ツギノ村への移籍
令和初投稿♪
― ギルド・応接室 ―
「ツギノ村に移籍……ですか?」
「おうよ、ツギノ村は田舎だがいいところだぞ。依頼のランクもここより高めだし、今のお前らには丁度いいんじゃないか?――期限はたったの1年だし、特典も付けてやる。どうだ、悪い話じゃなかろう?」
サイショの街のギルドマスターの話を、アルスくんが代表として聞いている。
内容はツギノ村に移籍をしないか、というものである。
冒険者という職業は、基本どこでも好きな場所を拠点にすることができる。
だがそうなると、冒険者にはあまり人気のない地域というものがどうしても出てくることになり、そのような地域では冒険者が不足することになる。
何もない田舎や、面倒な貴族の治める場所、儲かる依頼がロクにない地域、等々がそれに当たる。
そんな場所には、ギルドが冒険者を期限付きで斡旋するのである。
今回のツギノ村のように。
もちろんただ移籍しろとはギルドも言わない。
今回俺たちに提示された特典は、なんと『アイテム袋』だった。
しかも1人に1つ、10㎥の容量を持つサイズのものだ。
但しこの『アイテム袋』、新品では無い。
ギルドが荷運びに使い始めてから、そろそろ7年になろうかという中古品である。
『アイテム袋』の使用期限は約10年なので、あと3年ほどは使える計算だ。
中古とはいえ、やはり俺たちも『アイテム袋』は欲しい。
依頼で獣や魔物の素材を運ぶのが格段に楽になるし、余分な狩りや採取にも手を出しやすくなる。
何より自由に大量の荷物を持ち歩けるというのは、それだけでも商売になるのだ。
「タロウさん、どうします?」
アルスくんはこういう時には必ず俺に相談してくれる――今回は本当に迷っているようだ。
「悪くは無いと思うが――ツギノ村って稼げるのか? その辺はどうなの? ギルマス」
正直ここより稼げないのであれば、アイテム袋を貰っても採算が合わない。
それなら稼げる場所で稼いで、アイテム袋を買ったほうがいい。
「もちろんここよりは稼げるぞ、その分依頼のランクも難しくはなるがな。でもお前らもうこの辺の依頼じゃ物足りなくなってきてたろ、なら難しくなっても丁度いいじゃねぇか」
簡単に言うけどさー、物足りなくなってんのアルスくんだけだかんね。
俺とパネロは――。
「そうですね! 確かにちょっと、わたしも物足りなくなってきたところです!」
ちょい待ちパネロ、その発言は聞き捨てならんぞ。
「もしもしパネロさん、物足りないってどういうことかな?」
君、戦闘の時にほぼ空気だよね?
「だってせっかく回復魔法が使えるのに、出番無いんですもん。おっさんさんの捻挫とかぎっくり腰ばっかり治すのは、もういいかげん飽き飽きなんですよ」
あー、そっちの物足りないなのね――確かに俺もアルスくんも、戦闘で怪我しないもんね。
つーか、いつもいつもポンコツな俺に回復魔法、ありがとね。
あとで左肩もお願いできます? さっきドア閉めた時にピキッとなっちゃって……。
「じゃあ、あとはタロウさん次第ですね!」
あれ? アルスくんいつの間にそんな話の流れになった?
つーか、俺の承諾待ち?
コレはアレですね?
依頼の難度が上がるとか聞いて、移籍するほうに気持ちが傾きやがりましたね、アルスくん?
しゃーないなー。
「2人が賛成なら、俺が反対する理由は特に無いよ。ツギノ村へ移籍しよう」
土地が変われば、見られるものも変わるだろう。
この世界のあちこちが見たい俺にとっても、悪い話では無いしね。
「じゃあ決まりだな! この書類のここんところにサインしてくれ」
ギルマスさんや、なんで書類が出来上がっているのかな?
今日はちょっと話を聞くだけじゃありませんでしたっけ?
断ってもいいとか言ってた割には、しっかり俺たちの名前が書いてあんぞ、コラ。
微妙に納得はいかんが、承諾してしまったものは仕方が無い。
大人しくサインをして、ツギノ村所属の冒険者になるとしよう。
で、いつからツギノ村所属になるんだ?
……到着次第?
出発は明日?
急じゃね?
…………
その日の夜は、急遽俺たちの送別会となった。
ドンゴとジャニ、おバカ3人組、『エンビェスの青い光』の連中が参加してくれるのは分かる――だけどな、俺らとはほぼ交流の無い連中まで参加してるのは何でだ?
お前ら絶対、ただ飲んで騒ぐ理由が欲しかっただけだろ!
あそこでドンゴと一緒に歌ってるあいつらなんて、俺は話したことなんざ1回もねーぞ!
集まった中で1番別れを惜しんでくれたのは、意外と言うか案の定というか……強面2人組の片割れ『ジャニ』であった。
泣いて怒って移籍する俺たちに文句を言い、笑って泣いて頑張れと励ましてくれた。
あげくに最後まで残ってクダを巻き、最後だから一緒に寝るとまで言いだして俺たちを辟易させやがった。
最後に『シャバに出たら、絶対サイショの街に顔出しやがれよ!』とか抜かしやがったので『俺らはどこぞの犯罪者か!』とツッコんでやったのはお約束だ。
そういや最初の出会いの時に、俺たちは同じ牢で1晩過ごしたんだっけな。
ありがとよ、ジャニ。
お前は新米冒険者だった俺が出会った中で――。
最高の先輩冒険者だったぜ。
――――
― 28日後 ―
俺たちは荷馬車の護衛をしながら、ツギノ村へと向かっている。
荷馬車の護衛には、俺たちの他に1組のパーティーが付いていた。
もう村人の気配は俺の【気配察知】に引っかかっているので、たぶんもう少し進めば村が見えてくるはずである。
いくつかの街や村を経由して来たここまでの道中なのだが、人工建造物が全く無くなってきた。
それに人の気配が全くしない……田舎なのだな、と改めて思う。
俺の気配感知に引っかかるのは、さっきから獣と魔物だけ。
その獣と魔物も、こちらには全く関心どころか警戒心も無いようで、荷馬車の近くを平然と移動していた。
御者をしているギルド職員に聞いたら、この辺の――というかツギノ村の周辺には、村の脅威となるような獣や魔物は滅多に現れないのだそうだ。
ツギノ村は、20年ほど前に開拓が始まった村で、現在ももちろん開拓中。
周辺に脅威が少なく、それでいて有用な魔物の生息地にほど近い村は、そのうち魔物を狩るために便利な拠点になるだろうという計画で開拓が始まったのだそうだ。
ところが、開拓してはみたものの魔物狩りの拠点としてはどうにも微妙だった――金になる魔物の生息域が事前調査より遠かったのと、生息している魔物の種類が素材として1級品とは言い難かったのである。
なので今は、ツギノ村は冒険者にとってはさほど魅力の無い田舎の拠点となってしまっていた。
同じくらい稼げて、もっと生活しやすい村や街は他にいくらでもある。
ツギノ村では現地で確保できる自然の恵み以外は、物流が悪すぎて手に入らないか、輸送コストが積み上げられて高価な品になってしまっているのだ。
だからツギノ村の冒険者は、買い物をする時には最も近いモールの街へと繰り出すらしい。
モールの街はこの荷馬車の出発地だが、見たところ品ぞろえはサイショの街のほうが良かったりした。
加工品に関しては、この辺ではあまり期待しないほうがいいだろう。
防具とか壊れた日には、代替品も期待できないし、しばらく冒険者は休業になるかもしれない。
なるほど、冒険者がツギノ村に居つかないわけだ。
良いところも、もちろんある。
回復ポーションは村に薬師がおり、薬草も村の中に雑草よろしく無造作に生えていることもあって、無茶苦茶安いらしい――なんか色々極端だよなー。
「あっ、見えましたよタロウさん」
道の向こうの村らしき集落を、アルスくんが見つけた。
防壁どころか、柵もなんか適当だ。
あれなら牧場とかの柵のほうが、まだマシなんじゃなかろうか?
ツギノ村へ入って、ギルドへと向かう。
荷下ろしはもう1組の護衛の冒険者にお任せだ。
ギルドの建物は、木造の平屋。
ちゃんと喫茶スペースも完備されている――オープンテラスの。
雨の日用だろうか、可動式の幌のような布が用意されている。
受付に挨拶に行くと、ギルドマスターが直々に対応してくれた。
ギルマスの名前はオタカさん――昔は『クラス:銀』の冒険者だったらしい、60代のおねーさんだ。
ギルドの中にはギルマス含め4人しか職員さんが見当たらないが、これで全員のようだ。
簡単な手続きを終えて、これで俺たちもツギノ村の冒険者となった。
「それじゃあんたたち、色々と説明するから良くお聞き」
手続きが終わってすぐ、オタカさんが数枚の紙を取り出し何やら説明を始めた。
・住まいは宿では無く一軒家、家賃は無料。
・道具類が欲しかったらギルド直営の店がある、但し他には冒険者用の店は無い。
・依頼は採取と狩りがほとんどで、討伐は滅多に無い。
・ツギノ村に現在籍を置いている冒険者は、4人組のパーティーとソロ冒険者が1人だけ――俺たちで3パーティー目だが、数日後にもう1パーティーが加わる予定。
・食料品は村とその周辺で手に入る物は格安、その他はかなり高額で注文して他の街や村から届けてもらう必要があるものも多い。
・鍛冶屋はあるが日用品専門で、武器防具は修理を含めて扱っていない。
・ポーション系アイテムは格安。
・食事はギルドの喫茶スペースで食べられる、事前に頼んでおけばリクエスト可、材料の持ち込みもOK。
……等々。
なんかローカルルールみたいなのが、ちらほらありますな。
そんな解説を聞いているうちに、4人組の冒険者たちがギルドに戻ってきた。
「おっ! もう来てやがったか、ツギノ村へようこそ。歓迎会用にミノタウロス狩ってきたぞ――鍋にするか? それとも豪快に焼いちまうか?」
戻ってきたのは男女2人ずつのパーティー『ツギノ村の英雄』
ミノタウロスを狩ってきたと言ったのは、パーティーリーダーのドナンさんだ。
お互いに自己紹介しながら適当な世間話をしていると、このツギノ村に所属している最後の冒険者がギルドに帰ってきた。
「あんら、もう到着してたんだか。おらノミジっつーもんだ、よろしくな!――オタカ婆ぁ、言われた通りパイナップルとマンゴー取ってきただよ」
ノミジと名乗ったその少女は、背中に山ほどの果物の入った籠を背負い、腰に弓と満杯の矢筒をぶら下げていた。
へぇー、弓士なんだこの娘。
……欲しいな。
イヤ、変な意味では無いぞ。
パーティーメンバーに欲しいな、と思っただけだから。
ふむ……アルスくんを説得するには、やはりそれなりの腕が必要だよな。
「なぁギルマスさん……あの娘のこと、ちょっと教えてくれる?」
「オタカでいいよ――なんだい、ノミジのことが気になるのかい? 歳の割には若い娘が好みなんだねぇ」
ギルマス――オタカさんがニヤニヤしながら俺のことを見ている。
「そっち系の話じゃねーよ。そもそも俺はいいかげん枯れてるから、いくら相手が若くて――って何言わせんだよ! 聞きたいのは弓士としての腕のほうだよ、使えるのか?」
「なんだいそっちかい。もちろん使えるよ――20頭の狼の群れを相手にして、無傷で殲滅させられるくらいにはね」
20頭とはいえ、狼の群れをソロで殲滅とかマジか……。
回避しながら全部仕留めたのか、それとも狼が近づく前に殲滅してのけたのか――どっちにしてもかなりの腕には違いない。
「狼の群れをソロで――凄いですね」
聞いてたんだアルスくん――実際に狼と戦ったこともあるし、実感がこもってるね。
聞いてたんなら丁度いい。
「なぁアルスくん――」
「分かってます。是非仲間に欲しいですよね、あのノミジさんって人――僕らは遠距離からの攻撃の手が、ほとんどありませんから」
ほう、アルスくんもあのノミジって娘を仲間にしたいと思ってくれたか。
これは説得の手間が省けたな。
…………
俺たちの歓迎会には、村の人たちも参加してくれた。
みんな気のいい人たちで、とりあえず人間関係には悩まずに済みそうだ。
宴もたけなわというところでノミジを勧誘してみたら『あんたたちが、おらが仲間になってもいいと思えるくらい強ええんなら、仲間になってもええだよ』となかなか良い感じの返事を貰えた。
ふっふっふっ、ならばアルスくんの強さをとくと見るが良い!
……俺とパネロは見なくていいからな。
『ツギノ村の英雄』の面々とも仲良くやれそうだ。
彼らは2組の夫婦もので、村の開拓が始まったと同時に冒険者になったのだそうだ。
なかなか冒険者の居つかないこの村で、ずっと住民と村のために頑張っているベテラン冒険者。
なんともカッコいい連中である。
俺には真似できん。
この歳になると分かってくるものというのは色々とある。
カッコ良さというものは見た目や派手さという要素も確かにあるが、最もカッコ良いと思える人というのはその生きかたがカッコ良かったりする人だということ――それもこの歳になって、俺にもようやく分かってきたことの1つだ。
この村で冒険者をやるのに、これほど頼りになる先輩はいないだろう。
ただ、2組の夫婦で構成されたパーティーというのが気になる。
パーティー組む前から付き合っとったん?
それとも一緒に冒険者やってて、いつの間にかそんな感じに?
そこんとこ、どうなん?
――――
― 次の日 ―
「森林ガメの甲羅って、けっこう高く売れるの?」
「んだ。加工が大変らしいだども、いい防具になるらしいだ。だから絶対壊したら駄目だべ――甲羅は壊さずに狩らないと失格にするだからな、しっかり狩るだべ」
なかなか面倒な注文ですな。
俺たちはツギノ村に到着してからの初依頼として『森林ガメの狩猟』の依頼を受けている。
これはノミジが俺たちのパーティー『黄金の絆』に加入するための条件――『仲間になってもいいと思うくらい強いかどうか』を確認するための試験を兼ねている。
なので俺たち『黄金の絆』だけでなく、ノミジも一緒に付いてきていた。
強さを測るなら強い相手を倒すのが簡単で分かりやすいと思うのだが、『冒険者の強さは、腕っぷしだけじゃ測れねぇべ』とのことで、何故かこの依頼にされた。
森林ガメそのものは攻撃性も低く、冒険者にとっては危険度も低いので『ランク:布』の依頼ではあるが、警戒心の強いこの生き物はすぐに甲羅の中に首や手足を引っ込めてしまい、甲羅を切ったり壊したりせずに仕留めるのが難しいらしい。
「あ、これかな? けっこう大きくて、ゆっくりと動く気配がある」
俺の【気配感知】に、ようやくそれっぽいのが引っかかった。
村の周囲に広がる森林は、やたらと生き物や魔物の気配が多過ぎて判別するのに一苦労だ。
気配に近づいていくと、ノミジがぴくっと反応した。
「はー、すげぇだな……ほんとに森林ガメの気配があっただ。いやー、おらより気配掴むのが上手い人なんか、初めて見ただよ」
どうやらノミジも森林ガメの気配を掴んだらしい。
「でしょう! タロウさんは凄いんですよ!」
アルスくんさ、その俺をやたらと持ち上げるの何とかならんもんかね。
どうにもむず痒いというか、こっ恥ずかしいというか……素直に喜べんのよ。
それにしても、この娘は【気配感知】もできるのか――俺ほどでは無いにせよ、かなり広範囲に亘って。
凄いな、弓士なら目もいいだろうし斥候役も任せられる。
仲間にしたら俺の役目、無くなっちゃったりして……マジでありそうで怖いな。
「見えました、アレですね」
アルスくんが森林ガメを見つけた――けっこう大きいのね。
見つけた森林ガメは、体高で2m甲羅の長さで5mはありそうだ。
森林ガメは見つけたので、あとはウチのエースにお任せだ。
「それじゃアルスくん、あとはよろしく」
「了解しました、行きます!」
アルスくんが一直線に森林ガメへと向かっていく。
しかし、その距離がまだ100mはあろうかという段階で、森林ガメはその首と手足を甲羅へと引っ込めてしまったのである。
「……っとと」
首を切ろうと上段に剣を構えて迫っていたアルスくんは、首と言う目標を失い森林ガメの直前で立ち止まることとなった。
その状況を見て、俺たちも森林ガメへと近づく。
「ほえー、本当に警戒心が強いんですね。あんなに遠かったのに、首ひっこめちゃいましたよ」
パネロが感心するのももっともだ。
生きるためにはそれが一番いいのかもしれないが、大した潔さである。
俺は森林ガメの周囲をぐるっと回って、剣が入りそうな隙間が無いか確認してみた。
首はもちろん、手足と尾が出ていたところも堅そうな蓋で完全に塞がれてしまっている。
「なぁノミジ、やっぱこの蓋みたいのも壊しちゃ駄目か?」
「もちろん壊すのは稼ぎが減るから駄目だべ、その蓋みたいなのもちゃんと金になるだからな」
なかなか注文が厳しいっすね。
森林ガメで他の街や村へ売れる部分は、甲羅や蓋のような固いとこだけである。
肉は美味いが足が早いので、冷凍・冷蔵のアイテム袋に一部だけ保存して、残りは基本村の中での消費だ。
美味い肉……すっぽんみたいなもんだろうか?
とりあえず森林ガメというのがどういう生き物か実際に経験したところで、作戦会議を始めよう。
……森林ガメの甲羅にもたれ掛かりながら。
どうせ目の前で話し合ったところで森林ガメには理解できんのだから、特に問題はあるまい。
…………
「じゃあそんな感じでやってみようか」
「そうですね、上手くいく気がしますし」
アルスくんとの打ち合わせも終わり、俺を残して全員が森林ガメから遠ざかる。
俺はもちろん【隠密】と【隠蔽】を発動して、森林ガメの甲羅の上で待機だ。
やがて外敵が去ったと安心したのか、ゆっくりと森林ガメがその手足を甲羅の外へと出し、遅れてようやく首が外へと出てきた。
ここで俺の出番である。
出番と言っても、簡単なお仕事だ。
短剣を首の根本へと突き刺すだけ。
普通に突き刺さずに、短剣の柄から刃先を軸として90度回転させての突き刺しである。
あ、ズブっとな。
いきなり短剣を突き刺された森林ガメは、当然その首を引っ込めようとする。
しかしながら、刺さった短剣が甲羅に引っかかってしまい、首を引っ込めるのに苦労をしている。
先ほど短剣を90度回転させたのは、ここで短剣により甲羅が傷つかないようにであった。
苦労している隙を見逃さず、アルスくんが駆け寄って森林ガメの首を剣で切り飛ばした。
血がドバドバと流れている……日本酒に入れて飲んだら美味しいかな?
《レベルアップしました》
《レベルアップしました》
嘘っ!? レベルが2つも上がったよ。
チラ見したら、パネロもびくっとしていた。
俺が2つ上がったということは、あいつもたぶん2つか3つレベルが上がったろうな。
森林ガメって、経験値も美味しいのか……。
「上手くいきましたね、タロウさん!」
「上手くいっちゃったね、アルスくん」
上手くいき過ぎて、ちょっと拍子抜けなくらいだ。
「んだな、こんだけできれば合格にしてやるだ。約束通り仲間になってやるだよ」
よっしゃ!
どうやら上手くいったおかげで、ノミジは仲間になってくれるようである。
こうして俺たち『黄金の絆』に、めでたく新メンバーが加わることとなった。
弓士の『ノミジ』――頼りになる遠距離攻撃に加えて、斥候もできる有能な仲間だ。
だが俺がノミジを仲間にしたかったのには、また別な理由があったりするのだが……。
――――
― 夜・村の広場 ―
村は昨日の俺たちの歓迎会に引き続き、2夜連続の宴会である。
今日はノミジが『黄金の絆』に加入したので、そっちの歓迎会だ。
最初は俺たち『黄金の絆』の仲間だけでカメ鍋をする予定だったのだが、いつの間にやらオタカ婆――ギルマスの声掛けで村を挙げての宴会となってしまった。
メインはもちろん、昼間に狩ってきた森林ガメのカメ鍋である。
森林ガメの肉は無償で提供することになったが、その他の具材や調理などは村の人たちが担当してくれたので、それはそれで良しとしよう。
どうせ森林ガメの肉は足が早いので、俺たちだけでは食いきれないのだ。
でも酒代だけは自腹なんだよなー。
しかも値段が高いし……。
この村で酒作ってないから、バカ高い輸送費が値段に乗っかってんだよね。
ちゃんと情報収集しとけば良かったな……。
最初から分かっていれば、アイテム袋に酒をたっぷり詰め込んできたものを……。
「あの娘を仲間に入れてくれて、ありがとね」
ひとしきり盛り上がった後で、オタカ婆――ギルマスが俺に礼を言ってきた。
聞くとノミジは、ずっと仲間を探していたらしい。
ツギノ村でソロの冒険者を続けていくうちに、村の外へと出てみたいと思うようになったノミジではあるが、村に一緒に住んでいる両親が1つだけ条件を付けた。
ずっと一緒に冒険者を続けてくれる、仲間を見つけることである。
ツギノ村しか知らないノミジでは、他の街や村へ行った時に心配だと思ったのだろう。
それにただでさえソロ冒険者は危険だ。
両親の心配も理解できる。
しかしながらツギノ村へとやってくる冒険者パーティーには、今までロクなのがいなかった。
頼りになりそうにないやつら、田舎者と馬鹿にするやつら、仲間にする代わりにとノミジに体の関係を迫ってきたやつら、等々……。
そんな中、ようやくやってきたマトモな冒険者っぽいのが、俺たちだったらしい。
その上ノミジを仲間に欲しがったのだ、渡りに船とはこのことであろう。
念のためオタカ婆が入れ知恵して森林ガメの狩猟で腕を確かめさせ、ようやくノミジが仲間となったというのがあちら側から見た顛末らしい。
……まぁいいけどね。
こっちもノミジを仲間にしたかったんだからさ。
「お礼ならアルスくんに言ってよ、彼がパーティーリーダーなんだからさ」
俺がとび抜けて年長者だから俺に言ったんだろうが、残念でした――リーダーはアルスくんなのだ。
「けどあの娘を見るなり仲間に、と考えたのはお前さんだったじゃないか」
オタカ婆がその細い目を少しだけ開き、俺をじっと見た。
「たまたま最初に考えただけだよ。俺が考えなくてもアルスくんならすぐに、ノミジを仲間にしたいと思ったはずさ」
「ほぅ、そうなのかい」
「そうさ」
オタカ婆にもそのうち分かるよ、アルスくんならそうしたさ。
昨日の宴会で顔を合わせてはいたが、ノミジの両親と改めてご挨拶。
何度も何度も『娘のことを、よろしくお願げぇしますだ』と頭を下げられた。
心配なんだろうなー。
つーか、俺が親なら娘に冒険者になんかなって欲しく無い。
娘どころか子供も嫁さんもおらんけどさ――ほっとけ!
宴も終わり、村人も三々五々に帰路へと向かう。
ノミジも両親と一緒に自宅へと帰り、俺たちも昨日入居したばかりの、小屋に毛が生えたようなわが家へと帰った。
引っ越し荷物の大半は、まだアイテム袋の中で整理されるのを待っている。
「無事ノミジを仲間にできて良かったですね、タロウさん」
「そうだね、アルスくん」
「わたしもやっと女の子の仲間が出来たんで、ひと安心ですよ」
あぁ、パネロもパーティーに女子が1人だけってのを気にしてたのか。
俺たちも基本男の感覚で行動してたからなー、きっと言いにくいこともあったのかもしれない。
「遠距離攻撃ができる仲間は欲しかったですからね、腕のいい弓士のノミジが入ってくれたのは大きいですよ――それに斥候役もこなせそうですから、タロウさんの負担も減りますね!」
なんかアルスくんが珍しくはしゃいでるし。
俺としては負担が減るというより、仕事が無くなりそうで半分怖いんですが……。
それにねアルスくん、俺がノミジを仲間にしたかったのには別な理由があるんだ。
俺がこの異世界で冒険者をやっているのは『リアルな描写の異世界転移ファンタジー小説』を書くため。
もちろんキャラもアルスくんを主人公に、周囲の人たちをまんまモデルにするつもりなのだ。
だからノミジに出会ってすぐ思ったんだ。
あのいかにも田舎者な言動、どこの地方のものだか良く分からん適当な方言。
もし彼女を仲間にしたら――。
すんげーキャラの書き分けがしやすいな……と。
ノミジの方言は適当なので、たぶんブレまくります。




