表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙のカラー  作者: 湯長 森一郎
序走
5/26

5 王都へ向かって

 チートンは横たわったまま、息をするだけだった。

 近くの店で荷車を買い、アガタとラインガルスは力を合わせてチートンを乗せた。

 男たちは仕事が終わり解散していなくなっていた。


 荷車をアガタが引いている。


「あれ?」アガタが振り返った。


「どうした」荷車の横を歩いているラインガルスが言った。


「僕、こんな重たい豚なのに、一人で引っ張れてる」


「そんなもんじゃないのか」


「違うよ、力が強くなってる」


 なるほど、とラインガルスはひらめいた。

 肉を食べて、ある程度消化されてから強くなるんだ。

 でも、とラインガルスはたずねた。


「アガタは、いつもは肉食べないのか」


「兄さんたちが狩ってきたのを、おこぼれでもらってるよ」


「どんな肉?」


「泥虫」


 あれを食べてれば強くならない。

 泥虫は、食感が固くて味のない鳥肉に似ていて、芋虫を好んで補食するためそれなりに栄養はある、ただ能力はさっぱり上がらない。

 満腹度のためにある食材だ。


「それよりさ、この豚、いつ食べるの?」


 アガタがチートンを振り返って目を輝かせた。


「チートン先生は食べません」おごそかにラインガルスは宣言した。


「えー、ひとくちひとくち」


「いいかい、チートン先生は言葉がわかってるんだ。それに人間よりも、ずーーっと優秀なんだから、失礼なことばかり言ってると、あとでワンパンされる」


「パン?」


「パンチ一発でおしまいってこと」


「へー、それじゃ僕のご飯はどうなるの」


「忘れてた」


「ひどいよ!」


「獣医にチートン先生を診てもらってから、どこかで食事にしよう。それまでこれでも食べてな」


 ラインガルスが、残していた干し肉を一枚、アガタの口へつっこむ。


 街の入り口近くに獣病院があった。

 地続きになっている木張りの板間が診療所で、荷車をそのまま乗り入れて診てもらう。


「悪いところはなさそうだ。栄養がつくものでも食べさせてみたらどうかね」


 初老の男の医者が、昼寝を起こされて無愛想に診察してくれた。


 ラインガルスは水の入った椀をチートンの口もとにあてて、水を流し込んだ。

 ひとくち、水を飲み込み、残りは横たえた口から流れ戻った。

 ちょっと古いリンゴは食べられないようだった。


「やっぱり死にそうじゃないか」


 ラインガルスは心配で、なにかできることは?と考えてみた。


 王都だ。

 ベルコフュールの何でも屋がある。


「王都へ行くぞ」ラインガルスは断言した。


 塩肉と干し肉、干した緑野菜、飲み水を買い付ける。


 はりきって荷車を引っ張るアガタは、峠をひとつ上る途中でへばった。

 疲れたアガタをチートンの隣に寝かせ、ラインガルスは替わって荷車を引き、走り続けた。

 二度の夜を越え、食事するときにはアガタに代わってもらい、早朝に王都の正門へ到着した。


「なんとかなったなー」


「おつかれちん」


「ちょっと寝る、何かあったら起こして」


「塩肉食べてていい?」


「加熱しないと危ないから、ほかの食べといて」


「はーい」


 眠い、疲れて眠い。

 ラインガルスはチートンの横に寝転がり、すぐに熟睡した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ