13 タージラの街3
草原にピンクのイモムシが、もっそり転がっていた。
「あれ、なに?」
ホッツも「知らない個体だ」と用心する。
「珍しいモンスターなら高値で売れるかもしれない」
チートンが先にイモムシまで滑空して行った。
人間の成人男性サイズの、全身くまなくピンク色をしているイモムシがチーチーと高い鳴き声を立てている。
チートンがこっそり紙片をラインガルスへ渡す。図書館に数時間いただけで文字が書けるようになった。メモを見る。
〈 呪われた人間 危険はない 〉
呪い除けのメダリオンを近づけると中央の発光帯が赤く光った。強力な呪い。
「知り合いのペットだった」ラインガルスが真顔で嘘をついた。
「そうなのか」
「このひたいの模様が珍しいんだ」
イモムシへ麻酔針を打とうとしていたホッツは「安全か?」と聞いた。
「危険はない」
ラインガルスはチートンのメモをそのまま口にした。
トリコカバの間のくぼみに収まったピンクイモムシをラインガルスは親指で押してみる。やわらかめ。
「中にそのまま人間が入ってそうだ」ホッツへ聞こえないようにつぶやく、感触がクッションみたいだ。
ふと思いつき、薄めた回復薬をイモムシの体へふりかけ、よくもみこむ、これで呪いが解けやすくなるはず。
ピンクイモムシは、くねくね体をよじらせている。
「ブタを投げて発動する魔法は何回使えるんだ」ホッツが言った。
ラインガルスが振り返るとチートンがマントをミニブタの形にして、いけるぜ!のポーズを作った。前を向いたままのホッツは気づかなかった。
「日中なら何度でも」
「そうか、西の地帯はローチウルフの群れが多くて困っている。いろんな肉が欲しいなら、ローチウルフの討伐賞金で狩証を購入したらいい」
「自分たちのは持っている」
「そうじゃない。証券取引で他クランの狩証が売りに出されていて、一枚につき、狩りの儲けから5から10パーセントぶんの金銭か肉がもらえる」
「それはいい。アガタ、市場でおいしそうな肉を見つけたらどこのクランの獲物か聞いてきな。そしたら、そのおいしい肉がもらえるようにするから」
「うん、わかった」
ホッツが笑って
「魔法で軽量化された装備が出回りはじめて、大型で頑丈な鎧や武器が人気になってきた。狩士は買い換えたがりが多くて、狩証がたくさん出回ってる」
「おいしい肉が選び放題か」
「ちゃっぽい!」アガタが興奮して街のほうへ走ってゆき、戻ってきた。
狩りから帰ってきた馬車が連なり、間口が広い狩猟門が開かれるのを待っている、夕日はほのかにオレンジがかっている。
壊れた防壁を集めた瓦礫の山にはダークパワーが行使された痕があった。防壁はモンスターによって破られたわけではないようだ。
ラインガルスが世界になじんできて改めて気づいたのは、人間に対する悪意は組み立てられ、すでに稼働している、ということだった。
大陸の人間が半分に減れば強大な力が手に入ると『彼ら』は信じている。
小さなサクリファイス。命の灯火は吹き消され、魔法の力として災厄のために積み重ねられている。