5 王都へ向かって
チートンは横たわったまま、息をするだけだった。
近くの店で荷車を買い、アガタとラインガルスは力を合わせてチートンを乗せた。
男たちは仕事が終わり解散していなくなっていた。
荷車をアガタが引いている。
「あれ?」アガタが振り返った。
「どうした」荷車の横を歩いているラインガルスが言った。
「僕、こんな重たい豚なのに、一人で引っ張れてる」
「そんなもんじゃないのか」
「違うよ、力が強くなってる」
なるほど、とラインガルスはひらめいた。
肉を食べて、ある程度消化されてから強くなるんだ。
でも、とラインガルスはたずねた。
「アガタは、いつもは肉食べないのか」
「兄さんたちが狩ってきたのを、おこぼれでもらってるよ」
「どんな肉?」
「泥虫」
あれを食べてれば強くならない。
泥虫は、食感が固くて味のない鳥肉に似ていて、芋虫を好んで補食するためそれなりに栄養はある、ただ能力はさっぱり上がらない。
満腹度のためにある食材だ。
「それよりさ、この豚、いつ食べるの?」
アガタがチートンを振り返って目を輝かせた。
「チートン先生は食べません」おごそかにラインガルスは宣言した。
「えー、ひとくちひとくち」
「いいかい、チートン先生は言葉がわかってるんだ。それに人間よりも、ずーーっと優秀なんだから、失礼なことばかり言ってると、あとでワンパンされる」
「パン?」
「パンチ一発でおしまいってこと」
「へー、それじゃ僕のご飯はどうなるの」
「忘れてた」
「ひどいよ!」
「獣医にチートン先生を診てもらってから、どこかで食事にしよう。それまでこれでも食べてな」
ラインガルスが、残していた干し肉を一枚、アガタの口へつっこむ。
街の入り口近くに獣病院があった。
地続きになっている木張りの板間が診療所で、荷車をそのまま乗り入れて診てもらう。
「悪いところはなさそうだ。栄養がつくものでも食べさせてみたらどうかね」
初老の男の医者が、昼寝を起こされて無愛想に診察してくれた。
ラインガルスは水の入った椀をチートンの口もとにあてて、水を流し込んだ。
ひとくち、水を飲み込み、残りは横たえた口から流れ戻った。
ちょっと古いリンゴは食べられないようだった。
「やっぱり死にそうじゃないか」
ラインガルスは心配で、なにかできることは?と考えてみた。
王都だ。
ベルコフュールの何でも屋がある。
「王都へ行くぞ」ラインガルスは断言した。
塩肉と干し肉、干した緑野菜、飲み水を買い付ける。
はりきって荷車を引っ張るアガタは、峠をひとつ上る途中でへばった。
疲れたアガタをチートンの隣に寝かせ、ラインガルスは替わって荷車を引き、走り続けた。
二度の夜を越え、食事するときにはアガタに代わってもらい、早朝に王都の正門へ到着した。
「なんとかなったなー」
「おつかれちん」
「ちょっと寝る、何かあったら起こして」
「塩肉食べてていい?」
「加熱しないと危ないから、ほかの食べといて」
「はーい」
眠い、疲れて眠い。
ラインガルスはチートンの横に寝転がり、すぐに熟睡した。