7 ミートボン
ラインガルスが背伸びして路地裏を出た。
古銅貨は全部使い切った。呪い除け、超回復薬、魔法の指輪を買った。
ステーキプレートは、どこにいても届けてくれるそうだ。
チートンを聖片のマントでくるみ、肩と腰に吸着する留め具をつける。
「チートン先生、このマントは意志の力で動かせて、呪いも浄化してくれるから」
返事をするようにマントがふわっと浮いた。
ベルコフュールによれば、これから王都への出入り口は封鎖され、イベント山盛りな時期に入るという。
ラインガルスは、ゲームな知識について、これから様々な困難が降りかかるから与えられものと予想していた。
そのわりに自己については記憶喪失で、ラインガルスがどのように闇へ落ちてゆくのかもわからない。
だから王都で人間関係がわずかでも出来ないよう
明日、モンスター狩りにおすすめな街タージラへ出発するつもりだ。
引いてきた二輪荷車を下取りに出し、もっと頑丈な四輪の荷車と交換する。
毛布、樽入りの水、鍋とコンロと固形燃料、乾燥牛肉、ニンニクの束を買う。
キャンプに必要な雑貨はタージラで良いものが安く手に入る。
チートンはラインガルスが背負っている大きな背嚢から鼻先を出している。
背嚢の中で、もぞもぞマントが動いている。
三層と四層の境にある屋台群で夕食。
挽き肉をまるめハーブのソースをからめたミートボンを売っている店が多い。
「匂いが呼んでる」
アガタに引っ張られて屋台をのぞく。
ミートボンに小麦粉の揚げ粒が添えてある。
一皿注文してみる。一口で食べきれないくらい大きい。
良い肉の旨み、たまらない。
たれがあっさりした塩味で香り良く、揚げ粒がカリッとしておいしい。
「もっと食べたいなぁ」
「どのくらい食べたい」
「えっと、100?!」
アガタが、せいいっぱい!という眉の上げ方をした。
「100個ください」
「えっ、いいの」
「おいしいもんな」
「だよね」
アガタが食べているのをラインガルスは横からつまみ食いして大皿が何枚も空になる。
数種類の葉野菜のみのサンドイッチをラインガルスは注文して
「さっぱりしてこれもおいしい」とアガタへ勧めるのをスルーして
「まだいけるよ」ミートボンしか食べないアガタが言う。
追加の50個も、おいしくいただき、宿へ帰った。
「ここはすばらしい街だね!」
ベッドで無邪気に左右へ転がり、アガタが「明日はどこに行く?また屋台?」と言った。
「タージラに出発する」
「ミートボンがいるよ?まだ食べてないおいしい匂いが笑ってるよ」
どんな脳内イメージになってるのか。
「いや、さよならだ」
「どーーしぃーてーもぉー?」不満がふくらんで転がりまくるアガタ。
「まあ、残っても、いい」
「え、そう?」
ラインガルスは指で厚みを示して
「タージラでこんなステーキを食べようと、」
「旅立っちゃうよね!サンキュー!」
話し合いは円満に解決した。