17 ラインガルスの知識
「昔から新鮮なチーズと果汁を練ったのがうちのチーズケーキなんだよね」
「ふーん」
「なんだよ、もっとかまってよ。ラインガルスって長いから、ラインでいい?」
「まあ、いいか。うちの戦力はチートン先生だけなのは知ってるか」
「この子?使役獣なの?」ルティが隣にいるチートンを指さす。
「チートン先生は、なんかすごい存在だ」
「それなら、ラインとアガタは?」
「このあたりのモンスターと戦える実力はない」
「私は大男級の力はあるって、ライセンスを来月取りに行く予定だった」
「若いのにすごいな」
「貴族が通うバトルスクールがあるの、家でも独自の講座があった」
それにしても『呪い』に出会いすぎる。ラインガルスは思った。
「チートン先生はアイギスの標は知ってる?」
知らない、と返事がある。
「この世界が危機に陥ると『アイギスの標』が人間に力を与える仕組みがあるんだ、って、そうか、チートン先生は人間じゃないから違う?」
その通り、とメモが上がる。
「アイギスの標と呪い、関係ないか」
「えっ、どうしてブタがメモを書いて、アイギスの標をふつうにしゃべっちゃってるの!それ秘密!ダメだよ」
「はーい」なぜかアガタが言った。
「それに私、大貴族の系譜なのにどうして偉そうなの、ラインも貴族?」ラインガルスへ、ルティが問いかける。
「まず自分が誰なのか記憶がない、おぼえているのはゲームだけだ」
「ゲーム?」
「予言書みたいなものかな、ページの絵が動く」
「それで、アイギスの標を知っているの?」
「そう、ダークパワーの使い手は知っているか」
「うん」
「あれは人間を滅ぼす『第九殲滅知性』という戦争知性が、超級騎士を、いや、最初から説明しようか」
歩みを遅くしてラインガルスは話し始めた。
「アイギスの標が人間を守護して、さまざまな力を与えている」
「うん」
「第九殲滅知性は、空の上から降ってきた。人間を滅亡させるために」
「どうして」
「ここから遙か遠くの星の世界に、とある種族がいて、人間に似た姿の種族に殺し尽くされそうになっていた、それに対抗するために殲滅知性を作りだし、勝利を収めた。第九殲滅知性は逃げた敵を討った帰り、この星を見つけた、おぉ、敵と似た姿の存在がいる。体は小さく、力も弱い、焼き切れた体は瞬時に回復できず、脆弱である、だが滅ぼしておくべきだろう」
「え、なにそれ」
「しかし、アイギスの標が強力に人間を守っていて、直接手を出すと勝てそうにない、どうしようかと第九殲滅知性は考えた。そうだ、人間を使って人間を減らそう、第九殲滅知性は人間を強化する技を、英雄や超級騎士から学習し、独自のアレンジを加えて、闇の超級騎士へと、力を渇望する人間を選び変化させた、人間を減らすほど、より力が手にはいるとささやいて」
影が続く、ひんやりした空気、走ってゆく子供。
「当面の第九殲滅知性の目標は、ダークハイロードの強化と、魔王システムを完成させ、アイギスの標を消すこと」
「冗談、でしょ?」
「だといいな」
「それが本当だとして、ラインはなにをしてるの」
「とくに、なにも」
「どうして」
「ルティはドラゴンに勝てるか?、ストームドラゴンでいい」
「不可能」
「そう、そしてアイギスの標と第九殲滅知性の争いは、最上級のドラゴンを相手にするより難しい」
「でもトリコカバを倒せるくらい強いのに」
「チートン先生はね。でもチートン先生は人間が嫌いだ」
嫌いじゃないよ、とメモが上がる。
「あれ、そうなのか」
足が三本のチートンは人間嫌いだったのに。
「じゃあ、チートン先生が回復したら、チートン先生の気分次第かもしれない」
小鳥が群れて飛んで行く。
「それに、アイギスの標も危機を察知して正式稼働するはず。そのあたりはよくわからない。アイギスの標の邪魔をしないように、おとなしく狩りをして」
「おいしいお肉を食べたい」アガタが言い継いで、うなずいた。