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宇宙のカラー  作者: 湯長 森一郎
序走
8/26

8 二人の少女

 早朝に城のほうで騒ぎがあったらしい。

 街を巡回する兵士が険しい表情をしている。


 四層の大通りを歩いていると、のんっ、という語尾を伸ばした声が聞こえてきた。

 目をやると、青い髪が背まで流れ、こめかみのところが巻き毛になっているユニークなヘアスタイルの少女が、供の青年をののしっている。


 二つ名は『味方は敵』のメミトレーがいた。


 すっ、と、不自然なくらいラインガルスは前を向き歩き続けた。

 ゲームの記憶では、彼女をメンバーに加えると、男女のもつれを製造しまくり、勝手に買い物をして資金が底をつく。

 モンスターの攻撃で傷ついてる仲間がいるのに、モンスターさんかわいそう、誰も傷つけない、と邪魔をしてくる。いや味方もう死にかけてるからどいて。

 ゆるふわポイズンスイーツ思考な少女は

 キャンプメンバーをベリーハード、ときにはアルティメット(じごく)へ導く。


 あんなのに顔を知られたら、それだけで破綻してしまう。

 振り返って見えなくなったのを確認したラインガルスは緊張した肩の力を抜いた。

 メミトレー、きっと主人公にがっつり関わるんだろうな、主人公って大変そうだな、機会があったら応援しようかな。


 正門近くは人通りが多い。

 小麦色の髪をした少女が歩いていた。肌が白く、優しげなまなざしをしている。

 迷って、ラインガルスは話しかけることにした。


「アルスノー」


 声をかけて肩に軽くふれた。

 ラインガルスの恋人だった少女。


「あなたは」


 警戒している。彼女はラインガルスを知らなかった。


 アルスノーに話しかけて、すぐ、積乱雲が頭の上からのしかかってくるような圧がきた。

 なんだ?イヤな重みだ。体に厚くまとわりついてくる。


「っ、お姉さんが社交界デビューの日にアルスノーをつぶそうとする、気をつけて」


「お姉さまへの暴言、なんて失礼な」


 少女は、かっとなって大声を出した。


「なんだったかな、花園の、クリプチー?みたいなところで、魔法プラント汚染で力を奪われてから、もっとひどいこともされる。しばらくタージラにいるから、もし困ったらたずねて」


 片手を上げくるくると振り、親愛の情を示し、早足で正門を通りすぎる。


 ゲームの記憶は、主人公としての視点だ。

 ラインガルスには、アルスノーと仲むつまじく暮らしたシーン(きおく)はない。

 ラインガルスが死に、絶望して爆弾を抱えて突っ込んでくる狂った少女としてしか知らない。


 皮膚を浸透して、生き物の腐った吐息が染みてくる。

 工匠のマントが雨水をはじくように身を守っている。

 気分が悪くなければ、もう少し話したかった。

 無事だといいけど。


 目指すタージラは火山地帯手前の荒野にある。

 正門を出て、外周道を北へ回り、街道を進む。


 アガタが「ミートボン、さよなら」と、乾燥牛肉をこっそり食べつつ王都を見つめていた。

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