三角ウサギの群れの討伐
― ツギノ村・冒険者ギルド ―
オーガを討伐してから、2週間ほどが過ぎた。
実はこの間にアルスくんとノミジが誕生日を迎えている。
あと『ランク:布』だった全員のランクを『ランク:木』に上げてもいた。
これで俺たちは、全員が『ランク:木』の冒険者となったのである。
アルスくんは16歳になった。
出会った頃より少しだけ背が伸び顔つきも大人びている気がする。
ノミジは23歳……てっきりまだ10代だと思っていたのだが、意外とおねーさんだった。
純朴で童顔、その上子供っぽいところもあるので、正直18くらいと踏んでいたんだがなー。
人は見かけで判断しちゃ駄目だよね。
ちなみにパネロの誕生日はまだ半年先でなので、まだ15歳。
クェンリーはみんなより少しだけおねーさんで、25歳だ。
クェンリーは年齢を聞かれた時に頑張ってなんとか誤魔化していたが、調べようと思えばそんなものはすぐに分かる――そんな情報などオタカ婆に聞けば、すぐに教えてくれるし。
この世界では、個人情報を保護するという意識は薄いから簡単に聞き出せるのだ。
誕生日のお祝いをしようとしたら、いつの間にか村人にも伝わっていてやはり宴会となった。
ツギノ村の村人は、何かにかこつけちゃ宴会やるよなー。
食材だけは事欠かないからなー、この村は……。
ちなみに誕生日の宴会のごちそうは、蟻食いワニの肉。
蟻食いワニは、巨大シロアリを主食にしてるでかいワニである。
唐揚げが絶品だった。
改めて思う。
この辺の生態系の頂点は、このツギノ村の村人なんだな、と。
そんなイベントも過ぎ去り、俺たちはいつも通り依頼をこなす日々。
今日は久しぶりに採取依頼をしてきた。
ムラサキキノコという、見た目毒々しいが食感と香りの良い食用のキノコである。
この村は、やたらと食い物系の依頼が多い。
だいたいが村人からの依頼であまり金にはならないのだが、食ってみると美味い物が多いので、ついつい俺たちも食ってみたくて依頼を受けてしまっている日々だ。
ムラサキキノコはこの辺の秋の味覚の1つではあるが、今回はただ食べたいからという依頼では無い。
解散となってしまった冒険者パーティー『光る戦士』に代わる新たな冒険者パーティーが、予定では今日このツギノ村へと到着するはずなのだ。
つまりムラサキキノコは、歓迎会という名の宴会用に採取してきたものなのである。
ちなみにメインはミノタウロスの肉で、これは地元密着冒険者パーティー『ツギノ村の英雄』の人たちが狩ってきてくれる予定だ。
納品も終わって依頼は終了。
俺たちはこの村へとやってくるはずの、新たな冒険者たちの顔でも見てやろうと、喫茶スペースでダラダラしながら待ち時間を潰すことにした。
「狩ってきたぞ――って、なんだまだ到着していないのか?」
『ツギノ村の英雄』の面々が帰ってきた。
真っ先に入ってきて口を開いたのは、リーダーのドナンさんである。
「まだですよ。景色でも眺めながらのんびりとこっちへ向かっているんですよ、きっと」
ギルドの職員さん(♂)が、のんびりした口調でそう言った。
この辺にはトラブルになりそうな獣や魔物は滅多に出ないので、職員さんの考え方もお気楽になりがちだ。
「そうか、じゃあここで待つとするか」
『ツギノ村の英雄』の面々もやはり新たにやってくる連中を待つつもりらしく、やはり喫茶スペースで時間を潰そうとそれぞれが席に着いた。
『黄金の絆』と『ツギノ村の英雄』、暇な俺たちは適当な雑談をしながら新たな冒険者たちを待つ。
オタカ婆も雑談に加わり、話題は自然に新たにやってくる冒険者パーティーの話となった。
話の内容は、だいたいがギルマスであるオタカ婆からの情報である。
今度来る冒険者パーティーの名は『竜神の一撃』
男女各2人の、計4人組パーティーだ。
全員が20代前半という若いパーティーで、『ランク:木』というまぁまぁの実力者である。
ノムラーズ冒険者学校というところの卒業生で、堅実な仕事ぶりが評価されているのだそうだ。
冒険者学校というのはだいたい、引退した冒険者が開いていたり講師をしたりしている。
ノムラーズはその中でも有名なほうらしい。
そんな話をしていると、村の入り口付近が騒がしくなってきた。
どうやらようやく『竜神の一撃』の皆さんが到着したようだ。
冒険者ギルドに入ってきたのは、男2人と女3人の計5人。
あれ? 『竜神の一撃』って、4人パーティーじゃ無かったっけ?
……1人多くね?
…………
「『黄金の絆』の皆さんですね! 『竜神の一撃』のパーティーリーダーをしております、ニューボンと申します! 若輩者ではありますが、以後よろしくお願いします!」
赤毛の角刈りという髪型をした、均整の取れた体格の若い男が俺に挨拶をしてきた。
「同じく、ハッタと申します! よろしくお願いします!」
「同じく、ミミルと申します! よろしくお願いします!」
「同じく、ルルアースと申します! よろしくお願いします!」
他の『竜神の一撃』も、次々と俺に挨拶をしてくる。
あー、そうか……。
こいつら俺のことを『黄金の絆』のリーダーだと勘違いしてやがんな。
俺ってば飛びぬけて年長者だからなー。
「あぁ、違う違う――『黄金の絆』のリーダーは、こっち」
俺は彼らの思い込みを否定するべく、アルスくんのほうを指さす。
『えっ?』『は?』などという反応の後、慌ててアルスくんに挨拶をし直す『竜神の一撃』の皆さん。
「すんませんしたー!」
確かリーダーの……。
……。
…………。
………………ニューボンが、大きな声でアルスくんに謝り、再び挨拶攻勢が始まる。
うむ、良かった思い出せた。
礼儀正しい姿勢はいいのだが、どうも何というか――体育会系の臭いがするな。
冒険者学校というところの教育の賜物なのか、それとも元からこういう人たちなのか……。
どちらにしても、カッチリし過ぎていて挨拶されているこっちが疲れてしまう。
力が入りすぎじゃね?
もっと適当でいいんだよ?
気合と根性は過ぎるといつか自分を壊すから、ほどほどにね。
おじさん、そういう人を何人も見てきているから心配なんだよ。
『竜神の一撃』の皆さんの挨拶も終わり、最後は気になっていた予定外の冒険者の挨拶だ。
このツギノ村には単に立ち寄っただけなのかな? とか思っていたらそうではなく、どうやら移籍するつもりでここに来たらしい。
この女性に関してはギルマスのオタカ婆も聞いていなかったらしく、珍しく慌てた様子で諸々の手続きやら手配やらを進めていた。
『何だってまたこんな辺鄙なところに来たんだい?』とオタカ婆が彼女に聞いていたのだが、ギルマスのあんたがこのツギノ村を『辺鄙』と言っちゃいますかとツッコミつつ、俺も同感だったりする。
田舎体験でもしてみたいとかなのかな?
ここ、マジで何にも無いぞ。
「えーと……マリーカっす。よろしくお願いします」
マリーカと名乗った女性が、ペコリと頭を下げる。
デカい……背が高いのでは無い、デカい。
身長は見た目190cmというところで高いのではあるが、筋肉がガッシリとついていて均整がとれている。
なので背が高いという印象では無く、デカいという印象となっている。
服の上からでも鍛え上げられているのが分かるその肉体は、間違いなく前衛職のものであろう。
恐らくマリーカの腹筋は、6つに分かれているはずだ。
……ちょっと見てみたいな。
でも若い女性に『腹筋見せて』とか言うのは、やっぱセクハラ案件だよなー。
この世界にはセクハラという概念はまだ無いからセーフなのかもしれないが、刷り込まれてしまった価値観がその邪魔をする。
変なところで現代日本人を引きずってるよなー、俺って……。
人殺しは平気になっちゃったクセにさ。
それにしてもこのマリーカという人の、元気の無さそうな様子が気になる。
見た感じ、本当はもっと活発な娘なのではないかと思うんだが。
みんなからの『なんでこの村に?』という問いに、マリーカは『なんか来てみたくなって』などと歯切れの悪いことを言っている。
ひょっとしたら何か言いにくい事情があるのかもしれないが、今は聞くまい。
きっとそのうち話してくれる時が来るだろう。
それよりそろそろ、歓迎会の時間だ。
ほら、村の人が呼びに来たみたいだぞ。
…………
― 夜・ツギノ村の広場 ―
広場には、毎度おなじみの宴会の光景が広がっている。
村人たちと『竜神の一撃』の皆さんとの顔合わせもだいたい終わり、歓迎会は既にただの飲み会の段階となっていた。
俺たち『黄金の絆』と『ツギノ村の英雄』の男たちは、『竜神の一撃』の連中と、さっきからこのツギノ村の依頼の話などしながら酒を飲んでいる。
女たちはと言えば、マリーカのところに全員集合して何やら盛り上がっている様子だ。
何を話しているのかは知らんが、これならマリーカが馴染むのも早いかもしれない。
女性陣、グッジョブである。
ひとしきり盛り上がって、宴会はそろそろおしまい。
ムラサキキノコは、村人から聞いた通りの美味さであった。
明日、自分たち用にもう少し採取しようっと。
みんなで家に帰ろうと女性陣のところへ向かうと、ちょっと座れとアルスくんと俺は女子会に引きずり込まれてしまった。
なしたん?
まさか日頃の不平不満を、この機にぶつけてやろうとかじゃ無いよね。
話を聞いてみると、何やらマリーカを『黄金の絆』の仲間にして欲しいらしい。
マリーカは盾戦士で、重装備での堅い守りが特徴なのだとか。
確かに俺たちには後衛を守る役目をしてくれる仲間がいないので、マリーカは打って付けの人材と言える。
だが女性陣が言うには、理由はそれたけでは無いらしい。
「もうね、信じられないのよ!」
「仲間に裏切られて、傷ついてるのよ彼女」
「とにかく、ひでー話だべ!」
何事があったのかと話を聞いてみると、どうやら恋愛絡みの話のようである。
以前マリーカのいたパーティーは男2人女3人の5人パーティーだったのだが、そのうちのマリーカを除いた4人がいつの間にか、それぞれ2組のカップルにデキていやがったのだそうだ。
それも3年も前から……。
「信じられるか? 3年だぞ! 3年も前からあいつらはオレに黙って付き合ってたんだ!」
酒を飲んでいるせいもあるのだろう、憤りを抑えきれずにマリーカが大声を出している。
つーか、マリーカってオレっ娘なんだ……。
「付き合ってたのはまだいいさ! だけど何でそれをオレに黙ってたんだ? 言えばいいじゃんか! それっておかしいだろ?」
うむ、確かにそれはおかしい。
マリーカが1人だけカップルからあぶれてしまっているので気を使ったのかもしれないが、そういうのって変に気を使われるとむしろ余計に傷ついたりするんだよね。
「あいつらとはもう一緒にはいられない――だからオレは、あいつらからなるべく遠く離れようと思ってこんな辺鄙なド田舎まで来たんだよ!」
気持ちは分かる……気持ちは分かるが、地元民の『ツギノ村の英雄』の人たちの前で『辺鄙なド田舎』発言は止めておこうね。
「そしたらせっかくこんな田舎まで来たってのに、馬車で一緒になったあいつら4人組は付き合ってて、道中ずっとイチャイチャしてやがるしさ」
うん? あの『竜神の一撃』の4人って、もう既に2組のカップルだったのか。
あぁそうか、村に到着した時にマリーカの元気が無かったのはそのせいもあったのか――そんな理由で旅してたのに目の前でイチャイチャを見せつけられたら、そりゃ嫌な気分にもなるわな。
「しかもこの村で新しい仲間を見つけようと思ったのに、ここにいる冒険者のうち1組は夫婦もんのパーティーだしさ――もう付き合ってる連中と一緒のパーティーなんか、オレは嫌だってのに!」
あー、なるほどね……それで共感してしまったウチの女性陣が、仲間に入れろと言ってる訳なんだね。
「ね、だから仲間になってもらおうよ!」
「もうアタシらのトコしか無いんだからさ!」
「ここで断るなんて、あり得ねーべ!」
俺はアルスくんと顔を見合わせ、アイコンタクトで会話をする。
『この際、仲間にしちゃってもいいんじゃね?』
『そうですね、仲間にしちゃいましょうか?』
中身はこんな感じ。
「事情は分かりました。守備の得意な前衛の仲間は欲しかったところですし、マリーカには仲間になってもらいましょう」
アルスくんがそう宣言すると、女性陣がどっと沸いた。
「良かったねー、これで今日から仲間だよー!」
「まだウチのベッド1つ空いてたわよね?」
「いいなー、おらもそっちに引っ越そうかなー」
ここまではウチの女性陣。
「ノミジちゃん、実家暮らしだもんね」
「でもこの人たちの家って、けっこうボロよ?」
こっちは『ツギノ村の英雄』の女性陣である。
なんやかんやと盛り上がり、なかなか宴は終わらない。
とりあえずマリーカが仲間に入るのが決定したんだから、もう今日はおしまいにしません?
明日も依頼があるんだしさ。
おじさん、もう眠いんですけど……。
――――
― 次の日・ギルド ―
昨日の夜は遅くまで――というか明け方近くまで付き合わされたので、俺たちも『ツギノ村の英雄』の女性陣も、今日は昼近くになってからギルドへのご出勤となった。
ちなみに『ツギノ村の英雄』の男性陣は『なんか適当に稼いできてー、あたしらはもう少し寝るからー』などと奥さんたちに言われたらしく、2人だけで採取依頼に出かけているらしい。
なんかアレだね、家庭での力関係が垣間見えるよね。
今日は何の依頼を受けようかとギルドの受付に重ねてある依頼の束に目を通していると、『ツギノ村の英雄』の旦那2人組が慌てた様子で走ってきた。
「おいっ、手の空いてる奴らは来てくれ! 三角ウサギの群れがこっちに来てる!」
「急いでくれ! このままだと村に突っ込んでくるぞ!」
三角ウサギ、それは頭に3本の角を持ったウサギである。
このウサギの群れは数十~数百にもなる大きな群れで生活しており、外敵に対しては群れ一丸となって突撃し撃退しようとする習性を持っている。
しかしながら、相手が強く敵わないと感じると、群れの全てが一丸となって一斉に逃げ出すという習性も持ち合わせているのだ。
その逃げ出し様は徹底しており、いざ逃げるとなると数km~数十kmの距離を一度に移動する。
三角ウサギそのものは大した脅威では無いのだが、村に向かってきているというのが問題だ。
逃げているときの三角ウサギは、あまり前方を見ていない。
なので森の中の木々にぶつかったりするのもしょっちゅうなのだが、ぶつかるのが村の柵や建物となるとちょっと困ったことになる。
森にある太い幹を持った木々ならまだしも、さほど厚みがあるとも言えぬ板で作られた村の建物や柵などは、三角ウサギの硬い角と逃げ飛ぶ勢いの前には破壊は免れないのである。
「とっとと行って来な! こいつは緊急討伐案件だ――急ぎの依頼だよ!」
オタカ婆の大声がギルド内に響く。
俺たちは急いで装備を整え、三角ウサギの群れの討伐へと向かったのであった。
…………
― 森の中 ―
「うわー、なんか数えるのが面倒なくらい来やがるぞ」
三角ウサギの群れを察知したのはいいが、あまりの数に俺は何匹いるのか数えるのは諦めた。
俺たち『黄金の絆』は先手を任されていて、まずは大きく三角ウサギの群れを減らすのが主任務である。
『ツギノ村の英雄』の人たちは、俺たちが討ち漏らした三角ウサギの討伐――つまりは最終防衛ラインを担う役目に就いている。
俺たちはの仕事は雑でも構わない仕事だが、『ツギノ村の英雄』の仕事は仕損じると村に被害が出る重要な役目なのだ。
「準備いいわよー、合図は頼むわね!」
クェンリーが大きな声で、こっちに向かって準備ができたことを伝えてきた。
彼女の範囲魔法は、今回の作戦の要である――作戦の概要はこうだ。
クェンリーがまず、向かってくる三角ウサギの群れに対して斜め方向から範囲魔法を放つ。
放つ魔法は、炎属性では間違いなく森林火災を引き起こしてしまうので、今回は雷属性である。
それでも森林火災の可能性はあるが、炎属性よりはるかにマシであろう。
範囲魔法で討ち漏らした三角ウサギの群れを、物理攻撃で減らすのが残った俺たちの役目だ。
ノミジがこれも群れの進路から外れた場所から矢を放ち、アルスくんは真正面から迎撃、俺とバネロはマリーカの盾の後ろに隠れながら、俺は様子を見ながらの迎撃、パネロは誰かがケガをした時のために待機をするという布陣となっている。
三角ウサギの群れの気配が近づいてきた。
頃合いを見計らって、俺はクェンリーへと手を上下に振って合図を送る。
「大いなる雷よ、我らが敵を貫け! 雷撃乱舞!」
……詠唱すると、せっかく送った合図とのタイミングがズレちゃうから止めて欲しいんだけどなー。
クェンリーの杖の先から、無数の放電が広がりながら三角ウサギの群れへと飛ぶ。
群れの先頭辺りの集団を仕留めた!
群れとは言っても密度はそんなに濃くは無いので、1撃で仕留められたのはクェンリーの範囲魔法でも数十匹というところだろう。
続けて次々とクェンリーが魔法を放ち、向かってくる三角ウサギの群れは次々と削られていく。
《レベルアップしました》
脳内にアナウンスが響くが、今はそんなものに構っているヒマは無い。
討ち漏らした三角ウサギの群れが迫ってきているのだ。
まずは前方でアルスくんが迎撃を始めた。
跳んでくる三角ウサギをひらりひらりと避けながら、次々と切り捨てていく。
そして、アルスくんが討ち漏らした三角ウサギに相対するのは、今度は俺たちだ。
「来るよ! オレがしっかり守ってやるから、盾にしっかり隠れてな!」
マリーカが縦2m横1mという大きさの、少し湾曲しただけの飾り気の無い盾をドンと構えて、三角ウサギの群れを迎え撃つ。
マリーカの防御面の装備は左腕には鉄板を曲げただけのようなこの盾、胴体にはあまり厚みの無い安物の鉄の全身鎧を身に着けている。
右手には攻撃武器――鉄の棒の先に鎖で繋がれた棘のある鉄球がついている、星球棒と呼ばれる武器だ。
三角ウサギの討ち漏らしが、とうとうここまで来た。
盾にゴンゴンとぶつかってきているのだが、マリーカは微動だにせず平然と三角ウサギを受け止めている。
三角ウサギの突進など、マリーカにとっては軽く防げる程度のものらしい。
バネロはマリーカのすぐ後ろで待機しており、俺は5mほど後方でマリーカの星球棒が討ち漏らした三角ウサギを、ちまちまと倒している。
俺のスキルは【真・暗殺術】を含めて、俊敏に移動する群れを倒すには向いていないのだ。
クェンリーの魔法の音が途絶えた、どうやら魔力切れを起こしたようだ。
その後少しして、突進してくる三角ウサギの数が増えた。
魔法での攻撃を受けなかった部分の群れだ。
俺たちも頑張ったのだが、それでも100かそこらの三角ウサギは逃してしまった。
だがまぁ、俺たちの後方には頼りになるベテラン冒険者『ツギノ村の英雄』が控えている。
あの人たちならたかが100程度の三角ウサギ、確実に処理してくれるだろう。
出番が終わったので、俺たちは三角ウサギを拾い集めることにした。
コゲていない毛皮と肉は金になる。
あと三角ウサギの角は良い矢じりになるそうなので、ノミジのために売らずに確保だ。
拾った三角ウサギは、300近くにもなった。
これはアレだな、今夜はウサギ肉での宴会で決まりだな――村人総出でも食いきれんくらいの肉の量だし。
それにしても、森林火災にならなくて良かった……。
…………
三角ウサギの残りのほとんどは『ツギノ村の英雄』が討伐した。
全部で5匹ほど逃したらしいが、被害は村の柵の一部を壊されるだけで済んだ。
村に戻ると、やはりいつの間にか宴会をすることになっていた。
メインは当然、三角ウサギの肉――もちろん俺たちの無償提供である。
今回は普通に依頼を受けていて三角ウサギの群れの討伐には関わってはいなかった『竜神の一撃』の連中が連夜の宴会に困惑していたので、俺は『何かあったらとりあえず宴会、というのがこの村の風習だ』と親切に教えてやった。
郷に入らば郷に従え。
大丈夫、すぐにこのツギノ村の宴会文化には慣れるはずだよ。
俺らもそうだったし。
――――
― 自宅 ―
「ステータス」
最近確認していなかったので、まずステータスを開いてみた。
※ ※ ※ ※ ※
名 前:タロウ・アリエナイ
レベル:18/100
生命力:1139/1139(1800)
魔 力:1293/1293(1800)
筋 力:106(187)
知 力:120(189)
丈夫さ:72(185)
素早さ:40(183)
器用さ:152(191)
運 :188
スキルポイント:3
熟練ポイント:56
スキル:【スキルスロット】【アイテムスロット】
【光球:極】【着火:極】【暗視:極】
【お宝感知:極】【隠密:極】【鍵開け:極】
【気配察知:極】【隠蔽:極】【罠解除:極】
【水鉄砲:極】【呪い:極】【メテオ:極】
【真・暗殺術:極】【水中戦闘術:極】【投擲術:極】
【短刀術:極】
状態異常:老化
※ ※ ※ ※ ※
スキルもずいぶん増えたなー。
あと熟練ポイントが余っている……。
レベル20超えたらまた『ボーナス』が揃って熟練ポイントが100手に入るかもしれないし、これって熟練ポイントが余りまくるんじゃ……?
この仕様なら、最初から全部スキルの熟練度は『極』でもいいんじゃね?
「なぁ、まだかよおっさん。そのスロットっていうやつ」
待っているのに飽きているのはマリーカである。
他の仲間はもうスロットは見ているので、少し余裕でこちらをガン見している。
俺は今日もまた【スキルスロット】を回そうとしている。
今回のギャラリーは、マリーカが増えて全部で5人となっていた。
つーかさ、ガン見は止めません?
なんかね、緊張すんのよ。
今回も回すのは『戦闘スキル』のスロット。
三度目の正直、今度こそ正統派の戦闘スキルを手に入れて見せる!
さぁ、ちゃっちゃと回すぜ!
「【スキルスロット】!」
目の前に浮かんだ半透明のスロットの筐体に、3ポイントを投入する。
「今度こそ来い、正統派! レバーオン!」
3つのリールが回転を始めた。
目押しが出来ないので、あとは止まるまでヒマである。
「えっ、なんだなんだ?」
と、マリーカが良く分かっていない様子だが、説明は他のみんなに任せて俺はリールに集中だ。
リールの回転が少しずつゆっくりとなり――。
まずは左のリールが停まった。
<毒使い> ―回転中― ―回転中―
だーかーらー、暗殺者色をこれ以上強くするのはやめれ。
俺は暗殺はやらんと言っとるだろーが。
次に真ん中のリールが停まる。
<毒使い> <防具破壊> ―回転中―
何だこのスキル?
敵の防具を破壊できるスキルでいいのかな?
対人戦スキルも要らないんだけどなー。
最後のリールが停まった。
<毒使い> <防具破壊> <筋力強化>
……うむ、知ってた。
正統派の戦闘スキルなんて来ないことは。
三度目の正直を狙って、二度あることは三度あるになることも。
一応スキルの内容でもチェツクしとこうか。
ついでにスキルの熟練度も全部『極』に上げてしまおう。
スキルの本当の効果は、『極』まで上げてみないと真価が分からなかったりするのだから。
まずは――。
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【毒使い:極】あらゆる毒を使いこなすことができる。
追加効果:毒無効
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おっ『極』まで上げたら、追加効果の毒耐性が毒無効になったぞ!
毒が無効になるのはけっこう有難い。
こりゃ【毒使い】は、思いがけなく良いスキルだったかもしんないな。
で、次は――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【防具破壊:極】攻撃を命中させると、敵の装備している防具を5%の確率で破壊できる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『初級』だと0.5%だった確率が、『極』にしたら5%になった。
でもこれ、やっぱり対人スキルだよなー。
魔物は防具とか装備してないもの……。
そして最後――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【筋力強化:極】筋力を10分の間、10倍に強化する。
クールタイム:24時間 / クールタイム中は全身筋肉痛となる、治療不可。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
筋力10倍はすごいな。
ただクールタイム中の全身筋肉痛ってのが、ものすごく気になる。
スキルのチェックはこれでおしまい。
結局正統派の戦闘スキルは来なかった。
しっかし、ここまで来ないってのは何だろうね?
物欲センサーでも発動してるんだろうか?――イヤ、スキルは物じゃないから欲望センサーかな?
もうアレかね、いっそ今度は5ポイント投入して、人間の枠を超えた特殊スキルでも取ってみるかね?
それはそれで人外コースに進んじゃいそうで、危険を感じるんだけどさ……。
仲間キャラはこれで全員の予定です。




