15 タージラの街5
ステーキ盛り合わせが来た。
長方形のプレートに一人前。こんもりたっぷりある。
赤身を切り分けて口へ。
中央の大きい肉は、香ばしく、焼けた脂は甘く、舌ざわりなめらか。
周りの小ぶりな肉は淡泊な味わい。
煮リンゴのスライス、小さなパイ、刻み野菜の酢漬けもある。
「アガタ、おいしいな」
ラインガルスが声をかけても返事はない。
おいしすぎて食べるのに没頭している。
大きい肉は厚切りを焼いて重ねられていて、これだけで何枚分もある。
ラインガルスは一皿で満足できそうだ。
炭酸水を自分とチートンのカップへ注ぐ。
チートンがマントでフォークをつかみ、インゲンを刺して匂いをかぎ、口にふくんで皿に戻した。
まだ口がマヒしていて、味わうだけにしている。
それでも満足したのか、炭酸水を飲んで、ブフ、と鼻を鳴らした。
隣の席の男がラインガルスたちを向いて、ため息をついた。
シャープな顔立ちに無精ひげ、三十歳ほど、よれた革のジャケットで汗くさい。
男へスープが来た。
「リンツちゃん、ありがとう」渋い声をしている。
店員の少女が愛想よく「具は多めにしましたよ」と言う。
男はスープをひとくち、ふたくち、泣き出した。
「うぅ、うぅ、働きたくない」
ラインガルスが「どうしたんだ」男にたずねる。
要約すると、仕事がきついうえ、ミスを理由に給料を減らされて、スープしか注文できない、もう限界っぽい、と、男は言った。
ステーキを一枚譲ると「おいしいなあ」男は、肉を小さく切って味わい、しみじみ言った。
「どんな仕事をしている」
「狩人のサポート、雑用だよ。罠の用意、道具の補充、食事の用意、ひととおりできる」
「今のクランは評判良くないよ、やめたら?」リンツが言う「前のヴァインさんはたのしそうだったのに」
「モンスターフラッドで良いクランの負担が大きすぎて、つぶれたのはそういうとこばかりだった。ダメなクランが逃げて大きい顔してるのはおかしいだろ」吐き捨てるようにヴァインが言った「そんなところしか働き口がないよりは街を離れて、もっと落ち着いてから戻ってきても、って考えてる」
リンツがさみしそうな顔をしたのを、ちらっと見て、ラインガルスが「それなら雇おうか」と言った。
「誰が?」
「ちょうど今日から狩人をしている。給料はいくらもらってる」
「週、銀貨2枚」
「その前は?」
「同じ。でも賄いがでたり、ボーナスもあった」
「じゃあ、銀貨3枚で雇おう」
「ほんとうかい」
「ペゼットの倉庫はわかるか」
「ああ、もちろん」
「明日の昼前までに来てほしい、すぐにやめられそうか」
「週契約が今日までだ、明日更新しなければいい、行けるよ」
俺、どれだけ更新したくなかったんだと、ヴァインは苦笑した。
「それなら頼む」
ちょうど仕事がわかっている人材がほしかったラインガルスはラッキーだったなと思った。
ラインガルスとヴァインが話しているうちにアガタは2皿をたいらげていた。
「おいしいご飯が食べられないってつらいよね」
皿と皿の間だけ話したアガタが3皿目に突入する。
食いつきが今まで以上にすごい、リンゴと野菜は残している。
「パイの具は肉か」
ラインガルスの大きい肉一層ぶんと、アガタが残したステーキの付け合わせをヴァインへ。
デザートに、表面が茶色で中がとろりとしたチーズケーキが来た。
ラインガルスとヴァインが、ミントティーと一緒にたのしんでいると、お腹の限界がきたアガタが、やっとあきらめた。
5皿目をヴァインに譲ろうとしたら「やだやだ、持って帰る」と、アガタがプレートをつかんで抵抗したので交渉して小さい肉をヴァインへ。
残りは持ち帰り用に包んでもらった。
ヴァインは「じゅうぶん食べたからいいよ」と優しかった。




