。
次はクェンリーの番だ。
「見てなさい、アタシはもっといい物を出して見せるわ!」
その自信はいったいどこから来るのか教えて欲しい。
「いくわよー、レバーオン!」
と意気込んだクェンリーの結果はこれ。
<魔道コンロ> <魔道ドライヤー> <使い捨てカイロ>
「どうよ!」
クェンリーが結果を見てドヤ顔をしている。
確かに魔道具系はけっこうお高いので、十分元は取れているけどね。
今度はパネロの番だ。
「村の人のプレゼントに良さげな物も、何か欲しいよね」
おぉ! 我らがパーティーの良心がここに!
「なんか来い! レバーオン!」
リールが回って――最後のリールが銀色に光ったし!
……そして停まった。
<バランスボール> <高枝切りバサミ> <アイテム袋(特大)>
「なんか「アイテム袋(特大)』っていうのが来ましたよ!」
うん、見た。
途中までは古い通販番組みたいなラインナップだったのに、いきなり来たな。
これはチェックだ!
――――――――――――――――――――――――――
アイテム袋(特大)
国立野球ドーム5個分の容量を持つアイテム袋。
耐用年数:20年
――――――――――――――――――――――――――
なんか容量がすげーし。
一応ツッコんどくが、ドーム5個分とかファンタジー感が全然無いんだが……。
つーか、説明書きがあっちの世界基準とかどうなのよ?
あと国立野球ドーム〇個分とか言われても、個人的に全くピンと来ないので止めて欲しい。
「国立野球ドームって何ですか?」
だよねパネロさん、国立野球ドームとか訳わかんないよねー。
「俺も分かんないけど、要はたくさん入るってことでいいんじゃね?」
とりあえず適当に返事しておいた。
盛り上がったところで、次はアルスくんの番だ。
「やっと僕の番が来ましたね」
もはやスロットのベテランみたいな風格を醸し出しているが、その割にはアルスくんはあまり良い結果を出せてはいない。
それは仲間内でアルスくんが、『爆死のアルス』の二つ名を欲しいままにしているほどだと言えば分かりやすいだろう。
「さぁ行きますよ! レバーオン!」
結果――。
<洗濯バサミ> <輪ゴム> <魔道孵卵器>
「孵卵器ですって! 孵卵器!」
アルスくんのテンションが上がっている。
うむ、確かにアルスくんにしては良さげな物が出てきた気はするが、それは俺たちには使う機会が無さそうな道具じゃないかな?
卵のために鶏を飼ってるお宅があったから、これは村の人たちのために置いていくことにしようか。
「いよいよおらの番だな」
普段あんましスロットを回すことの無いノミジが、肩を回して気合を入れている。
ノミジは普段、スロットより店でお買い物派なので珍しい光景である。
「いくだよー、レバーオン!」
3つのリールが回って――おっ、真ん中のリールが赤く光ったぞ――で、停まった。
<圧力鍋> <冷蔵アイテム袋> <大回復ポーション>
おぉ! 冷蔵アイテム袋が来たし!
パネロの出したアイテム袋(特大)もあるのでアイテム袋かぶりとなるが、冷蔵なら話は別だ。
「冷蔵アイテム袋だべ! これで肉を持ち歩けるべ!」
食べるのが好きなノミジにとっては、これは望外に良い品だったろう。
やっぱアレなのかな、欲張らないほうがいい物が来たりするのかなー。
さて、トリを務めるのは俺だ。
みんなの認識では俺が1番引きが強いと思われているので、強制的に最後に回すことにされたのだ。
そんな期待されても困るんだけどなー。
そうだ! ここはノミジを見習って、無欲作戦で回してみよう!
無欲無欲……なるべく何も考えないように……。
「レバーオン」
リールが回って――なんか最後のが虹色に光ったし!
<麻痺毒> <美顔ローラー> <無限のアイテムストレージ>
……なんか凄そうなの、キタ――――(・∀・)――――!!!
早速チェーック!
――――――――――――――――――――――――――
無限のアイテムストレージ
※タロウ・アリエナイ専用装備※
無限にアイテムを収納できる異次元空間倉庫。
個別に冷蔵・冷凍・保温・加熱・時間凍結・時間経過などが可能。
耐用年数:1000年
――――――――――――――――――――――――――
うむ、これはアレだな――『なるぞ系異世界ファンタジー』でありがちな、無駄に高性能なヤツだ。
つーか、高性能過ぎて大っぴらに使いづれーし。
過熱もできるってことは、電子レンジ代わりにも使えそうだねこれ。
話し合いの結果、『蚊取り線香』『万歩計』『魔道孵卵器』は村に置いていくことにした。
その他は自分たちで活用するつもりだ。
『無限のアイテムストレージ』は俺専用だし『麻痺毒』は【毒使い】のスキル持ちである俺にしか使いこなせないだろうから、この2つは俺がもらっておくことにしよう。
あとは……。
なんか女性陣がモメてるな。
このままだとバトルに発展しそうだ……。
あー、皆さん――。
美顔ローラーは交代で使いまわしすればいいんじゃないのかな?
駄目なの?
イヤ、もう1個出せとか言われても無理っす……。
――――
― ツギノ村・広場 ―
夜になって、俺たちの送別会が始まった。
送別会と言っても湿っぽい感じは全く無く、俺たちも村の人も楽しく飲んでいるだけである。
時折、俺たちのところに誰かが来て『元気でな』とか『またそのうち遊びにおいで』などと声を掛けられるのが、なんとか送別会っぽいと言えば送別会っぽいところだ。
特に送別会感が無くてもこれはこれで構わないと俺は思っていたのだが、誰が言い出したのだか隠し芸大会なるものが始まってしまった。
隠し芸と言ってもそんな本格的な芸などでは無い。
踊ったり歌ったり、仕事をする上で身に着けた職人芸だったり、酷いのになるとただの一気飲みをするだけとかそんなものばかりだ。
ちょっとだけ新鮮だったのは、手品をやった村人への反応だ。
俺が良く知ってる反応だと『どうせタネあるんだろ?』的な反応なのだが、やはりここはファンタジー異世界、手品を見ていた見物人が『ただの魔法なんじゃねーの?』とひそひそ話をしていたのは、聞いて思わずツボってしまった。
なるほどねー。
『ただの魔法』って反応は、確かに魔法のある世界ならそうだよなって気がする。
『ツギノ村の英雄』のドナンさんが、槍を使って皿回しを始めた。
更に槍だけでなく剣も使って、2枚の皿を器用に回している。
おぉー、なかなか上手いですなー。
パチパチパチと、適当な拍手をもらって終了。
これは隠し芸っぽくていいね――などと思っていたら――。
「ふん、ドナンのおっちゃんの皿回しはもう見飽きたべ! おらが新時代の皿回しを見せてやるだ!」
などと言って、ノミジが隠し芸用の簡易ステージに乱入した。
かなり酔ってやがんなー、ノミジのやつ。
どうすんのかなーとか思って見ていると、ノミジが矢を1本取り出し矢じりを上に向け、その上に皿を載せて回し始めた。
「どこが新時代なんだよ、そんなの槍が矢になっただけじゃないか」
さっきまで皿回しを披露していたドナンが、不満そうにそう指摘すると――。
「慌てるでねーだ、まだまだこれからだべ!」
そう言うとノミジは、回転する皿を矢じりの上に乗せたままの矢を、そのまま真上に向けて弓に番える。
そのまま上空に発射!
回転する皿を乗せたまま、矢が夜空へと舞う。
おぉー!
ギャラリーが盛り上がる。
そしてなんと、矢は皿を乗せたまま落ちてきた。
あの矢って、どういう構造してるんだ?
普通、矢って矢筈――矢じりの反対側――のほうからは落ちないだろうに。
ノミジはそのまま落ちてきた矢を、ふわりと受け止めた。
皿は矢じりの上で回転したままだ。
おぉー!
やんややんや。
会場大盛り上がり。
「どうだべ! これが新時代の皿回しだべ!」
ノミジがドヤ顔をし、鼻高々でステージを降りてきてこの出し物は終了。
俺も拍手で称えたのは言うまでも無い。
「よし! じゃあ今度はオレがやるぜ!」
仲間の活躍に刺激されたのか、今度はマリーカがステージへと向かった。
大丈夫かー?
なまじ盛り上がったあとだけに、今はハードルが高くなってる気がするぞー。
マリーカがアイテム袋から盾を取り出し始めた。
現在メインで使っている『吸撃の大盾』に、予備で持っている『ポリカーボネートの盾』、それに以前使っていて巨大熊猫の攻撃でひん曲がてしまった『鉄板の大楯』の3つだ。
つーか、まだそのひん曲がった鉄板の大楯持ってたのか……。
で、そんな3つの盾でマリーカが何をし始めたかというと――。
ジャグリングだ。
3つの盾が空中で、紙一重の距離で交差する。
そのうちの2つは全身が隠れるサイズの大楯で、しかも1つは大きくひん曲がっているのだ――それをジャグリングするとは、力業としても大したものだし技術的にも凄いと言えよう。
実際観客からも歓声と拍手が起きている。
これは大したもんだ。
盾のジャグリングの高さが高くなった。
この上何かやるのか? と思ったら、マリーカが今度は星球棒をアイテム袋から取り出した。
この上、星球棒まで追加する気か?
3つの大きな盾と星球棒。
人間よりも大きなサイズの物体が、ギリギリ紙一重で空中をすれ違い続けるジャグリング――これはもはや名人芸と言ってもいいだろう。
最後にダンダンダンダンと、盾と星球棒をステージに置いて、マリーカの出し物は終わった。
豪快かつ緻密なジャグリングを見せられて、観客も大盛り上がりだ。
「どんなもんだ! すげーだろ!」
戻ってきたマリーカは、もちろんドヤ顔だ。
まさかマリーカにこんな芸当ができたとは知らなかったなー。
しかし、こんだけ盛り上がっちまったら次の人はやりにくいぞー。
ほら、誰もステージに出てこなくなっちゃったし。
「早く次の人やるだべー」
「オレらがステージをあっためたんだから、次誰か続けろよー」
ノミジもマリーカも無茶言うなよ。
この空気で何かやっても、よっぽどのネタじゃないと盛り上がんねーってば。
「……仕方ない、ここはおっさんの出番ね」
は? クェンリーよ、何を言っているのかな?
「そうですね! おっさんさんに何かやってもらいましょー!」
待てパネロ、何でそうなる?
「頑張って下さい! タロウさん!」
アルスくんまで!?
イヤイヤイヤ、無理だから!
この空気で何かやるとか、ハードル高すぎるから!
おっさん! おっさん! おっさん!
ステージ周りの観客――村人たちから、何故かおっさんコールが巻き起こった。
……てめーらふざけんな。
ええい、くそったれの酔っ払いどもめ!
そこまでてめーらがやるってんなら、俺も腹くくってやろうじゃねーか!
「おーし! やってやんぞゴルァ! てめーら、つまんなくても絶対に拍手しろよ!」
なんか勢いでステージへと向かってしまった俺。
ふふふ……俺は酔ってるぞー!!!
ステージに立ってしまった。
さて、何やろう……。
とりあえず【水鉄砲】で水芸でもやるか。
ほい、ぴゅーぴゅーとな……。
うむ……全然盛り上がらん。
だったら放出する水を強めにして――皿を回転させながら乗せる!
名付けて水芸皿回し!
あ、ちょっとウケた。
じゃあ今度は……。
「マリーカ、ちょっと盾貸してー」
「いいぜー、何すんだ?」
さっきマリーカがジャグリングをしていた3つの盾を借り、俺が何をするかと言うと――。
「なんだまたそれかよ」
「それはさっき見たぞー」
観客がブーイングするのも無理は無い、俺はさっきマリーカがやったジャグリングをしているのだから。
俺の【投擲術:極】のスキルを使えば、このくらいは軽いものなのだ。
だがこれで終わりでは無いぞ、
見てろよー。
俺は3つの盾を高々と放り上げる――あ、ちょっと五十肩が痛てーし。
まず鉄板の大楯がズドンと落ちてきて、ひん曲がって重心がおかしくなっているにも関わらず、ステージの上にしっかりと縦に立つ。
そう、盾が縦に立ったのだ!――あ、これって一応ダジャレなんで、気を使って愛想笑いくらいはしてね。
そして今度は吸撃の大盾が落ちてくると、ドンと鉄板の大楯の上に立った。
そう、盾が縦に2段で立ったのだ!
最後にポリカーボネートの盾が、もちろん吸撃の盾の上にゴンと落ちてきて立った。
そう、盾が縦に3段重ねで立ったのだ!――名付けて盾トーテムポール!
おぉー、けっこう盛り上がったぞ!
もうひと押しかな?
よし、ならば……!
俺は盾トーテムポールをバラして、鉄板の盾を持つ。
そして、ひん曲がりを元に戻すべく力を籠める!
ぬおおぉぉぉ!
まぁ、もちろん元には戻らんのだが……。
ふうっ、とひと息入れて力を抜くと、見ているギャラリーも釣られてふうっと力を抜いた。
言っておくが、そんな集中して見るようなネタでは無いぞー。
もう1度、鉄板の盾を持つ。
さっきのは前振り、これからが本番だ。
今度は本気で鉄板の盾のひん曲がりを元に戻すべく、スキルを使って力を籠める!
スキル【筋力強化】発動!
レベルが上がってかなり人間離れしてきた俺の筋力が、スキルの能力で更に10倍にも膨れ上がる。
めおおおぉぉぉぉ!!!
ギギッ、ギギィッときしむ音がして、鉄板の盾の曲がりが少しずつ元に戻る。
掴んでいる手のひらが痛くなってきたけど、我慢して頑張る!
ふぃ~、こんなもんだろう。
俺は鉄板の盾をステージに置いた。
完全には元に戻らなかったがけっこう曲がりが直った盾を見て、観客がそこそこ盛り上がった
あれ? さっきのほうがウケたな。
まぁいいや、3つも出し物をやったんだからもういいだろう。
俺は力業のせいで余計に酔いが回ったのと、そこそこ盛り上がって気分がハイになったのとで、上機嫌でみんなの待つ席へと戻った。
もちろんドヤ顔をするのも忘れてはいない。
出し物が若干被ったマリーカが睨んでいる気もするが、気分が高揚している俺には気にはならん。
うむ、やっぱ客を沸かせた後は酒がうまいぜ。
はっはっはっ……。
――10分後。
「いでー、ぐぁー、うぇー……」
俺は地獄を見ていた。
スキル【筋力強化】の効果が終了し、クーリングタイム中の副作用が始まってしまったのである。
筋力が10倍となる10分間と引き換えになってしまうのは、24時間の全身筋肉痛。
これがまた痛いのなんの……。
腕や足はもちろん、腹筋や背筋、更には顔面の筋肉とか土踏まずまで重度の筋肉痛になったのだ。
もうね、ちょっと動くだけで痛いの。
みんなに自宅のベッドまで運んでもらって横になったけど、寝返りを打つのもキツい……。
もう2度と【筋力強化】のスキルは使わねーぞ!
命が危ないギリギリの時でも無い限り、絶対使うもんか!
とまぁ、そんなわけで――。
俺は24時間、全身の筋肉痛に苦しむことになった。
おかげでツギノ村を出立する日が1日延びてしまったのは、もちろん言うまでも無い。
また週一程度には更新しようとは思っております。
思ってはおりまする……。




