26 ラインガルス思い出す
チートンは宿の外で魔法の練習をしていた。
圧縮された魔法が高く上がって解放され、薄暗くなってきた空に輝く。
誰かが持ってきた簡易ハンモックに収まったチートンは、興味深く自分の魔法をながめていた。
「魔法の花火だよ、きれいだねぇ」
幼い子を抱いた母親が言った。
単発だった花火が連発になる。
色彩ゆたかにきらめく。
パイプオルガンに似た響きが加わる。
しばらく花火が続くうち、見上げていた少女がステップを踏み、踊り始めた。
光は小鳥の群となり、他の花火へまとわりついては、はじけ、また集まり、にぎやかに戯れる。
一度に10の魔法がうち上がり、融合し、大きくなった花火は盛大に光を吹雪かせた。
リリネとラインガルスが急いで戻ってきて、ヴァインもすぐに来た。
「闇超級騎士に襲われた。ここも危険だ」と、ラインガルスが言った。
「頼まれていた狩証権を買っていたら、クラン『アンガー』からラインガルスに会談の申し込みがあった、クソな評判しかない。ローチウルフ討伐が気に入らなくて脅しをかけるつもりだろう」
ヴァインから狩符を渡され、ラインガルスは工匠のマントへしまう。
「これで何もしなくても安定して肉が貯まってゆく」
ふふふ、とラインガルスが笑った。
彼らを狙い、無作為転移が投射された。
宇宙を渡る第九殲滅知性より力を与えられた闇超級騎士ならではの魔法。
転移の座標を指定しない転移魔法は、地中や深海、足場のない上空に飛ばされれば死に至る。
未知の魔法にチートンは危険を感じて、元素掌で包むと投げ返した。
無作為転移は、闇超級騎士と建物の屋上を巻き込み発動したが、花火にまぎれて目立たなかった。
こうして花火の時間は終わった。
見物していた人たちは笑顔で帰っていった。
宿の部屋でベッドに寝ころび、数分休憩しようとしたラインガルスは、自らの記憶が蘇った。
「信じられない内容なんだけど、それにどうしてこのタイミング」
ラインガルスの意識に、闇超級騎士が転移魔法を放ち、チートンが投げ返す映像が再生される。
■ 転移攻撃を惑星外からのテクノロジーと判断して記憶を復元しました。とメッセージ。
「ありがとう」
ラインガルスが「とりあえず急いで旅立つ必要はなくなった」と、ベッドから起き上がり
「戦車1台を要請」と言った。
次元フレームから、正20面体のタンクが現れる。てのひらに乗る大きさ。
「セキュリティよろしく」と、ラインガルスが声をかけるとタンクは空間偽装で姿を隠した。
ラインガルスとリリネを襲い、転移魔法を放った闇超級騎士の詳細情報が意識に追記される。
灼熱が鱗の隙間から吹き出され体を包む龍の映像。
■ グリューエンドラゴンが脳支配魔法を完成させ、操作端末にされた個体。
「ドラゴンの謀りごとに巻き込まれてたのか」
ラインガルスは、とりあえず仲間へ説明するために部屋を出た。
「はーい、大変なことがわかった」
リビングの真ん中に立ち、力場を薄く、広く展開して周囲の様子を探っていたリリネが、力場を収める。
「リリネ、闇超級騎士はチートンが返り討ちにしてた」
「え?いつの間に」
「花火の終わりあたり、あの手際、やっぱりチートン先生のほうがしっくりくるなあ」
ラインガルスがチートンとヴァインを呼ぶ。
「とりあえず危険は去った、あと記憶が戻った」
「それで、どうだった」と、ヴァインが言った。
「かんたんにまとめると、目的地と違う場所に送られた旅人だった。そして、この世界の住人じゃなかった。ゲーム、じゃなくて、予言関連は説明が難しいから後回しにして、重要なのはこの世界が消えてしまうけどどうする?ってことかな」
「人類が滅亡する予言ですか」
「違う、この世界が球状なのは知ってる?」
「はい、過去に英雄が限りなく空高く飛行したことがあります」
「この星自体が破壊されてしまう。ラインガルスが転送エラーで送られてから、この世界へ詳細なスキャンがかけられて、第九殲滅知性の存在が知られた。
それで、この星の創造登記を調べたら、未登録の造り手知らずになっていて、消去される」
「話がよくわかりません」
「病原菌がいるから焼却処分しようってこと」
「どうやったら止められますか」
「消去への猶予を申請して、こっちで第九殲滅知性を無力化すればだいじょうぶ」
「私は、この星を守りたいです」
「チートンはどう?」
星が無くならないほうがいい、とメモがあがる。
「わかった、王都から出たばかりで死にかかったの、あれ、敵の攻撃だった。命を助けられたお礼はしないと」
お互いさま、とメモが上がる。
「消去への猶予を申請、第九殲滅知性の製作者を調べてコンタクトもお願い」
ポーンと心地よい音が返ってきた。命令受領のシグナル。
「よし、それじゃ冒険をはじめようか」
一章はここまで。
どうもありがとう。




