6 ベルコフュールの店
城門が開いた。
門兵だけではなく、身なりの良い兵士が多くいて、人々は声をひそめてゆっくり橋を渡り、門をくぐる。
ラインガルスは寝起きのあやふやな意識でそれを荷車の上から眺めていた。
中央の王城を囲んで街は、一層、二層、三層、四層、に区分けされている。 ベルコフュールの店は三層の薬草街の路地裏の突き当たりにある。
目印はなにもなく、風化して重なったすだれをめくり、さびたドアを開ける、クモの巣だらけの細い通路を進み、カウンターへたどり着く。
天井の低い店で、少しかがんでラインガルスは立っている。
「いらっしゃい」
青年がいた。輝きを失った金の髪、作業着はよれている。本人は健康そうだ。
彼がベルコフュール。
「豚の体が動かなくて」
「ほう、呪われてるね」
すぐにベルコフュールは言った。
「ちょうどいい薬がある。金貨一枚」と。
「買います」
むしろ安い、ラインガルスが払うと、カウンターに横たわったチートンの胸へ、大口径の銃に似た注射器を当てる。薬液が、けっこうな音をたてて胸へ打ち込まれた。
「ひぃ、あにきぃ」
アガタがラインガルスの背にしがみつき、目をつむる。
「呪いは、散ってるね。ほかに用事はあるかな。これから午後のティータイムなんだ」
まだ昼ですらない。
「おすすめの品が見たい、あるかな」
「そうだね、それが僕の仕事だから。えーと、豚さんには『聖片のマント』体はすぐに動かないからね。お兄さんには『工匠のマント』。少年君にはマント『フェニックスノヴァ』かな。マントが三枚。
それと代金は、古代のポーフェル大銅貨だけで受け付けるから、金貨とかじゃ買えないよ、今ならお買い得で全部銅貨一枚ずつの計三枚」
ラインガルスは知っている。
次に来たときには銅貨が二枚の計六枚になっているのを。
来店するたびに価格がつり上がってゆく、謎難易度。
「銅貨はどこで買えばいい」
「さあ?遺跡とかにあるらしいよ」
「他に銅貨で買えるものは」
「あとはオーダーメイドだね、どんなものが欲しい?」
「モンスターの肉をうまく焼ける道具は」
「ん?オーブンかい」
「できればステーキで」
「それならプレートにしよう。乗せておけば熟成、加熱ができて、軽くもしておこう、これも銅貨一枚」
「ドラゴンのステーキを作るのに役立ちそうなのがいい」
「壮大だねえ。じゃあ、プレートの裏をあてると鱗取りができて、火力も強力にしよう」
「包丁はあるかな」
「龍切りの銘がある小刀。銅貨一枚。まとめて銅貨五枚」
「買った」
ラインガルスは別な皮袋から、あっさりポーフェル銅貨を取り出す。
湖の近くにあったものを回収しておいた。
「まさか、もう銅貨を持ってるなんて。この店をどうして知ってるんだい。君たちが初のお客さんなのに」
ラインガルスは自分が、この世界をゲームとして知っていた、という話をしてみた。
「ふーむ、ゲームというのはモニタに表示された画面を操作するものかな」
ラインガルスはうなずく。
「転生現象はまれに観測されているよ、けれど、君はそうじゃないようだけど、
読み取れないようプロテクトがかかっているね。規格は不明。
この店を知っていたなら、こちら側かもしれない。
とはいえ、なんの予定にも沿っていないイレギュラーの可能性も高い。君の記憶はあいまいで。特別な使命感はない」
とりあえずは好きに生きてみればいいよ。とベルコフュールは言った、君の言うところの主人公は健在だし、僕の役割もわかっているんだろう?