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宇宙のカラー  作者: 湯長 森一郎
第一章 龍の影

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19 ローチウルフ討伐

 西は荒野で起伏が多く、坂を迂回した道がほとんど。

 その中で、ホッツは街から上るにはきつくない丘の上へ続く道を選んだ。

 丘の上から遠くまで見渡すと、ローチウルフの群れが何十といる。頭数で数えれば千を越えるだろう。異常な数がいる。


「目当ての獲物はマルミダチョウだ、体の身が詰まっていて足が速く頑健なのが幸いしてローチウルフに食われずに逃げ回っている、だがまあ」


 ローチウルフの群れを指さし、ホッツがため息をつく。


「あいつら、おかしいんだ。ふつうのローチウルフより、なんかずる賢い」クロンがルティに、知っていることをアピールしている。

「罠をしかけても、一度目でおぼえてしまってかからない」ヴァインが言った。

「動きも敏捷で、集団でのチームワークもなかなかだ。数が多く、孤立した群れを狙って戦っていても、いつの間にか後ろへ他の群れが回り込んでくる。どうだ?」

「どうかな」ラインガルスがチートンへ言うと、新技を編み出しておいた、とチートンがメモを上げた。


 馬車から降り、マントの支えを外して、チートンが4本の足で丘を見下ろす場所へ立った。


「わー、立った、立った」マヒが治ってきたのを、アガタとラインガルスが喜ぶ。


 チートンはすぐに元素掌を放った。

 地面へ巨大な物体が追突したかのような衝撃が走り、ローチウルフの群れが近いほうから、糸の支えを失った操り人形が崩れ落ちるように動かなくなった。

 千頭以上いたローチウルフはすべて倒れた。


「よし」ラインガルスがうなずく「それじゃ、回収をしてもらって、マルミダチョウをゲットするぞ」

「いぇーい」

「いや、ま、まってくれ」ホッツが、愕然として口を開けているトロンとクロンに「街へ行ってローチウルフ討伐の確認ができる人を呼んでこい、馬へ直接乗っていけ、動け」と指示した。

「は、はい」


 馬を引き具から外し、少年たちは疾走して街へ向かった。


 トロンとクロンの両親は狩士で、先の街を守る戦いで大怪我を負い、治療している間、ペゼットの倉庫で預かっていた。

 少年たちは優秀で、荷運びの隙をついては獲物を狩ってきていた。

 まだそれはいいが、下手な狩士をバカにすることがよくあり、ホッツは少年たちと、ラインガルスがローチウルフを一日で何頭倒せるか、賭けをしていた。

 トロンが5頭、クロンが8頭。

 年が近いラインガルスが信じられないような活躍をすれば、トロンとクロンの自慢も減るだろう。

 ホッツの予想は100頭で、それをもとに馬車のローテーションを編成していた。

 それがまさか、丘についてすぐ終わってしまうなんて。


 ホッツが「もうしわけない、もしかして英雄なのか」とラインガルスへ言った。


 英雄なら、街を守るためにローチウルフ討伐を勧めたことを咎められるかもしれない。

 英雄への個人的な誘導を禁じる法律は、はかりごとを防ぐために作られた。

 今では英雄を戦いへと連れ出すだけで罪となり、英雄自身も自衛と承認証を持たない戦い以外は罰則を受ける。


 二百年前、英雄ローズベルは愛する男を人質にとられ、小国ひとつを滅ぼし、すぐさまアイギスの標より加護を剥奪され、空中より落下して死んだ。

 ・男は人質にはなっていなかった。歪んだ復讐心に固められた美しい男が、ローズベルを利用したのだった

 ・アイギスの標は成したことを評価するため、英雄の暴走を未然には防いでくれないこと

 ・英雄は一度なら悪魔になれるのです、とは、法律の草案を提出したローズベルの叔父アルゼナルの言葉。


 ローズベルの死後、加護はアルゼナルの娘へと引き継がれ、薔薇の剣の姫、と呼ばれる。


「じつは、告白すると」とラインガルスが言ったのを聞き、ホッツはやはりそうか、という納得と、街を守れた安心感、審問への暗い憂鬱を味わった。

「魔法器なんてなくて、このチートン先生が強かったんだ」

「そ、そうか」

 ホッツは、英雄じゃないなら何なのか聞こうとしたが、


「すごすぎて実感がわかないよ、それより攻撃がどうなってるの?」

 ルティがラインガルスのもとへ走り寄ったために、口にされることはなかった。


 ラインガルスとアガタ以外、馬車へ乗るものたちは皆、ローチウルフと戦ったか襲われた経験がある。

 飛びかかり、前足を振り下ろすだけで皮鎧と切り裂いて命を奪ってゆく存在の重みと恐怖を知っている。

 ルティも例外ではなく、一度、鎧をかまれて岩の上から引きずり落とされそうになったことがある。

 見渡す限りのローチウルフが全滅しているという現状は、ありえない、という驚きでしかなかった。


「チートン先生、どうやったの」ラインガルスがたずねる。


 掌撃を地面を伝って下からやった、とメモが上がる。


「そのために立ったのか」

「ちっがーう、威力!あのわけわかんない攻撃はなに!」

「チートン先生はドラゴンを一撃できるんだから、むしろ手加減だろう」

「うわー、信じられないけど信じそう」

「ドラゴン討伐の絵本を刷って、ドラゴンをおびきだして仕留める遊びを知らないのか」

「そんなのしてたら、みんな大脱走だよ!」


 この世界にドラゴンを退治した伝承や本はない、なぜなら、そういった本や歌をドラゴンは侮辱と受け取るからだ。

 人はその事実を忘れ、ドラゴン退治のサーガを作り、焼き尽くされ、沈黙する。

 だからこそ、ドラゴンは必ずやってくると、大人は子供へ物語るのだ。

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